35 / 41
2章 侍女編
第三十二話
しおりを挟む
第三十二話
「ケイン…?」
2週間ぶりに許された逢瀬。いつから待っていたのか、部屋に入ったとき彼はベッドですやすやと寝息を立てていた。
その手はマメだらけで血が滲んでいるものもある。その全てが私のためだと思うのは、自惚れすぎだろうか。
そっと頬に触れるとピクピクと瞼が動き、うっすらと目を開けた。
「疲れてる?無理しなくていいよ?」
ガバっと身体を起こした彼の髪の右側にだけ寝癖がついている。
「マリア!」
ぎゅっと抱きしめられたその腕がすこし逞しくなった気がする。温かく安心するにおいがした。
「会いたかった。」
「私も。」
言いたいことはたくさんあって、伝えなきゃいけないこともたくさんある。でも全てを伝えてしまったら彼を失望させてしまうかもしれない。
「…ん……。」
重ねた唇が熱い。何度も何度も口づけを交わした。
「…行くのか?」
ケインの瞳は不安げに揺れていた。誰から伝わったのだろう。
ミシェル婦人からの提案も、ララさんからの誘いにもまだ返事はしていない。それでも私の心は決まっていた。
その前に私には彼に言わないといけないことがある。
「私ね、一回死んだの。」
その青い瞳が大きく見開かれた。
「ここじゃない世界で一回死んで、気づいたらこの世界にいたの。そう言ったら信じてくれる?」
誰にも言わないつもりだった。信じてもらえるとも思っていなかった。
でも初めて伝えたいと思った。誰にも言えなかった私の事を。
日本という国。この歳までどうやって生きてきたか。なんで死んだのか。ありのまま全てのことを話した。彼は何も言わず、ただ私の話を聞いてくれていた。
「…だからマリアは他のやつと違うんだな。」
「信じてくれるの?」
「当たり前だろ。むしろいろんなことに納得した。」
疑いもせずケインは笑ってくれる。彼に話して良かった。嬉しくて涙が出た。
「泣くなよ。そんなに俺信用ないのか?」
怖かった。誰にも言えなかった。それでも信じてほしかった。でないと自分自身も分からなくなるときがある。私が誰なのか。
「ごめんね。だから私、この世界の普通にはなれない。ただ待ってるなんてできない。嫌なの、ケインに守られてるだけなんて。貴方とちゃんと対等になりたい。」
自分にできることを全てやりたい。全部やってそうして初めて胸を張って彼の横に立てる。
「嫌だ。マリアと離れるなんて。」
マメだらけの指が涙を拭ってくれる。
「一番嫌なのは、ガキみたいに駄々こねることしかできない。そんな俺が一番嫌だ。」
前に涙を拭ってくれたときより頼もしく思えるのはきっと気のせいじゃない。
「マリアが好きだ。ずっと側にいたい。やっぱり俺はお前が一番大事で、地位も家族も捨ててもいいと思ってる。」
ぎゅっと彼を抱きしめる。初めて会ってからまだほんの少しなのに、それでもこんなに好きになってしまった。
「でもマリアが大切に思ってくれるものを俺も大事にしたい。俺も強くなる、必ず。」
彼は私の最後の人。もう迷ったりしない。
「ケインが好き。絶対貴方の隣にいくから。少しだけ待ってて。」
その夜は久しぶりに一緒にお風呂に入った。どれだけ話しても足りなくて、ずっとずっと夜が明けないでほしかった。
「ケイン…?」
2週間ぶりに許された逢瀬。いつから待っていたのか、部屋に入ったとき彼はベッドですやすやと寝息を立てていた。
その手はマメだらけで血が滲んでいるものもある。その全てが私のためだと思うのは、自惚れすぎだろうか。
そっと頬に触れるとピクピクと瞼が動き、うっすらと目を開けた。
「疲れてる?無理しなくていいよ?」
ガバっと身体を起こした彼の髪の右側にだけ寝癖がついている。
「マリア!」
ぎゅっと抱きしめられたその腕がすこし逞しくなった気がする。温かく安心するにおいがした。
「会いたかった。」
「私も。」
言いたいことはたくさんあって、伝えなきゃいけないこともたくさんある。でも全てを伝えてしまったら彼を失望させてしまうかもしれない。
「…ん……。」
重ねた唇が熱い。何度も何度も口づけを交わした。
「…行くのか?」
ケインの瞳は不安げに揺れていた。誰から伝わったのだろう。
ミシェル婦人からの提案も、ララさんからの誘いにもまだ返事はしていない。それでも私の心は決まっていた。
その前に私には彼に言わないといけないことがある。
「私ね、一回死んだの。」
その青い瞳が大きく見開かれた。
「ここじゃない世界で一回死んで、気づいたらこの世界にいたの。そう言ったら信じてくれる?」
誰にも言わないつもりだった。信じてもらえるとも思っていなかった。
でも初めて伝えたいと思った。誰にも言えなかった私の事を。
日本という国。この歳までどうやって生きてきたか。なんで死んだのか。ありのまま全てのことを話した。彼は何も言わず、ただ私の話を聞いてくれていた。
「…だからマリアは他のやつと違うんだな。」
「信じてくれるの?」
「当たり前だろ。むしろいろんなことに納得した。」
疑いもせずケインは笑ってくれる。彼に話して良かった。嬉しくて涙が出た。
「泣くなよ。そんなに俺信用ないのか?」
怖かった。誰にも言えなかった。それでも信じてほしかった。でないと自分自身も分からなくなるときがある。私が誰なのか。
「ごめんね。だから私、この世界の普通にはなれない。ただ待ってるなんてできない。嫌なの、ケインに守られてるだけなんて。貴方とちゃんと対等になりたい。」
自分にできることを全てやりたい。全部やってそうして初めて胸を張って彼の横に立てる。
「嫌だ。マリアと離れるなんて。」
マメだらけの指が涙を拭ってくれる。
「一番嫌なのは、ガキみたいに駄々こねることしかできない。そんな俺が一番嫌だ。」
前に涙を拭ってくれたときより頼もしく思えるのはきっと気のせいじゃない。
「マリアが好きだ。ずっと側にいたい。やっぱり俺はお前が一番大事で、地位も家族も捨ててもいいと思ってる。」
ぎゅっと彼を抱きしめる。初めて会ってからまだほんの少しなのに、それでもこんなに好きになってしまった。
「でもマリアが大切に思ってくれるものを俺も大事にしたい。俺も強くなる、必ず。」
彼は私の最後の人。もう迷ったりしない。
「ケインが好き。絶対貴方の隣にいくから。少しだけ待ってて。」
その夜は久しぶりに一緒にお風呂に入った。どれだけ話しても足りなくて、ずっとずっと夜が明けないでほしかった。
0
お気に入りに追加
2,046
あなたにおすすめの小説
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
隠れ御曹司の手加減なしの独占溺愛
冬野まゆ
恋愛
老舗ホテルのブライダル部門で、チーフとして働く二十七歳の香奈恵。ある日、仕事でピンチに陥った彼女は、一日だけ恋人のフリをするという条件で、有能な年上の部下・雅之に助けてもらう。ところが約束の日、香奈恵の前に現れたのは普段の冴えない彼とは似ても似つかない、甘く色気のある極上イケメン! 突如本性を露わにした彼は、なんと自分の両親の前で香奈恵にプロポーズした挙句、あれよあれよと結婚前提の恋人になってしまい――!? 「誰よりも大事にするから、俺と結婚してくれ」恋に不慣れな不器用OLと身分を隠したハイスペック御曹司の、問答無用な下克上ラブ!
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる