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第22話 悪役たちの密会
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第22話 悪役たちの密会
仮面舞踏会。貴族たちが自らの身分を隠し一夜の逢瀬を楽しむ夜会。それはこのカルディアナ王国でも密かに開かれている。
しかしその舞踏会の裏では様々な思惑が交錯し犯罪の温床になっていることも確かだ。
今夜、舞踏会の会場になっている屋敷でも貴族たちの裏で柄の悪い男たちが出入りしている。それを窓から眺めながら男は仮面と変装用のウィッグを外した。
「王族の証であるこの髪も瞳もこういう場所では本当に不便だ。」
煌めく金髪と翡翠色の瞳。その美しい顔を醜く歪めながら第二王子カミーユは向かいに腰掛ける女に視線を移す。
「それは貴女も一緒ですね。」
女もそのウィッグを外すと、美しい緑色の髪がこぼれ落ちた。
「本日はお時間をいただき本当に感謝しております。カミーユ王子、いえ王太子殿下とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
「タナリー嬢、それは気が早いですよ。でもいつか必ずそうなることは間違いありませんがね。」
二人は不敵に微笑みあう。
「それで私になにを提供してくれるのかな?」
第二王子であるカミーユの元にこの舞踏会の招待状が届いたのがちょうど二週間前。差出人の名前はなく、ただ一言。
『フェルナンド公爵の秘密をお話します。』
差出人を調べさせると呆気なく素性が分かった。タナリー侯爵令嬢ルディア。フェルナンド公爵の婚約者候補だった女だ。
「その前にどうか私の願いを聞いてくださいませ。」
したたかな女だ。自分の立場、そして私の現状をよく理解している。
「私にできることなら聞くつもりですよ?」
「皇后様に私を紹介してくださいませ。」
皇后アビゲイル。国王さえも簡単に退けることの出来ない権力を持つカミーユの母。
「他国との縁が欲しいのです…。」
いまこのカルディアナ王国でルディア嬢の結婚相手として釣り合う身分はフェルナンド公爵しかいない。しかし、その縁談は十年も前に破談になっている。
侯爵令嬢という自分の爵位よりも下の家に嫁ぐなどプライドが許さないのだろう。
たしか彼女はそろそろ25か26歳か。行き遅れギリギリだな。
「なるほど、他国の公爵か王子か。母上なら簡単に紹介できるでしょう。」
「本当ですか…!?」
「ただし、貴女の情報がどんなものなのかによりますね。」
そこからルディア嬢は止める間もなく話し出した。
* * *
「ふ、ハハハっ!まさかっあの公爵にそんな趣味があるとは!」
死んだ母親に似せた人形、部屋中に並べられた人形たちを家族と呼び婚約者にもそれを家族のように扱えと!?
「あの渚という女は、その人形部屋で暮らしているそうですわ。本当に気持ち悪い。」
図書館で見た儚げな少女。陶器のような肌は確かに人形のようだった。まさか、公爵の趣味を分かった上で側にいるとは。奇特な女がいるものだ。
「カミーユ殿下…。あの女いかがするおつもりですか?」
公爵があの少女にこだわる理由がようやく分かった。自分を受け入れてくれる大切な存在。それを失ったら、あの無表情がどんなふうに歪むのか考えただけで楽しみだ。
「そんな、まるで私が悪役のようではないですか。なにもしませんよ?でも…そうですね…。」
あの公爵のせいで憎らしい義兄が力を持ち、貴族たちの支持を得ているなど許せるものか。絶対に引きずり下ろしてやる。
「不慮の事故が起こったとしたら、それはどうしようもないですよね…。不幸な事故なのですから。」
するとルディア嬢は何かを取り出した。
「では、その事故が起こった時のためにこちらをカミーユ殿下にお渡しいたしますわ。」
それはフェルナンド公爵家の詳細な見取り図だった。あの屋敷は使用人の口が固く、なかなかその全貌が分からなかった。
「なるほど。では有り難くいただきましょう。すぐにでも母上との面会を取り付けます。」
「ありがとうございます!」
公爵家二階の一室。人形に囲まれたその部屋であの少女はなにを思って暮らしているのか。
