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帰国
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「ふああああ」
大きなあくびをしながら、フィルリーネはベッドで横になったまま大の字になる。
さすがに疲労が溜まっているか、身体がだるい。横になったまま足を上げたり、手を上げたり、軽く動かしてストレッチをする。
「フィルリーネ、お尻当たった」
人の頭の横で、ベッドに座っているヨシュアのお尻にパンチすると、ヨシュアが身体をすくめた。身体をすくめようが図体は大きいので、腕を伸ばせば当たってしまう。ちなみに、フィルリーネのお尻が当たったわけではない。
ヨシュアは意地でもベッドに座っている。どけば良いでしょうよ。
眠った時からいたが、ずっとそこに座っていたのだろうか。こちらをちろりと見て、ちょっぴり位置をずらす。
ずれても、私の腕は当たると思うのだが?
やらなければいけないことはまだ山積みなのだが、なんだか動きたくない。
もう一度伸びをして、今度はヨシュアの脇腹にパンチを当ててしまった。ごめんよ。
「エレディナ、帰ってこないねえ」
「いなくていい」
気配のないエレディナは、まだグングナルドに戻ってきていない。帰ってくるつもりはあるのだろうか。そんなことをぼんやり考えて呟いたのだが、ヨシュアがその言葉に即答する。
仲が良いのか悪いのか、やっぱり仲が悪いのか。そんなことを言う。二人一緒にいるとやかましいので、うるさくなくていいのだが、二人が側にいないと、ちょっぴり寂しくも思う。
あの後、アンリカーダが浮島から飛び降りた後、翼竜とラータニアの航空艇が浮島にやってきた。精霊が正気に戻ったのに気付いて、一部の翼竜を伴って、来たのである。
ラータニアの王宮では、翼竜たちが集まり、その鳴き声で精霊たちを追い払っていた。正気でなくとも翼竜は恐れる相手だと潜在意識の中にあるのか、その巨大な存在を恐れて、精霊たちは王宮から離れたのである。
ヨシュアの遠吠えのような鳴き声に精霊たちが怯えたのに気付き、翼竜のカーシェスに頼んで、翼竜をラータニアに送ってもらったのだ。その効果があったようで、王宮にいたシエラフィアたちは精霊に襲われることはなかったようだ。
アンリカーダに操られ、遠巻きにして王宮を囲んでいた精霊たち。
アンリカーダを追い掛けて浮島に集まってきていた精霊たちの他に、シエラフィアを害するために集まっていた精霊たちも多かったのだ。
あの数の精霊を操れるというのは、考えられないほどの量の魔導だと思う。
精霊たちが王族ではなくなっていたシエラフィアを狙うことは難しくなかったようで、精霊が入れない結界の周りをずっと囲み、虎視眈々とその隙を狙っていたらしい。
シエラフィアが王族のままであれば、精霊たちは拒否を示しただろう。
シエラフィアを王族から弾いたのは、アンリカーダにとって当然の選択だったわけだ。
そうして、サラディカたちは、王を守りながら外が落ち着いたのに気付き、浮島に向かった。
その浮島を見た時、彼らは唖然としたそうだ。
常に春のような様相の浮島。その大地のほとんどが炎に焼かれ、見るも無残な姿になっていたのだから。
炎で焼けちゃったもんね。あの場所に停まっていたグングナルドの航空艇は防火性があり、耐火構造だったのだが、真っ黒焦げになってしまっていた。アウラウルの攻撃も受けて、脆くなってしまったのだろう。
アンリカーダと一緒にやって来た乗組員たちは、端の方でぶるぶる震えていた。崖下に逃げて、たまたまあった出っ張りの岩陰で小さくなって、三人ほどでかたまっていた。他に乗っていた者たちは行方が分からない。死体は見付かってないので、海に飛び降りたのだ。
そして、最後に残っていたユーリファラ。
彼女はサラディカたちに連れていかれた。どうやらマリオンネと通じて、ラータニアの情報を伝えていたようだ。詳しくは聞かなかったが、王と王妃を危険に晒しただけでなく、ラータニア存続を揺るがすような真似をしたとされている。
これから彼女をどうするのかは、なにも聞いていない。
というより、あの後すぐグングナルドに戻ってきてしまったので、その後のことは全く何も聞いていないのである。
こちらも色々投げ出してマリオンネに行ったり、浮島に行ったりしたため、城は大騒ぎだと分かっていた。なんといっても、城内のさんざんたる状況もそっちのけ、精霊が荒れ狂ったことに対しての説明もできていない。キグリアヌンのこともそのまま、オルデバルトなんて捕らえたまま放置。
勝手に多くを行ったので、怒られ覚悟でさっさとグングナルドに帰ることにした。
サラディカたちはルヴィアーレが無事であることを確認しつつも、ルヴィアーレを置いて王宮へ戻ってしまった。
アンリカーダが姉であることは知っているのか、さすがに一人にしようと思ったのだろう。多分。
ルヴィアーレは一人浮島に残った。
アウラウルは浮島を元に戻し、その間に精霊の王は再び消えてしまった。
彼らに言いたいことは多くあるが、きっと話にならないだろう。ルヴィアーレはただ、アンリカーダが飛び降りた方を向いたまま、じっと黙って遠くを見つめていた。
それから、元に戻った大地に、精霊たちが安心して方々に散らばるのを眺め、翼竜たちが鳴きながらマリオンネへと飛び始めたのを眺めて、やっとフィルリーネを視界に入れた。
「帰んないで平気なの?」
お別れの挨拶をしようとルヴィアーレを待っていたわけだが、そのままずっと立ち尽くしているルヴィアーレを置いて帰るわけにもいかない。
なんと言葉を掛けて良いかも分からないが、早く帰ってシエラフィアにその無事な姿を見せてあげた方が良いと思って、そんなことを言ったような気がする。
「航空艇行っちゃったけど? エレディナに送ってもらうつもり?」
みたいなことも言ったかもしれない。いかんせん結構疲れていたので、お風呂入って一瞬眠りたいとか半分思っていたら、ルヴィアーレがいきなり押さえ込むように抱きついてきた。
エネルギー切れですか!?
