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第一世界 ロージェン(さあ、魔王討伐だ!)
第三十二話 闇竜
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「あれがそうか」
闇の中に薄っすらとだが銀色に輝く神殿が浮かび上がっていた。
「闇竜って強いわよね」
「そうでしょうね。悪の権化ですから。ああ神よ。我らを護りたまえ」
「大丈夫、いまの僕らならいけるさ」
そもそも悪なら神殿にいるのおかしくないか? ああでも破壊神とか魔神とかも神の部類か。でもその確率は低いよな。
飛空艇の高度をゆっくり下げ、死の谷へと降り立った。
「ほんとに真っ暗なんだな。周りが何も見えねーぞ」
『光の精霊よ、我らを包む闇を神聖なる輝きで照らし出せ、出でよウィル・オー・ウィスプ!』
「うっ! 眩しぃっ!」
三個の光の玉が現れ、漆黒の谷を昼の世界へと変える。一瞬だが視界に多数の魔物が映った。が、すぐに悲鳴をあげて視界の隅へと逃げ去っていった。そうだよな。これまで光なんて存在したことのない世界の住人たちだ。いきなりこの光量を浴びるのはきついだろう。
「この神殿の扉のでかさ半端ないな」
「竜が出入りするからかにゃ?」
「カイト。見上げてないで中に入ろうよ」
「ああそうだな。あっ! ちょっと待ってくれ」
俺は一旦船へと戻る。忘れ者をしていたからだ。
「やめてけれ! オラ、空は嫌ダ! 高いところは嫌だ!」
「だから陸に降りたっていってるだろ!」
俺の言葉が聞こえないのかオーグはジタバタと騒ぐ。メンドクサイので甲板から外に蹴りだした。
「うぁぁあああ! 死にたくないダァアアア」
オーグはドスンと顔面から地面に顔を打つ。
「あれ? 痛くないダ! オラはとうとう無敵になったダ!」
「あ、オーグくん。久しぶり」
「なんで勇者が落ちた先にいるダ?」
「面倒だから早く行くにゃ」
「そうね」
あ、オーグの奴、とうとう誰からも構ってもらえなくなっちゃったよ。
「地面は最高ダ!」
死の谷の岩のような地面に顔を擦りつけて喜んでいた。オーグはマイペースだった。
*****
神殿に入ったら直ぐにいました。どうやら待ち構えていたようだ。
「あれ? 闇竜って前はこんな感じだったかしら」
アンジェリーナが首を傾げる。
「いえ、前回はもっとこう禍々しいというか猛々しい雄叫びをあげてましたよ」
ソフィも不思議そうにしている。
「ねえ、カイト。竜も降参のポーズってあーいう感じなのかな」
「俺が知るかよ。直接本人に聞け」
漆黒の闇を纏う超巨大な竜がそこにはいた。しかし、仰向けになって腹を見せる姿はなんといえばいいのだろうか……。少なくとも可愛くはない。
「其方があのお方の使徒でしょうか?」
「「「竜が喋った!?」」」
あれ、竜が人間の言葉を話すのって一般的に知られていないのか? 赤竜も喋っていたから普通かと思っていた。
「俺自身は全くもってそれを了承した覚えはない。だがまあ、そういうことにはなっているな」
表面上のステータスは。
「やはりそうですか。あのお方の匂いがしましたので」
「えっ!? マジで!」
「ええ、凄く強い香りがいまもします」
鼻をひくひくさせる闇竜。ミヤロスの野郎。なに勝手にひとをマーキングしてるんだ。毎日体を魔法でクリーニングしているのに落ちないとは頑固な穢れだな。
「おい、ユーキ。恐らくこいつは、この世界を創造した神の関係者だぞ」
「えええっ!?」
「畏れ多いことです。わたくしめはあの方の下位の下位の下位に連なる矮小なただの竜でございます」
「めっちゃ低姿勢だな。お前らこいつを本当に殺すのか」
「えっ、いや、でも……」
「あ、悪の権化ではないのですか……」
「むしろ神罰が降るんじゃね?」
