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14話

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 14話

 涙でぐちゃぐちゃになった顔をあげ、ミミはうなだれていた。

「…ハデス。私は…。」

「分かっている。メリンダは優しいからな。でもダメだ。コイツは多くの罪を犯した。罰を与えないわけにはいかない。」

 そもそもの話。ハデスがミミの差し出した酒を飲まなければ、ミミの幻術を見破っていれば、状況はこんなに悪化しなかっただろうに。

「おい…?まだ俺の力を理解してないようだな?俺の翼だけでこの屋敷など吹き飛ばせる…」

「そんなことをしたら、私は二度と魔界には戻りませんわ。」

 ミミの横でハデスもうなだれる。


「…と、とにかく!コイツには罰を与える!」

 なんだろうこの情けなさは。

 僕は幼い頃、伝説の魔王に憧れていた。永年続く戦争を終わらせた偉大な魔王ハデス。ここ数日でそのイメージは見事に崩れ去り、かわりにメリンダの尻に敷かれる男に成り下がった。

「お前には魔王城で働いてもらう!」

 それは考えていたよりもはるかに軽い罰だった。それは皆も同じだったようだ。ミミが大きな声をあげる。

「えっ…!本当に?そんなことでいいの?!」

 ミミは瞳を輝かせてメリンダを見つめている。

「メリンダ様のいる魔王城で働けるなんて!」

「ハッ!誰がメリンダの側で働けると言った?」

 ミミが笑顔のまま固まる。

「魔王城で働く者の9割は男だ。残りの1割はメリンダの侍女たちだけ。
 お前が働くのは、もちろん9割の男の中でだ。じんましんまみれになりながら悔い改めろ!!」

 ミミが青い顔で震え始めた。彼女にとっては投獄よりも重い罰かもしれない。

「まずは護衛隊の世話でもしてもらおうか。男どもの臭い洗濯物を洗い、汚い宿舎を掃除、お前料理は出来るか?まぁ味など関係ない。日頃女と接点のない奴らばかりだ。女の手料理なら、毒でも食う。」

「いやぁあああぁ!!無理、無理なの!ムキムキな男が一番嫌!汗臭いし、汚いし、あの油っぽい顔を見ただけで…」

「そいつは良かった。うちの護衛隊は魔界で一番筋骨隆々な男たちだ。」


「イヤアァああああぁ!」


 断末魔の悲鳴をあげながら、ミミは連行されていった。その体はすでに真赤な発疹だらけだった。

 * * *

「なんて痒そうなんでしょう…。」

「メリンダ…ハデス様を擁護するわけじゃないけど、彼女はあれくらいされても仕方ないことをしたよ。」

 その時、ずっと黙っていたエルフのオスカーがハデスの前に立った。

「で?ハデス様の罪はいつ裁かれるのですか?」

「貴様…?!俺は浮気などしていないと証明されただろうが!」

 睨み合う二人。その横でメリンダはソファに腰掛けた。

「魔王陛下ともあろう御方が、薬を盛られた挙げ句に幻術をかけられ熟睡ですか?これのどこに罪がないと?そんな方にメリンダ様が守れますか?」

「魔界で最強を誇る俺に、エルフごときが断罪か?笑わせる。」

 最強。この流れで言うなら最強はメリンダだろうな。

「まず魔王城の警備はどうなっているのですか?サキュバス一人の侵入も防げないとは、警備がザル過ぎます。自慢の護衛隊も働いてくれなければ意味がない。」

 オスカーのごもっともな意見に、ハデスは黙り込んだ。

「ハデス様が強ければメリンダ様をお守りできるなんて思っていませんよね?周りの者に対する警戒心のなさ、メリンダ様の伴侶となる方がこれでは先が思いやられます。」

 怒りを必死で堪えるハデス。まぁ今回はハデスの失態も大きいし、図星な部分が多々あるのだろう。

「まぁ!そうだわ!オスカーをハデスの秘書にしてはどうかしら?」

 メリンダはさも名案を思いついたかのように手を叩いた。これにはオスカーもハデスも渋い顔になる。

「メリンダ…コイツをどうするって?」

「ずっと優秀な秘書官がほしいって言っていたじゃない。オスカーならピッタリだわ!」

 これは天然?メリンダの聖女像も崩れ始めている。

「メリンダ様、さすがにそれは…私にも主君を選ぶ権利がごさいます。」

「貴様は本当に失礼な奴だな。」

 不思議そうに首を傾げるメリンダ。

「オスカーさんには結構良い話に聞こえますけどね…。」

 ボソッと言った僕の一言にオスカーが食いついた。

「イーサン様?一体どういう意味でしょう?」

「いや…そんな深い意味じゃなくて。ハデス様の秘書になればメリンダの側にいられるじゃないですか。」

 驚愕の表情になるオスカー。そんなことも思いつかないほどハデスのことが嫌なのか。

「それは、たしかに魅力的ですね。」

「おい…俺の秘書になど認めないからな。」

 顎に手を当て考え込むオスカー。しばらくするとメリンダに跪いた。

「もしお許しいただけるならば、秘書官を務めさせていただきます。」

「まぁ!」
「おい!」

 メリンダの手の甲に口づけようとするオスカーの頭をハデスが鷲掴みにした。

「お、れ、の、秘書なんだろう?忠誠を誓うなら、俺の靴でも舐めるか?」

「本当に、メリンダ様の好みをとやかく言うつもりはありませんが。ご結婚は考え直してもいいと思います。」

「…もう一回言ってみろ!!!」

 その瞬間、ヒビが入っていた僕の部屋の窓が綺麗に砕け散った。

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