そうに違いない。一度抱きしめて、ぶらりと腕を垂らした。頭を人の肩に乗せたまま、黙って動こうとしない。
大丈夫じゃないよね。それくらいは分かるが。何を言っていいのか分からず、考えを巡らせた結果、頭をなでなでした。
いや。腕が届きにくかったので、首元あたりをなでなでしてやった。ルヴィアーレは案外身体が大きいのである。
「……して」
「うん?」
「どうして、……婚約破棄を」
婚約破棄したことは分かったのか。などと思いつつ、そういえば自分の手の甲からも印が消えていたので、それで気付いたわけね。などと思い直す。
いや、私も疲れていたんだよ。きっと。頭が回っていなかったので、適当に答えたような気がする。
「丁度いいと思って」
「ちょうど、いい?」
ルヴィアーレがバッと飛び退くように顔を上げた。だらしなく伸ばされていた腕が肩を握り、力がこもったのが分かる。
何かまずいことを言っただろうか? しかし、頭が回っていないので、あまり答え方を考えなかった。
「丁度良かったでしょ? ラータニアの精霊が王族に攻撃することは、一応ないことになってるから、保険のためラータニアの国の配置換えをした方がいいと思って、婚約破棄を」
こんなこともあろうかと、少し前に、翼竜のカーシェスに、婚約破棄を女王に関わらずに行えないのか、こっそり聞いておいたのだ。
婚約の儀式はムスタファ・ブレインが立ち合い人としていたが、契約を行うのは熱情の精霊ラファレスだけ。人型の精霊が関わるだけだったので、女王の許可は結局いるのかと疑問に思った次第である。
確かに、女王に何かあれば精霊が不安定になり、婚約の儀式がうまく行えないとは聞いていたが、破棄なら契約解除であるし、簡単に行えるのではないか。そんなことを考えていた。
ルヴィアーレはラータニアに戻っているし、精霊の力を借りられるのならば、借りられる立場になっていた方がいい。攻撃しにくい相手となっていれば、少しは違うかもしれない。
婚約破棄をすれば、勝手にラータニアの精霊たちが寄ってくるはずだ。
ルヴィアーレはラータニアの王族の中で、唯一の王の血を引く者である。まともな状態であれば、あわよくばすぐに力を貸してくれるかもしれない。ルヴィアーレはラータニアで精霊にとても好かれていたのだから。
なんて考えて、実行に移したわけである。
それを行うのにマリオンネに行けば、女王の印を得るなどという、別の契約が発生してしまったが。
「そんな、ことで、婚約破棄を?」
「うん。だから、早く破棄しなきゃと思って」
「早く、破棄……」
「破棄しても、精霊の協力は得られなかった? やっぱり、アンリカーダのせいで?」
まとっていたグングナルドの精霊たちの魔導はすぐに消えただろうから、逆に丸裸になってしまっただろうか。
「丸裸になっちゃった!?」
主語も言わず口にすると、ルヴィアーレがビクリと肩を揺らした。
え、なんですか。ちょっと怖いんですけど。
思ったのも束の間。ルヴィアーレが人の頬をぐにーっと掴んで伸ばした。
「ふえええっ!?」
しかも、両方の頬をつねって、ぐにぐに引っ張り、あまつ、勢いよく離してくれた。
「いだいっ!!」
「エレディナ! 王宮に戻るぞ。ラータニアのな!」
ルヴィアーレはそう怒鳴るようにエレディナを呼んだ。そうしてそのまま、パッと転移してしまったのである。
いや、エレディナさん、あなたグングナルドの王族じゃなくなったルヴィアーレの命令、なんで聞くのよ。
問う間もなく、フィルリーネはポツンとその場に残されたのだ。
ひどいよね。ひどいよ。ぷんすかだよ。
エレディナも、転移前に何か言いたそうな、呆れ顔をしていた。あーあ、と言わんばかりか、バカねえ、と言わんばかりの顔をしていた。
なんかまずいこと言いましたか?