その言葉にぶるっと体を震わせるソフィ。神に使えるものとしては神罰ほど恐ろしいものはないようだ。しかしなかなか揺れが収まらないな。止めてあげようかな。
「ユーキ。やっぱり止めましょうよ」
アンジェリーナも完全に及び腰だ。
「でも、スキルが……」
えっ? ユーキさんよ。竜を倒すと言っていたのは、悪だからという理由ではなくスキル目当てだったんですか。勇者のくせにがめついな。
「スキルであれば、お授けいたしますのでご安心ください」
そう言うと闇竜は仰向けの体勢から立ち上がる。おおデカい。というかいままで仰向けでずっと喋っていたんだ。
闇竜は頭上を見上げて大きく吠える。勇者パーティ全員が一瞬、闇に包まれた。
「わっ凄い! 本当にスキルを得ているわ」
「ほんとだ。闇属性(中)か。これで魔王との闘いが少し楽になるかな」
「別にいらないけどただだからもらっておくのにゃ」
「私は聖職者なのに闇属性なんて良いのでしょうか」
複雑そうな顔のソフィ。いや、そもそも創造神が闇を司る者なんですけど。
「なあ、闇竜さんよ。俺らは何も得てないんだけど」
俺もそうだが、ルシアもオーグもスキルは得ていない。
「貴女様方には私めからは与えることはできません。私のちっぽけな加護とは違い、最大級のものをすでに得ておりますので……」
ああ、そうか。ルシアとオーグは神の寵愛を受けているもんな。俺なんてその前に無限という修飾語が付いているんだぞ。限度を弁えて欲しい。
「あれ? でもおかしいな。それならコールマンの野郎は何故この地点に印なんかつけたんだ?」
「きゃぁっ!?」
闇竜の巨体が文字通りビクンと飛び跳ねた。その振動で神殿の上からパラパラと石のようなものが落ちて来た。
「コ、コ、コ、コ、コ……」
「とりあえず落ち着け。神殿が崩れるだろ」
「コ、コ、コル、ココ、コル…」
「おい、まずは深呼吸しろ」
目を彷徨わせてキョどる闇竜が大きな口を開けた。
「うおっ!」
「ちょっと勢いよすぎよ! 吸い込まれちゃうわ」
暫くすると闇竜の腹がパンパンに膨れ上がった。おい、待て――。
「どわぁぁああ!?」
もの凄い突風に襲われた。吹き飛ばされないように必死に神殿の柱に掴まる。やべえ、柱が軋んでいるぞ。ほんとに建物が崩れるってば! あ、それよりもルシアがヤバい! 細身で体重の軽い彼女はこの猛烈な風に耐えられるとは思えない。心配になって、さっきまでルシアがいた場所を振り向く。
「……おい」
何事もなかったかのように平然とした顔をしてそこに立っていた。緑の精霊を伴って。
「何でお前一人だけシルフに護ってもらっているんだよ!」
「だって全員は無理なのよ。なので平等にしたの」
要は独り占めかよ。
「あ、貴女様と、コ、コ、コールマン様とは――。お、お知り合い、な、なのですか?」
お、深呼吸の効果か、竜が正気を取り戻していた。若干まだどもっているけどな。
「ああ、うちの執事だ」
「ぶっ!? あのコールマン様のご主人様だったのですか!? そ、そんな馬鹿なこと……。い、いえ、た、大変失礼なことを致しました!」
そう言ってまた仰向けに転がった。だから暴れると崩れるから落ち着いてくれ。
「いや問題ない。あいつがここに来たら役立つものがもらえるような事を仄めかしていたから。あの嘘つき野郎」
「いえいえいえいえいえ! ま、ま、ま、待ってください!」
闇竜は牙を剥き、自分の体に噛みついた。
「グギャァァアア!」
おい、お前は何をしているんだ……。
「つ、つまらないものですが……。こ、これをお持ちになってください」
涙目の竜の足元にこれでもかと鱗が落ちていた。
「闇竜の鱗ね。これが役に立つアイテムか……」
「い、いえ。それだけでは!? そうだ! そこの猫耳の拳闘鬼のお嬢さん」
「なんにゃ?」
「私の下顎というか口の中に乗って頂けますでしょうか」
「にゃっ!? 噛まないにゃ?」
「勿論ですとも! ささ、早く」
「ララ、危ないよ!」
