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第一章
アレクセス城の魔王 6
しおりを挟む 「こちら帝国近衛師団一一一中隊長ロキ・F・ワイルド。ユース・A・ルーヴェ、応答せよ。」
「はいこちらルーヴェ。」「ユース殿、ワイルドです。」無線で話しかけてきたのは、近衛師団第十一大隊隊長、ロキ・F・ワイルドだった。今は一中隊を率いて北部エリアの護衛を担当している。
「お耳に入れておきたいことがありまして。」「どうしました?」「北部エリアのお客様から、黒いマントを着た怪しい男を見たとの通報がありました。」「分かりました。注意しておきます。」
すると、人混みの中で急に叫び声が聞こえた。
「ドロボー! 誰か捕まえてくれー!」助けを求める市民の声。
しかしユースは動かない。
しかも、なんと持ってきた本を取り出して余裕そうに呼んでいる。
なぜユースが動かないのか?
ユースはサボっているのではなく、動く必要がないのである。
ユースの頭上からブーンとプロペラの回る音が聞こえた。
風と共に空から数匹のドローンが現れた。
ドローン群は走って逃げていくドロボーを追いかける。
「犯罪者ヲ確認、無力化シマス。」
突如、バッという音がし、ドローンから黒い球が発射された。
黒い球は破裂して捕縛ネットが飛び出してきた。
捕縛ネットは瞬く間に男を縛り上げた。
「ななななんだこいつは!?」ネットが絡まってもがくドロボー。
そこへユースがのんびりと歩いてきた。
男はユースを見ると、パニックになって叫んだ。「おいチビ!これどう言うことなんだ!」
ユースは男とは対照的に冷静に答えた。
「この広大な中央広場を一大隊と自分だけで護れるわけないじゃないですか? だからアメリゴ政府からドローンを五千機購入したんです。遠隔操作で犯罪の取り締まりが出来ますし、人間が視るよりもずっと広い範囲を監視できる。僕らはほぼ動く必要がありません。」言い始めてから言い終わるまででゆっくりと剣を抜いた。
「ドローンだぁ!? そんなの使うなんて卑怯だぞ!!」男は苦し紛れに喚いたが、
「『麻痺剣』。」言い終わらないうちにバチッと心臓を貫かれ、気絶してしまった。
「こちらルーヴェ。只今窃盗犯を現行犯逮捕しました。」そのまま流れるように警察に通報するユース。
そしてレシーバーを切ってボソッとつぶやく。「誰がチビだ……」
一方こちらはユースによって半強制的に一緒に回ることになってしまったエリー・スチュアーテラートとナーサ・I・ジャクソン。
「ああもう!せっかくユースと回れると思ったのに!」と地団駄踏むエリー。
「それはこっちのセリフよ!」とわめくナーサ。
あまりの二人の剣幕に周りの人は二人を恐れ、というか引いており、モーセが海を割るがごとく二人を避けて歩いている。
エリーもナーサもヒートアップしすぎて周りが見えなくなり、ただ思い付く限りの罵倒を相手に浴びせる。
そんな中、空から近づいてくる物体があった。
二人はそれに全く気づかない。
ドローンが二人の上空一メートルあたりまで接近した。
ドローンのプロペラの音でようやく二人も気づいたようだ。
「ドローン? なんでこんなところに。」エリーがドローンに疑問の目線を向ける。
「騒ぎすぎて犯罪者扱いされちゃったのね。エリー殿下のせいで。」ナーサがエリーに軽蔑の視線を向ける。
「なんですって~!?」とエリーが言いかけたその時……
「犯罪者ヲ確認、無力化シマス。」
突如ドローンから銃弾が発射された。
「危ない!!!」エリーがとっさにナーサをかばって倒れ、銃弾はエリーの肩ギリギリをかすめて地面に当たった。
しかし、それで終わりはしない。
空からドローンが一機、また一機とエリーとナーサのいる場所に集まってきた。
そして一斉に二人に向かって銃撃を行ったのである。
「氷結変身!!」
エリーは素早く変身し、周囲に氷の壁をつくって飽和射撃から身を守った。
いや、もっと言えばナーサを銃撃から守っていた。
