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15 追われる者

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「お嬢様にお届け物がございます」

 セオに軽食を食べてもらっていると、使用人が手紙を持ってきてくれた。

 誰からのものか差出人の名前を確認して、二度見した。

 えっ、ランドンさん?

 それは、ランドンさんからの初めての手紙だった。

 すぐに開封すると、手紙には、困ったことになったから助けて欲しいと書いてあった。

 待ち合わせ場所と時間や日付も記されている。

 あと、およそ一時間後だ。

 ここに行くのなら、今すぐにでも出発しなければならない。

 これは本当にランドンさんからの手紙なのか。

 でも、もし本当にランドンさんが助けを求めているのなら……助けたい。

 どうすればいいのか、こんなこと、誰にも相談できない。

 今はみんな自分の役割に忙しくしている。

 黙って屋敷を出れば気付かれないのかもしれない。

 でも、それだとセオが私を追ってくるかもしれない。

 セオはと思ったら、私の手元をひょいとセオが覗き込んだ。

「お嬢様!それ、違う!これ、兄ちゃんの字じゃない。兄ちゃんの文字は、もっと綺麗で丁寧だ」

「違うの?」

 ランドンさんからじゃないと聞いて、途端にスンって感情が無になり、自分が冷静になった。

「うん。兄ちゃんが俺に手紙を届けて知らせたんだ。お嬢様のことを見守っていて欲しいって。兄ちゃんからお嬢様宛に手紙なんか絶対に送らないから、もし届いたらそれはニセモノだって。お嬢様に知らせて欲しいって。だから、兄ちゃんがこんな手紙送ってくるはずない」

「そうなの?」

 そして、今度は驚きを隠せなかった。

 まさか、いつの間にと。

 ランドンさんが、私を気にかけてくれていただなんて。

「これが、兄ちゃんからの手紙だ」

 セオが肌身離さず持っていたのか、服の中から出した手紙を読ませてくれた。

 丁寧な文字で、性格が滲み出ているようだった。

「ちょうどお嬢様が領地を出発する日に届いたんだ」

「ランドンさんが、こんな手紙をセオに送っていただなんて……だから、ここまで一緒に来てくれたのね」

 私はおそらくたった今、一つの危機から救われている。

「ありがとう、セオ」

「俺もお嬢様のことが大好きだから」

「うん……」

 感慨に耽っている場合じゃない。

 この呼び出された先に誰が待っているのか。

 誰がこのニセモノの手紙をだしたのか。

「この手紙を届けた人、どこから出されたものなのかを調べてもらえる?それから、仕立て屋で働いている人を保護してもらいたいの」

 残っている護衛の一人に声をかけた。

 ランドンさんの名前を使われたのなら、何かに巻き込まれてしまうかもしれない。

 もしかしたらすでに何かに巻き込まれて、だからセオにこんな手紙を送ってくれたのかも。

 店の名前と彼の名前を告げて、使いを出させると、入れ替わりで、そこにジャンナが案内するローハン閣下が訪れた。

「無事でしたか。ヴァレンティーナさん」

 ローハン閣下は、私の顔を見るなり安堵の表情になった。

 城で騒動があったと聞いた。

 詳細は教えてもらえなかったけど、ローハン閣下が何かしらの対処にあたったはずだ。

「城で大変なことがあったと聞きました」

「はい。こちらは大丈夫です。申し訳ありません。混乱が収束するまで貴女を王都に招くつもりはなかったのに、危険な場所に赴かせて」

 ローハン閣下から続けて、さらに不穏な情報を得た。

「マヤの姿が見当たりません。護衛の者を階段から突き落とし、侍女を殺害して行方をくらませました。貴女を不安にさせてしまいますが、彼女は貴女に並々ならぬ恨みを抱いています。王妃になれなかったのは貴女のせいだと」

 頭が痛くなりそうだった。

 さらにローハン閣下は教えてくれた。

 先程、身元不明の金髪の女性の遺体が川に浮いているのが見つかったそうだ。

 おそらくマヤの侍女のマノンだと思われており、一緒に働いたことがあるジャンナを身元確認に連れて行きたいと申し出があった。

 ジャンナはすぐに引き受けてくれて、ローハン閣下に案内されて、その場に向かった。

 顔面を損傷した遺体を直視することなどできないけど、左上腕のアザで彼女だと断定された。

 その場にはローハン閣下が立ち会ってくださったそうだ。

 一時間ほどで、私の護衛にと、騎士団長と数名の騎士がジャンナと一緒に戻ってきた。

 ジャンナは私に報告した。

「公爵閣下に思い切って伝えました。マヤには懇意にしていた仕立て屋がいるから、彼が逃亡を助けたのでは?って」

「仕立て屋?それは、誰?」

 まさかと、尋ねる自分が緊張しているのがわかった。

「ランドンって男でした。その男が協力者の可能性が高いです」

 ランドン?そんな、まさか、そんなはずはないと言うのはセオが早かった。

「違う!兄ちゃんはそんな悪いことに手を貸さない!」

「え?」

 ジャンナに詰め寄ったものだから、騎士がセオの腕を引いて止めた。

「こら、暴れるな!」

「はなせ!」

「セオ、こっちに来て」

 興奮するセオをなだめて、背中に手を添える。

「妃殿下」

 騎士団長が、セオに警戒の視線を向けていた。

「この子はたった今、私を助けてくれたわ。疑いを向けることは許しません。マヤはどこに向かったの?閣下が追っているのよね?」

「それは……」

 把握しているようで、団長は言い淀む。

「騎士団長。今すぐ言いなさい」

 口を閉ざすことを許さなかった。

 団長が示す地図のルートを確認する。

 ランドンさんの名前で借りた馬車がそちらに向かったとのこと。

「お嬢様、危険です」

「私の乗馬技術は誰にも負けないって知ってるでしょ?唯一のストレス発散法だったのだから」

 7歳までの私は野山で駆け回ることが大好きで、馬を乗り回し、活動的な性格だった。

 そんな活発な性格を矯正するために、お父様は私を王太子の婚約者としたのだ。

「私が余計なことを言ってしまったから……」

「いいえ、そうではないわ」

 ジャンナは悔いているけど、ランドンさんがマヤの恨み言に巻き込まれているとハッキリしたのなら、とる行動は一つしかない。

「俺、お嬢様を行かせていいのかな。兄ちゃんに頼まれたのに」

「これは私が後悔しないためにだから、セオはここで待ってて。貴方は私を助けてくれた。私は貴方とランドンさんにいつの間にか助けられてた。今度は私の番だから。ジャンナ、セオをお願いね」

 公爵家で一番速い子に騎乗した。

 それから、閣下が大事にされている鷹を借りて。

「ローハン閣下を追いかけるわ。お伝えしなければならないことがある。騎士の皆さんはどうぞ、私を追いかけてきて」

 一刻を争うから、一緒に来る人達を待つつもりはなかった。

 マヤと一緒にランドンさんがいるのなら、絶対にランドンさんの安全を確保しなければならない。












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