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6話
愛する妻を迎えに行くのを忘れるなんて。僕はなんてことをしてしまったんだ。いつだってミシェーラを思ってきたのに。
「そうなんですの!彼の部屋を覗いたら、知らない女の子の横で…裸で…すやすや気持ち良さそうに…。」
「なんてことでしょう!そんな…許されることではありませんわ!」
さっきまで浮気だと叫んでいた妻が、いまは魔王の浮気話を聞きながら大きく頷いている。しきりに相槌を打ち、時には涙を浮かべながら。
「結婚前に気づいて良かったです!メリンダ様なら他に素敵な方がすぐに見つかります!」
いつの間にか二人は打ち解け、長年の親友のような口調で話している。女性というものは本当に理解し難い。
「でも…私、彼のこと信じてました。ずっとずっとこんなことになっても…。」
また涙を浮かべるメリンダをミシェーラが優しく慰めている。
「そうですわね。私もイーサンが他の女性とダンスを踊ったと聞いてもう駄目だと思いましたが、やっぱりすぐに嫌いになったりはできません。」
思わぬ飛び火が飛んできた。メリンダがすごい顔でこちらを睨んでくる。
「イーサン!そんなことをしたのですか!」
「仕方なかったんだ…仕事の関係で…。」
味方をつけたミシェーラの視線も痛い。
「ハデスだって私に他の男性と話すなとか、目を合わせてはダメとかあんなに沢山言ってたのに…。自分はあんなことしてるなんて…。」
おっと、?今また聞き捨てならないことが出てきたぞ。
「ハデス様がなんと言っていたと?」
そこからメリンダが話したことで、僕の中の魔王のイメージは完全に崩れ去った。
メリンダ曰く、ハデス以外の男と十秒以上目を合わせてはいけない。笑いかけてはいけない。手を触れてはいけない。もし話しかけられたら、適当に挨拶をしてその場を立ち去ること。
既視感。同じようなことを毎日のように聞かされている僕としては、それをどういう気持ちで聞けばいいのか分からない。
「ハデス様は…メリンダ様を想っていらっしゃったのですね…なのにどうして。」
やはりミシェーラの中で束縛は愛なのか?僕を思っているからなのか?なんだか複雑な気分だ。
「魔界ではすぐに居場所がバレてしまいます。なのでこちらに戻ってきたのですが…。頼る人もいなくて…。」
「メリンダ様!どうぞここに居てください!私達は歓迎いたします!」
さっきまでメリンダを僕の浮気相手だと思っていたんじゃないのかい?
「まぁ、ミシェーラがそう言ってくれるなら構わないよ。」
「うぅ…ありがとうございます…。」
「メリンダ!!メリンダってば!!!」
窓の外から声が聞こえた。メリンダが窓を開けるとバルコニーにユニコーンのユニフェが立っている。
「ユニフェ?」
「大変だよ!ハデス様がこっちに向かってきてるよ!さっき治癒の力を使ったから居場所がバレたのかも!!」
そのとき、窓の外が突然暗闇に包まれた。窓から身を乗り出すと空は大きな黒い翼で朝陽を遮られている。
「ハデス……。」
『メリンダ!!』
屋敷の中庭に降り立ったのは伝説の黒竜。庭の花を踏まないように慎重に脚を下ろす姿がなんとも滑稽に見えるのはメリンダの話を聞いた後だからだろうか。
『魔界中を探したんだ!こんな所にいたのか!』
魔王ハデスは二階のバルコニーからでも見上げるほど大きい。その硬そうな鱗に包まれた体はたしかに伝説の通りだ。
「私は帰りませんわ。」
『メリンダ!誤解なんだ!』
魔王の姿がいつもミシェーラに弁解をする自分の姿に重なる。しかし、魔王の行動は誤解では済まないだろう。
『おい…!お前何者だ?誤解では済まないとはどういう意味だ?』
「!」
驚きで固まる僕の前にメリンダが立ち塞がる。
「彼はイーサン。私の弟の子孫ですわ。」
その巨大な瞳にギロリと睨まれると足がすくんだ。
「イーサン、ハデスは人の心が読めるのです。」
さすが魔界の王と言うべきか。伝説にはそんなこと書かれていなかった。
『子孫だからといってメリンダに近づこうなどと思うなよ。』
「私が誰と一緒にいようが、もう貴方には関係ないですわ。」
メリンダのハッキリとした拒絶の言葉にハデスはひどく狼狽えた。
『メリンダ、誤解なんだ。俺は浮気なんてしていない。』
「嘘!私、見ましたもの!貴方が女の子と寝ているのを!」
オロオロと視線を泳がせる黒竜はさっきまでの威厳はもうどこかへ行ってしまった。
『昨日のことを部下たちにも聞いた。しかし俺は何も覚えていなくてだな、一緒にいたという女もどこの誰かも分からなくて…。』
しどろもどろになる魔王。もう聞いていられない。
見ればメリンダはポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
「どこの誰かも分からない方とあんなに無防備に寝てらしたの?大切な結婚式の前日に?」
彼女の涙に黒竜は完全に固まってしまった。
「私、信じていたのに…。ずっとずっと貴方を信じていたの。何かの間違いだって、そんなことあるはずないって。でも、そんな…酷い。なにも覚えていないなんて、そんな言葉聞きたくなかったわ。」
魔王ハデスは何かを言いかけ、そのまま口をつぐんだ。
「私はもう魔界には帰りませんわ。貴方との結婚もなかったことにしてくださいませ。」
『待ってくれ!俺は君を愛している!頼むからそんなこと言わないでくれ!』
土下座しそうな勢いの黒竜。僕もいつかあんな風にミシェーラに縋る日が来るのだろうか。