勇者は止めたが、ララはビクビクしながらも闇竜の口のなかへと入る。うーん。閉じてゴックンされたら終わりなのに。あいつ勇気あるな。
「乗ったにゃ? それでどうするにゃ?」
「わらひのひたのきはをおもいっひりなくってくだひゃい」
口を開けたままなので上手く喋れないようだ。しかし、聞き間違いでなければ牙を殴れとかいってたな。
「よーし、覚悟はいいかにゃ」
ララの握り締めた拳が白い闘気を纏う。そして大きく振りかぶり――。
「ま、まっひぇ!?」
「秘奥義! 闘鬼破神拳!」
「グギャァァアアアアアアアア!」
おー、でかい牙が何本も根元から折れて飛び散った。
「シクシクシク……。一本だけって言えば良かった」
竜の下顎の歯の三分の一ほどが抜け落ち、いや根元から折れ落ちていた。凶悪な顔なのに、どこか間抜けな見た目になっていた。
「なんか、悪いことしたな」
「カイトって中学生をカツアゲする不良の高校生みたいだったよ」
「おい、人聞きが悪いな。俺は何も言ってないじゃないか」
「言わなくてもわかるよな、っていう無言の圧力」
失礼な。俺はコールマンの野郎に腹を立てていただけなのに。あの野郎。こうなることがわかっていてあえて印をつけたに違いない。まあ、折角だ。痛みを耐えてまで用意してくれたものだし。有り難く貰っておこう。次の世界に持っていけば、なんかの役に立つかもしれない。
「なんかお騒がせてしまって悪かったな」
「い、いえ。くれぐれもコールマン様には宜しくお伝えください。ただ、私めも多忙でして暫くお会いすることは叶わいともお伝えください」
「あいつに、ここに来てもらえばいいじゃないか」
「い、いえ! そんなめいわ――。滅相もない! 時期が来ればかならず私の方からお伺いしにいきますので。コールマン様にはゆっくりしていて頂きたい。そうお伝えください」
「ふーん。まあいいか。じゃあ俺達はいくからな」
神殿の外までお見送りする闇竜に別れを告げる。俺らは飛空艇に乗り、死の谷を魔族の国へと向かって進む。
コールマンよ。赤竜もそうだったが、お前は竜たちに一体何をやらかしているのだ。
闇の中に薄っすらとだが銀色に輝く神殿が浮かび上がっていた。
「闇竜って強いわよね」
「そうでしょうね。悪の権化ですから。ああ神よ。我らを護りたまえ」
「大丈夫、いまの僕らならいけるさ」
そもそも悪なら神殿にいるのおかしくないか? ああでも破壊神とか魔神とかも神の部類か。でもその確率は低いよな。
飛空艇の高度をゆっくり下げ、死の谷へと降り立った。
「ほんとに真っ暗なんだな。周りが何も見えねーぞ」
『光の精霊よ、我らを包む闇を神聖なる輝きで照らし出せ、出でよウィル・オー・ウィスプ!』
「うっ! 眩しぃっ!」
三個の光の玉が現れ、漆黒の谷を昼の世界へと変える。一瞬だが視界に多数の魔物が映った。が、すぐに悲鳴をあげて視界の隅へと逃げ去っていった。そうだよな。これまで光なんて存在したことのない世界の住人たちだ。いきなりこの光量を浴びるのはきついだろう。
「この神殿の扉のでかさ半端ないな」
「竜が出入りするからかにゃ?」
「カイト。見上げてないで中に入ろうよ」
「ああそうだな。あっ! ちょっと待ってくれ」
俺は一旦船へと戻る。忘れ者をしていたからだ。
「やめてけれ! オラ、空は嫌ダ! 高いところは嫌だ!」
「だから陸に降りたっていってるだろ!」
俺の言葉が聞こえないのかオーグはジタバタと騒ぐ。メンドクサイので甲板から外に蹴りだした。
「うぁぁあああ! 死にたくないダァアアア」
オーグはドスンと顔面から地面に顔を打つ。
「あれ? 痛くないダ! オラはとうとう無敵になったダ!」
「あ、オーグくん。久しぶり」
「なんで勇者が落ちた先にいるダ?」
「面倒だから早く行くにゃ」
「そうね」
あ、オーグの奴、とうとう誰からも構ってもらえなくなっちゃったよ。
「地面は最高ダ!」
死の谷の岩のような地面に顔を擦りつけて喜んでいた。オーグはマイペースだった。
