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第104話:水薬注射器はプライスレス

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暫くして結城雪奈ゆいじょうゆきなが全力で切り開いた撤退への道から続々とパーティのクラスメイトたちがやって来た...
クラスメイトたちは合流してきた朱鷺原や鳳の顔に驚いていたが重要なのは、そこではない。入ってきた地点に戻って来れた事である...

「戻って来れた...」とクラスメイトの誰かが言葉を発したのと同時に女子たちはハグし合ったり泣き出したりして互いの生存を喜び合った...

女子たちに続いて戻ってきた男子のグループは大なり小なり怪我しているが命に関わるような怪我をしている者はいなかった...殿しんがりつとめた嶺山紗弓のお陰である

だが...

「嶺山さん!しっかりして!」「ようやく出口に出たんだ!死んじゃ駄目だ!」

男子グループに肩を貸されながら戻ってきた嶺山紗弓を見て雪奈は悲鳴交じりの声を挙げ嶺山に駆け寄る!

「そんな・・・サユミちゃん!!」

なんと嶺山は満身創痍まんしんそういの状態で虫の息で戻ってきたのだ!
男子グループが言うには男子グループを守る為に複数の一斉攻撃を一人で防ぎ重症を負ってしまったらしい...

(どうしよう!)

結城が混乱するのも無理はない...
クラスメイトの全員が大なり小なり怪我をしており戻ってくる途中で消費したポーションの消費も激しかったので薬が足りないという危惧も無論あったのだが一番の問題は嶺山の負傷の酷さだった...

嶺山の右足は千切れかかっており胸部から腹部にかけて激しい裂傷が走っている!
既にポーションでは治癒に時間が掛かりすぎ助からないかもしれない...

(どうすればいいの...)

結城が焦燥感を感じていると「何をしてるの!ボーとしてる場合?!」と朱鷺原美咲《ときはら みさき》が結城たちを押しのけて割り込んできた!

「いっ、いったい!なにをするんだい!朱鷺原さん!」

朱鷺原の突然の行動に驚いた結城は抗議の声を挙げるが...

「何って!・・・貴女!このまま嶺山さんが死ぬまで見ているつもり?!」

と、逆に怒られてしまった...

「で、でも!もし・・・ポーションでサユミちゃんが助からなかったら...」

結城は嶺山が死ぬ事を恐れていると同時にポーション使っても(結果的に嶺山が助からなかったら)という潜在的な恐れ抱いていた...彼女はポーションを使っても嶺山が死ぬという結果を知るのが怖かったのだ...

俗に言うジレンマという奴だったが他の人には出来ない事が普通に出来た早熟の結城にとっては今までにジレンマを感じられる機会自体が少なかったのだ...彼女が迷うのも仕方がない

「助からなかったら考えている場合じゃないでしょう‼こうしてる間にも事態は悪化しているのよ‼」

朱鷺原は、そう言うと手に持っていた赤い十字マークの書かれているファーストエイドキット容器を開く...梨島から餞別に渡された医療アイテムだった

「もう、これしかポーションが・・・んっ?!」

そう呟きながら朱鷺原は目を丸くする...何故なら中に入っていたのは見知っていたポーションではなく15cmくらいの謎の棒状の物体だったからだ...

「な、なに・・・これ...どうやって使うの...」

棒状の物体を手にとり確認するボタンも何も取りつけられてない...
朱鷺原が、そのような確認をしていると騒ぎを聞きつけて、いつの間にか後ろに立っていた女子生徒の一人が「あっ!」と思い出したように指を指しながら指摘した...

「それ、糖尿病の人とかが、よく使う圧力注射器に似てない?」

「はっ?・・・圧力注射器?」

「うん...うちの糖尿病を患っているおばあちゃんがよく使ってたから...」

何が何だか分からないが、その女子生徒によると大動脈などの太い血管が通っている所に押し当てて使うとのことだったので朱鷺原はダメ元で嶺山に注射器を押し当てて見た...

すると、どうだろうか...
プシュッ!という音と共に出血が止まり始め――嶺山の傷は、徐々に治っていくではないか?!!あれだけ悪かった顔色も苦痛に歪んでいた表情も今やどこ吹く風である...

その様子に実際に使用した朱鷺原は疎《おろ》か、その様子を目にした全員が「えぇっ?」と静かに驚きの声を挙げる...

「お、おい。なんだよ、そのポーション」「すごい効き目だな・・・」「そんな形のポーション店にあったけ?」

当然、様々な疑問と称賛の声が飛び交ったが朱鷺原が説明に追われる事はなかった。何故なら嶺山の容体が安定した嶺山が、この短時間で意識を取り戻したからだ...

「うぅ・・・ここは・・・」

嶺山が目を覚ますと結城は「サユミちゃん!!」と彼女に飛び掛かり抱きついた!

「サユミちゃん・・・一人で無理しすぎだよ...」

結城が泣きながら嶺山に訴え掛けると嶺山は結城の頭を撫でながら「ごめんね...雪ちゃん・・・心配かけて...」と弱弱しく返事を返したのだった...
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