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もしも2
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「いやあ。大変だったよ」
警備騎士団総括局長のニュアオーマが、いつも通りフィリィの前で話すように頭をボリボリ掻きながら、部屋に入ってその一言を発した。
フィルリーネの臨時執務室。王代理のその部屋で、いつもイムレスやらハブテルやらと話しているのだが、今日はニュアオーマを呼んだ。わけであるが。
「はっ!? し、失礼しました! お呼びだと聞き、参った次第です!!」
部屋にフィルリーネ以外の人がいると気付いて、ニュアオーマがビシッと背筋を伸ばした。その態度の差はなんでしょうか。
「……君を呼んだのは、フィルリーネ様に街の状況を詳しく話してもらうためだ」
政務最高官長エシーロムが、コホンと咳払いをする。ニュアオーマは姿勢を崩さず立ちながらも、内心焦っているだろう。
エシーロムは、フィルリーネが隠れて色々行っていることを知ってから、その頃一緒に動いていた者たちには気安い態度をしていることに気付いているようだ。その相手も同じように砕けた態度なので、普段のニュアオーマがどんな態度かバレてしまったが、エシーロムはどうやら目を瞑ってくれるらしい。
いつも直接聞きに行くからなあ。ニュアオーマも他に人がいるとは思わなかったんだろうね。
キリリとした顔を見ているとムズムズしてくる。だからといって、エシーロムを部屋から出すことはないので、頑張ってほしい。
「城で起きたことは知っているわね。街にも影響があったことは、わたくしも聞いているわ。大変だったそうね」
「今は落ち着いておりますが、いくつか懸念があります」
普段ならば愚痴るように教えてくれるわけだが、ニュアオーマは身長が伸びて見えるほど、ビシッと立っている。頑張れ、ニュアオーマ。と応援したくなるのは、いつも以上にクマがひどいからだ。ずっと寝ていないのではないだろうか。
「街に施された結界も崩れたそうね。その時の状況を説明してちょうだい」
「は。城の結界が崩れた後、連動して街の結界が崩れ、街の中に魔獣が入り込みました。結界が直るまで警備騎士たちを配置し、それに対処しております。被害状況は、魔獣に襲われた騎士団が二名負傷。城の爆発により飛んできた残骸で怪我をしたものが十数名。街の者たちはパニック陥り、逃げ惑う者たちの中でも怪我人がありました」
城は高所にあり、それが爆発した。よく目立ったことだろう。城を囲む城壁近くでも爆発があったため、そこから飛んだ破片も多かったはずだ。
やっと落ち着いたと思ったら、再び戦いが起きた。その上、前回よりも城への攻撃が激しかったのだから、街の者たちは何事かと思ったはずだ。
「死者はおりませんが、多くの怪我人が出ました。また、残骸が家に直撃し、半壊した家が数件。崩れた道も数箇所あり、馬車が通れなくなっております」
場所によっては大きく壊れており、下水が壊れたところもあった。これは早々に修理しなければならない。
治療のための医師を追加させ、家が壊れた者たちの補償も必要だ。ニュアオーマから渡された調書をエシーロムが軽く眺めて、フィルリーネに渡してくる。
よく調べてある。街の被害状況をこれだけ早く把握したのは、ニュアオーマが憂える者たちが多く住んでいるからだ。
フィルリーネはエシーロムにそれを返し、軽く頷いた。エシーロムは頭を下げてその調書を持ったまま部屋を出ていく。
「城のこともあるけど、街の人たちを安心させるためにも、早めに対処させるわ。下町であれば自分たちで行うでしょうけれど、彼らにそんなことに力をかけさせたくないからね。貴族の家が壊れてばかりだけれど、ここで放置しても後々問題になるわ。場所に関わらずしっかり調べてくれてありがとう」
エシーロムが出て行って、ニュアオーマがすぐに力を抜く。護衛のアシュタルもいるのだが、そこは気にしないらしい。
「さすがに今回は情報がなかったから、大混乱でしたよ。城に問い合わせても、分からんの一点張りだし、その内結界が壊れるのが見えて、もう何が何やらで」
