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前編
4 来訪者
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屋敷の2階の片隅。そこが私の部屋。
広さは、自分達の部屋よりも狭いと、食事を運んできた使用人達が部屋の前でわざわざ話していた。
食事が運ばれてくる時以外は、ほとんど人は近付かない。
部屋から出る事は許されないから、部屋で本を眺めて過ごすしかなかった。
しかも、その本も辞書数冊だけだ。
牢獄のような部屋だけど、来訪者さえいなければ私の安息の地でもあった。
ローザの突撃か、あの男の折檻さえなければ。
ローザの突撃の後は、必ずあの男の所へ行くから、折檻もセットだな。
だから、もはやそれは故意としか思えなかった。
でもこの日の来訪者は違った。
妹の所へ婚約者のリュシアン王子が訪れており、そして、私の部屋には何故か、
「よぉ!」
当たり前のように入ってきたのは、あの誕生日パーティーの時に出会ったテオだった。
当たり前のように訪れすぎて、幻覚なんじゃないかと思うくらいだ。
部屋に入ってきた彼を見て、驚きすぎてパクパクと口を開けるだけで言葉が出てこない。
「びっくりさせたか?でも、大きな声を出すなよ。こっそりここに来たから。言わないだろうけど、俺の事は内緒な」
そんな私に、何とも爽やかな笑顔を向けているけど、どうやってここまで来れたのだろうか。
やはり、公爵家の護衛は馬鹿なのか。
ただ単に私の部屋が放置されてるだけだからだろうか。
「まぁまぁ、難しい事は考えずに。これ、食えよ」
テオは、小さなテーブルの上にバスケットを置いて、かけられていた布をとった。
中には一口大の様々な種類のオードブルがたくさん入っていた。
オードブルという代物も、辞書でみただけだからあっているのか自信がない。
「何これ。何で、これを私に?」
「ただの手土産だ。あのパーティーの時からキーラの事が気になっていたけど、なかなか簡単に侵入できないだろ?」
「侵入は犯罪でしょ。しかも、ここ公爵家」
どれだけ腐っていても、歴史あるブランシェット公爵家だ。
「リュシアンが来ている今日ならいけるだろって、来てみたら正解だったな!」
この、目の前にいるこの男の子には、どうやら常識というものも通じないらしい。
「ほら、誰も来ないだろうけど、リュシアンがいる今のうちに食えよ」
手を引かれて一つしかない椅子に座らされて、串に刺さっている一口大のものが口元に差し出される。
パンとチーズを刺したそれは美味しそうで、誘惑に負けた私は少しだけ考えるのをやめて手に取ると、口に入れていた。
「美味しい……」
思わず呟いていて、
「それは良かった!」
8歳前後の子供らしい笑顔を眺めて、やっている事は子供のする事じゃないと思いながらも、差し入れされたものを口に運ぶのをやめられなかった。
テオは立ったまま、何がそんなに嬉しいのか、私の食事風景を眺め続けている。
「ご馳走様でした……ありがとう………」
結局バスケットの中を空にしてしまっていたので、最後にはお礼を言うしかなかった。
「満足していただけて、恐悦です」
にっこりと笑ったテオは、空のバスケットを掴んで、
「また、次にリュシアンが来る時に俺も来るから、ちゃんと待ってろよ」
約束だと言う。
どこにも行けるわけがないのに、念を押す必要もないだろう。
というかこの子は、突然現れて、突然やってきて、勝手に約束をして、何がしたいんだ。何の得になるんだ。
でも来ると言うのなら、それが口だけでないと見届ける為にも、死なずに待っててやってもいい。
「必ず、来るから」
最後にもう一度そう言い残して、テオは帰っていった。
シンと静まり返った部屋に一人残される。
いったい何だったんだろうと、でも深く考えるべきではないと、これ以上の思考を私の頭が拒否していた。
待つのも考えるのも、自分が辛くなるだけだからやめた方がいい。
でもこの時から、テオが部屋を訪れた後から、関係はないのだけど、少しだけ私の運は良くなった。
私の食事が忘れられることがなくなって、しかも1日に三回ももらえるようになった。
そしてテオは勝手にした約束を守って、確かに私のところを訪れてくれて、おかげでとは言いたくはないけど、そこから何とか学園に入学するまで生きる気力を保ち続けた。
