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第38話 幸せのその後
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第38話 幸せのその後
「お母様、見てください!」
クルクルと回るドレスの裾がふわりと広がった。私が初めて夜会に出たときと同じ真っ青なドレス。窓から差し込む陽射しにキラキラと輝いている。
「本当に青で良かったの?みんなもっと明るい色にするでしょう?」
「いいんです!私はお母様と同じ色にしたかったし、青が一番私に似合うってお父様が言ってたんですもの!」
たしかに水色の髪に青のドレスがよく似合っている。ドレスのおかげで少し大人っぽく見える娘は来月16歳のデビュータントを迎えるのだ。
「メルリア様。本日も贈り物が届いております。」
娘の世話係になったジゼルさんが運んできた見慣れた紋章の入った箱。その印はタリシアン共和国のものだ。
「ありがとうございます!今日はなにかしら?」
可愛らしいリボンを解いた箱から出てきたのは美しいネックレスだった。星を散りばめたような繊細な宝石が付いたそれは、まるで娘のドレスに合わせて作られたよう。
「綺麗!このドレスにピッタリ!」
相変わらず、まるで全部お見通しのような贈り物。
「奥様にはこちらです。」
メルリアの物より一回り小さな箱を開けると、美しいブローチが入っていた。夜空を切り取ったような深い青色に小さなダイヤモンドがついている。
「アーサー様はいつも本当にセンスがいいですね。」
タリシアン共和国の騎士アーサー。それがこの世界での神様の名前だ。
娘さんを私にください。
まさか娘が生まれる前にそんな台詞を言われるとは思ってもいなかった。
「…クロードはきっと離さないと思います。」
「…え?」
「もし本当に女の子だったら、クロードは簡単にお嫁に行かせないと思います。」
たくさんたくさん甘やかすだろう。たくさん愛して、絶対過保護になると思う。きっと結婚なんて簡単に許してくれないはずだ。
「そうでしょうね。簡単に認めてはもらえないでしょう。」
ふむふむと神様は考えていた。
「頑張ります。公爵に認めてもらえるように。相応しい男になりましょう。」
どうしてそこまで…?という質問に答えてはもらえない。
「また会いましょう。必ず会いに行きます。」
それが神様と最後に交わした会話だった。
* * *
「だから!どうして彼は毎回毎回渚にまで贈り物をするんだ?!」
帰宅したクロードは娘のドレス姿を見て目を潤ませた。そのあとネックレスに目を止め、続いて私のブローチに気づいて眉間に皺を寄せた。
「メルリアにならまだ分かる。いや分かりたくないが!どうして母親の君にまでこんな高価な贈り物をしてくるんだ?」
来月のデビュータントでメルリアは社交デビューする。それに合わせてタリシアン共和国から使節団がやってくるのだ。アーサーはその使節団の一員として、メルリアに会いに来ることになっている。
タリシアン共和国から初めてそれが届いたのはメルリアの12歳の誕生日だった。
美しい青色の箱に入っていたのは、可愛らしい白色のテディベアだった。
「わぁ!可愛い!誰がくれたの?」
喜ぶメルリアの横でクロードは首を傾げていた。再度平和協定が結ばれてからタリシアン共和国とは国交が盛んになり、クロードも共和国の外交官などと知り合うことが増えていた。
しかし送り主のアーサーという名前には見覚えがないようだった。
「渚宛の物も入っているが…。」
私宛に入っていたのは、水色のリボンと小さなメッセージカードだった。
『白い尻尾が似ていると思いませんか?』
書いてあったのはそれだけ。私は笑ってしまった。たしかに真っ白なテディベアの尻尾が、ふわふわな神様に似ている。
「渚、アーサーとは一体誰なんだ?」
翌日届いた書状を読んだクロードは屋敷中に響き渡る大声を上げた。
それはメルリアへの縁談の申し込みだった。差出人はアーサー・ガーランド。タリシアン共和国で天才騎士と呼ばれるメルリアと同い年の少年だった。
会ったこともない少年からの縁談にクロードはすぐに断りの返事を書いた。しかし、彼は懲りずに書状を送り続け、イベントの度に贈り物をくれる。その全てに私宛の贈り物も同封されていた。
いつしかアーサーとメルリアは文通を始め、良き友達となっている。それがクロードには気に食わない。
「お母様はアーサー様と知り合いなのですか?」
私はふるふると首を振る。このことは私と神様だけの秘密。自分の力で必ずメルリアに相応しい男になる。それが神様のやりたいことだと言われたので、私は黙っている約束だった。
「私も会ったことないわ。」
それから4年。もうすぐ神様に会える。
「お母様、見てください!」
クルクルと回るドレスの裾がふわりと広がった。私が初めて夜会に出たときと同じ真っ青なドレス。窓から差し込む陽射しにキラキラと輝いている。
「本当に青で良かったの?みんなもっと明るい色にするでしょう?」
「いいんです!私はお母様と同じ色にしたかったし、青が一番私に似合うってお父様が言ってたんですもの!」
たしかに水色の髪に青のドレスがよく似合っている。ドレスのおかげで少し大人っぽく見える娘は来月16歳のデビュータントを迎えるのだ。
「メルリア様。本日も贈り物が届いております。」
娘の世話係になったジゼルさんが運んできた見慣れた紋章の入った箱。その印はタリシアン共和国のものだ。
「ありがとうございます!今日はなにかしら?」
可愛らしいリボンを解いた箱から出てきたのは美しいネックレスだった。星を散りばめたような繊細な宝石が付いたそれは、まるで娘のドレスに合わせて作られたよう。
「綺麗!このドレスにピッタリ!」
相変わらず、まるで全部お見通しのような贈り物。
「奥様にはこちらです。」
メルリアの物より一回り小さな箱を開けると、美しいブローチが入っていた。夜空を切り取ったような深い青色に小さなダイヤモンドがついている。
「アーサー様はいつも本当にセンスがいいですね。」
タリシアン共和国の騎士アーサー。それがこの世界での神様の名前だ。
娘さんを私にください。
まさか娘が生まれる前にそんな台詞を言われるとは思ってもいなかった。
「…クロードはきっと離さないと思います。」
「…え?」
「もし本当に女の子だったら、クロードは簡単にお嫁に行かせないと思います。」
たくさんたくさん甘やかすだろう。たくさん愛して、絶対過保護になると思う。きっと結婚なんて簡単に許してくれないはずだ。
「そうでしょうね。簡単に認めてはもらえないでしょう。」
ふむふむと神様は考えていた。
「頑張ります。公爵に認めてもらえるように。相応しい男になりましょう。」
どうしてそこまで…?という質問に答えてはもらえない。
「また会いましょう。必ず会いに行きます。」
それが神様と最後に交わした会話だった。
* * *
「だから!どうして彼は毎回毎回渚にまで贈り物をするんだ?!」
帰宅したクロードは娘のドレス姿を見て目を潤ませた。そのあとネックレスに目を止め、続いて私のブローチに気づいて眉間に皺を寄せた。
「メルリアにならまだ分かる。いや分かりたくないが!どうして母親の君にまでこんな高価な贈り物をしてくるんだ?」
来月のデビュータントでメルリアは社交デビューする。それに合わせてタリシアン共和国から使節団がやってくるのだ。アーサーはその使節団の一員として、メルリアに会いに来ることになっている。
タリシアン共和国から初めてそれが届いたのはメルリアの12歳の誕生日だった。
美しい青色の箱に入っていたのは、可愛らしい白色のテディベアだった。
「わぁ!可愛い!誰がくれたの?」
喜ぶメルリアの横でクロードは首を傾げていた。再度平和協定が結ばれてからタリシアン共和国とは国交が盛んになり、クロードも共和国の外交官などと知り合うことが増えていた。
しかし送り主のアーサーという名前には見覚えがないようだった。
「渚宛の物も入っているが…。」
私宛に入っていたのは、水色のリボンと小さなメッセージカードだった。
『白い尻尾が似ていると思いませんか?』
書いてあったのはそれだけ。私は笑ってしまった。たしかに真っ白なテディベアの尻尾が、ふわふわな神様に似ている。
「渚、アーサーとは一体誰なんだ?」
翌日届いた書状を読んだクロードは屋敷中に響き渡る大声を上げた。
それはメルリアへの縁談の申し込みだった。差出人はアーサー・ガーランド。タリシアン共和国で天才騎士と呼ばれるメルリアと同い年の少年だった。
会ったこともない少年からの縁談にクロードはすぐに断りの返事を書いた。しかし、彼は懲りずに書状を送り続け、イベントの度に贈り物をくれる。その全てに私宛の贈り物も同封されていた。
いつしかアーサーとメルリアは文通を始め、良き友達となっている。それがクロードには気に食わない。
「お母様はアーサー様と知り合いなのですか?」
私はふるふると首を振る。このことは私と神様だけの秘密。自分の力で必ずメルリアに相応しい男になる。それが神様のやりたいことだと言われたので、私は黙っている約束だった。
「私も会ったことないわ。」
それから4年。もうすぐ神様に会える。
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