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第十六話
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第十六話
突然現れたその女性はスラッとしたモデル体型のそれはそれは綺麗な人だった。
長い脚と引き締まった腰、真っ赤な髪を高い位置でポニーテールにした彼女。切れ長な一重のアジアンビューティー。胸も大きい。
「シュウ!説明してよ!」
ドカドカと応接間にやってきた彼女はキッと私を睨みつけた。
「アンタがアスタリオからの戦利品ってわけ?なぁんだ。ただのガキじゃない。」
「キファ。口を慎め。どうしてここにいる。」
後ろに控えたユノさんやリンの様子を見るに、彼女のことを知らないのはどうやら私だけのようだ。
「シュウ様、この方は?」
「キーファ・ユースタス。俺の故郷、ドラガニア辺境にあるカザンという都市の子爵の娘だ。俺の幼馴染でもある。」
「幼馴染?結婚の約束をした婚約者の間違いでしょ?!」
婚約者?一体どういうことなのだろう?私にはさっぱり分からない。
「俺はお前と婚約した覚えはない。」
「私は約束したわ!貴方の亡くなったお父様と!妻になって貴方を支えるってね!」
シュウ様のお父様は5年前に亡くなったと聞いている。それ以来、故郷にも帰っていないと。
「それがなに?いきなりこんな娘連れてきて勝手に婚約して!しかもアスタリオ人じゃない!」
どうやら彼女はアスタリオ人のことを良く思っていないらしい。当たり前といえば当たり前だ。いままで会ったドラガニアの人たちの中にそんな人がいなかっただけ。
「アンタ、さっさと国に帰りなさいよ!シュウには私がいるからアンタなんか必要ないの!」
必要ないという言葉に体がビクリと反応した。彼女の言葉が遠い故郷の姉と重なって聞こえる。
「…黙れ。彼女が怯えている。」
その瞬間、スっと部屋の空気が変わった気がした。ヒヤリとした気配に寒気がする。
「キファ、彼女への無礼は許さん。いくらお前でも容赦はしない。」
シュウ様の顔が見られない。その冷たい声色はまるで知らない人のようだ。彼に真正面から見据えられた彼女は怯えた表情になりあとずさった。
「キーファ様、本日はお引き取りください。」
無言になった彼女はそのままリンに連れられ屋敷を出ていった。
「ユノ、キファの言っていたことを調べろ。それとユースタス家に連絡を。」
「かしこまりました。」
私はあっという間の出来事に言葉を失っていた。まるで嵐が通り過ぎていったみたい。
震える手にシュウ様の手が重なった。黒い瞳が心配そうにこちらを見つめている。
「すまない。俺はたしかに10歳までキファと過ごした。家族のように暮らしていたが、それ以上のことは何もない。父とのことは調べがついたら必ず君に話す。信じてくれるか?」
私は呆然としたまま頷いた。
「私はシュウ様を信じます。」
その日はシュウ様に送られ、離宮に戻った。リースは沈んだ顔をして帰ってきた私を質問攻めにしてくる。リースへの詳しい話はリンに任せ、私は自室に戻った。
「信じる、か。」
婚約式はしたけれど、私はシュウ様の家族に会ったことはない。領地を治めているというお兄さんには奥さんと二人の子供がいるそうだ。
国境警備のため領地を離れることができず申し訳ないと私宛に美しい織物を送ってくれた。
幼い頃にお母様を、5年前にお父様を亡くしたシュウ様はどうして領地に帰らないのか。小さい頃はどんな子どもだったのだろう。
私には知らないことばかりだ。あのキファと呼ばれた女性とはどんな時間を過ごしてきたのだろう。
信じることと、気にならないというのはまた別で、だって私はまだシュウ様に会って3ヶ月ほどしか経っていないんだから。
せっかく仲直りできたと思ったら、次から次へといろんなことが起こるな。
そんなことをうじうじと考えながら私は浅い眠りについた。
