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本編

25 聖女として

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 世界を支える二柱の聖女。

 ここ、アースノルト大陸に聖女として生まれたダイアナ。

 彼女が生まれた時には、月の光が導くかのように彼女の頭上に光の道が現れ、照らしたという。

 もちろん、人々を癒す神聖魔法も使える。

 そんな彼女のことを、レオン達は守っている。

 私とは違い、聖女として敬われ、大切にされ、愛され、慕われているのがこの野営地にいるだけでも伝わってくる。

 騎士達は、自分の役目に誇りを持ち、士気は高い。

 騎士団は、皇族と帝都周辺を守る者、ダイアナを直接守る者、特殊任務に赴く者に分かれているそうだ。

 それでレオン達は特殊任務を請け負っていて、今回はエルナト、つまり、私を助けようとしていたけど、間に合わなかったと……

 同じ大陸の人じゃなくて、もう一つの大陸の人しか私を助けようとしないのかと考えるか、隣の大陸からわざわざ私を助けようとしてくれたのかと考えるか。

 心中は複雑だ。

 少なくとも、ドールドラン、ロズワンド王国では私は不要としたのだ。

 聖女としてすら、何の役にも立たないと思われたのだから。

 こんな事を考えているのも、あの兄妹達と出会ってしまったからだ。

 大陸を支える役目が無ければ、無力で役立たずなのは、本当のことなのだと。

 兄妹が使用しているテントを出ると、レオンの姿を探していた。

 精霊が視える人は稀にいる。

 あの盲目の少女が精霊を視ているのは明らかで、余計な事はこれ以上言ってほしくはない。

 関わりたくないとすら思っている。

 こちらの大陸では、精霊が視える人に極力会わないようにしなければ、私の周りに精霊が集中していることに気付かれると変に思われる。

 特に、聖職者に近付いてはダメだ。

 誰が視える者なのかは、分からないのだから。

 そんな風に思っていたのに、あの子達に対する責任など何もないはずなのに、でも、私はレオンを探していた。

 レオンに頼み事をするつもりだからだ。

 年若い少年騎士と練習用の剣を片付けているレオンの所に行くと、すぐに気付いて、律儀にもこっちまで駆け寄ってきてくれた。

「どうした?何かあったのか?」

 取り繕ったものではないその態度に、出会ったばかりの拾い物の私に、どんな育て方をされたらこんなにも親身になれるのか、あの兄であるレインさんの存在を思い出せば、ますます分からない。

「相談なのですが、こちらの大陸には星読みの神官のように精霊を視ることができる人はいるのですか?」

「“月語りの神官”と呼ばれている。どうかしたのか?」

「あの盲目の少女は、おそらく精霊を視ることができています。精霊を視ることができる者は、こちらの大陸でも重宝されるのでは?修練を積めば、神聖魔法を会得できます。それは、彼女の助けになります」

 これから確実に一人で生きていかなければならなくなるあの女の子の、ちゃんとした後見人ができるかもしれない。

 レオンは、私の顔をマジマジと見て、そして何かを考え込み始めた。

 やはり突然こんな事を言っても信用してもらえないかと思ったけど、思案を終えたレオンは答えてくれた。

「知り合いに掛け合ってみる」

「信用、できますか?」

 そもそも、それを問う私が信用できる者ではないのだけど、精霊の存在を理解できない者などに、あの少女を任せたくはない。

「大丈夫だ。心配しなくていい」

 力強く答えられたら、ついその言葉を信じてしまう。

「では、お手数ですが、よろしくお願いします」

「シャーロットの思いを無下にはしない。俺に任せて」

 私の思いなど何もないけど、その人達への連絡などはレオンに任せるしかない。

 また兄妹のいるテントに戻り、二人のそばにずっと付き添っていた。

 兄が穏やかな最期を迎えたのは、その日の夜だった。

 唯一の肉親を喪って泣きじゃくる妹に寄り添い、抱きしめ、慰めたのは、レオンに頼まれたからだ。

 それがこの場での私の仕事だったからだ。

 この兄妹に特別な感情があったからではない。

 私はもう、あの大陸の人に何かをしてあげるつもりはなかったのだから。

 兄の遺体が棺に丁重に入れられ、妹と共に馬車に乗せられて教会に運ばれて行ったのは、それから二日後の事だった。

 レオンの行動は早く、私が相談してすぐに教会と連絡をとってくれたようだ。

 だからこんなにも迎えが早かったのだ。

 妹が教会の者の前で何かを言うと困るから、前日にお別れの言葉はかけていた。

 妹は私との別れを惜しんでいたけど、素直に迎えの者と馬車に乗って去って行った。

 レオンにお願いすれば、あの子の近況は教えてもらえる。

 馬車を見送る私に、ちゃんと育ててもらえるから、あの少女は大丈夫だと、レオンは何度も言ってきた。

 別に心配なんかしていない。

 これ以上、私が関わる必要はない。

 ただ、家族と死別する悲しみは知っているから、あの少女がこれから先、これ以上の辛い事がなければいいとは願っていた。

 何かが矛盾していると感じながら。





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