街から見ていたら不安になるのも当然だ。いきなり爆発が連続で起きて、結界が壊れた。
「発表が早くて助かりましたよ。家財道具持って逃げようとする者たちもいましたからね」
「あの騒ぎについて何も発信しないなんて、そんな愚かな真似はしないわよ」
「前王の残党により、大規模な襲撃があったという発表に納得していない者たちも多い中、すぐに噂を流すのはさすがというか」
「発表くらいじゃ信じないでしょ? 警備騎士たちに説明を求めてそんな話聞いても街の人は信じないわよ。そこは商人たちに噂を回させるしかないわ」
戻ってきてから街の人々を安心させるための手は打っておいた。王族が御しきれなかったと思われるのは困る。なにせフィルリーネは噂が悪い。貴族たちがそんな噂をすれば、街の人たちにまで回ってしまう。これ以上この国の権威を失意させるわけにはいかなかった。
「戦いは一日で鎮圧。その後の攻撃はない。良い噂を信じ、安心してくれて良かったわ。騎士たちや魔導員たちがその戦いに勝ち、今は平穏。街の修理は早めに行い、治安維持に努める。そこで信用を上げる」
「十分な小細工ですよ」
嫌味にも聞こえるが、まあ褒めてくれているのだろう。
「しかし、ひどいもんでしたな。ここぞとばかりに集まったってところですか。目的も違うのに、よくも手を組んだもんだ」
そう。今回の襲撃は皆が同じ目的を持っているわけではなかった。
王族の権威を失墜させ、この国を乗っ取りたいというような欲望は大きくあったが、インスティアの目的は魔導院。オルデバルトはグングナルド全体。ニーガラッツは、この際何か実験できればなんでも良かったというところか。そして、ワックボリヌを殺した者。
前王は見向きもされなかったが。
「マグダリア領の攻撃。それからキグリアヌン国代表と偽った第三王子の陰謀による攻撃という噂は街の者たちも耳にましたよ。マグダリア領が冬の館とやり合っているのは、噂で聞いている者も多いので」
マグダリア領に関しては。ガルネーゼが頑張ってくれた。
城が攻撃されたことは後で知ったようだが、その頃にはマグダリア領に侵入していたのである。
海からキグリアヌン国の船により攻撃があり、冬の館はマグダリア領と挟み撃ちにされていたわけだが、そこにキグリアヌン国王の兵士が海から挟み撃ちにした。
キグリアヌン国王の兵がオルデバルトの命令で動いていたキグリアヌンの船を攻撃、そこに冬の館からも攻撃した。海の上で、キグリアヌン対キグリアヌンという戦いが起こったのである。
キグリアヌンの攻撃がなくなり、ガルネーゼはマグダリア領に対して集中できた。
オルデバルトの兵はキグリアヌン国王に任せて、ガルネーゼはマグダリア領へ進軍。他領も参戦したため、抑えるのに時間は掛からなかった。
ヨシュアを使い、よくキグリアヌン王まで懐柔できたなあ。と我ながら感嘆してしまう。
キグリアヌン国王はオルデバルトが裏切り者だと気付いていたが、王たちの力が弱くなっており、全てを問えるほどではなかった。
オルデバルトは逃げたふりをしてグングナルドに来たが、その間にもオルデバルトの手下たちがキグリアヌン国内でなにかと動いていた。
オルデバルトの目的は、ダリュンベリの都と冬の館を抑え、人々を人質とし、フィルリーネとの婚姻を進めるつもりだった。
当の本人は厳重な警備の中、地下牢にいる。両手がない状態で、何歳も老けたような顔になっていたようだが、知ったことではない。そのうちキグリアヌンに送り返す予定だ。そちらで罪を幾つでも暴いてもらえば良いだろう。今後、キグリアヌン王とも話し合いの場が必要だ。
「一つだけ」
ニュアオーマが険しい顔をする。
「航空艇に関しては、少々疑っている者も多いですが……」
「それはねえ……」
王族の航空艇が一機逃げて行った。それを追撃する航空艇もない。
「誰が逃げたのかと噂になりました」
「まあそれ、私になるわよね」
ニュアオーマは口を閉じて肯定しなかったが、他に逃げる者などいない。攻撃されて街の者たちを捨てて逃げたという噂が流れたと調書にも書いているのだから、気にする必要もない。一応気は使ってくれるようだが。
「航空艇にはニーガラッツが乗り、逃げたとか。後ほどラータニアで追撃が行われ、協力体制を敷いていた結果、航空艇は破壊されたと」
