25 / 53
本編
25 聖女として
しおりを挟む
世界を支える二柱の聖女。
ここ、アースノルト大陸に聖女として生まれたダイアナ。
彼女が生まれた時には、月の光が導くかのように彼女の頭上に光の道が現れ、照らしたという。
もちろん、人々を癒す神聖魔法も使える。
そんな彼女のことを、レオン達は守っている。
私とは違い、聖女として敬われ、大切にされ、愛され、慕われているのがこの野営地にいるだけでも伝わってくる。
騎士達は、自分の役目に誇りを持ち、士気は高い。
騎士団は、皇族と帝都周辺を守る者、ダイアナを直接守る者、特殊任務に赴く者に分かれているそうだ。
それでレオン達は特殊任務を請け負っていて、今回はエルナト、つまり、私を助けようとしていたけど、間に合わなかったと……
同じ大陸の人じゃなくて、もう一つの大陸の人しか私を助けようとしないのかと考えるか、隣の大陸からわざわざ私を助けようとしてくれたのかと考えるか。
心中は複雑だ。
少なくとも、ドールドラン、ロズワンド王国では私は不要と処分したのだ。
聖女としてすら、何の役にも立たないと思われたのだから。
こんな事を考えているのも、あの兄妹達と出会ってしまったからだ。
大陸を支える役目が無ければ、無力で役立たずなのは、本当のことなのだと。
兄妹が使用しているテントを出ると、レオンの姿を探していた。
精霊が視える人は稀にいる。
あの盲目の少女が精霊を視ているのは明らかで、余計な事はこれ以上言ってほしくはない。
関わりたくないとすら思っている。
こちらの大陸では、精霊が視える人に極力会わないようにしなければ、私の周りに精霊が集中していることに気付かれると変に思われる。
特に、聖職者に近付いてはダメだ。
誰が視える者なのかは、分からないのだから。
そんな風に思っていたのに、あの子達に対する責任など何もないはずなのに、でも、私はレオンを探していた。
レオンに頼み事をするつもりだからだ。
年若い少年騎士と練習用の剣を片付けているレオンの所に行くと、すぐに気付いて、律儀にもこっちまで駆け寄ってきてくれた。
「どうした?何かあったのか?」
取り繕ったものではないその態度に、出会ったばかりの拾い物の私に、どんな育て方をされたらこんなにも親身になれるのか、あの兄であるレインさんの存在を思い出せば、ますます分からない。
「相談なのですが、こちらの大陸には星読みの神官のように精霊を視ることができる人はいるのですか?」
「“月語りの神官”と呼ばれている。どうかしたのか?」
「あの盲目の少女は、おそらく精霊を視ることができています。精霊を視ることができる者は、こちらの大陸でも重宝されるのでは?修練を積めば、神聖魔法を会得できます。それは、彼女の助けになります」
これから確実に一人で生きていかなければならなくなるあの女の子の、ちゃんとした後見人ができるかもしれない。
レオンは、私の顔をマジマジと見て、そして何かを考え込み始めた。
やはり突然こんな事を言っても信用してもらえないかと思ったけど、思案を終えたレオンは答えてくれた。
「知り合いに掛け合ってみる」
「信用、できますか?」
そもそも、それを問う私が信用できる者ではないのだけど、精霊の存在を理解できない者などに、あの少女を任せたくはない。
「大丈夫だ。心配しなくていい」
力強く答えられたら、ついその言葉を信じてしまう。
「では、お手数ですが、よろしくお願いします」
「シャーロットの思いを無下にはしない。俺に任せて」
私の思いなど何もないけど、その人達への連絡などはレオンに任せるしかない。
また兄妹のいるテントに戻り、二人のそばにずっと付き添っていた。
兄が穏やかな最期を迎えたのは、その日の夜だった。
唯一の肉親を喪って泣きじゃくる妹に寄り添い、抱きしめ、慰めたのは、レオンに頼まれたからだ。
それがこの場での私の仕事だったからだ。
この兄妹に特別な感情があったからではない。
私はもう、あの大陸の人に何かをしてあげるつもりはなかったのだから。
兄の遺体が棺に丁重に入れられ、妹と共に馬車に乗せられて教会に運ばれて行ったのは、それから二日後の事だった。
レオンの行動は早く、私が相談してすぐに教会と連絡をとってくれたようだ。
だからこんなにも迎えが早かったのだ。
妹が教会の者の前で何かを言うと困るから、前日にお別れの言葉はかけていた。
妹は私との別れを惜しんでいたけど、素直に迎えの者と馬車に乗って去って行った。
レオンにお願いすれば、あの子の近況は教えてもらえる。
馬車を見送る私に、ちゃんと育ててもらえるから、あの少女は大丈夫だと、レオンは何度も言ってきた。
別に心配なんかしていない。
これ以上、私が関わる必要はない。
ただ、家族と死別する悲しみは知っているから、あの少女がこれから先、これ以上の辛い事がなければいいとは願っていた。
何かが矛盾していると感じながら。
ここ、アースノルト大陸に聖女として生まれたダイアナ。
