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なち

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第一章

来たりし者 6

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 王命って何? 絶対ってこと? 逆らうなよってことだよね?
「ありがたく喜べ! 役立たずのお前が、やっと我が国の為に役にたつのだぞ!お前はあの冷酷皇太子への貢物として結婚が決まったのだ」
「もっとわかりやすく説明してもらえますか? 国を代表して嫁ぐことに意味があるってことですよね?」
「お、お前そんなに長く話すことができたのか?」
 こいつオレをなんだと思ってやがる!

「まあ今のお前の容姿をみれば、あんな冷酷皇太子の元に嫁がせるのはちともったいないが」
 こりゃダメだ。聞き方を間違えた。
「氷の国の何が欲しいのですか?」
 単刀直入に聞けば良かった。
「そりゃあミスリルだろう! あれさえあれば魔法効果が倍増する! 本当はあの王子を人質にして氷の国に攻め入るつもりだったがあいつの服はミスリルで出来ていた。だから強すぎて手が出せないのだ!」
 バカだ。脳筋の集まりだと思っていたがバカすぎる。おそらくイスベルクはミスリルの服を着てなくても強い。
「それだけではないでしよう?」
「あとの難しいことはわからん! 父上に聞け! 今から連れて行く」
 オレが王に会うの? なんか嫌な予感がするんだけど。

 第一王子エリュプシオンに連れられて城を移動する。行き交う使用人達がオレを見て驚く。なんだ、一応オレがルミエールってことは皆んな理解していたってことか? わかってて見て見ぬふりをしていたのか。下手に手助けしてバカ兄達に目をつけられたら困るもんね。へー。そうか。ここにはオレの味方はいなかったんだな。……ルミエールは諦めていたから悲しくはない。ないけど虚しいな。こんな場所に未練はないな。早く出て行こう。

 謁見の間に入ると筋肉お化けのようなデカい身体に真っ赤な髪の大男がいた。うっすらと見覚えがあるからきっとオレの父親。つまりは王様だろうな。
 その向かいにはイスベルク達がいた。なんだここにいたのか。二人ともオレをみて驚いている。ちゃんと着替えたからね。ちょっとは王子らしくなったかな? にっこりと笑ってみせるとイスベルクがオレを睨みつけてくる。ああ、きっと王から無理難題をなすりつけられたんだろうな。ごめんよ。オレまで押し付けられて。申し訳ない思いでいっぱいになる。ちょっとオレ今泣きそうだよ。この際冷遇される覚悟を決めよう。ここから出て行けるだけまだマシだ。それからご飯は一日二回は食べさせて欲しいなぁ。

「……マリアージュ」
 王様がルミエールの母親の名前を呼びやがった。覚えていたのか。なんか嫌だな。
「マリアージュに似ておるな。大きくなった。もっと近くに寄れ」
「お久しぶりです。ルミエールです」
 ぺこりと頭をさげると王がにたりと笑った。なんか気持ち悪い。
「昨夜の晩餐会でイスベルク殿と会談したところあちらはお前が気に入ったようだ。両国の国交のためにお前は氷の国へ行け」
「それで王様は僕を差し出す代わりに何を手にするのですか?」
 今すぐ教えろ。オレが大人しいルミエールのふりをしているうちにな。
「ほう。わしに直接質問するとはなかなか度胸があったのだな。よかろう。聞かせてやろう。まずはミスリル。それと貴重な鉱物の数々。また戦時には援軍を寄こす契約を結んだ」
 やっぱりな。つまりは政略結婚ということか。それでイスベルクは何か得ることはあるのだろうか?
「氷の国には食料や様々な交易品が届くことになる」
 オレの視線に気づいたユージナルが答えてくれた。

「最後に抱きしめさせてくれるか」
 王が手を差し伸べてきた。へえ。息子だと思ってくれていたのか? ルミエールへの最後の思い出にと気を許して近寄ると肩を抱かれ耳元で囁かれた。
「お前には特別な仕事を用意した。隙をみて皇太子の寝首をかいてこい。ワシのもとにその首を持参しろ」
 こいつ! どこまで腐ってやがるんだ? 何でも自分の思いどおりになると思うなよ。

「嫌だっ! 離せっこのくそジジイっ!」
 堪えきれずに本音を言っちまった。ぶわっと殺気広がったと思ったら一瞬目の前が炎に包まれ、すぐにオレの半身が冷たくなっていた。な、なんだ? 何が起こった?
「大丈夫か?」
 心配そうなイスベルクの声がする。いつのまにかオレはイスベルクの腕の中にいた。速い。助かった。オレの暴言に腹を立てた王は俺を焼こうとしたのだろう。それをイスベルクがすぐさま止めてくれたのだ。速すぎて見えなかったけど。王にとってはルミエールという存在はその程度なのだ。またオレの中のルミエールが泣いている気がする。泣くなっ。こんなやつのせいで泣くな。涙がもったいないだろ。

「炎の国の王よ。平和的に交渉に及んだ俺をないがしろにするつもりか?」
 イスベルクのこめかみに青筋がぴくぴくと立っている。
「ぶぁははははは。冗談だよ。冗談。ただの親子喧嘩ではないか」
 親子だと思ってないくせに……。

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