嘘は言っていない。重要なことは伝えていないが。
「それについては、こちらも真実を聞かされていなかったので……」
ニュアオーマは自分にまで隠す内容だったのか? と訝しがっている。さすがに航空艇を奪われて放置はおかしいと思ったのだろう。この件は、重役たちしか知らない話だ。
「女王が乗っていたのよ」
「は?」
「女王はラータニアで死亡。今後、マリオンネで新しい指導者が出るでしょう」
「は??」
「はー、また修復に時間が掛かるわねえ」
説明するわけにはいかないので、軽く誤魔化しておく。ニュアオーマは呆気に取られていたが、女王が死亡などという嘘を言うとは思っていないので、信じてくれるだろう。
それにしても、修復修復で、いつすべてを修理できるだろうか。財政が大変だ。
壊すのは一瞬。元に戻すには多大な時間が掛かる。食料問題もまだ解決していない。精霊の力がない状況を想定して植物を育てるためのノウハウを新しく開発しても、そこそこ時間が掛かるのだ。自然は難しい。
それでも改善されているわけだが。
今のうちに、女王の力があるうちに、巡業しようかしら……。なんてイムレスの前でぼそっと口にしたら、
そんなことしたら、君が女王であることを知らしめることになるよ。と言われてしまった。
利用できるなら利用したい。それぐらい許してほしい。と思うが、女王になりたくなければ止めろと釘を刺されてしまった。
結局マリオンネからの連絡待ちで、女王の印は持ったまま。あちらも落ち着かないと話し合いが行えない。マリオンネもムスタファ・ブレイン同士で戦いがあったらしく、混乱がひどいそうだ。
「あー、姫さん、一応聞いとくが、あんたが女王になったわけじゃない、よな?」
「はえ?」
突然の質問に、ついとぼけた声を出してしまった。
「なんでそう思うの??」
「これはまだ調べ中なんですが、街の周囲の村から急に魔獣がいなくなったそうです。退治したわけではなく、何かを恐れて移動したんじゃないかって話で。ただ、それによって城から離れた村の近くに魔獣が増えちまったそうで。逃げた分がそっちに行ったってことは、この周辺から逃げた魔獣が集まってるんだろうと」
「あーーー」
フィルリーネとアシュタルの声がかぶった。それは間違いなく、フィルリーネの女王の印のせいである。精霊が集まってきたため、その光を恐れて魔獣たちが離れたのだ。
「あと、精霊の集まりが……」
「あーーーーーー」
「俺もそこまで見えるわけではないのに、俺ですら見えるし、街の者たちだって見られる奴らがいたぐらいで」
「……ひどいの?」
「夜中すごかったですよ。光るんだから、さすがに気付きますわ。精霊の祭りで、あの光を見てる者もいましたからね。コニアサス王子が精霊から愛されたという噂もあったから、それで今回、みな安心して落ち着いたって感じなんですから。あの時のあの噂の元も、姫さんの力なんじゃ?」
「コニアサスも演奏して起きた現象よ。私だけじゃないわ」
「だが、姫さんがいたからだろう?」
精霊の祭りで精霊たちが集まった。その話が噂になったことは耳にしている。あの時のコニアサスの演奏で、貴族から多くの人々へと噂が流れているのだ。
しかし、ニュアオーマはフィルリーネの仕業だと思ってるらしい。
勘がいいなあ。
「女王の発表はそのうちあるわよ。それまでは、その遠くに逃げちゃった魔獣の討伐を行なってもらった方がよさそうだわ。まだ、いつになるか分かんないのよ」
「分かりましたよ。理由があることは。ところで、もう一つ聞きたいんことがあるんだが」
ニュアオーマは納得してくれたらしい。頷きつつ、ちろりとこちらを見つめる。
「なんで、ずっと眉に皺寄せてるんです?さすがの姫さんも疲れてるんだろうが、不機嫌なんで?」
「ああ、これ?」
問われて眉間をこねくる。アシュタルがゴホン、と変な咳払いをした。
「ちょっと。なんというかねー、個人的に疑問があって」
「なんか、迷いでも?」
そんなこと聞かれたら言っちゃうが、いいだろうか。
「ニュアオーマ、奥さんいるよね」
「は? い、います、が?」
「いるんですもんね。貴族的、家の関係? それとも、ニュアオーマが見初めたとか?」
「ど、どうして。なんの話で?」
「聞きたい」
フィルリーネは目を光らせる。今は一部始終、根掘り葉掘り、色々聞きたいのである。
「あーコホン。私からプロポーズを」
「そうなの!?」
「なんで、そんな話を」
ニュアオーマが居心地悪そうに、そわそわしだした。
警備騎士団総括局長のニュアオーマが、いつも通りフィリィの前で話すように頭をボリボリ掻きながら、部屋に入ってその一言を発した。
フィルリーネの臨時執務室。王代理のその部屋で、いつもイムレスやらハブテルやらと話しているのだが、今日はニュアオーマを呼んだ。わけであるが。
「はっ!? し、失礼しました! お呼びだと聞き、参った次第です!!」
部屋にフィルリーネ以外の人がいると気付いて、ニュアオーマがビシッと背筋を伸ばした。その態度の差はなんでしょうか。
「……君を呼んだのは、フィルリーネ様に街の状況を詳しく話してもらうためだ」
政務最高官長エシーロムが、コホンと咳払いをする。ニュアオーマは姿勢を崩さず立ちながらも、内心焦っているだろう。
エシーロムは、フィルリーネが隠れて色々行っていることを知ってから、その頃一緒に動いていた者たちには気安い態度をしていることに気付いているようだ。その相手も同じように砕けた態度なので、普段のニュアオーマがどんな態度かバレてしまったが、エシーロムはどうやら目を瞑ってくれるらしい。
いつも直接聞きに行くからなあ。ニュアオーマも他に人がいるとは思わなかったんだろうね。
キリリとした顔を見ているとムズムズしてくる。だからといって、エシーロムを部屋から出すことはないので、頑張ってほしい。
「城で起きたことは知っているわね。街にも影響があったことは、わたくしも聞いているわ。大変だったそうね」
「今は落ち着いておりますが、いくつか懸念があります」
普段ならば愚痴るように教えてくれるわけだが、ニュアオーマは身長が伸びて見えるほど、ビシッと立っている。頑張れ、ニュアオーマ。と応援したくなるのは、いつも以上にクマがひどいからだ。ずっと寝ていないのではないだろうか。
「街に施された結界も崩れたそうね。その時の状況を説明してちょうだい」
「は。城の結界が崩れた後、連動して街の結界が崩れ、街の中に魔獣が入り込みました。結界が直るまで警備騎士たちを配置し、それに対処しております。被害状況は、魔獣に襲われた騎士団が二名負傷。城の爆発により飛んできた残骸で怪我をしたものが十数名。街の者たちはパニック陥り、逃げ惑う者たちの中でも怪我人がありました」
城は高所にあり、それが爆発した。よく目立ったことだろう。城を囲む城壁近くでも爆発があったため、そこから飛んだ破片も多かったはずだ。
やっと落ち着いたと思ったら、再び戦いが起きた。その上、前回よりも城への攻撃が激しかったのだから、街の者たちは何事かと思ったはずだ。
「死者はおりませんが、多くの怪我人が出ました。また、残骸が家に直撃し、半壊した家が数件。崩れた道も数箇所あり、馬車が通れなくなっております」
場所によっては大きく壊れており、下水が壊れたところもあった。これは早々に修理しなければならない。
治療のための医師を追加させ、家が壊れた者たちの補償も必要だ。ニュアオーマから渡された調書をエシーロムが軽く眺めて、フィルリーネに渡してくる。
よく調べてある。街の被害状況をこれだけ早く把握したのは、ニュアオーマが憂える者たちが多く住んでいるからだ。
フィルリーネはエシーロムにそれを返し、軽く頷いた。エシーロムは頭を下げてその調書を持ったまま部屋を出ていく。
「城のこともあるけど、街の人たちを安心させるためにも、早めに対処させるわ。下町であれば自分たちで行うでしょうけれど、彼らにそんなことに力をかけさせたくないからね。貴族の家が壊れてばかりだけれど、ここで放置しても後々問題になるわ。場所に関わらずしっかり調べてくれてありがとう」
エシーロムが出て行って、ニュアオーマがすぐに力を抜く。護衛のアシュタルもいるのだが、そこは気にしないらしい。
「さすがに今回は情報がなかったから、大混乱でしたよ。城に問い合わせても、分からんの一点張りだし、その内結界が壊れるのが見えて、もう何が何やらで」
街から見ていたら不安になるのも当然だ。いきなり爆発が連続で起きて、結界が壊れた。