「ちょっと! なんでドローンが敵対してるわけ!?」銃弾を防ぎながらエリーが憤慨する。
「分かるわけないじゃないですか!」ナーサは地面に身を屈めて、頭を押さえていた。彼女の脳裏にギートにラザニアにされかかったあの記憶が映し出される。(第一章を参照)
「こちらエリー! ユース! 応答して!! ドローンが暴走してるの!!」必死に氷を生成しながら、エリーは無線でユースに助けを求めた。
「こちらユース。安心しなさい、こっちでも暴走してる。」ユースは中央広場の噴水付近で、ドローンから身を守りつつ、「変化~抹消~」のICカードが入っている剣を右手に、同じカードを装備した銃を左手に、ドローンを片っ端から無力化していた。
しかしユースの応答にエリーは困惑した。「どこが安心よ! 襲われてんじゃない!!」
しかしユースは冷静に答える。
「エリー、見たところドローンは僕を集中攻撃しているようだ。一般人への被害は今のところない。でも念のために警察の応援を呼んで、避難誘導を行っている。君も『変化~抹消~』を使ってドローンを無力化するんだ。壊しちゃいけないよ。貸与品だからね。」そう言っている間にユースは六十機以上のドローンを無力化していた。ちなみにユースは銃の実戦使用は初めてである。
エリーは説明をちゃんと聞いていたが、「ああもう、なんでそんなに冷静でいられるわけ?」とユースの度胸というか、肝の強さというか、無神経さに疑問を抱いた。
しかし、今は緊急事態。そんなことを思っている場合ではない。
「とにかく分かったわ。そっちも頑張ってね!」エリーはそう言って無線を切ると、銃を取り出して「抹消」を装備し、氷の一部を消滅させてそこから三発ほど弾丸を発射した。
放たれた弾丸は一発につき一機のドローンを撃ち抜き、プログラムを消去して無力化した。
「ナーサ、逃げなさい! ドローンは私だけを狙ってる! 私が引き付けるから逃げなさい!!」エリーはさらに銃に「変化~拡散~」をセットし、アクロバットな動きでドローンの銃撃を避けながら抹消弾をばらまいていた。
「いやだ……いやだ……怖いよ……!」ナーサはすっかり恐れて縮こまってしまっている。
そんな彼女を見かねてエリーは発破をかけた。
「しっかりしなさい!! 巻き添え食らって死にたいの!?」エリーは何を思ったかナーサのそばに散弾を打ち込んだ。
「ヒィッ!!」「ぐずぐずしてると私があんたを殺すわよ!」まあ撃ったのは抹消弾なので直撃しても記憶が消し飛ぶだけだが、ナーサにとっては十分恐怖を与える結果となった。
「い、いやだあ! 助けて!!」ナーサは我を忘れて一目散に逃げだした。
「そう、それでいいのよ……」優しくつぶやいて、まだまだやってくるドローンをとらえる。
エリーの足元にはすでに五十機以上のドローン。
しかし、全五千機のドローンは次から次へとやってくる。
「まったくもう! 誰かがドローンをハッキングしたのね。でも誰が……?」
一方ユース。
飛び交う弾丸の中をかいくぐり、ドローン群に斬撃、射撃を浴びせていた。
「やれやれ……ヴェネータ中のすべてのドローンをシャットダウンさせる気か?」かれこれ十分以上ドローンと戦っているユース。
すると、急にドローンの射撃が止まった。
「あれ? ドローンが直った?」急に沈静化したドローンを見て怪しく思うユース。
「素晴らしい、ユース君。あれだけの射撃を受けて傷一つつかないとは。」
急にユースの背後から声が聞こえた。
ユースはハッとして振りむいた。
ドローンが彼のために道を開けて整列している。
彼は黒マントで姿を隠していたが、ユースにはその気配には何度も感じたことのあるおぞましい気配を感じた。
「お前……ギートか……!!」そう言って、太陽剣「トルネード・オブ・ザ・サン」と太陽銃「P-21」から「変化~抹消~」のカードを引き抜くユース。
そして黒マントの男に銃を向けて叫んだ。「ドローンをハッキングしたのもお前の仕業か!?」
「いかにも。」黒マントの男はうっすらと笑った。そしてマントを脱ぎ捨て、ユースの前にその正体を現した!
