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末路
8 元凶となる彼女
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原初の民と呼ばれている者達がいる。
彼らは歴史の中で尊ばれる存在であったが、今ではひっそりと人々に紛れて暮らしていた。
その古の民である女性が、森の中で怪我を負って身動きがとれなくなっている男性と出会った。
女性は、すぐさま自身が使えた癒しの魔法を使った。
癒しを受けた男性は、礼儀正しく、物腰の優しい人物であり、恩人である女性と仲良くなるのにそんなに時間はかからなかった。
そして女性、アリーヤは、求婚されるままにその人と共に王都へ向かった。
それが、一つの悲惨な結末に繋がるとは思わずに。
森で出会った男性は、この国の王太子だった。
アリーヤから家族宛てに幸せそうな手紙がたくさん届けられ、アリーヤが幸せになれるのならと、それは、この時はまだ家族にとっても幸せなことだった。
だから、どんな事態を引き起こしているのか、想像すらできなかったのだ。
結婚式に参列してもらいたいから、王都に一度来てほしいと家族に伝えられたのは、アリーヤが王都に行った一ヶ月後だった。
その結婚式の数日前に家族が王都につくと、ある噂を聞いた。
王都にいたのは偽物の聖女で、アリーヤこそが真の聖女だと。
それを聞いた家族は、どうすればいいのか分からなくなっていた。
そんなはずはないと、焦りが生まれていた。
アリーヤに精霊を動かす力はない。
あるのは神聖魔法だけで、逆にその聖女は神聖魔法が使えない。
まさかと、戦慄した。
聖女はアリーヤのせいで投獄されたのだ。
その事をアリーヤは知らない。
王都にいる者はみな、都合のいいように真実をねじ曲げていた。
家族は、取り返しのつかないことが起きる前にアリーヤに会おうとした。
でも、門前で追い返されて、城にいるのは家族なのに会わせてもらえなかった。
そうこうしていると、“ニセモノの聖女”を処刑する日が決まったと聞いた。
事の重大さを知って、投獄されている聖女を探して、寝ずに走って、走って、走り回って、その日、群衆の遥か先の、あの広場で、ボロボロにされた一人の女性をを見て、その姿に、罪の深さに、恐怖し、アリーヤの家族ができることは、もう、一つしかなかった。
間に合わなかった。
私達は間に合わなかったのだと、絶望に見舞われる中、
“ごめんなさい”
それ以外の言葉が出てこなかった。
処刑人が斧を振り下ろし、聖女の首に斧が触れた瞬間、大地が慟哭のように揺れた。
歓喜の咆哮を放つ群衆は、それに気付かずに浮かれている。
取り返しのつかないことになったと言うのに。
聖女の死は、そのままこの大陸の死に繋がるというのに。
何故、この愚かな民衆達は、それを喜ぶことができるのか。
彼女、アリーヤが幸せだと思い込んでいるその日、アリーヤは愛し合った人と結婚し、聖女は処刑される。
そして、今後、世界は様変わりすることになるのだろうか。
それに気付いた者達は嘆いた。
あの方を死なせてしまっては、謝っても許されない事だと。
なんの言い訳もできないのだと。
アリーヤの唯一の家族も嘆く。
これから起きることを、そして、元凶である彼女がまだ何も知らないことが、悔しくて、悲しいのだと。
彼らは歴史の中で尊ばれる存在であったが、今ではひっそりと人々に紛れて暮らしていた。
その古の民である女性が、森の中で怪我を負って身動きがとれなくなっている男性と出会った。
女性は、すぐさま自身が使えた癒しの魔法を使った。
癒しを受けた男性は、礼儀正しく、物腰の優しい人物であり、恩人である女性と仲良くなるのにそんなに時間はかからなかった。
そして女性、アリーヤは、求婚されるままにその人と共に王都へ向かった。
それが、一つの悲惨な結末に繋がるとは思わずに。
森で出会った男性は、この国の王太子だった。
アリーヤから家族宛てに幸せそうな手紙がたくさん届けられ、アリーヤが幸せになれるのならと、それは、この時はまだ家族にとっても幸せなことだった。
だから、どんな事態を引き起こしているのか、想像すらできなかったのだ。
結婚式に参列してもらいたいから、王都に一度来てほしいと家族に伝えられたのは、アリーヤが王都に行った一ヶ月後だった。
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王都にいたのは偽物の聖女で、アリーヤこそが真の聖女だと。
それを聞いた家族は、どうすればいいのか分からなくなっていた。
そんなはずはないと、焦りが生まれていた。
アリーヤに精霊を動かす力はない。
あるのは神聖魔法だけで、逆にその聖女は神聖魔法が使えない。
まさかと、戦慄した。
聖女はアリーヤのせいで投獄されたのだ。
その事をアリーヤは知らない。
王都にいる者はみな、都合のいいように真実をねじ曲げていた。
家族は、取り返しのつかないことが起きる前にアリーヤに会おうとした。
でも、門前で追い返されて、城にいるのは家族なのに会わせてもらえなかった。
そうこうしていると、“ニセモノの聖女”を処刑する日が決まったと聞いた。
事の重大さを知って、投獄されている聖女を探して、寝ずに走って、走って、走り回って、その日、群衆の遥か先の、あの広場で、ボロボロにされた一人の女性をを見て、その姿に、罪の深さに、恐怖し、アリーヤの家族ができることは、もう、一つしかなかった。
間に合わなかった。
私達は間に合わなかったのだと、絶望に見舞われる中、
“ごめんなさい”
それ以外の言葉が出てこなかった。
処刑人が斧を振り下ろし、聖女の首に斧が触れた瞬間、大地が慟哭のように揺れた。
歓喜の咆哮を放つ群衆は、それに気付かずに浮かれている。
取り返しのつかないことになったと言うのに。
聖女の死は、そのままこの大陸の死に繋がるというのに。
何故、この愚かな民衆達は、それを喜ぶことができるのか。
彼女、アリーヤが幸せだと思い込んでいるその日、アリーヤは愛し合った人と結婚し、聖女は処刑される。
そして、今後、世界は様変わりすることになるのだろうか。
それに気付いた者達は嘆いた。
あの方を死なせてしまっては、謝っても許されない事だと。
なんの言い訳もできないのだと。
アリーヤの唯一の家族も嘆く。
これから起きることを、そして、元凶である彼女がまだ何も知らないことが、悔しくて、悲しいのだと。
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