私としては、ルヴィアーレに良かれと思って婚約破棄を行なったというのに。
解せん。
大きなあくびをしながら、フィルリーネはベッドで横になったまま大の字になる。
さすがに疲労が溜まっているか、身体がだるい。横になったまま足を上げたり、手を上げたり、軽く動かしてストレッチをする。
「フィルリーネ、お尻当たった」
人の頭の横で、ベッドに座っているヨシュアのお尻にパンチすると、ヨシュアが身体をすくめた。身体をすくめようが図体は大きいので、腕を伸ばせば当たってしまう。ちなみに、フィルリーネのお尻が当たったわけではない。
ヨシュアは意地でもベッドに座っている。どけば良いでしょうよ。
眠った時からいたが、ずっとそこに座っていたのだろうか。こちらをちろりと見て、ちょっぴり位置をずらす。
ずれても、私の腕は当たると思うのだが?
やらなければいけないことはまだ山積みなのだが、なんだか動きたくない。
もう一度伸びをして、今度はヨシュアの脇腹にパンチを当ててしまった。ごめんよ。
「エレディナ、帰ってこないねえ」
「いなくていい」
気配のないエレディナは、まだグングナルドに戻ってきていない。帰ってくるつもりはあるのだろうか。そんなことをぼんやり考えて呟いたのだが、ヨシュアがその言葉に即答する。
仲が良いのか悪いのか、やっぱり仲が悪いのか。そんなことを言う。二人一緒にいるとやかましいので、うるさくなくていいのだが、二人が側にいないと、ちょっぴり寂しくも思う。
あの後、アンリカーダが浮島から飛び降りた後、翼竜とラータニアの航空艇が浮島にやってきた。精霊が正気に戻ったのに気付いて、一部の翼竜を伴って、来たのである。
ラータニアの王宮では、翼竜たちが集まり、その鳴き声で精霊たちを追い払っていた。正気でなくとも翼竜は恐れる相手だと潜在意識の中にあるのか、その巨大な存在を恐れて、精霊たちは王宮から離れたのである。
ヨシュアの遠吠えのような鳴き声に精霊たちが怯えたのに気付き、翼竜のカーシェスに頼んで、翼竜をラータニアに送ってもらったのだ。その効果があったようで、王宮にいたシエラフィアたちは精霊に襲われることはなかったようだ。
アンリカーダに操られ、遠巻きにして王宮を囲んでいた精霊たち。
アンリカーダを追い掛けて浮島に集まってきていた精霊たちの他に、シエラフィアを害するために集まっていた精霊たちも多かったのだ。
あの数の精霊を操れるというのは、考えられないほどの量の魔導だと思う。
精霊たちが王族ではなくなっていたシエラフィアを狙うことは難しくなかったようで、精霊が入れない結界の周りをずっと囲み、虎視眈々とその隙を狙っていたらしい。
シエラフィアが王族のままであれば、精霊たちは拒否を示しただろう。
シエラフィアを王族から弾いたのは、アンリカーダにとって当然の選択だったわけだ。
そうして、サラディカたちは、王を守りながら外が落ち着いたのに気付き、浮島に向かった。
その浮島を見た時、彼らは唖然としたそうだ。
常に春のような様相の浮島。その大地のほとんどが炎に焼かれ、見るも無残な姿になっていたのだから。
炎で焼けちゃったもんね。あの場所に停まっていたグングナルドの航空艇は防火性があり、耐火構造だったのだが、真っ黒焦げになってしまっていた。アウラウルの攻撃も受けて、脆くなってしまったのだろう。
アンリカーダと一緒にやって来た乗組員たちは、端の方でぶるぶる震えていた。崖下に逃げて、たまたまあった出っ張りの岩陰で小さくなって、三人ほどでかたまっていた。他に乗っていた者たちは行方が分からない。死体は見付かってないので、海に飛び降りたのだ。
そして、最後に残っていたユーリファラ。
彼女はサラディカたちに連れていかれた。どうやらマリオンネと通じて、ラータニアの情報を伝えていたようだ。詳しくは聞かなかったが、王と王妃を危険に晒しただけでなく、ラータニア存続を揺るがすような真似をしたとされている。
これから彼女をどうするのかは、なにも聞いていない。
というより、あの後すぐグングナルドに戻ってきてしまったので、その後のことは全く何も聞いていないのである。
