余命1年の君に恋をした

パチ朗斗

文字の大きさ
上 下
89 / 91

87話 6日目

しおりを挟む
「蓮翔、見て見て!すっごくキレイ……!」

「あぁ、凄いな」

  俺たちは今水族館にいる。月曜日ということで人はまばらだ。

  本来なら今頃は授業中だろうが、俺たちは今日学校をズル休みして水族館に来ていた。

  学校を休んだ背徳感。それがどこか気持ち良いとさえ感じる。

「こういうのもたまには良いね」

「だね。でもまさか瑠魅から休みたいなんて言うからびっくりしたよ」

  そう。今日休む事になったのは他でもない瑠魅からの提案だ。理由は何となく、らしい。

  ハッキリ言って学校は面倒臭いしその提案は俺にとっても嬉しかったが、驚きの方が大きかった。

「あ、見て!クラゲさん!」

「えっ、ちょっと……」

  そう言って小走りで走っていく瑠魅。俺はそんな瑠魅の姿を見て思わず笑っていた。

  変わった、と言うのが正しいのかは分からないけど、瑠魅に対する印象はココ最近でかなり変わった。

  前はどこか遠くの存在のように思えていた。瑠魅の振る舞いや雰囲気がまさかにそうだった。

  でも、最近になって瑠魅の色んな表情を見て、瑠魅も普通の女の子なんだと思えた。

「蓮翔、早く早く!この子たちとっても小さいよ!」

「あぁ、今行くよ」

~~~~

「ちょっと寒いけど、天気も良いしちょうど良いかもね」

「うん。雨が降らなくてよかったよ」

  水族館を一通り見終えて今は水族館近くの公園に来ている。

  公園と言っても遊具とかがあるような場所でなくただ地面が綺麗に整備されている程度の場所だ。

「まさかこんな形でピクニックするとは思わなかったよ」

  俺は家から持ってきたレジャーシートを芝生の上に敷いた。

  瑠魅はその間にバッグから弁当を三つ取り出す。それは今朝俺と瑠魅が二人で作った弁当だ。

「うん。こういうのをって言うのかな」

「…………そうかもね」

  瑠魅が何気なく放った一言。でも俺の意識は一瞬その言葉につられた。

  を送りたいと願っていた瑠魅からその言葉を聞けて俺は嬉しかった。

「お腹も減ったし食べちゃお」

「あぁ。じゃあいただきます」

「うん。いただきます」

  一緒に作ったから弁当の中身は全て見知ったもの。

  俺はあからさまに自分が作ったおかずを避けて瑠魅の作ったおかずに手を伸ばす。唐揚げや卵焼き、サンドイッチにタコさんウインナー。

  ここに来てまで自分の作ったもんなんて食ってられるかってんだ。せっかくなら瑠魅の手料理を食べたいだろ。

「美味しい?」

「あぁ。すげぇ美味い……!」

「良かった。じゃあ私も蓮翔が作ったおにぎりでも食べようかな」

  それはめっちゃドキドキするな。何気に俺のちゃんとした料理を瑠魅が食べるのって初めてじゃないか?

「ど、どうかな?」

「うん。美味しいよ。さすが自炊してただけあるね」

「まぁね。一応前までは弁当作ってたから」

  と得意げに見せるものの、内心心臓バクバクだ。もしこれで一瞬でも不味そうな顔をされたら俺はもう生きていけないところだった。

~~~~

「この後どうしよっか?」

「この後?」

「うん。思いつきだけで来ちゃったから考えてないんだよね」

「そうだねぇ………」

  弁当の片付けをしている最中に瑠魅がそんな事を聞いてきた。でも、俺も瑠魅に言われるがまま来てしまったから予定という予定は無い。この街も色々と娯楽施設はあるけれど、これから遊びに行くには少しばかり遠い距離だ。

  かと言ってこのまま家というのは味気ない。

「もういっそ、ここでゴロゴロ過ごさない?」

「ここで?」

「うん。ポカポカ陽気で気持ちよくない?寝ちゃいそう」

「そうだね…………じゃあ……使う?」

「えっ?」

  そう言って瑠魅はその場に正座をした。瑠魅が指差しているの太ももだ。

  そこで俺の脳裏にある単語が浮かび上がる。

「………!そ、それはちょっと恥ずいかも」

  こんな場所で膝枕は俺のメンタルが持たない。まぁ、これが勘違いだったら、その方が恥ずかしいけど。

「良いの?こんな気持ちの良い天気で眠いんでしょ?」

「で、でもな………」

  瑠魅の小悪魔的な誘いから逃れるように、俺は軽く公園全体を見渡す。人は少ないが、それでも居ないと言う訳じゃない。

  でも、この機会を逃せば次いつ膝枕をしてもらえるだろうか……。

「……………失礼してもよろしいでしょうか?」

「フフッ、もちろん。でも、寝心地悪かったらごめんね?」

  俺は恐る恐る瑠魅の太ももに頭を置いた。

  下と瑠魅のお腹の方を向いて寝るのはただの変態だし、上向きは瑠魅に見られていて少し寝ずらい。結果として外側を向いて横たわった。

  初めての膝枕だからよく分からないけど、少なくとも俺の使ってる枕よりは柔らかくて寝心地が良い……気がする。ハッキリと言ってそれどころじゃない。どちらかという緊張の方が酷い。

  頭が重くないかな、とか、鼻息は大丈夫かな、とか、瑠魅からなんか良い匂いするな、とか。ぶっちゃけ寝られる気がしない。

「おやすみ、蓮翔」

「お、おう」

~~~~

「んん……」

  不意に意識が覚醒する。頭には何か柔らかい感触がある。

  寝る前の記憶が朧気で俺はゆっくりと寝返りを打つ。すると目の前には白色の何かがある。あと、めっちゃ良い匂いがする。

「…………っ!」

  俺は視線だけを上に向ける。

「…………」

  そこにはすやすやと眠っている瑠魅の姿があった。俺は瑠魅を起こさないようにゆっくりと起き上がって、スマホで時間を確認する。だいたい一時間も寝ていたみたいだ。

「ありがとう、瑠魅」

  男の俺がやるのは需要が無いかもしれないが、せめてものお礼だ。

  俺はその場で正座して瑠魅の体をゆっくりと横にさせた。

「これめっちゃ恥ずいな……」

  俺はそんな事を呟きながら現実逃避をするようにスマホをいじった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...