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第四話
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第四話
ドラガニアの港町に到着した私はその美しい街並みに目を奪われた。
赤い屋根と白い壁が並ぶ中華風な街に色鮮やかな衣装を着た人々は肌の色も髪の色もさまざまだ。赤青黄色に緑。それでも街を歩く人の中に私と同じ黒髪は見当たらなかった。
なぜか顔を隠すフードを着せられた私は豪華な馬車に乗せられた。目の前にはずっと会いたいと思っていたシュウ様が座っている。
「良かった。ようやくお会いできました。」
そう話しかけてもなんの反応はない。無言のまま馬車は走り出した。
「どこに向かっているのですか?」
「………城に。」
返ってきた答えはそれだけ。馬車の中はまた沈黙に包まれた。
窓の外を眺めるとどこまでも草原が続いている。祖国とは違う景色に心が踊った。
「…綺麗…。わたし…本当に違う国に来たんだ…。」
日本人だったときでさえ、旅行なんて数えるほどしか行ったことがなかった。海外旅行なんて大学を卒業したときの記念のハワイ旅行一回だけ。
「………!…。」
「えっ、いま何かおっしゃいましたか?」
「…いや、………。」
さっきからずっとこんな調子。目を合わせようとしてもそらされるし。
「あの…私なにか気にさわることをしてしまったでしょうか?それとも…やはり私のことが嫌になったとか…?」
「…ちがう…!」
やっとこちらを向いてくれたシュウ様は、なぜかものすごく狼狽えている。
「でも…全然会ってくださらなかったし…。このフードも私が醜いから…。」
「…ちがう!」
そうではない…とシュウ様はオロオロと俯いた。
「ではどうして今日まで会ってくださらなかったんですか?」
求婚されたあとも、船に乗っている間も一度も私はシュウ様に会わせてもらえなかった。後であとでと言われ続け、そのままドラガニアに到着してしまったのだ。
両手で大剣を振るい、戦場を駆ける鬼と呼ばれるシュウ将軍。謁見の間ではあんなに強そうに見えたのに、いま目の前の人からはそんな恐ろしい感じはまったくしない。むしろ、ちょっと弱々しく見える。
「…い、あ……その、…えと。」
じーっとその瞳を見つめると、右に左に面白いくらいに目が泳ぐ。
「ふふふ…。そんなに…慌てなくても……。」
私が笑い出すと、少し遅れてシュウ様もその表情を緩めた。
「…申し訳ない…。」
ペコリと小さく頭を下げるシュウ様はなんだか可愛らしく見えた。
「…じょ、女性となにを話せばいいか、わからず…。それに…貴女は…綺麗すぎて。」
私が綺麗だなんて何かの間違いだとずっと思っていた。でも、目の前の人が嘘や冗談を言っているようにはまったく見えない。
「本当に…私の見た目が気にならないのですか?」
この世界に生まれてからずっと見た目のせいで大変な思いをしてきた。いまさら簡単に信じることはできない。
「…リコリス様は…伝説の天女様に似ておられる…。」
伝説の天女とは、ドラガニアの歴史に登場する天女のことだ。船の中で、側近のユノさんから簡単に説明してもらった。
どこまでも広がる砂漠。作物の育たないドラガニアの地にある日美しい女性が現れた。その人は私と同じ黒髪に赤い目。不思議な力を使い、彼女はドラガニアを緑の大地に変えた。
彼女のおかげでドラガニアは豊かな土地になった。ドラガニア人は彼女の功績を讃え、さまざまな形で彼女の伝説を残した。歌や演劇、さまざまなものに伝説の天女は登場するそうだ。
「私には天女様のような不思議な力はありません。」
シュウ様に笑いかけると、ふわりと笑い返してくれた。
「…力など必要ない。貴女がいるだけで…俺は。」
言いかけて、シュウ様は突然俯いてしまった。
「…忘れてください。リコリス様はご自分の容姿がどれだけ素晴らしいか、知らないだけです。」
それ以上はなにを聞いても答えてもらえなかった。
「どうかリコリスとお呼びください。」
「…!?」
「様なんて必要ありません。お祖母様はリコと呼んでいました。どちらでもお好きな方で。」
またじっとその黒い瞳を見つめる。
「り、リコリス…………。」
「はい、シュウ様。」
その瞬間、彼の顔がぶわっと真っ赤に染まった。