彼女が生まれた時には、月の光が導くかのように彼女の頭上に光の道が現れ、照らしたという。
もちろん、人々を癒す神聖魔法も使える。
そんな彼女のことを、レオン達は守っている。
私とは違い、聖女として敬われ、大切にされ、愛され、慕われているのがこの野営地にいるだけでも伝わってくる。
騎士達は、自分の役目に誇りを持ち、士気は高い。
騎士団は、皇族と帝都周辺を守る者、ダイアナを直接守る者、特殊任務に赴く者に分かれているそうだ。
それでレオン達は特殊任務を請け負っていて、今回はエルナト、つまり、私を助けようとしていたけど、間に合わなかったと……
同じ大陸の人じゃなくて、もう一つの大陸の人しか私を助けようとしないのかと考えるか、隣の大陸からわざわざ私を助けようとしてくれたのかと考えるか。
心中は複雑だ。
少なくとも、ドールドラン、ロズワンド王国では私は不要と処分したのだ。
聖女としてすら、何の役にも立たないと思われたのだから。
こんな事を考えているのも、あの兄妹達と出会ってしまったからだ。
大陸を支える役目が無ければ、無力で役立たずなのは、本当のことなのだと。
兄妹が使用しているテントを出ると、レオンの姿を探していた。
精霊が視える人は稀にいる。
あの盲目の少女が精霊を視ているのは明らかで、余計な事はこれ以上言ってほしくはない。
関わりたくないとすら思っている。
こちらの大陸では、精霊が視える人に極力会わないようにしなければ、私の周りに精霊が集中していることに気付かれると変に思われる。
特に、聖職者に近付いてはダメだ。
誰が視える者なのかは、分からないのだから。
そんな風に思っていたのに、あの子達に対する責任など何もないはずなのに、でも、私はレオンを探していた。
レオンに頼み事をするつもりだからだ。
年若い少年騎士と練習用の剣を片付けているレオンの所に行くと、すぐに気付いて、律儀にもこっちまで駆け寄ってきてくれた。
「どうした?何かあったのか?」
取り繕ったものではないその態度に、出会ったばかりの拾い物の私に、どんな育て方をされたらこんなにも親身になれるのか、あの兄であるレインさんの存在を思い出せば、ますます分からない。
「相談なのですが、こちらの大陸には星読みの神官のように精霊を視ることができる人はいるのですか?」
「“月語りの神官”と呼ばれている。どうかしたのか?」
「あの盲目の少女は、おそらく精霊を視ることができています。精霊を視ることができる者は、こちらの大陸でも重宝されるのでは?修練を積めば、神聖魔法を会得できます。それは、彼女の助けになります」
これから確実に一人で生きていかなければならなくなるあの女の子の、ちゃんとした後見人ができるかもしれない。
レオンは、私の顔をマジマジと見て、そして何かを考え込み始めた。
やはり突然こんな事を言っても信用してもらえないかと思ったけど、思案を終えたレオンは答えてくれた。
「知り合いに掛け合ってみる」
「信用、できますか?」
そもそも、それを問う私が信用できる者ではないのだけど、精霊の存在を理解できない者などに、あの少女を任せたくはない。
「大丈夫だ。心配しなくていい」
力強く答えられたら、ついその言葉を信じてしまう。
「では、お手数ですが、よろしくお願いします」
「シャーロットの思いを無下にはしない。俺に任せて」
私の思いなど何もないけど、その人達への連絡などはレオンに任せるしかない。
また兄妹のいるテントに戻り、二人のそばにずっと付き添っていた。
兄が穏やかな最期を迎えたのは、その日の夜だった。
唯一の肉親を喪って泣きじゃくる妹に寄り添い、抱きしめ、慰めたのは、レオンに頼まれたからだ。
それがこの場での私の仕事だったからだ。
この兄妹に特別な感情があったからではない。
私はもう、あの大陸の人に何かをしてあげるつもりはなかったのだから。
兄の遺体が棺に丁重に入れられ、妹と共に馬車に乗せられて教会に運ばれて行ったのは、それから二日後の事だった。
レオンの行動は早く、私が相談してすぐに教会と連絡をとってくれたようだ。
だからこんなにも迎えが早かったのだ。
妹が教会の者の前で何かを言うと困るから、前日にお別れの言葉はかけていた。
妹は私との別れを惜しんでいたけど、素直に迎えの者と馬車に乗って去って行った。
レオンにお願いすれば、あの子の近況は教えてもらえる。
馬車を見送る私に、ちゃんと育ててもらえるから、あの少女は大丈夫だと、レオンは何度も言ってきた。
別に心配なんかしていない。
これ以上、私が関わる必要はない。
ただ、家族と死別する悲しみは知っているから、あの少女がこれから先、これ以上の辛い事がなければいいとは願っていた。
何かが矛盾していると感じながら。
100
お気に入りに追加
2,727
あなたにおすすめの小説
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。
haru.