別に、感謝はしていない。
テオが勝手にやった事なんだから。
広さは、自分達の部屋よりも狭いと、食事を運んできた使用人達が部屋の前でわざわざ話していた。
食事が運ばれてくる時以外は、ほとんど人は近付かない。
部屋から出る事は許されないから、部屋で本を眺めて過ごすしかなかった。
しかも、その本も辞書数冊だけだ。
牢獄のような部屋だけど、来訪者さえいなければ私の安息の地でもあった。
ローザの突撃か、あの男の折檻さえなければ。
ローザの突撃の後は、必ずあの男の所へ行くから、折檻もセットだな。
だから、もはやそれは故意としか思えなかった。
でもこの日の来訪者は違った。
妹の所へ婚約者のリュシアン王子が訪れており、そして、私の部屋には何故か、
「よぉ!」
当たり前のように入ってきたのは、あの誕生日パーティーの時に出会ったテオだった。
当たり前のように訪れすぎて、幻覚なんじゃないかと思うくらいだ。
部屋に入ってきた彼を見て、驚きすぎてパクパクと口を開けるだけで言葉が出てこない。
「びっくりさせたか?でも、大きな声を出すなよ。こっそりここに来たから。言わないだろうけど、俺の事は内緒な」
そんな私に、何とも爽やかな笑顔を向けているけど、どうやってここまで来れたのだろうか。
やはり、公爵家の護衛は馬鹿なのか。
ただ単に私の部屋が放置されてるだけだからだろうか。
「まぁまぁ、難しい事は考えずに。これ、食えよ」
テオは、小さなテーブルの上にバスケットを置いて、かけられていた布をとった。
中には一口大の様々な種類のオードブルがたくさん入っていた。
オードブルという代物も、辞書でみただけだからあっているのか自信がない。
「何これ。何で、これを私に?」
「ただの手土産だ。あのパーティーの時からキーラの事が気になっていたけど、なかなか簡単に侵入できないだろ?」
「侵入は犯罪でしょ。しかも、ここ公爵家」
どれだけ腐っていても、歴史あるブランシェット公爵家だ。
「リュシアンが来ている今日ならいけるだろって、来てみたら正解だったな!」
この、目の前にいるこの男の子には、どうやら常識というものも通じないらしい。
「ほら、誰も来ないだろうけど、リュシアンがいる今のうちに食えよ」
手を引かれて一つしかない椅子に座らされて、串に刺さっている一口大のものが口元に差し出される。
パンとチーズを刺したそれは美味しそうで、誘惑に負けた私は少しだけ考えるのをやめて手に取ると、口に入れていた。
「美味しい……」
思わず呟いていて、
「それは良かった!」
8歳前後の子供らしい笑顔を眺めて、やっている事は子供のする事じゃないと思いながらも、差し入れされたものを口に運ぶのをやめられなかった。
テオは立ったまま、何がそんなに嬉しいのか、私の食事風景を眺め続けている。
「ご馳走様でした……ありがとう………」
結局バスケットの中を空にしてしまっていたので、最後にはお礼を言うしかなかった。
「満足していただけて、恐悦です」
にっこりと笑ったテオは、空のバスケットを掴んで、
「また、次にリュシアンが来る時に俺も来るから、ちゃんと待ってろよ」
約束だと言う。
どこにも行けるわけがないのに、念を押す必要もないだろう。
というかこの子は、突然現れて、突然やってきて、勝手に約束をして、何がしたいんだ。何の得になるんだ。
でも来ると言うのなら、それが口だけでないと見届ける為にも、死なずに待っててやってもいい。
「必ず、来るから」
最後にもう一度そう言い残して、テオは帰っていった。
シンと静まり返った部屋に一人残される。
いったい何だったんだろうと、でも深く考えるべきではないと、これ以上の思考を私の頭が拒否していた。
待つのも考えるのも、自分が辛くなるだけだからやめた方がいい。
でもこの時から、テオが部屋を訪れた後から、関係はないのだけど、少しだけ私の運は良くなった。
私の食事が忘れられることがなくなって、しかも1日に三回ももらえるようになった。
そしてテオは勝手にした約束を守って、確かに私のところを訪れてくれて、おかげでとは言いたくはないけど、そこから何とか学園に入学するまで生きる気力を保ち続けた。
別に、感謝はしていない。
テオが勝手にやった事なんだから。
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