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エカチェリーナ *バッドエンド注意
23 騒動
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ヴェロニカさんが学院を訪問してから、私への嫌がらせはピタリと無くなった。
ヴェロニカさんが何か言ったのか、私が一緒にいるのを見て考えを改めたのか。
周囲が静かになるのはありがたい。
王子も、適度な距離感を保つ気はあるようだ。
あの日以降は、不必要には寄ってこない。
それなのに、王子からは近寄ってこなかったのに、迂闊にも私の方から近付いて、そして声をかけてしまった出来事があった。
私が学院に通い始めて少し経った頃、学院の大きな図書館で借りてきた本を片手に、どこか読むのに良い場所はないかと外をうろついていると、地面に這いつくばって何かを探している王子がいた。
ここは乗馬用の森林コースに向かう場所で、服が汚れるのも気にせずに膝をつけていた。
「王子。どうしたの?」
その異様な光景に、思わず声をかけてしまったのだ。
私の声を聞いた途端に、パッと体を起こした王子は、満面の笑みを浮かべてこちらを見た。
「エカチェリーナさん!」
子犬みたいだ。
見えない尻尾が見える。
体は成長しても、こんなところは変わらない。
王子は立ち上がると、膝の汚れを軽く落として私に向き直った。
「すみません、集中していたので気付きませんでした。妙な話を聞いたので、調査をしているところです」
「妙な話?王子が自ら?」
「はい。実は、ここで奇妙な体験をした女子生徒がいて、ここに検証に訪れていました」
「ふーん……」
学院で何が起きようと、私には関係ないことではある。
「女子生徒は寮生なのですが、消灯間際に教室に忘れ物を取りに行ったそうで、その帰り道に、森林コースに向かって飛んでいく青白い光を見たそうです。それで、学院内で幽霊が出たと騒ぎになって」
「へー」
そういえば今朝、教室内がざわついていたな。
「ちなみに、エカチェリーナさんが敷地内で夜間飛行を行ったなんてことは」
「無い」
私は森の家からここまで毎日箒に乗って通っているけど、寮の消灯時間ならすでに家で過ごしていた。
「ですよね。ここに、足跡の形に沿って微量の魔力を感じられるのですが、これが幽霊の正体でしょうか?」
王子の指差した地面に視線を向けた。
まぁ、別に、見る必要はないのだけど……
「夜に幽霊を見たのなら、検証は夜にすべきでは?」
「エカチェリーナさんの言う通りかもしれませんね」
王子は、何故かとても嬉しそうに私に言葉を返してきた。
「では、お付き合いください」
「は?」
どうして私がと、ポカンと口を開けて王子の顔を見つめる。
「僕はとても怖がりです。きっと一人では泣いてしまいます。暗がりで震える情けない弟子を見守ってはいただけないでしょうか」
嘘くさい言い訳を並べて、それっぽく言っても、何の真実味も切実さもない。
どこが怖がっている顔だと、呆れながら弟子の顔を見つめ続けていた。
ヴェロニカさんが何か言ったのか、私が一緒にいるのを見て考えを改めたのか。
周囲が静かになるのはありがたい。
王子も、適度な距離感を保つ気はあるようだ。
あの日以降は、不必要には寄ってこない。
それなのに、王子からは近寄ってこなかったのに、迂闊にも私の方から近付いて、そして声をかけてしまった出来事があった。
私が学院に通い始めて少し経った頃、学院の大きな図書館で借りてきた本を片手に、どこか読むのに良い場所はないかと外をうろついていると、地面に這いつくばって何かを探している王子がいた。
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「王子。どうしたの?」
その異様な光景に、思わず声をかけてしまったのだ。
私の声を聞いた途端に、パッと体を起こした王子は、満面の笑みを浮かべてこちらを見た。
「エカチェリーナさん!」
子犬みたいだ。
見えない尻尾が見える。
体は成長しても、こんなところは変わらない。
王子は立ち上がると、膝の汚れを軽く落として私に向き直った。
「すみません、集中していたので気付きませんでした。妙な話を聞いたので、調査をしているところです」
「妙な話?王子が自ら?」
「はい。実は、ここで奇妙な体験をした女子生徒がいて、ここに検証に訪れていました」
「ふーん……」
学院で何が起きようと、私には関係ないことではある。
「女子生徒は寮生なのですが、消灯間際に教室に忘れ物を取りに行ったそうで、その帰り道に、森林コースに向かって飛んでいく青白い光を見たそうです。それで、学院内で幽霊が出たと騒ぎになって」
「へー」
そういえば今朝、教室内がざわついていたな。
「ちなみに、エカチェリーナさんが敷地内で夜間飛行を行ったなんてことは」
「無い」
私は森の家からここまで毎日箒に乗って通っているけど、寮の消灯時間ならすでに家で過ごしていた。
「ですよね。ここに、足跡の形に沿って微量の魔力を感じられるのですが、これが幽霊の正体でしょうか?」
王子の指差した地面に視線を向けた。
まぁ、別に、見る必要はないのだけど……
「夜に幽霊を見たのなら、検証は夜にすべきでは?」
「エカチェリーナさんの言う通りかもしれませんね」
王子は、何故かとても嬉しそうに私に言葉を返してきた。
「では、お付き合いください」
「は?」
どうして私がと、ポカンと口を開けて王子の顔を見つめる。
「僕はとても怖がりです。きっと一人では泣いてしまいます。暗がりで震える情けない弟子を見守ってはいただけないでしょうか」
嘘くさい言い訳を並べて、それっぽく言っても、何の真実味も切実さもない。
どこが怖がっている顔だと、呆れながら弟子の顔を見つめ続けていた。
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