白衣をそのまま黒くしたような外殻を身にまとい、目はゴーグル状、さらに腰には試験管のようなものが備えてある。
「私の名はケミカルギート。とある事情により、あなたとエリー・スチュアーテラート殿下を始末することにいたしました。」と丁寧に自己紹介する。
「なにが事情だ。どんな事情だろうと、ギートは排除するのみ!」ユースは左手の銃からパン、パンと二発ほど銃弾を放った。
銃弾は寸分の狂いもなくまっすぐ飛んでいき、今まさにケミカルギートの脳天に命中するかと思われた矢先。
ケミカルギートの指先がすっと前方を指した。
次の瞬間、銃弾から蒸気のようなものが拡散し、勢いを失って地面に落ちた。
落ちた弾丸はドロドロに溶けていた。
「な……一体何が……!」あまりにも一瞬の出来事に目を丸くするユース。
「おやおや、私の能力がわからなくて困惑しているご様子ですね。」と鼻の先で笑うケミカルギート。
しかし、ユースは言った。「いいや、分かったぞ。」冷静になればユースの頭脳は明晰だ。
「お前の能力は、体内で化学物質を生成、調合し、体外に放出できる、ってところだね?」
「……フフフ、当たらずとも遠からず、ってところですかね。」サイエンスギートは余裕の笑みを見せる。
「私の能力は……」と言いながら地面に散乱しているアスファルトのかけらを拾う。「ただ体内で薬品を調合するだけじゃない。私が触れたものは……酸化、還元、発熱、吸熱、化合、分離……あらゆる化学反応を起こす。」言い終わらないうちに持っているアスファルトが原油にまで還元された。
これにはユースも背筋を凍らせた。「なんということだ……あれにじかに触れられたら僕の体はどうなることやら……」
ユースは剣を地面に突き刺し、空いた右腕で小物入れから「変身~太陽~」のカードを取り出し、コマンドレシーバーに装着した。
「ほう、想像力を上げて霊法の遠距離攻撃で対抗しようというのですか?」
「……だったらどうした?」図星だった。
「そのつもりでしたらやめておいたほうがよろしいでしょう。」
「何?」
「この私に、あらゆる遠距離攻撃は効きませんよ?」
「……!」
相対するユースとケミカルギート。
ユースはゆっくりと剣を持ち上げた。
剣に炎が宿った。
そして剣はまっすぐに振り下ろされた。
「『炎波斬』!」
第二十八話 復讐のために に続く
「はいこちらルーヴェ。」「ユース殿、ワイルドです。」無線で話しかけてきたのは、近衛師団第十一大隊隊長、ロキ・F・ワイルドだった。今は一中隊を率いて北部エリアの護衛を担当している。
「お耳に入れておきたいことがありまして。」「どうしました?」「北部エリアのお客様から、黒いマントを着た怪しい男を見たとの通報がありました。」「分かりました。注意しておきます。」
すると、人混みの中で急に叫び声が聞こえた。
「ドロボー! 誰か捕まえてくれー!」助けを求める市民の声。
しかしユースは動かない。
しかも、なんと持ってきた本を取り出して余裕そうに呼んでいる。
なぜユースが動かないのか?
ユースはサボっているのではなく、動く必要がないのである。
ユースの頭上からブーンとプロペラの回る音が聞こえた。
風と共に空から数匹のドローンが現れた。
ドローン群は走って逃げていくドロボーを追いかける。
「犯罪者ヲ確認、無力化シマス。」
突如、バッという音がし、ドローンから黒い球が発射された。
黒い球は破裂して捕縛ネットが飛び出してきた。
捕縛ネットは瞬く間に男を縛り上げた。
「ななななんだこいつは!?」ネットが絡まってもがくドロボー。
そこへユースがのんびりと歩いてきた。
男はユースを見ると、パニックになって叫んだ。「おいチビ!これどう言うことなんだ!」
ユースは男とは対照的に冷静に答えた。
「この広大な中央広場を一大隊と自分だけで護れるわけないじゃないですか? だからアメリゴ政府からドローンを五千機購入したんです。遠隔操作で犯罪の取り締まりが出来ますし、人間が視るよりもずっと広い範囲を監視できる。僕らはほぼ動く必要がありません。」言い始めてから言い終わるまででゆっくりと剣を抜いた。
「ドローンだぁ!? そんなの使うなんて卑怯だぞ!!」男は苦し紛れに喚いたが、
