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第二十五話

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 第二十五話

「お姉様はご存知ないかと思いますが、ドラガニアには有名な天女の伝説があるのです。」

 私の震える体をシュウ様が優しく支えてくれた。それだけで私は強くなれる気がする。背筋を伸ばしまっすぐと前を見据え私は口を開いた。

「その伝説は実在した女性をモデルに作られました。ドラガニアを緑の大地に変えた天女はある日突然姿を消しました。ドラガニアの人々は長い間彼女を探しましたが結局見つかりませんでした。その理由がやっと分かったのです。」

 父の顔が色を失い、ガタガタと震えだしました。やはり、知っていたんだ。

「天女はアスタリオ人に連れ去られた。そして彼女の知識を利用してアスタリオは豊かな国となった。違いますか?」

「違う!そんなのは嘘だ!デタラメだ!」

「それを知っていてどうして私を差し出したのですか?この国の人達はもう天女のことなど忘れたとでも思いましたか?
 もう何百年も昔の話ですからね。でもドラガニアの人々はずっとずっと天女の功績を讃え続けたんです。忘れたりしないように、彼女の記憶が消えたりしないように。
 それなのにアスタリオ人は国を閉じ、ドラガニアのことなんて知ろうともしなかった。」

 父はぶんぶんと首を振り、そんなことは知らないと喚き続けた。

「お父様。私が証拠です。この髪が、瞳が、すべての証拠なのです。」

「知らん!お前などいなければ!生まれてこなければ良かったんだ!」

 その台詞を今まで何度言われたことか。父に兄に姉に、そしてきっと母にも言われた言葉。しかしその言葉が私を傷つけることはない。

「盗人は我がバーミリオン家ではない!やったのはアスタリオ王家だ!我々は脅されて仕方なく…。」

「仕方なく天女を利用し、仕方なく公爵の位を得たとでも?恥を知れ!!」

 シュウ様の大きな声に父は言葉を失い、姉は小さな声で泣き出した。

「バーミリオン公爵。貴方は自分に罪はないと言うが、ならばなぜ黒髪の娘を隠した?」

 お祖母様もその前に生まれた私と同じ髪の娘たち。一体何人の娘が自由を奪われてきたのだろう。それを思うと私は涙が出そうになった。

 涙を堪える私に変わり、シュウ様が言葉を続ける。

「アスタリオの王族たちは彼女たちの中から、天女と同じような知識を持つ者が現れるのを期待していた。しかし何年経ってもそんな者が現れることはなく、次第に王族や貴族たちは恐れるようになった。
 ドラガニアに自分たちの罪が露見することを。天女を奪い、自国のためだけに利用したことを暴かれるのを。だから隠した。何人も何人も。何百年も。
 しかし長い時が経ち、お前たちの罪の意識は薄れた。アスタリオの若い者たちは天女の存在すら知らない時代になった。
 戦争に負け、こうしてリコリスを差し出してくれるくらいにな。

 だが俺達は忘れてなどいない!お前たちの罪、その代償は命よりも重いことを知れ!」

 何も言い返さない父の顔が全てを肯定していた。

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