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第1章
第6話
しおりを挟む第6話
「あ~、暇だぁ~。なんでこんな事にぃ~。」
共同のラウンジでソファーに寝転がり、置いてあるクッションに突っ伏しながらうなだれる。
「隊長、暇なら手伝ってくださいよ。書類はまだまだあるんですから!」
そう言って机に向かいながら書類の整理をしているのは、独立部隊事務担当の
「飯島忍」だった。
「活動停止処分期間中だよ~。私が手伝ったらまたペナルティくらうじゃん~。」
足をバタバタさせながら言い返す。まったく、あの参謀長も頭が固い。体裁のために謹慎させるとか、今この瞬間にこの前みたいに害虫が防衛ラインを突破してきたらどうするんだ。
あーだ、こーだ言っていると何やら廊下から騒がしい足音が聞こえてきた。
「やっほー!由依奈~、戻ったよー!ってずいぶん荒れてるじゃん!久しぶりに派手にやったんだねぇ。今回は何日間?」
荒々しくドアを開き入って来たのはこの部隊の副隊長「篠宮恵莉」だった。
「三日間だよぉ~。ラウンジの使用許可は下りてるけど、外出も禁止だって~。無理!暇死ぬ!」
私は恵莉の方をチラッとだけ見て返事をする。
「三日かぁ。今回は少ないね!見習い時代は一週間なんてザラだったもんねぇ。」
バシバシと背中を叩きながら笑ってくる。私がこういう軽口を許すのは彼女くらいなものだろう。
恵莉は幼少期からずっと一緒で、何をするにも付いてきてくれた。独立部隊の副隊長だってそうだ。快諾してくれた。
「ま、私は由依奈のそういうところも含めてついて来てるんだけどさ。」
そう言うと恵莉はソファーの空いている所に座り、私の頭を撫でてくる。
「でも、もうちょっと周りの人のことも信用していいんじゃないかな?」
撫でてくる手を取り、起き上がる。背もたれにもたれかかり、深呼吸をする。
「信用ね。」
深呼吸がため息の変わるのがわかった。
「そこらの有象無象のことは信用出来ないけど、ここにいるみんなのことは信用してるつもりよ。」
その言葉に部屋全体が静まり返る。
「あー、もう湿っぽくなっちゃったじゃない!この話はやめやめ!」
大きく手を横に振ってその場の空気を変えようとする。そこである事を思い出した。
「あっ、そうだ!今日から新しい子が仮入隊するから、仲良くしてあげてね!」
その発言で確かに空気は変わったが、その場全員の顔が引きつっていた。あれ?おかしいな。ここは普通喜ぶ所じゃないか?
「由依奈。由依奈のそういうところは、ついていけないなぁ。」
恵莉は呆れた顔でそう言った。
「隊長。そういうことは事務処理担当の私に最初に言ってください。事務処理として、やることがあるんですから。」
忍が冷たい視線を送ってくる。
「だってぇ。最近忙しかったんだもん。特務あったし緊急事案あったし、昨日は急に呼び出されたし……」
言い訳をしていると、忍がまた口を開いた。
「そんなんだから私たち以外についてくる人がいないんですよ。本当に人徳がないですね。」
うわー、言われたー。私が気にしてること言ってきたー。
「能力部隊が戦闘力で階級が決まるからって、自分勝手に事を運ぶのは周りが大変なんですよ。特に事務が!」
忍がほおを引っ張りながら説教をしてくる。
「ひのぶ~。いひゃい~。」
手を離し、腕を組んでソファーに勢いよく座り込む。その顔には怒りと呆れが混ざっていた。
私は頬をさすりながら、今度は恵莉の方を見る。恵莉はやれやれと言うように肩をすくめていた。
「由依奈、今度はちゃんと報告しよう。大佐なんだからさ、そんなんじゃ周りに示しがつかないよ。」
また頭を撫でられ諭される。
「うん。そうだね。自分の意思で集まってくれて、ついて来てくれてるんだもんね。今度からちゃんとする。」
クシャクシャと撫でてくる手に身をまかせる。恵莉に撫でられるとなんか落ち着くんだよなぁ。
その場がなんとか丸く収まろうとした時、ドアの方からインターホンの音が聞こえた。
「あ、来たみたい。」
立ち上がり、ドアの方に向かおうとする
と恵莉が肩を掴み座らせる。
「謹慎中なんだから、ドアから由依奈の姿が見えちゃったらまずいでしょ。私が出るよ。座ってて。」
恵莉が歩き出し、ドアを開ける。するとそこには軍服を着た、茶髪で童顔の小さい少女が立っていた。
「失礼します!本日より仮入隊をさせて頂くと、偵察部隊所属、鮫島花音一等兵です!よろしくお願いします!」
「鮫島花音」そう名乗った彼女は、私が特務の時に手違いで遭遇した隊員だ。その時に彼女の中に光るものを感じた。だから招待した。
「鮫島さんね。由依奈が突然誘ってごめんね~。こっちもさっき知ったからさ、大したおもてなしも出来ないけど、入って。」
恵莉が促す。
「失礼します!」
花音は敬礼をし、元気よく挨拶をしてラウンジの中に入る。物怖じはしていないようだった。やっぱりしっかりしてるなぁ。見立ては間違ってなかったかな。
「由依奈は今謹慎処分中だから仕事は出来ないんだ。だから代わりに私が色々教えてあげるね。」
恵莉の言葉に花音は「ありがとうございます」と答えた。忍がお茶を淹れ花音の前のテーブルに差し出す。おお、なんて迅速な対応。さすが忍だ。
恵莉が花音に座る事を促す。花音はそれに応じてソファーに座る。キョロキョロと部屋の中を見渡す花音だったが、恵莉の言葉で真剣な顔になった。
「鮫島さんはさ、この独立部隊についてどんな事を思ってる?」
唐突な恵莉の質問に花音は顔色を変えることはなかった。
「独立部隊の詳しいところは分かりませんが、この部隊の方達は私が目指すべき高みにいる方であると思っております。」
その言葉を聞いて思わず口に含んだお茶を吹き出しそうになった。目指すべき場所?そんなふうに思っている人がいたのか。
少しだけ口から漏れたお茶を拭いていると、再び恵莉が口を開いた。
「目標ってことね。でも残念。私や由依奈を含め、ここにいる全員不適合者だから目標なんてものにはなれない。」
その言葉には妙な説得力があった。花音が不思議そうな顔をする。当然だ。表見向きには私が勧誘したことになっている。
しかし、勧誘は今回が初めてだ。なぜなら、それは……
「私たちは全員、由依奈のために死ぬ事を誓った人間。そして、能力者として軍事規約に引っかかる可能性を持った人間だから。」
驚愕の事実だろう。別に私が死ねといたわけじゃない。能力者として危険すぎる彼女らをより強い力で抑止する、と上層部に言って監視下に置いただけだ。
彼女らを救ったわけでもない。それが今では独立部隊などと言われている。まったく、烏滸がましい。
人であり、人でない者たちが集まった不適合者集団。それが独立部隊の本性だ。
突き放すように話を続ける恵莉。そしてそれを驚きながらも真剣に聞く花音。その光景はまるで私が恵莉に彼女らを保護すると言った時に似ていた。
一通りの説明をし終えそれでもなおこの勧誘を受けるか、恵莉が聞いた。すると花音は立ち上がり敬礼をし、声を張り上げてこう言った。
「偵察部隊、第六班所属‼︎鮫島花音‼︎独立部隊勧誘の件、謹んで受けさせて頂きます‼︎」
彼女の目には溢れんばかりの涙と、決意が浮かんでいた。
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