それは今度直接聞いてみよう。あの細い体を組み伏せたら、さぞかし気持ちが良いだろうな。
仮面舞踏会。貴族たちが自らの身分を隠し一夜の逢瀬を楽しむ夜会。それはこのカルディアナ王国でも密かに開かれている。
しかしその舞踏会の裏では様々な思惑が交錯し犯罪の温床になっていることも確かだ。
今夜、舞踏会の会場になっている屋敷でも貴族たちの裏で柄の悪い男たちが出入りしている。それを窓から眺めながら男は仮面と変装用のウィッグを外した。
「王族の証であるこの髪も瞳もこういう場所では本当に不便だ。」
煌めく金髪と翡翠色の瞳。その美しい顔を醜く歪めながら第二王子カミーユは向かいに腰掛ける女に視線を移す。
「それは貴女も一緒ですね。」
女もそのウィッグを外すと、美しい緑色の髪がこぼれ落ちた。
「本日はお時間をいただき本当に感謝しております。カミーユ王子、いえ王太子殿下とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」
「タナリー嬢、それは気が早いですよ。でもいつか必ずそうなることは間違いありませんがね。」
二人は不敵に微笑みあう。
「それで私になにを提供してくれるのかな?」
第二王子であるカミーユの元にこの舞踏会の招待状が届いたのがちょうど二週間前。差出人の名前はなく、ただ一言。
『フェルナンド公爵の秘密をお話します。』
差出人を調べさせると呆気なく素性が分かった。タナリー侯爵令嬢ルディア。フェルナンド公爵の婚約者候補だった女だ。
「その前にどうか私の願いを聞いてくださいませ。」
したたかな女だ。自分の立場、そして私の現状をよく理解している。
「私にできることなら聞くつもりですよ?」
「皇后様に私を紹介してくださいませ。」
皇后アビゲイル。国王さえも簡単に退けることの出来ない権力を持つカミーユの母。
「他国との縁が欲しいのです…。」
いまこのカルディアナ王国でルディア嬢の結婚相手として釣り合う身分はフェルナンド公爵しかいない。しかし、その縁談は十年も前に破談になっている。
侯爵令嬢という自分の爵位よりも下の家に嫁ぐなどプライドが許さないのだろう。
たしか彼女はそろそろ25か26歳か。行き遅れギリギリだな。
「なるほど、他国の公爵か王子か。母上なら簡単に紹介できるでしょう。」
「本当ですか…!?」
「ただし、貴女の情報がどんなものなのかによりますね。」
そこからルディア嬢は止める間もなく話し出した。
* * *
「ふ、ハハハっ!まさかっあの公爵にそんな趣味があるとは!」
死んだ母親に似せた人形、部屋中に並べられた人形たちを家族と呼び婚約者にもそれを家族のように扱えと!?
「あの渚という女は、その人形部屋で暮らしているそうですわ。本当に気持ち悪い。」
図書館で見た儚げな少女。陶器のような肌は確かに人形のようだった。まさか、公爵の趣味を分かった上で側にいるとは。奇特な女がいるものだ。
「カミーユ殿下…。あの女いかがするおつもりですか?」
公爵があの少女にこだわる理由がようやく分かった。自分を受け入れてくれる大切な存在。それを失ったら、あの無表情がどんなふうに歪むのか考えただけで楽しみだ。
「そんな、まるで私が悪役のようではないですか。なにもしませんよ?でも…そうですね…。」
あの公爵のせいで憎らしい義兄が力を持ち、貴族たちの支持を得ているなど許せるものか。絶対に引きずり下ろしてやる。
「不慮の事故が起こったとしたら、それはどうしようもないですよね…。不幸な事故なのですから。」
するとルディア嬢は何かを取り出した。
「では、その事故が起こった時のためにこちらをカミーユ殿下にお渡しいたしますわ。」
それはフェルナンド公爵家の詳細な見取り図だった。あの屋敷は使用人の口が固く、なかなかその全貌が分からなかった。
「なるほど。では有り難くいただきましょう。すぐにでも母上との面会を取り付けます。」
「ありがとうございます!」
公爵家二階の一室。人形に囲まれたその部屋であの少女はなにを思って暮らしているのか。
それは今度直接聞いてみよう。あの細い体を組み伏せたら、さぞかし気持ちが良いだろうな。
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