恋愛
「今ここに、17年間偽られ続けた真実を証すッ! ここにいるアクリアーナは本物の王女ではないッ! 妖精の取り替え子によって偽られた偽物だッ!」
17年間マルヴィーア王国の第二王女として生きてきた人生を否定された。王家が主催する夜会会場で、自分の婚約者と本物の王女だと名乗る少女に……
家族とは見た目も才能も似ておらず、肩身の狭い思いをしてきたアクリアーナ。
王女から平民に身を落とす事になり、辛い人生が待ち受けていると思っていたが、王族として恥じぬように生きてきた17年間の足掻きは無駄ではなかった。
「あれ? 何だか王女でいるよりも楽しいかもしれない!」
自身の努力でチートを手に入れていたアクリアーナ。
そんな王女を秘かに想っていた騎士団の第三師団長が騎士を辞めて私を追ってきた!?
アクリアーナの知らぬ所で彼女を愛し、幸せを願う者達。
王女ではなくなった筈が染み付いた王族としての秩序で困っている民を見捨てられないアクリアーナの人生は一体どうなる!?
※ ヨーロッパの伝承にある取り替え子(チェンジリング)とは違う話となっております。
異世界の創作小説として見て頂けたら嬉しいです。
(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
パーティー中に婚約破棄された私ですが、実は国王陛下の娘だったようです〜理不尽に婚約破棄した伯爵令息に陛下の雷が落ちました〜
雪島 由
恋愛
生まれた時から家族も帰る場所もお金も何もかもがない環境で生まれたセラは幸運なことにメイドを務めていた伯爵家の息子と婚約を交わしていた。
だが、貴族が集まるパーティーで高らかに宣言されたのは婚約破棄。
平民ごときでは釣り合わないらしい。
笑い者にされ、生まれた環境を馬鹿にされたセラが言い返そうとした時。パーティー会場に聞こえた声は国王陛下のもの。
何故かその声からは怒りが溢れて出ていた。
【完結】中継ぎ聖女だとぞんざいに扱われているのですが、守護騎士様の呪いを解いたら聖女ですらなくなりました。
氷雨そら
恋愛
聖女召喚されたのに、100年後まで魔人襲来はないらしい。
聖女として異世界に召喚された私は、中継ぎ聖女としてぞんざいに扱われていた。そんな私をいつも守ってくれる、守護騎士様。
でも、なぜか予言が大幅にずれて、私たちの目の前に、魔人が現れる。私を庇った守護騎士様が、魔神から受けた呪いを解いたら、私は聖女ですらなくなってしまって……。
「婚約してほしい」
「いえ、責任を取らせるわけには」
守護騎士様の誘いを断り、誰にも迷惑をかけないよう、王都から逃げ出した私は、辺境に引きこもる。けれど、私を探し当てた、聖女様と呼んで、私と一定の距離を置いていたはずの守護騎士様の様子は、どこか以前と違っているのだった。
元守護騎士と元聖女の溺愛のち少しヤンデレ物語。
小説家になろう様にも、投稿しています。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)
京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。
生きていくために身を粉にして働く妹マリン。
家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。
ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。
姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」
司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」
妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」
※本日を持ちまして完結とさせていただきます。
更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。
ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる