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第一章

7話*

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 7話*

 「私はあなたとセックスできません。」

 ここはギルさんの泊まっているホテルのスイートルーム。都内有名ホテルのスイートルームだけあって、すごい広さだ。なん部屋あるのかも分からないスイートルームの主寝室。ギルさんは部屋の真ん中、キングサイズのベッドの端に腰掛け、私は窓際の一人掛けソファに座っている。さっきのセリフはこの部屋に入ったギルさんの第一声だ。
 ここまできて今さらそんなことを言うギルさんの気持ちが分からなかった。そもそも自分が泊まっているホテルのバーに誘うということは、そういうことではないのか。
 そして、そういうセリフは本来女性側が言うものじゃないだろうか。自分が女性に無理矢理言い寄る変態おやじにでもなってしまった気分だった。

 バーで顔が真っ赤になって、そのあと青くなったギルさんは私から体を離し、それはダメだと言い出した。なにがダメなのかと聞いても、ダメなものはダメだと言うばかりで埒が明かない。やっぱり私みたいに自分から誘うような女は嫌いですかと聞いてみる。

「そんなことはない。アヤさんのような女性に誘われて、喜ばない男なんていません。」

 そんなことを言うのだ。じゃあ、ギルさんは男じゃないのか。
 いくら理由を聞いても答えてもらえないし、会話は平行線のまま時間だけが過ぎていく。どうやらバーの閉店時間が迫っているらしく、ウェイターがテーブルを回りながら会計をしていく。それに気づいた私は卑怯な手段を使うことにした。
 ウェイターがお会計をと近づいてくる瞬間、ポロポロと涙をこぼす。目頭を押さえ、必死に我慢するふり。そんな私を見たウェイターは他のテーブルから回りはじめる。
 ギルさんはまた顔を青くし、オロオロと慌てている。

「すみません、アヤさんが嫌いとかイヤだということは決してないんです。お願いですからそんな悲しい顔をしないでください。」

 それでも私は涙を止めない。キャバクラで働くようになって、涙は意外と自分の意思で出せることを学んだ。
 その間にもウェイターがまた近づいてくる。やはり気まずいのか、だいぶゆっくりだが。

「わかりました。とりあえず私の部屋に行きましょう。そこで話をしましょう。」

 困ったように笑う彼の顔をみて、私は泣くのをやめた。

 なのに部屋に入って最初のセリフがあれだ。

「やっぱり私が嫌いですか?」

 もう何度目か分からない同じ質問をする。答えは同じだ。

「そんなことはありません。とても嬉しいです。」

 しかし、理由は教えてもらえないのだ。

「実はギルさんには恋人がいて、故郷で待ってるとか。」
「そんな方はいません。」
「もしかして病気とか…。」
「まったく違います。」

 だいぶ失礼なことを言っているのはわかっているが、どうしても理由が知りたかった。しかしどう聞けば答えてもらえるのかまったく分からない。

「アヤさんのことが本当にイヤだったら、こんなに自分のことを話したりしません。正直こんなに自分自身のことをしゃべったのは久しぶりです。」

 そう話す彼の顔は嘘をついているようには見えなかった。

「あんな風に体に触られるのも、アヤさんなら……嫌だなんて思っていません。」

 その顔も本当にイヤそうではなかった。むしろやっぱり…。

 そこで私はあることに気づいた。

「すごく下品なことを承知で聞くんですが、ギルさんが言うセックスというのは本番をするかしないかということですか?」

 一瞬キョトンとしたあと、彼は赤くなった顔を伏せた。

「そうですね。それはできません。」
「じゃあ、それ以外はどうですか?」
「それ以外?」
「たとえば、キスとか体を触るとか…」

 彼は、しばらく考えるように黙りこんだ。

「えっと…本番さえしなければ、他は大丈夫だと…思います。」

 なんだ、そんなことだったのか。そこまで本番をしたくない理由は分からないが、この際それは置いておこう。

 私は立ち上がりおもむろに着ていたミニドレスを脱ぐ。

「えっ!アヤさんなにを…っ?」

 ギルさんが止める間もなく、ドレスと同じ黒のキャミソールとショーツだけになった私はギルさんに近づく。

「本番さえしなければいいんですよね?」

 ギルさんの前に立つと、ベッドに腰掛けている彼の目がちょうど胸の前くらいだった。

「えっと、そうですけどっ。これは、あの」
「私はさっき、説明しますと言いました。ギルさんに、いじめるの意味を。」
「そうですね。言っていました。」
「その説明に本番はあってもなくても大丈夫です。」
「えっ?」
「だから今から説明してもいいですか?」

 言いながら、彼の顔に手を添える。視線を合わせた目は期待と不安がないまぜになった色をしていた。

「本番は絶対にしません。ギルさんもなにか理由があるなら何もしなくていいですよ?他にしちゃダメなことがあったら教えてください。」

 彼の顔を両手で包む。すこしだけ興奮してくれているように見えるのは気のせいだろうか。

「イヤなことがあったら言ってくださいね。」

 そして、彼の唇に自分の唇を重ねた。柔らかなそれは私を受け入れてくれる。一度目は浅く、二度目は深く彼のなかに入り込む。

「………アヤさっ……!」

 彼の舌に自分の舌を重ねて吸い上げ、奥までいくと、次は歯茎と唇の間に舌を這わせる。ゆっくりと丁寧に舐めていくと彼の喉が唾液を飲み込む音がする。
 唇を離すと、彼の目が潤んでいた。