*****
神殿に入ったら直ぐにいました。どうやら待ち構えていたようだ。
「あれ? 闇竜って前はこんな感じだったかしら」
アンジェリーナが首を傾げる。
「いえ、前回はもっとこう禍々しいというか猛々しい雄叫びをあげてましたよ」
ソフィも不思議そうにしている。
「ねえ、カイト。竜も降参のポーズってあーいう感じなのかな」
「俺が知るかよ。直接本人に聞け」
漆黒の闇を纏う超巨大な竜がそこにはいた。しかし、仰向けになって腹を見せる姿はなんといえばいいのだろうか……。少なくとも可愛くはない。
「其方があのお方の使徒でしょうか?」
「「「竜が喋った!?」」」
あれ、竜が人間の言葉を話すのって一般的に知られていないのか? 赤竜も喋っていたから普通かと思っていた。
「俺自身は全くもってそれを了承した覚えはない。だがまあ、そういうことにはなっているな」
表面上のステータスは。
「やはりそうですか。あのお方の匂いがしましたので」
「えっ!? マジで!」
「ええ、凄く強い香りがいまもします」
鼻をひくひくさせる闇竜。ミヤロスの野郎。なに勝手にひとをマーキングしてるんだ。毎日体を魔法でクリーニングしているのに落ちないとは頑固な穢れだな。
「おい、ユーキ。恐らくこいつは、この世界を創造した神の関係者だぞ」
「えええっ!?」
「畏れ多いことです。わたくしめはあの方の下位の下位の下位に連なる矮小なただの竜でございます」
「めっちゃ低姿勢だな。お前らこいつを本当に殺すのか」
「えっ、いや、でも……」
「あ、悪の権化ではないのですか……」
「むしろ神罰が降るんじゃね?」
その言葉にぶるっと体を震わせるソフィ。神に使えるものとしては神罰ほど恐ろしいものはないようだ。しかしなかなか揺れが収まらないな。止めてあげようかな。
「ユーキ。やっぱり止めましょうよ」
アンジェリーナも完全に及び腰だ。
「でも、スキルが……」
えっ? ユーキさんよ。竜を倒すと言っていたのは、悪だからという理由ではなくスキル目当てだったんですか。勇者のくせにがめついな。
「スキルであれば、お授けいたしますのでご安心ください」
そう言うと闇竜は仰向けの体勢から立ち上がる。おおデカい。というかいままで仰向けでずっと喋っていたんだ。
闇竜は頭上を見上げて大きく吠える。勇者パーティ全員が一瞬、闇に包まれた。
「わっ凄い! 本当にスキルを得ているわ」
「ほんとだ。闇属性(中)か。これで魔王との闘いが少し楽になるかな」
「別にいらないけどただだからもらっておくのにゃ」
「私は聖職者なのに闇属性なんて良いのでしょうか」
複雑そうな顔のソフィ。いや、そもそも創造神が闇を司る者なんですけど。
「なあ、闇竜さんよ。俺らは何も得てないんだけど」
俺もそうだが、ルシアもオーグもスキルは得ていない。
「貴女様方には私めからは与えることはできません。私のちっぽけな加護とは違い、最大級のものをすでに得ておりますので……」
ああ、そうか。ルシアとオーグは神の寵愛を受けているもんな。俺なんてその前に無限という修飾語が付いているんだぞ。限度を弁えて欲しい。
「あれ? でもおかしいな。それならコールマンの野郎は何故この地点に印なんかつけたんだ?」
「きゃぁっ!?」
闇竜の巨体が文字通りビクンと飛び跳ねた。その振動で神殿の上からパラパラと石のようなものが落ちて来た。
「コ、コ、コ、コ、コ……」
「とりあえず落ち着け。神殿が崩れるだろ」
「コ、コ、コル、ココ、コル…」
「おい、まずは深呼吸しろ」
目を彷徨わせてキョどる闇竜が大きな口を開けた。
「うおっ!」
「ちょっと勢いよすぎよ! 吸い込まれちゃうわ」
暫くすると闇竜の腹がパンパンに膨れ上がった。おい、待て――。
「どわぁぁああ!?」