「『麻痺剣』。」言い終わらないうちにバチッと心臓を貫かれ、気絶してしまった。
「こちらルーヴェ。只今窃盗犯を現行犯逮捕しました。」そのまま流れるように警察に通報するユース。
そしてレシーバーを切ってボソッとつぶやく。「誰がチビだ……」
一方こちらはユースによって半強制的に一緒に回ることになってしまったエリー・スチュアーテラートとナーサ・I・ジャクソン。
「ああもう!せっかくユースと回れると思ったのに!」と地団駄踏むエリー。
「それはこっちのセリフよ!」とわめくナーサ。
あまりの二人の剣幕に周りの人は二人を恐れ、というか引いており、モーセが海を割るがごとく二人を避けて歩いている。
エリーもナーサもヒートアップしすぎて周りが見えなくなり、ただ思い付く限りの罵倒を相手に浴びせる。
そんな中、空から近づいてくる物体があった。
二人はそれに全く気づかない。
ドローンが二人の上空一メートルあたりまで接近した。
ドローンのプロペラの音でようやく二人も気づいたようだ。
「ドローン? なんでこんなところに。」エリーがドローンに疑問の目線を向ける。
「騒ぎすぎて犯罪者扱いされちゃったのね。エリー殿下のせいで。」ナーサがエリーに軽蔑の視線を向ける。
「なんですって~!?」とエリーが言いかけたその時……
「犯罪者ヲ確認、無力化シマス。」
突如ドローンから銃弾が発射された。
「危ない!!!」エリーがとっさにナーサをかばって倒れ、銃弾はエリーの肩ギリギリをかすめて地面に当たった。
しかし、それで終わりはしない。
空からドローンが一機、また一機とエリーとナーサのいる場所に集まってきた。
そして一斉に二人に向かって銃撃を行ったのである。
「氷結変身!!」
エリーは素早く変身し、周囲に氷の壁をつくって飽和射撃から身を守った。
いや、もっと言えばナーサを銃撃から守っていた。
「ちょっと! なんでドローンが敵対してるわけ!?」銃弾を防ぎながらエリーが憤慨する。
「分かるわけないじゃないですか!」ナーサは地面に身を屈めて、頭を押さえていた。彼女の脳裏にギートにラザニアにされかかったあの記憶が映し出される。(第一章を参照)
「こちらエリー! ユース! 応答して!! ドローンが暴走してるの!!」必死に氷を生成しながら、エリーは無線でユースに助けを求めた。
「こちらユース。安心しなさい、こっちでも暴走してる。」ユースは中央広場の噴水付近で、ドローンから身を守りつつ、「変化~抹消~」のICカードが入っている剣を右手に、同じカードを装備した銃を左手に、ドローンを片っ端から無力化していた。
しかしユースの応答にエリーは困惑した。「どこが安心よ! 襲われてんじゃない!!」
しかしユースは冷静に答える。
「エリー、見たところドローンは僕を集中攻撃しているようだ。一般人への被害は今のところない。でも念のために警察の応援を呼んで、避難誘導を行っている。君も『変化~抹消~』を使ってドローンを無力化するんだ。壊しちゃいけないよ。貸与品だからね。」そう言っている間にユースは六十機以上のドローンを無力化していた。ちなみにユースは銃の実戦使用は初めてである。
エリーは説明をちゃんと聞いていたが、「ああもう、なんでそんなに冷静でいられるわけ?」とユースの度胸というか、肝の強さというか、無神経さに疑問を抱いた。
しかし、今は緊急事態。そんなことを思っている場合ではない。
「とにかく分かったわ。そっちも頑張ってね!」エリーはそう言って無線を切ると、銃を取り出して「抹消」を装備し、氷の一部を消滅させてそこから三発ほど弾丸を発射した。
放たれた弾丸は一発につき一機のドローンを撃ち抜き、プログラムを消去して無力化した。
「ナーサ、逃げなさい! ドローンは私だけを狙ってる! 私が引き付けるから逃げなさい!!」エリーはさらに銃に「変化~拡散~」をセットし、アクロバットな動きでドローンの銃撃を避けながら抹消弾をばらまいていた。
「いやだ……いやだ……怖いよ……!」ナーサはすっかり恐れて縮こまってしまっている。
そんな彼女を見かねてエリーは発破をかけた。
「しっかりしなさい!! 巻き添え食らって死にたいの!?」エリーは何を思ったかナーサのそばに散弾を打ち込んだ。