 そのままベッドに彼を押し倒す。あっさりと彼の体はやわらかいベッドにしずんだ。

 仰向けに倒れた彼の上にまたがると、ネクタイをとり、ワイシャツのボタンを外していく。

「アヤさんは、こういうことをよくするんですか?」
「枕営業ということなら、私はほとんどしません。男の人はセックスしたら、それで終わりなことが多いので。」

 よくある話だ。男の人は狩人で、獲物をゲットしてしまったらそれで終わり。

「本当にしたいと思った人としかしませんよ?」

 ボタンをすべて外し終わると、彫刻のような筋肉があらわになった。ゆっくりと指でなぞるとすこしだけ彼の体が震えた。
 もう一度軽くキスをすると、そのまま鎖骨の窪みに舌を這わせた。汗と香水の混ざったにおいがする。

「汗臭くないですか?」
「全然大丈夫です。こういうにおい大好きなので。」

 言いながら、彼のやわらかい髪をかきあげ、右耳を噛む。

「んっ……」

 耳の裏まで丁寧に舐めると首筋から下におりる。体を起こし、彼の左手を引き寄せ、手の指を一本ずつ舐めていく。

「そんなところ舐めなくても……」
「イヤですか?でも、こんなに固くなってますよ?」

 ちょうど私のおしりの下にある彼が少しずつ固くなっていくのをずっと感じている。そのことに気づいたのか、彼は私から目をそらした。
 左手と同じように右手も舐め終わると、彼の綺麗な胸の突起がぷっくりと主張していた。それを口にふくむと軽く甘噛みする。

「あっ……」

 彼の口から少しずつ甘い声が出始めた。反対側の乳首を口にふくみ、ころがす。

「んっ…」
「気持ちいいですか?」
「くすぐったいような、変な感じです…」

 両方の乳首を同時にいじると、彼の体がすこしだけ跳ねた。そのまま体をずらして、腰のベルトを外す。スラックスを脱がすと、グレーのボクサーパンツの中で彼が大きく主張していた。

「やっぱり外国の人って大きいですよね。」

 人差し指でボクサーパンツの上からゆっくりとなぞると彼の腰が浮いていく。

「アヤさんもうっ……充分…です、からっ」
「まだまだです。まだなにも終わってませんよ。」

 言いながら、彼の太ももの内側から下に下に舐めていくと、両手と同じように両方の足の指も丁寧に舐めていく。彼のボクサーパンツに少しずつ染みができるのが見えた。足の指の間やくるぶしなど、普段意識しないような場所もゆっくりゆっくり舐めていった。
 両方の足を舐め終わると、彼の腰元まで戻る。

「本当にこういうこと、してもらったことないんですか?」
「まったく…ないです……」

 私は彼のボクサーパンツの上から、固くなったそれをゆっくりと舐め始める。

「?!アヤさん!汚いですからっ……!」

 それでも続けていると、彼の声が高くなっていく。ボクサーパンツは私の唾液でべちょべちょになっていた。

「……アッ…ンッ」

 見ると彼が自分の腕で口元を隠していた。

「ダメですよ、そんなことしたら。可愛い声が聞こえなくなります。」
「でもっ………」

 どうしようかと考えているその時、枕元に置いたネクタイが目に入った。

「いいこと思いつきました。」

 彼に両手を上に挙げさせると、ネクタイで手首を結び、ベッドサイドに繋いだ。

「これで大丈夫ですね!」
「…なにが大丈夫なのか、全然分からないです。」

 私は彼の性器を舐めるのを再開する。口元を押さえられない彼の声が広いベッドルールによく響いた。

「アッ………」

 ゆっくりとボクサーパンツを脱がすと大きなそれは私の唾液と我慢汁でぬるぬると光っていた。

「アヤさん……もう……」
「してもらったことないってことは、こういうことも初めてですか?」

 言いながら、私はキャミソールの肩ひもを外し、胸を露にした。胸に彼の視線を感じながら、彼の大きなものを自分の胸の谷間で挟む。

「そんなっ…こと、してもらったことありません……!」

 胸でぎゅっと挟んだまま、上下に何度も動かす。谷間からはみ出た彼の先っぽを口にふくむと、可愛い声がさらに大きくなった。

「ァアッ!…アヤさん汚いですから………ンッ!」

 ギルさんの相手をする女性は一体ナニをしてるんだろう。考えごとをしながらも、彼のものをしごく手は止めない。

 今日はたくさん気持ちよくなってほしい。私は胸の間から、彼を離し、今度は口で根本まで咥えた。

(全部咥えられないなんて初めてかも……)

「アヤさんっ…もうダメ…出そう……アッ…ンッンッ」

 両手が自由にならない彼は腰を浮かせながらもがいていた。私はフィニッシュに向けて、勢いよくしごき続けた。

「アッ…アーーッ………イクッ、イクッ!!」

 腰を大きく仰け反らせた彼は、自分のお腹にたくさんの精液を吐き出しながら果てた。二度、三度と脈打ちながら彼は精液を吐き出し続けた。
 



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