77 / 91
75話 二学期
しおりを挟む
青々と照る空、気持ち良さげに揺れる草木。
夏休み明け初日。俺の憂鬱な心境とは裏腹に空はこれでもかと輝いていた。
「はぁ……行きたくねぇな」
チャリを漕ぐ速度は心なしか遅くなる、それでも後ろから吹き付ける湿気を多分に含んだ風は、俺を前へ前へと押し進める。
昨日から無駄に緊張していたせいか、俺はいつもより三十分も早く家を出てしまった。
俺はチャリを漕ぐ気になれず、サドルから降りて徒歩に切り替える。特にやることも無いのでゆっくりと学校へと向かって歩いていく。もちろんその足取りは遅く、まるで重りを背負っているかのようだ。
「……………」
あの日、那乃に告白された日。俺はあれからずっとその事だけを考えて過ごしてきた。
………もし、あの時ちゃんと答えていれば、こんなに憂鬱な気分で登校することもなかったのかもしれない。
………もしあの時、那乃からの告白をちゃんと断ることが出来ていれば……こんな陰鬱になることもなかった。
………もしあの時、告白の答えを先延ばしにしなければ……これほどの心苦しさを感じることもなかった。
あの時俺は断るべきだった。でも、あの時の俺には那乃との関係を変える勇気がなかった。だからと言って那乃と付き合うと言う無責任な事をすることも出来なかった。
「過ぎたことはしょうがないよな。今やるべきことを……やる」
声に出してそう勇気づけ、自分で後押しをする。あの時の告白の答えは間違っていたかもしれない。でも、まだ取り返しがつく程度のミスだ。
放課後まであと六時間。それまでに脳内シミュレーションで完璧にする。
そう思うと、俺の中に根拠の無いやる気と謎の自身が湧き上がる。
俺はチャリを引きながら走り出し、その勢いそのままに地面を蹴り飛ばしてチャリにまたがる。
俺はなぜか上手くいく気がして、気持ちが良いままチャリを漕いで行く。その速度は先ほどとは比べ物にもならないほどだ。
~~~~
「……………」
おかしいな。先程まであったやる気が今は全くないぞ。学校に着く前までは確かにやる気があった。なのに、教室に入り、気付けば弱気。那乃が来ないことを祈っていたり、今日返事ができない言い訳ばかりを探してしまっている。
最悪だ。こんな状態じゃまともに目も合わせられない。
「どうしてそんな辛気臭い顔してんだ?」
「………海斗か」
いつもなら普通に会話できるが、今は会話するような気分じゃない。俺は一言謝って寝ようとするも、先に海斗が口を開いた。
「まさか、また変なこと企んでるのか?」
俺の事情など露知らず、海斗はニヤケながらそう尋ねてくる。そういう悩みではない事を知っていてわざとそんな質問をしてきている。
俺は面倒臭いと思いながらも、海斗が俺の事を思ってそんな風に茶化して来ているのだと思うと心が軽くなった。
「さぁな。海斗の顔を見てたら、なんであんなに悩んでたのか忘れたわ」
「……そうか。まぁ、さっきよりも随分まともな顔色になってるし、信じてやるよ」
「俺、そんなに酷い顔してたか?」
「あぁ、まるで告白して振られたあとみたいだ」
「………ははっ、なんだそれ」
時が止まった、本当にそう思った。図星を突かれたわけじゃないのに、心臓が飛び出でるかと思うほどその言葉に敏感に反応してしまった。
ぎこちない笑みを浮かべながらやり過ごそうとするも、返答までに空いた間が気になるのか、海斗は俺の方を訝しげに見下ろす。
「俺、トイレ行くわ」
俺はその視線でいたたまれなくなって、トイレを口実に席を立つ。
海斗は視線で俺を追うだけだった。
俺が教室のドアを通ると同時に視界の端に人影が見えた。ぶつかりそうになり、俺は反射的に謝りながら顔を上げると、そこには今会いたくない人物が居た。
「あ、すみま……那、乃」
「………あっ……と、その……おはよ」
那乃はそれだけ言って教室に逃げるように入って行く。その一部始終を見ていたクラスメイトのうち、那乃と親しい間柄の人たちは戸惑ったようにざわつき始めた。
俺はクラス内にすら居づらくなり、トイレへと直行したのだった。
~~~~~~~~~~~~~~
久々の投稿となります。時間がなかなか取れなく、あっという間に7月に入っておりました。これからは普段通りの更新頻度に戻る予定です。
現在も随分暑いですが、これからも気温は上がっていくと思います。作者含めて、皆さん、健康には気をつけていきましょう!
拙い部分多々あると思いますが、これからも作品共々よろしくお願いします!
