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第三章
事件三日後(1)
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朝、沈んだ顔で入ってきた担任を見て、事情を知らないクラスメイトの面々もこりゃただならぬことが有ったに違いないと静まり返る。尤もその面々も今や半分しか居ないのだが。今日は神谷が来ていたが、代わりに藤代と、二日連続で遊佐が登校してきていなかった。予想した二人のどっちだろうか、と考える。
担任が入って数分が経ち、その重い口を開いた。
遊佐千秋が昨晩死体で見つかったそうだった。姫宮の予想は的中した。押し黙っていたクラスメイト達は予想していたよりは騒ぎださなかった。てっきり泣き出したり、叫んだりはするものだと思っていたがそうでもない。元々そんな繊細な奴は事件後すぐに登校したりしないと言うことだろう。それでも、クラスメイトという身近な死によって恐怖や混乱でざわめいていたが、そんな素振りを一切見せないのが二人居た。
一人は満面の笑みで。
一人は無表情だった。
前守未咲と、神谷瞬。
「そっか。やっぱり遊佐君か」
事も無げに言う姫宮。コイツも異常だ。
「それで、聞かせてくれるんでしょ?」
「まあ、そういう約束だしね……。合っているって保障はしないよ」
オレ達は前守を先頭に帰途に着いている。丁度並びが背の順だ。
結局、ホームルームの後すぐ下校となった。周りは大量の師走高生で埋め尽くされている。生徒二人亡くなって学校は対応に追われていることだろう。しったこっちゃない。
「周りに人が多すぎるわね。今から楓の家行っても良い?」
「うん」
それにしたってコイツらの落ち着き方は異常だ。どっちか犯人なんじゃなかろうか。
「ケンも来るよね?」
「そりゃあなあ……」
此処で帰されたら寝覚めが悪いにも程がある。
「じゃあ、このまま僕の家で良いかな」
「オレは良いけど」
「あたしもおっけー」
くるっと反転して後ろを向く姫宮。
「なら、二人に聞きたい事があるんだけど」
前守と目が合う。
聞きたい事とは何だろうか。今からする話は十八禁だけど良いかな? みたいな。
「んーっと。まずは遊佐君って彼女居る?」
なんじゃそりゃ。
「楓、あんなのが好きなの? やめときなさいよ。っていうか話し聞いてないの? 遊佐死んでるわよ」
あんなのとは言い草だ。アレで結構見所がある男だぞ、遊佐は。惜しいことに死んだみたいだけど。
「いや、そういうのじゃなくて……推理に必要なんだよ」
推理、と言ったか。
物語じゃないという自信の表れだろうか。あんな少ないヒントで本当に?
「そうね。知らないわ」
「ちょっと待て。付き合っては無いだろうが、藤代が明らかに遊佐のことを好いているだろうが」
気付かなかったのだろうか。考えてみたらそんな話したこと無かったけど、周知の事実だと思っていた。
「そうなの?」
本気で疑問に思っている目だ。どれだけ人に興味がないんだよコイツは。不思議そうにする前守を他所に姫宮は満足そうだ。
「一方的だった、ってことだね」
「へーえ。知らなかった」
髪の毛を弄りだしている。推理の話が聞けると思ったら興味の無い話が始まって退屈だ、というのを隠しもしない。
「じゃあ、次。その藤代とサキではどっちが身長は高い?」
「ん……」
今度はオレが知らない。答えに詰まっていると前守が不服そうな顔で告げる。
「知らないんだ。あたしの方が高いに決まってるじゃない」
五センチよ、五センチ。と右手を広げて見せる。大して変わらないじゃないか。
「最後に、神谷君は今日来てた?」
「ああ、なんかずっと無表情だった」
「じゃあ、それなりに説得力のある話が出来そうだ」
聞きたいことはそれだけ、と前を向いてしまった。
これだけで推理が出来るか?
姫宮の家まではまだ時間がある。オレも推理の方をしてみることにしよう。
まずは身長のことを聞いたからには、暴漢は藤代だったと考えているんだろうが、だとすると意味が分からない。八木殺しの犯人が藤代と仮定するなら、それを探られたくないがために調査しているオレ達を排除する、ここまでは繋がる。しかし、そこまでだ。過程に問題がある。何のために八木を殺す? 遊佐ならともかく、神谷が先輩に虐められているのを目撃したところで、藤代は無視するだろう。少なくともオレはそうする。
最初の質問の方に至っては意味が分からない。藤代が遊佐の協力者と言いたいのだろうが、その遊佐は殺されてしまってるじゃないか。八木殺しが遊佐で、それを庇う為に藤代が動くならわかるが、その場合口封じで殺されるのは藤代の方じゃないか?
水野の言葉を信じるなら、その場には神谷しか居なかったとのことだ。じゃあやっぱり神谷が八木を殺して……そしたら藤代が襲撃してくる意味が分からない。
やめた。
いくら考えても納得できそうにない。ちょっと頭を働かせてみたけど、やっぱり探偵役は無理みたいだ、姫宮に任せよう。
前守も丁度、腕組をやめた。考えが行き詰まってきたのだろう。まあまあ、姫宮に任せてみようじゃないか。
担任が入って数分が経ち、その重い口を開いた。
遊佐千秋が昨晩死体で見つかったそうだった。姫宮の予想は的中した。押し黙っていたクラスメイト達は予想していたよりは騒ぎださなかった。てっきり泣き出したり、叫んだりはするものだと思っていたがそうでもない。元々そんな繊細な奴は事件後すぐに登校したりしないと言うことだろう。それでも、クラスメイトという身近な死によって恐怖や混乱でざわめいていたが、そんな素振りを一切見せないのが二人居た。
一人は満面の笑みで。
一人は無表情だった。
前守未咲と、神谷瞬。
「そっか。やっぱり遊佐君か」
事も無げに言う姫宮。コイツも異常だ。
「それで、聞かせてくれるんでしょ?」
「まあ、そういう約束だしね……。合っているって保障はしないよ」
オレ達は前守を先頭に帰途に着いている。丁度並びが背の順だ。
結局、ホームルームの後すぐ下校となった。周りは大量の師走高生で埋め尽くされている。生徒二人亡くなって学校は対応に追われていることだろう。しったこっちゃない。
「周りに人が多すぎるわね。今から楓の家行っても良い?」
「うん」
それにしたってコイツらの落ち着き方は異常だ。どっちか犯人なんじゃなかろうか。
「ケンも来るよね?」
「そりゃあなあ……」
此処で帰されたら寝覚めが悪いにも程がある。
「じゃあ、このまま僕の家で良いかな」
「オレは良いけど」
「あたしもおっけー」
くるっと反転して後ろを向く姫宮。
「なら、二人に聞きたい事があるんだけど」
前守と目が合う。
聞きたい事とは何だろうか。今からする話は十八禁だけど良いかな? みたいな。
「んーっと。まずは遊佐君って彼女居る?」
なんじゃそりゃ。
「楓、あんなのが好きなの? やめときなさいよ。っていうか話し聞いてないの? 遊佐死んでるわよ」
あんなのとは言い草だ。アレで結構見所がある男だぞ、遊佐は。惜しいことに死んだみたいだけど。
「いや、そういうのじゃなくて……推理に必要なんだよ」
推理、と言ったか。
物語じゃないという自信の表れだろうか。あんな少ないヒントで本当に?
「そうね。知らないわ」
「ちょっと待て。付き合っては無いだろうが、藤代が明らかに遊佐のことを好いているだろうが」
気付かなかったのだろうか。考えてみたらそんな話したこと無かったけど、周知の事実だと思っていた。
「そうなの?」
本気で疑問に思っている目だ。どれだけ人に興味がないんだよコイツは。不思議そうにする前守を他所に姫宮は満足そうだ。
「一方的だった、ってことだね」
「へーえ。知らなかった」
髪の毛を弄りだしている。推理の話が聞けると思ったら興味の無い話が始まって退屈だ、というのを隠しもしない。
「じゃあ、次。その藤代とサキではどっちが身長は高い?」
「ん……」
今度はオレが知らない。答えに詰まっていると前守が不服そうな顔で告げる。
「知らないんだ。あたしの方が高いに決まってるじゃない」
五センチよ、五センチ。と右手を広げて見せる。大して変わらないじゃないか。
「最後に、神谷君は今日来てた?」
「ああ、なんかずっと無表情だった」
「じゃあ、それなりに説得力のある話が出来そうだ」
聞きたいことはそれだけ、と前を向いてしまった。
これだけで推理が出来るか?
姫宮の家まではまだ時間がある。オレも推理の方をしてみることにしよう。
まずは身長のことを聞いたからには、暴漢は藤代だったと考えているんだろうが、だとすると意味が分からない。八木殺しの犯人が藤代と仮定するなら、それを探られたくないがために調査しているオレ達を排除する、ここまでは繋がる。しかし、そこまでだ。過程に問題がある。何のために八木を殺す? 遊佐ならともかく、神谷が先輩に虐められているのを目撃したところで、藤代は無視するだろう。少なくともオレはそうする。
最初の質問の方に至っては意味が分からない。藤代が遊佐の協力者と言いたいのだろうが、その遊佐は殺されてしまってるじゃないか。八木殺しが遊佐で、それを庇う為に藤代が動くならわかるが、その場合口封じで殺されるのは藤代の方じゃないか?
水野の言葉を信じるなら、その場には神谷しか居なかったとのことだ。じゃあやっぱり神谷が八木を殺して……そしたら藤代が襲撃してくる意味が分からない。
やめた。
いくら考えても納得できそうにない。ちょっと頭を働かせてみたけど、やっぱり探偵役は無理みたいだ、姫宮に任せよう。
前守も丁度、腕組をやめた。考えが行き詰まってきたのだろう。まあまあ、姫宮に任せてみようじゃないか。
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