「発表が早くて助かりましたよ。家財道具持って逃げようとする者たちもいましたからね」
「あの騒ぎについて何も発信しないなんて、そんな愚かな真似はしないわよ」
「前王の残党により、大規模な襲撃があったという発表に納得していない者たちも多い中、すぐに噂を流すのはさすがというか」
「発表くらいじゃ信じないでしょ? 警備騎士たちに説明を求めてそんな話聞いても街の人は信じないわよ。そこは商人たちに噂を回させるしかないわ」
戻ってきてから街の人々を安心させるための手は打っておいた。王族が御しきれなかったと思われるのは困る。なにせフィルリーネは噂が悪い。貴族たちがそんな噂をすれば、街の人たちにまで回ってしまう。これ以上この国の権威を失意させるわけにはいかなかった。
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「十分な小細工ですよ」
嫌味にも聞こえるが、まあ褒めてくれているのだろう。
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そう。今回の襲撃は皆が同じ目的を持っているわけではなかった。
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「マグダリア領の攻撃。それからキグリアヌン国代表と偽った第三王子の陰謀による攻撃という噂は街の者たちも耳にましたよ。マグダリア領が冬の館とやり合っているのは、噂で聞いている者も多いので」
マグダリア領に関しては。ガルネーゼが頑張ってくれた。
城が攻撃されたことは後で知ったようだが、その頃にはマグダリア領に侵入していたのである。
海からキグリアヌン国の船により攻撃があり、冬の館はマグダリア領と挟み撃ちにされていたわけだが、そこにキグリアヌン国王の兵士が海から挟み撃ちにした。
キグリアヌン国王の兵がオルデバルトの命令で動いていたキグリアヌンの船を攻撃、そこに冬の館からも攻撃した。海の上で、キグリアヌン対キグリアヌンという戦いが起こったのである。
キグリアヌンの攻撃がなくなり、ガルネーゼはマグダリア領に対して集中できた。
オルデバルトの兵はキグリアヌン国王に任せて、ガルネーゼはマグダリア領へ進軍。他領も参戦したため、抑えるのに時間は掛からなかった。
ヨシュアを使い、よくキグリアヌン王まで懐柔できたなあ。と我ながら感嘆してしまう。
キグリアヌン国王はオルデバルトが裏切り者だと気付いていたが、王たちの力が弱くなっており、全てを問えるほどではなかった。
オルデバルトは逃げたふりをしてグングナルドに来たが、その間にもオルデバルトの手下たちがキグリアヌン国内でなにかと動いていた。
オルデバルトの目的は、ダリュンベリの都と冬の館を抑え、人々を人質とし、フィルリーネとの婚姻を進めるつもりだった。
当の本人は厳重な警備の中、地下牢にいる。両手がない状態で、何歳も老けたような顔になっていたようだが、知ったことではない。そのうちキグリアヌンに送り返す予定だ。そちらで罪を幾つでも暴いてもらえば良いだろう。今後、キグリアヌン王とも話し合いの場が必要だ。
「一つだけ」
ニュアオーマが険しい顔をする。
「航空艇に関しては、少々疑っている者も多いですが……」
「それはねえ……」
王族の航空艇が一機逃げて行った。それを追撃する航空艇もない。
「誰が逃げたのかと噂になりました」
「まあそれ、私になるわよね」
ニュアオーマは口を閉じて肯定しなかったが、他に逃げる者などいない。攻撃されて街の者たちを捨てて逃げたという噂が流れたと調書にも書いているのだから、気にする必要もない。一応気は使ってくれるようだが。
「航空艇にはニーガラッツが乗り、逃げたとか。後ほどラータニアで追撃が行われ、協力体制を敷いていた結果、航空艇は破壊されたと」
嘘は言っていない。重要なことは伝えていないが。
「それについては、こちらも真実を聞かされていなかったので……」
ニュアオーマは自分にまで隠す内容だったのか? と訝しがっている。さすがに航空艇を奪われて放置はおかしいと思ったのだろう。この件は、重役たちしか知らない話だ。