「ヒィッ!!」「ぐずぐずしてると私があんたを殺すわよ!」まあ撃ったのは抹消弾なので直撃しても記憶が消し飛ぶだけだが、ナーサにとっては十分恐怖を与える結果となった。
「い、いやだあ! 助けて!!」ナーサは我を忘れて一目散に逃げだした。
「そう、それでいいのよ……」優しくつぶやいて、まだまだやってくるドローンをとらえる。
エリーの足元にはすでに五十機以上のドローン。
しかし、全五千機のドローンは次から次へとやってくる。
「まったくもう! 誰かがドローンをハッキングしたのね。でも誰が……?」
一方ユース。
飛び交う弾丸の中をかいくぐり、ドローン群に斬撃、射撃を浴びせていた。
「やれやれ……ヴェネータ中のすべてのドローンをシャットダウンさせる気か?」かれこれ十分以上ドローンと戦っているユース。
すると、急にドローンの射撃が止まった。
「あれ? ドローンが直った?」急に沈静化したドローンを見て怪しく思うユース。
「素晴らしい、ユース君。あれだけの射撃を受けて傷一つつかないとは。」
急にユースの背後から声が聞こえた。
ユースはハッとして振りむいた。
ドローンが彼のために道を開けて整列している。
彼は黒マントで姿を隠していたが、ユースにはその気配には何度も感じたことのあるおぞましい気配を感じた。
「お前……ギートか……!!」そう言って、太陽剣「トルネード・オブ・ザ・サン」と太陽銃「P-21」から「変化~抹消~」のカードを引き抜くユース。
そして黒マントの男に銃を向けて叫んだ。「ドローンをハッキングしたのもお前の仕業か!?」
「いかにも。」黒マントの男はうっすらと笑った。そしてマントを脱ぎ捨て、ユースの前にその正体を現した!
白衣をそのまま黒くしたような外殻を身にまとい、目はゴーグル状、さらに腰には試験管のようなものが備えてある。
「私の名はケミカルギート。とある事情により、あなたとエリー・スチュアーテラート殿下を始末することにいたしました。」と丁寧に自己紹介する。
「なにが事情だ。どんな事情だろうと、ギートは排除するのみ!」ユースは左手の銃からパン、パンと二発ほど銃弾を放った。
銃弾は寸分の狂いもなくまっすぐ飛んでいき、今まさにケミカルギートの脳天に命中するかと思われた矢先。
ケミカルギートの指先がすっと前方を指した。
次の瞬間、銃弾から蒸気のようなものが拡散し、勢いを失って地面に落ちた。
落ちた弾丸はドロドロに溶けていた。
「な……一体何が……!」あまりにも一瞬の出来事に目を丸くするユース。
「おやおや、私の能力がわからなくて困惑しているご様子ですね。」と鼻の先で笑うケミカルギート。
しかし、ユースは言った。「いいや、分かったぞ。」冷静になればユースの頭脳は明晰だ。
「お前の能力は、体内で化学物質を生成、調合し、体外に放出できる、ってところだね?」
「……フフフ、当たらずとも遠からず、ってところですかね。」サイエンスギートは余裕の笑みを見せる。
「私の能力は……」と言いながら地面に散乱しているアスファルトのかけらを拾う。「ただ体内で薬品を調合するだけじゃない。私が触れたものは……酸化、還元、発熱、吸熱、化合、分離……あらゆる化学反応を起こす。」言い終わらないうちに持っているアスファルトが原油にまで還元された。
これにはユースも背筋を凍らせた。「なんということだ……あれにじかに触れられたら僕の体はどうなることやら……」
ユースは剣を地面に突き刺し、空いた右腕で小物入れから「変身~太陽~」のカードを取り出し、コマンドレシーバーに装着した。
「ほう、想像力を上げて霊法の遠距離攻撃で対抗しようというのですか?」
「……だったらどうした?」図星だった。
「そのつもりでしたらやめておいたほうがよろしいでしょう。」
「何?」
「この私に、あらゆる遠距離攻撃は効きませんよ?」
「……!」
相対するユースとケミカルギート。
ユースはゆっくりと剣を持ち上げた。
剣に炎が宿った。
そして剣はまっすぐに振り下ろされた。
「『炎波斬』!」
第二十八話 復讐のために に続く
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