『時間がほしい!俺が浮気などしていないと証明する!必ず証明してみせる!』
愛する妻を迎えに行くのを忘れるなんて。僕はなんてことをしてしまったんだ。いつだってミシェーラを思ってきたのに。
「そうなんですの!彼の部屋を覗いたら、知らない女の子の横で…裸で…すやすや気持ち良さそうに…。」
「なんてことでしょう!そんな…許されることではありませんわ!」
さっきまで浮気だと叫んでいた妻が、いまは魔王の浮気話を聞きながら大きく頷いている。しきりに相槌を打ち、時には涙を浮かべながら。
「結婚前に気づいて良かったです!メリンダ様なら他に素敵な方がすぐに見つかります!」
いつの間にか二人は打ち解け、長年の親友のような口調で話している。女性というものは本当に理解し難い。
「でも…私、彼のこと信じてました。ずっとずっとこんなことになっても…。」
また涙を浮かべるメリンダをミシェーラが優しく慰めている。
「そうですわね。私もイーサンが他の女性とダンスを踊ったと聞いてもう駄目だと思いましたが、やっぱりすぐに嫌いになったりはできません。」
思わぬ飛び火が飛んできた。メリンダがすごい顔でこちらを睨んでくる。
「イーサン!そんなことをしたのですか!」
「仕方なかったんだ…仕事の関係で…。」
味方をつけたミシェーラの視線も痛い。
「ハデスだって私に他の男性と話すなとか、目を合わせてはダメとかあんなに沢山言ってたのに…。自分はあんなことしてるなんて…。」
おっと、?今また聞き捨てならないことが出てきたぞ。
「ハデス様がなんと言っていたと?」
そこからメリンダが話したことで、僕の中の魔王のイメージは完全に崩れ去った。
メリンダ曰く、ハデス以外の男と十秒以上目を合わせてはいけない。笑いかけてはいけない。手を触れてはいけない。もし話しかけられたら、適当に挨拶をしてその場を立ち去ること。
既視感。同じようなことを毎日のように聞かされている僕としては、それをどういう気持ちで聞けばいいのか分からない。
「ハデス様は…メリンダ様を想っていらっしゃったのですね…なのにどうして。」
やはりミシェーラの中で束縛は愛なのか?僕を思っているからなのか?なんだか複雑な気分だ。
「魔界ではすぐに居場所がバレてしまいます。なのでこちらに戻ってきたのですが…。頼る人もいなくて…。」
「メリンダ様!どうぞここに居てください!私達は歓迎いたします!」
さっきまでメリンダを僕の浮気相手だと思っていたんじゃないのかい?
「まぁ、ミシェーラがそう言ってくれるなら構わないよ。」
「うぅ…ありがとうございます…。」
「メリンダ!!メリンダってば!!!」
窓の外から声が聞こえた。メリンダが窓を開けるとバルコニーにユニコーンのユニフェが立っている。
「ユニフェ?」
「大変だよ!ハデス様がこっちに向かってきてるよ!さっき治癒の力を使ったから居場所がバレたのかも!!」
そのとき、窓の外が突然暗闇に包まれた。窓から身を乗り出すと空は大きな黒い翼で朝陽を遮られている。
「ハデス……。」
『メリンダ!!』
屋敷の中庭に降り立ったのは伝説の黒竜。庭の花を踏まないように慎重に脚を下ろす姿がなんとも滑稽に見えるのはメリンダの話を聞いた後だからだろうか。
『魔界中を探したんだ!こんな所にいたのか!』
魔王ハデスは二階のバルコニーからでも見上げるほど大きい。その硬そうな鱗に包まれた体はたしかに伝説の通りだ。
「私は帰りませんわ。」
『メリンダ!誤解なんだ!』
魔王の姿がいつもミシェーラに弁解をする自分の姿に重なる。しかし、魔王の行動は誤解では済まないだろう。
『おい…!お前何者だ?誤解では済まないとはどういう意味だ?』
「!」
驚きで固まる僕の前にメリンダが立ち塞がる。
「彼はイーサン。私の弟の子孫ですわ。」
その巨大な瞳にギロリと睨まれると足がすくんだ。
「イーサン、ハデスは人の心が読めるのです。」
さすが魔界の王と言うべきか。伝説にはそんなこと書かれていなかった。
『子孫だからといってメリンダに近づこうなどと思うなよ。』
「私が誰と一緒にいようが、もう貴方には関係ないですわ。」
メリンダのハッキリとした拒絶の言葉にハデスはひどく狼狽えた。
『メリンダ、誤解なんだ。俺は浮気なんてしていない。』
「嘘!私、見ましたもの!貴方が女の子と寝ているのを!」
オロオロと視線を泳がせる黒竜はさっきまでの威厳はもうどこかへ行ってしまった。
『昨日のことを部下たちにも聞いた。しかし俺は何も覚えていなくてだな、一緒にいたという女もどこの誰かも分からなくて…。』
しどろもどろになる魔王。もう聞いていられない。
見ればメリンダはポロポロと大粒の涙をこぼしていた。
「どこの誰かも分からない方とあんなに無防備に寝てらしたの?大切な結婚式の前日に?」
彼女の涙に黒竜は完全に固まってしまった。
「私、信じていたのに…。ずっとずっと貴方を信じていたの。何かの間違いだって、そんなことあるはずないって。でも、そんな…酷い。なにも覚えていないなんて、そんな言葉聞きたくなかったわ。」
魔王ハデスは何かを言いかけ、そのまま口をつぐんだ。
「私はもう魔界には帰りませんわ。貴方との結婚もなかったことにしてくださいませ。」
『待ってくれ!俺は君を愛している!頼むからそんなこと言わないでくれ!』
土下座しそうな勢いの黒竜。僕もいつかあんな風にミシェーラに縋る日が来るのだろうか。
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