もの凄い突風に襲われた。吹き飛ばされないように必死に神殿の柱に掴まる。やべえ、柱が軋んでいるぞ。ほんとに建物が崩れるってば! あ、それよりもルシアがヤバい! 細身で体重の軽い彼女はこの猛烈な風に耐えられるとは思えない。心配になって、さっきまでルシアがいた場所を振り向く。
「……おい」
何事もなかったかのように平然とした顔をしてそこに立っていた。緑の精霊を伴って。
「何でお前一人だけシルフに護ってもらっているんだよ!」
「だって全員は無理なのよ。なので平等にしたの」
要は独り占めかよ。
「あ、貴女様と、コ、コ、コールマン様とは――。お、お知り合い、な、なのですか?」
お、深呼吸の効果か、竜が正気を取り戻していた。若干まだどもっているけどな。
「ああ、うちの執事だ」
「ぶっ!? あのコールマン様のご主人様だったのですか!? そ、そんな馬鹿なこと……。い、いえ、た、大変失礼なことを致しました!」
そう言ってまた仰向けに転がった。だから暴れると崩れるから落ち着いてくれ。
「いや問題ない。あいつがここに来たら役立つものがもらえるような事を仄めかしていたから。あの嘘つき野郎」
「いえいえいえいえいえ! ま、ま、ま、待ってください!」
闇竜は牙を剥き、自分の体に噛みついた。
「グギャァァアア!」
おい、お前は何をしているんだ……。
「つ、つまらないものですが……。こ、これをお持ちになってください」
涙目の竜の足元にこれでもかと鱗が落ちていた。
「闇竜の鱗ね。これが役に立つアイテムか……」
「い、いえ。それだけでは!? そうだ! そこの猫耳の拳闘鬼のお嬢さん」
「なんにゃ?」
「私の下顎というか口の中に乗って頂けますでしょうか」
「にゃっ!? 噛まないにゃ?」
「勿論ですとも! ささ、早く」
「ララ、危ないよ!」
勇者は止めたが、ララはビクビクしながらも闇竜の口のなかへと入る。うーん。閉じてゴックンされたら終わりなのに。あいつ勇気あるな。
「乗ったにゃ? それでどうするにゃ?」
「わらひのひたのきはをおもいっひりなくってくだひゃい」
口を開けたままなので上手く喋れないようだ。しかし、聞き間違いでなければ牙を殴れとかいってたな。
「よーし、覚悟はいいかにゃ」
ララの握り締めた拳が白い闘気を纏う。そして大きく振りかぶり――。
「ま、まっひぇ!?」
「秘奥義! 闘鬼破神拳!」
「グギャァァアアアアアアアア!」
おー、でかい牙が何本も根元から折れて飛び散った。
「シクシクシク……。一本だけって言えば良かった」
竜の下顎の歯の三分の一ほどが抜け落ち、いや根元から折れ落ちていた。凶悪な顔なのに、どこか間抜けな見た目になっていた。
「なんか、悪いことしたな」
「カイトって中学生をカツアゲする不良の高校生みたいだったよ」
「おい、人聞きが悪いな。俺は何も言ってないじゃないか」
「言わなくてもわかるよな、っていう無言の圧力」
失礼な。俺はコールマンの野郎に腹を立てていただけなのに。あの野郎。こうなることがわかっていてあえて印をつけたに違いない。まあ、折角だ。痛みを耐えてまで用意してくれたものだし。有り難く貰っておこう。次の世界に持っていけば、なんかの役に立つかもしれない。
「なんかお騒がせてしまって悪かったな」
「い、いえ。くれぐれもコールマン様には宜しくお伝えください。ただ、私めも多忙でして暫くお会いすることは叶わいともお伝えください」
「あいつに、ここに来てもらえばいいじゃないか」
「い、いえ! そんなめいわ――。滅相もない! 時期が来ればかならず私の方からお伺いしにいきますので。コールマン様にはゆっくりしていて頂きたい。そうお伝えください」
「ふーん。まあいいか。じゃあ俺達はいくからな」
神殿の外までお見送りする闇竜に別れを告げる。俺らは飛空艇に乗り、死の谷を魔族の国へと向かって進む。
コールマンよ。赤竜もそうだったが、お前は竜たちに一体何をやらかしているのだ。
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