夏休み明け初日。俺の憂鬱な心境とは裏腹に空はこれでもかと輝いていた。
「はぁ……行きたくねぇな」
チャリを漕ぐ速度は心なしか遅くなる、それでも後ろから吹き付ける湿気を多分に含んだ風は、俺を前へ前へと押し進める。
昨日から無駄に緊張していたせいか、俺はいつもより三十分も早く家を出てしまった。
俺はチャリを漕ぐ気になれず、サドルから降りて徒歩に切り替える。特にやることも無いのでゆっくりと学校へと向かって歩いていく。もちろんその足取りは遅く、まるで重りを背負っているかのようだ。
「……………」
あの日、那乃に告白された日。俺はあれからずっとその事だけを考えて過ごしてきた。
………もし、あの時ちゃんと答えていれば、こんなに憂鬱な気分で登校することもなかったのかもしれない。
………もしあの時、那乃からの告白をちゃんと断ることが出来ていれば……こんな陰鬱になることもなかった。
………もしあの時、告白の答えを先延ばしにしなければ……これほどの心苦しさを感じることもなかった。
あの時俺は断るべきだった。でも、あの時の俺には那乃との関係を変える勇気がなかった。だからと言って那乃と付き合うと言う無責任な事をすることも出来なかった。
「過ぎたことはしょうがないよな。今やるべきことを……やる」
声に出してそう勇気づけ、自分で後押しをする。あの時の告白の答えは間違っていたかもしれない。でも、まだ取り返しがつく程度のミスだ。
放課後まであと六時間。それまでに脳内シミュレーションで完璧にする。
そう思うと、俺の中に根拠の無いやる気と謎の自身が湧き上がる。
俺はチャリを引きながら走り出し、その勢いそのままに地面を蹴り飛ばしてチャリにまたがる。
俺はなぜか上手くいく気がして、気持ちが良いままチャリを漕いで行く。その速度は先ほどとは比べ物にもならないほどだ。
~~~~
「……………」
おかしいな。先程まであったやる気が今は全くないぞ。学校に着く前までは確かにやる気があった。なのに、教室に入り、気付けば弱気。那乃が来ないことを祈っていたり、今日返事ができない言い訳ばかりを探してしまっている。
最悪だ。こんな状態じゃまともに目も合わせられない。
「どうしてそんな辛気臭い顔してんだ?」
「………海斗か」
いつもなら普通に会話できるが、今は会話するような気分じゃない。俺は一言謝って寝ようとするも、先に海斗が口を開いた。
「まさか、また変なこと企んでるのか?」
俺の事情など露知らず、海斗はニヤケながらそう尋ねてくる。そういう悩みではない事を知っていてわざとそんな質問をしてきている。
俺は面倒臭いと思いながらも、海斗が俺の事を思ってそんな風に茶化して来ているのだと思うと心が軽くなった。
「さぁな。海斗の顔を見てたら、なんであんなに悩んでたのか忘れたわ」
「……そうか。まぁ、さっきよりも随分まともな顔色になってるし、信じてやるよ」
「俺、そんなに酷い顔してたか?」
「あぁ、まるで告白して振られたあとみたいだ」
「………ははっ、なんだそれ」
時が止まった、本当にそう思った。図星を突かれたわけじゃないのに、心臓が飛び出でるかと思うほどその言葉に敏感に反応してしまった。
ぎこちない笑みを浮かべながらやり過ごそうとするも、返答までに空いた間が気になるのか、海斗は俺の方を訝しげに見下ろす。
「俺、トイレ行くわ」
俺はその視線でいたたまれなくなって、トイレを口実に席を立つ。
海斗は視線で俺を追うだけだった。
俺が教室のドアを通ると同時に視界の端に人影が見えた。ぶつかりそうになり、俺は反射的に謝りながら顔を上げると、そこには今会いたくない人物が居た。
「あ、すみま……那、乃」
「………あっ……と、その……おはよ」
那乃はそれだけ言って教室に逃げるように入って行く。その一部始終を見ていたクラスメイトのうち、那乃と親しい間柄の人たちは戸惑ったようにざわつき始めた。
俺はクラス内にすら居づらくなり、トイレへと直行したのだった。
~~~~~~~~~~~~~~
久々の投稿となります。時間がなかなか取れなく、あっという間に7月に入っておりました。これからは普段通りの更新頻度に戻る予定です。
現在も随分暑いですが、これからも気温は上がっていくと思います。作者含めて、皆さん、健康には気をつけていきましょう!
拙い部分多々あると思いますが、これからも作品共々よろしくお願いします!
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~
Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。
おいしいご飯がたくさん出てきます。
いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。
助けられたり、恋をしたり。
愛とやさしさののあふれるお話です。
なろうにも投降中
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~
tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。
番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。
ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。
そして安定のヤンデレさん☆
ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。
別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる