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第124話:閑話;消えた子ども達...

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「おっと?写真を見る限り元奥さんは凄い美人じゃないか?!」

オーガスタス上院議員の隣にいた誰かが手元にある資料をめくると、そう述べた...
確かに参考資料を見ると口元に、ほくろのある和風のエキゾチックな美人の写真が貼られている...

彼女が、あゆむの母親である【真井ゆりえ】だ...
参考資料を見た全員が彼女の見てくれに騙されている...
無論――過去に騙されたパウロも、その一人だ...

夫婦喧嘩になると包丁を持ち出すのは勿論もちろんの事...
煮えたぎった調理油をはじめ、立て籠もった際はチェンソーまで持ち出しドアを破壊するような女性とは誰も彼も思わないだろう...

「元奥様の事は、どうでもいいじゃありませんか?話の腰を折らないでいただけますかな?・・・下院議員」

咳払いをしながら議長のオーガスタス上院議員が他の釘を刺す...

「さて・・・君のご子息が通っている学園の生徒ひとクラス全員が、まるでグリム童話の【ハーメルンの笛吹き男】のように忽然と失踪したのは君の耳にも届いているね?ミスターパウロ。これについて何か知っている事は?」

「知る訳無いでしょう・・・そもそも自分は息子の事は既に死んだものと思っております。議員」

「自分の息子の事だろう?心配じゃないのかね?」

「人間が一人消えただけです、大した事じゃない。そもそも世界では毎日人が殺されたり消えたりしている」

まるで息子なんか最初から存在していないかのような態度だ...
淡々と冷淡に答えるパウロに、その場にいる全員が冷たい印象を受けるのも無理はない...

パウロの応答にオーガスタスはしばらくの腕組みをしながら考える仕草を見せると次にの話題に移る...

「ではご子息を取り巻く人間関係について何も知らないと?」

そう言うと上院議員は手元の資料を更に捲った...

「貴方のご子息は日本でも有数の進学校に進学し、そこで人脈に恵まれたようですが?具体例を挙げると柚希国立中央病院にて、たくみ桐谷特別招聘特任名誉教授と共に『ミツバチの毒液に含まれているメリチンを用いたHIVウイルスに対する抗HIV製薬の薬効効果』を共同著作者として発表した事や...」

「昨今――半導体メーカー業界にて注目されている従来の中央演算処理装置《CPU》の4333倍もの処理速度で演算可能とされている半導体チップに関する特許をアメリカの大手ベンチャー企業エレクトロゼネカ社に売る際の仲介をした日本の元国会議員・・・厳然げんぜん桐谷についてミスターパウロ。貴方は本当に何も知らないと?」

「今、名前を挙げられた人物は貴方のご子息のクラスメイトである拓哉桐谷や優香柚希の両親が理事を務める柚希国立中央病院のご令嬢です。偶然にしては出来すぎですだと思わないかな?日本のパワーエリートを担う彼らが忽然と消えたのを日本政府も憂慮している。本当にご子息の事は何も知らないのかね?」

オーガスタスの問いかけにパウロは「知らない事を知っているとは言えませんよ 議員」と苦虫を噛みつぶしたような表情で答える...これにはオーガスタスも困り果てた様子だ...

「そうか・・・では、君の今の上司達・・・CIAが密かに危険視している【ユリーナ・ヴィクトロワナ・ルビヤンスカヤ】帰化名;雪奈結城についても何も知らないと言う事で良いのかな?」

――まったく聞き覚えのない名前にパウロも思わず「何です?・・・その元の名前と、まったく違う産地偽装レベルの氏名は?」と名前聞き返してしまうあまりの奇っ怪な名付け方だ...

「娘の方の名は知らなくても彼女の父親の名前くらいは君も聞いた事があるハズだ。ベラルーシから逃げ出した彼の事は我々より君のような裏の世界情勢に精通しているような人間の方が詳しいと思うがね?...なにせ彼は有名人だからな」

ベラルーシから逃げ出した男など一人しかいない...ヴィクトロワナ・・・なるほど...

娘の方の東ヨーロッパ特有の父姓――ヴィクトルという名前から連想するとパウロは思い至った・・・確かに、それなら自分も聞いた事がある...

奇しくもパウロが問題を起こして沿岸警備隊を不名誉除隊になった年・・・ベラルーシから西側の軍事同盟であるNATO北大西洋条約機構へ加盟したバルト三国へと一人の成人男性が亡命した...

海外では亡命など珍しい事ではないがヴィクトルと名乗った、その亡命してきた男は通常――自然界では有り得ない銀髪の地毛を生やしており彼の話を信じるならばベラルーシ政府がロシア政府と共同でゲノム編集技術を用いてデザイナーズ・チャイルドの軍事利用を企んでいるというのだ...

だが、この話題は世間に大きな衝撃を齎したが陰謀論の域を出ない話として直ぐに沈静化したが、まさか事実だったとは・・・しかし!!

「話が見えませんね・・・あいつと、その娘に何か関連があるとは思えません...」

パウロが否定したがオーガスタスも、またパウロの意見を否定する

「ふむ・・・だが君の今の職場の上司達は、そうは考えていないようだが?」

そう言うとオーガスタスは中央情報局CIA国防情報局DIAからのレポートを見ながら周りの人間を余所に話を続けた...

「このレポートによると息子さんは兵器学者として完成されていると書かれている」

「何でもご子息はロースクール時代に軍事大学相当の書籍を君の書斎から持ち出し構造式を元に原料と製法を試行錯誤して実際に家庭用洗剤やガーデニング用肥料から実物を作り出せたそうだね?幸い生成した化学兵器の純度が低く大事にはならなかったそうだが...」

確かに以前――本人曰くロースクルに通っていたの時に当時クラスメイトに絡まれ馬乗りになってタコ殴りにされた腹いせに、わざと純度を下げた化学兵器を厚手の手袋をして顔面に塗りたくって襲撃してやろうと思ったらしく有機リン系の神経ガスを精製しようとしたが失敗し近隣住人も含めた多くの人が痙攣や呼吸困難など様々な症状を起こして大騒ぎになった事があった...

ちょうど自身の不名誉除隊も重なるわ――母親のユリエがチェンソーを使って家を破壊するわ息子は化学兵器を作るわで大変な時期だった...

『・・・聞いているかね?ミスターパウロ?』

オーガスタスの声によって現実に引き戻される...

「ともかくねぇ・・・問題の本質は、そのヴィクトルという男がロシアの新型化学兵器であるツァーリ・スメルチ6に関わっていた事なんだよ...君の知っての通り我が国のインテリジェンスチームは、まだヴィクトルという男が母国との繋がり完全に断ち切ったと見ていない・・・解るかね?この意味が...」

sirサー・・・つまり安全保障上の懸念があると?」

「その通りだ...これは我が米国だけでなく同盟国も含めた包括的懸念事項だ・・・言っている意味は分かるな?」

「サー・・・ですが自分の知っている事は全て話しました。ハッキリ言って――これ以上お役にたてるような事はないかと」

「そうかね・・・出来れば、どんな些細な事でも良いから思い出してくれると助かるのだがね?ミスターパウロ...ご子息が消える以前の様子とか...」

しかしパウロの答えは変わらない...「お国が調べて出ない事なんて無いでしょう。ご存じの通り生憎と元家族とは絶縁状態のなので何も知りません」と答えた為、何も得る事もなく公聴会は閉幕するのだった...
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