「いや、…勘弁してくれ。」
気安い言葉に、私はまた笑ってしまった。
* * *
「わぁ、すごい…鮮やかなお城。」
それは私の知る南国の城に似ていた。鮮やかな赤い屋根、色とりどりの飾りに彩られ青空に映えて美しい。
「り、リコリス……。フードを。」
たどたどしく名前を呼ばれ、私はフードを被り直した。
「目立たないほうがいい…。…危ない…。」
危ないとは一体どういう意味だろう?その理由を聞く前に私達は馬車を降ろされた。
* * *
「シュウ・リーチェン只今帰城致しました。」
シュウ様が跪いたのはドラガニア城玉座の間。私はその後ろに小さく控え、頭を下げた。両脇には臣下と思われるたくさんの人が並び、私達を興味深そうに眺めている。
「よくぞ戻った。そなたの素晴らしい働きに感謝する。」
私達に掛けられる声はひどく若い。玉座に座るのは皇帝陛下ではなく、その第一子。ドラガニア皇国王太子イアン・ドラガニア様。
ドラガニア皇国の皇帝陛下は病に臥せている。実質イアン様が国の実権を握っているそうだ。
「貴殿の褒美についてだが…。」
「必要ございません。俺は…やるべきことをやっただけ。」
イアン殿下とシュウ様は同い年の幼馴染らしい。その言葉に臣下たちからは溜息のような、称賛のような声が漏れ聞こえた。
「それに…俺はもう褒美をもらったようなものですから。」
シュウ様の言葉にイアン殿下の視線が動いたのが分かった。
「顔をあげよ。」
シュウ様が私を見て頷いた。ゆっくりとフードを脱ぎ、顔を上げる。
「お初にお目にかかります。リコリス・バーミリオンと申します。」
再度頭を下げる私を見て周りからたくさんの声が上がった。私はギュッと目を瞑る。この瞬間がやはりとても怖かった。
「な、なんという…!?」
「黒髪に真赤な瞳!まさに伝説のような!」
「あの島国にこんな女性が!?」
しかし、私の不安とは裏腹に周りの声は好意的だった。
「これは驚いた。報告を聞いてはいたがまさかこれほどとは…。」
恐る恐る顔をあげると、イアン殿下の優しい微笑みが見えた。
「シュウ将軍の婚約者として、貴女を歓迎します。」
温かい拍手に迎えられ、私のドラガニアでの新生活が始まった。
ドラガニアの港町に到着した私はその美しい街並みに目を奪われた。
赤い屋根と白い壁が並ぶ中華風な街に色鮮やかな衣装を着た人々は肌の色も髪の色もさまざまだ。赤青黄色に緑。それでも街を歩く人の中に私と同じ黒髪は見当たらなかった。
なぜか顔を隠すフードを着せられた私は豪華な馬車に乗せられた。目の前にはずっと会いたいと思っていたシュウ様が座っている。
「良かった。ようやくお会いできました。」
そう話しかけてもなんの反応はない。無言のまま馬車は走り出した。
「どこに向かっているのですか?」
「………城に。」
返ってきた答えはそれだけ。馬車の中はまた沈黙に包まれた。
窓の外を眺めるとどこまでも草原が続いている。祖国とは違う景色に心が踊った。
「…綺麗…。わたし…本当に違う国に来たんだ…。」
日本人だったときでさえ、旅行なんて数えるほどしか行ったことがなかった。海外旅行なんて大学を卒業したときの記念のハワイ旅行一回だけ。
「………!…。」
「えっ、いま何かおっしゃいましたか?」
「…いや、………。」
さっきからずっとこんな調子。目を合わせようとしてもそらされるし。
「あの…私なにか気にさわることをしてしまったでしょうか?それとも…やはり私のことが嫌になったとか…?」
「…ちがう…!」
やっとこちらを向いてくれたシュウ様は、なぜかものすごく狼狽えている。
「でも…全然会ってくださらなかったし…。このフードも私が醜いから…。」
「…ちがう!」
そうではない…とシュウ様はオロオロと俯いた。
「ではどうして今日まで会ってくださらなかったんですか?」
求婚されたあとも、船に乗っている間も一度も私はシュウ様に会わせてもらえなかった。後であとでと言われ続け、そのままドラガニアに到着してしまったのだ。
両手で大剣を振るい、戦場を駆ける鬼と呼ばれるシュウ将軍。謁見の間ではあんなに強そうに見えたのに、いま目の前の人からはそんな恐ろしい感じはまったくしない。むしろ、ちょっと弱々しく見える。
「…い、あ……その、…えと。」