まさか、次の日私のもとに嵐がやってくるなんて誰が思っただろう。
突然現れたその女性はスラッとしたモデル体型のそれはそれは綺麗な人だった。
長い脚と引き締まった腰、真っ赤な髪を高い位置でポニーテールにした彼女。切れ長な一重のアジアンビューティー。胸も大きい。
「シュウ!説明してよ!」
ドカドカと応接間にやってきた彼女はキッと私を睨みつけた。
「アンタがアスタリオからの戦利品ってわけ?なぁんだ。ただのガキじゃない。」
「キファ。口を慎め。どうしてここにいる。」
後ろに控えたユノさんやリンの様子を見るに、彼女のことを知らないのはどうやら私だけのようだ。
「シュウ様、この方は?」
「キーファ・ユースタス。俺の故郷、ドラガニア辺境にあるカザンという都市の子爵の娘だ。俺の幼馴染でもある。」
「幼馴染?結婚の約束をした婚約者の間違いでしょ?!」
婚約者?一体どういうことなのだろう?私にはさっぱり分からない。
「俺はお前と婚約した覚えはない。」
「私は約束したわ!貴方の亡くなったお父様と!妻になって貴方を支えるってね!」
シュウ様のお父様は5年前に亡くなったと聞いている。それ以来、故郷にも帰っていないと。
「それがなに?いきなりこんな娘連れてきて勝手に婚約して!しかもアスタリオ人じゃない!」
どうやら彼女はアスタリオ人のことを良く思っていないらしい。当たり前といえば当たり前だ。いままで会ったドラガニアの人たちの中にそんな人がいなかっただけ。
「アンタ、さっさと国に帰りなさいよ!シュウには私がいるからアンタなんか必要ないの!」
必要ないという言葉に体がビクリと反応した。彼女の言葉が遠い故郷の姉と重なって聞こえる。
「…黙れ。彼女が怯えている。」
その瞬間、スっと部屋の空気が変わった気がした。ヒヤリとした気配に寒気がする。
「キファ、彼女への無礼は許さん。いくらお前でも容赦はしない。」
シュウ様の顔が見られない。その冷たい声色はまるで知らない人のようだ。彼に真正面から見据えられた彼女は怯えた表情になりあとずさった。
「キーファ様、本日はお引き取りください。」
無言になった彼女はそのままリンに連れられ屋敷を出ていった。
「ユノ、キファの言っていたことを調べろ。それとユースタス家に連絡を。」
「かしこまりました。」
私はあっという間の出来事に言葉を失っていた。まるで嵐が通り過ぎていったみたい。
震える手にシュウ様の手が重なった。黒い瞳が心配そうにこちらを見つめている。
「すまない。俺はたしかに10歳までキファと過ごした。家族のように暮らしていたが、それ以上のことは何もない。父とのことは調べがついたら必ず君に話す。信じてくれるか?」
私は呆然としたまま頷いた。
「私はシュウ様を信じます。」
その日はシュウ様に送られ、離宮に戻った。リースは沈んだ顔をして帰ってきた私を質問攻めにしてくる。リースへの詳しい話はリンに任せ、私は自室に戻った。
「信じる、か。」
婚約式はしたけれど、私はシュウ様の家族に会ったことはない。領地を治めているというお兄さんには奥さんと二人の子供がいるそうだ。
国境警備のため領地を離れることができず申し訳ないと私宛に美しい織物を送ってくれた。
幼い頃にお母様を、5年前にお父様を亡くしたシュウ様はどうして領地に帰らないのか。小さい頃はどんな子どもだったのだろう。
私には知らないことばかりだ。あのキファと呼ばれた女性とはどんな時間を過ごしてきたのだろう。
信じることと、気にならないというのはまた別で、だって私はまだシュウ様に会って3ヶ月ほどしか経っていないんだから。
せっかく仲直りできたと思ったら、次から次へといろんなことが起こるな。
そんなことをうじうじと考えながら私は浅い眠りについた。
まさか、次の日私のもとに嵐がやってくるなんて誰が思っただろう。
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