「女王が乗っていたのよ」
「は?」
「女王はラータニアで死亡。今後、マリオンネで新しい指導者が出るでしょう」
「は??」
「はー、また修復に時間が掛かるわねえ」
説明するわけにはいかないので、軽く誤魔化しておく。ニュアオーマは呆気に取られていたが、女王が死亡などという嘘を言うとは思っていないので、信じてくれるだろう。
それにしても、修復修復で、いつすべてを修理できるだろうか。財政が大変だ。
壊すのは一瞬。元に戻すには多大な時間が掛かる。食料問題もまだ解決していない。精霊の力がない状況を想定して植物を育てるためのノウハウを新しく開発しても、そこそこ時間が掛かるのだ。自然は難しい。
それでも改善されているわけだが。
今のうちに、女王の力があるうちに、巡業しようかしら……。なんてイムレスの前でぼそっと口にしたら、
そんなことしたら、君が女王であることを知らしめることになるよ。と言われてしまった。
利用できるなら利用したい。それぐらい許してほしい。と思うが、女王になりたくなければ止めろと釘を刺されてしまった。
結局マリオンネからの連絡待ちで、女王の印は持ったまま。あちらも落ち着かないと話し合いが行えない。マリオンネもムスタファ・ブレイン同士で戦いがあったらしく、混乱がひどいそうだ。
「あー、姫さん、一応聞いとくが、あんたが女王になったわけじゃない、よな?」
「はえ?」
突然の質問に、ついとぼけた声を出してしまった。
「なんでそう思うの??」
「これはまだ調べ中なんですが、街の周囲の村から急に魔獣がいなくなったそうです。退治したわけではなく、何かを恐れて移動したんじゃないかって話で。ただ、それによって城から離れた村の近くに魔獣が増えちまったそうで。逃げた分がそっちに行ったってことは、この周辺から逃げた魔獣が集まってるんだろうと」
「あーーー」
フィルリーネとアシュタルの声がかぶった。それは間違いなく、フィルリーネの女王の印のせいである。精霊が集まってきたため、その光を恐れて魔獣たちが離れたのだ。
「あと、精霊の集まりが……」
「あーーーーーー」
「俺もそこまで見えるわけではないのに、俺ですら見えるし、街の者たちだって見られる奴らがいたぐらいで」
「……ひどいの?」
「夜中すごかったですよ。光るんだから、さすがに気付きますわ。精霊の祭りで、あの光を見てる者もいましたからね。コニアサス王子が精霊から愛されたという噂もあったから、それで今回、みな安心して落ち着いたって感じなんですから。あの時のあの噂の元も、姫さんの力なんじゃ?」
「コニアサスも演奏して起きた現象よ。私だけじゃないわ」
「だが、姫さんがいたからだろう?」
精霊の祭りで精霊たちが集まった。その話が噂になったことは耳にしている。あの時のコニアサスの演奏で、貴族から多くの人々へと噂が流れているのだ。
しかし、ニュアオーマはフィルリーネの仕業だと思ってるらしい。
勘がいいなあ。
「女王の発表はそのうちあるわよ。それまでは、その遠くに逃げちゃった魔獣の討伐を行なってもらった方がよさそうだわ。まだ、いつになるか分かんないのよ」
「分かりましたよ。理由があることは。ところで、もう一つ聞きたいんことがあるんだが」
ニュアオーマは納得してくれたらしい。頷きつつ、ちろりとこちらを見つめる。
「なんで、ずっと眉に皺寄せてるんです?さすがの姫さんも疲れてるんだろうが、不機嫌なんで?」
「ああ、これ?」
問われて眉間をこねくる。アシュタルがゴホン、と変な咳払いをした。
「ちょっと。なんというかねー、個人的に疑問があって」
「なんか、迷いでも?」
そんなこと聞かれたら言っちゃうが、いいだろうか。
「ニュアオーマ、奥さんいるよね」
「は? い、います、が?」
「いるんですもんね。貴族的、家の関係? それとも、ニュアオーマが見初めたとか?」
「ど、どうして。なんの話で?」
「聞きたい」
フィルリーネは目を光らせる。今は一部始終、根掘り葉掘り、色々聞きたいのである。
「あーコホン。私からプロポーズを」
「そうなの!?」
「なんで、そんな話を」
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