じーっとその瞳を見つめると、右に左に面白いくらいに目が泳ぐ。
「ふふふ…。そんなに…慌てなくても……。」
私が笑い出すと、少し遅れてシュウ様もその表情を緩めた。
「…申し訳ない…。」
ペコリと小さく頭を下げるシュウ様はなんだか可愛らしく見えた。
「…じょ、女性となにを話せばいいか、わからず…。それに…貴女は…綺麗すぎて。」
私が綺麗だなんて何かの間違いだとずっと思っていた。でも、目の前の人が嘘や冗談を言っているようにはまったく見えない。
「本当に…私の見た目が気にならないのですか?」
この世界に生まれてからずっと見た目のせいで大変な思いをしてきた。いまさら簡単に信じることはできない。
「…リコリス様は…伝説の天女様に似ておられる…。」
伝説の天女とは、ドラガニアの歴史に登場する天女のことだ。船の中で、側近のユノさんから簡単に説明してもらった。
どこまでも広がる砂漠。作物の育たないドラガニアの地にある日美しい女性が現れた。その人は私と同じ黒髪に赤い目。不思議な力を使い、彼女はドラガニアを緑の大地に変えた。
彼女のおかげでドラガニアは豊かな土地になった。ドラガニア人は彼女の功績を讃え、さまざまな形で彼女の伝説を残した。歌や演劇、さまざまなものに伝説の天女は登場するそうだ。
「私には天女様のような不思議な力はありません。」
シュウ様に笑いかけると、ふわりと笑い返してくれた。
「…力など必要ない。貴女がいるだけで…俺は。」
言いかけて、シュウ様は突然俯いてしまった。
「…忘れてください。リコリス様はご自分の容姿がどれだけ素晴らしいか、知らないだけです。」
それ以上はなにを聞いても答えてもらえなかった。
「どうかリコリスとお呼びください。」
「…!?」
「様なんて必要ありません。お祖母様はリコと呼んでいました。どちらでもお好きな方で。」
またじっとその黒い瞳を見つめる。
「り、リコリス…………。」
「はい、シュウ様。」
その瞬間、彼の顔がぶわっと真っ赤に染まった。
「いや、…勘弁してくれ。」
気安い言葉に、私はまた笑ってしまった。
* * *
「わぁ、すごい…鮮やかなお城。」
それは私の知る南国の城に似ていた。鮮やかな赤い屋根、色とりどりの飾りに彩られ青空に映えて美しい。
「り、リコリス……。フードを。」
たどたどしく名前を呼ばれ、私はフードを被り直した。
「目立たないほうがいい…。…危ない…。」
危ないとは一体どういう意味だろう?その理由を聞く前に私達は馬車を降ろされた。
* * *
「シュウ・リーチェン只今帰城致しました。」
シュウ様が跪いたのはドラガニア城玉座の間。私はその後ろに小さく控え、頭を下げた。両脇には臣下と思われるたくさんの人が並び、私達を興味深そうに眺めている。
「よくぞ戻った。そなたの素晴らしい働きに感謝する。」
私達に掛けられる声はひどく若い。玉座に座るのは皇帝陛下ではなく、その第一子。ドラガニア皇国王太子イアン・ドラガニア様。
ドラガニア皇国の皇帝陛下は病に臥せている。実質イアン様が国の実権を握っているそうだ。
「貴殿の褒美についてだが…。」
「必要ございません。俺は…やるべきことをやっただけ。」
イアン殿下とシュウ様は同い年の幼馴染らしい。その言葉に臣下たちからは溜息のような、称賛のような声が漏れ聞こえた。
「それに…俺はもう褒美をもらったようなものですから。」
シュウ様の言葉にイアン殿下の視線が動いたのが分かった。
「顔をあげよ。」
シュウ様が私を見て頷いた。ゆっくりとフードを脱ぎ、顔を上げる。
「お初にお目にかかります。リコリス・バーミリオンと申します。」
再度頭を下げる私を見て周りからたくさんの声が上がった。私はギュッと目を瞑る。この瞬間がやはりとても怖かった。
「な、なんという…!?」
「黒髪に真赤な瞳!まさに伝説のような!」
「あの島国にこんな女性が!?」
しかし、私の不安とは裏腹に周りの声は好意的だった。
「これは驚いた。報告を聞いてはいたがまさかこれほどとは…。」
恐る恐る顔をあげると、イアン殿下の優しい微笑みが見えた。
「シュウ将軍の婚約者として、貴女を歓迎します。」
温かい拍手に迎えられ、私のドラガニアでの新生活が始まった。
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