こちらも色々投げ出してマリオンネに行ったり、浮島に行ったりしたため、城は大騒ぎだと分かっていた。なんといっても、城内のさんざんたる状況もそっちのけ、精霊が荒れ狂ったことに対しての説明もできていない。キグリアヌンのこともそのまま、オルデバルトなんて捕らえたまま放置。
勝手に多くを行ったので、怒られ覚悟でさっさとグングナルドに帰ることにした。
サラディカたちはルヴィアーレが無事であることを確認しつつも、ルヴィアーレを置いて王宮へ戻ってしまった。
アンリカーダが姉であることは知っているのか、さすがに一人にしようと思ったのだろう。多分。
ルヴィアーレは一人浮島に残った。
アウラウルは浮島を元に戻し、その間に精霊の王は再び消えてしまった。
彼らに言いたいことは多くあるが、きっと話にならないだろう。ルヴィアーレはただ、アンリカーダが飛び降りた方を向いたまま、じっと黙って遠くを見つめていた。
それから、元に戻った大地に、精霊たちが安心して方々に散らばるのを眺め、翼竜たちが鳴きながらマリオンネへと飛び始めたのを眺めて、やっとフィルリーネを視界に入れた。
「帰んないで平気なの?」
お別れの挨拶をしようとルヴィアーレを待っていたわけだが、そのままずっと立ち尽くしているルヴィアーレを置いて帰るわけにもいかない。
なんと言葉を掛けて良いかも分からないが、早く帰ってシエラフィアにその無事な姿を見せてあげた方が良いと思って、そんなことを言ったような気がする。
「航空艇行っちゃったけど? エレディナに送ってもらうつもり?」
みたいなことも言ったかもしれない。いかんせん結構疲れていたので、お風呂入って一瞬眠りたいとか半分思っていたら、ルヴィアーレがいきなり押さえ込むように抱きついてきた。
エネルギー切れですか!?
そうに違いない。一度抱きしめて、ぶらりと腕を垂らした。頭を人の肩に乗せたまま、黙って動こうとしない。
大丈夫じゃないよね。それくらいは分かるが。何を言っていいのか分からず、考えを巡らせた結果、頭をなでなでした。
いや。腕が届きにくかったので、首元あたりをなでなでしてやった。ルヴィアーレは案外身体が大きいのである。
「……して」
「うん?」
「どうして、……婚約破棄を」
婚約破棄したことは分かったのか。などと思いつつ、そういえば自分の手の甲からも印が消えていたので、それで気付いたわけね。などと思い直す。
いや、私も疲れていたんだよ。きっと。頭が回っていなかったので、適当に答えたような気がする。
「丁度いいと思って」
「ちょうど、いい?」
ルヴィアーレがバッと飛び退くように顔を上げた。だらしなく伸ばされていた腕が肩を握り、力がこもったのが分かる。
何かまずいことを言っただろうか? しかし、頭が回っていないので、あまり答え方を考えなかった。
「丁度良かったでしょ? ラータニアの精霊が王族に攻撃することは、一応ないことになってるから、保険のためラータニアの国の配置換えをした方がいいと思って、婚約破棄を」
こんなこともあろうかと、少し前に、翼竜のカーシェスに、婚約破棄を女王に関わらずに行えないのか、こっそり聞いておいたのだ。
婚約の儀式はムスタファ・ブレインが立ち合い人としていたが、契約を行うのは熱情の精霊ラファレスだけ。人型の精霊が関わるだけだったので、女王の許可は結局いるのかと疑問に思った次第である。
確かに、女王に何かあれば精霊が不安定になり、婚約の儀式がうまく行えないとは聞いていたが、破棄なら契約解除であるし、簡単に行えるのではないか。そんなことを考えていた。
ルヴィアーレはラータニアに戻っているし、精霊の力を借りられるのならば、借りられる立場になっていた方がいい。攻撃しにくい相手となっていれば、少しは違うかもしれない。
婚約破棄をすれば、勝手にラータニアの精霊たちが寄ってくるはずだ。
ルヴィアーレはラータニアの王族の中で、唯一の王の血を引く者である。まともな状態であれば、あわよくばすぐに力を貸してくれるかもしれない。ルヴィアーレはラータニアで精霊にとても好かれていたのだから。
なんて考えて、実行に移したわけである。
それを行うのにマリオンネに行けば、女王の印を得るなどという、別の契約が発生してしまったが。
「そんな、ことで、婚約破棄を?」
「うん。だから、早く破棄しなきゃと思って」
「早く、破棄……」
「破棄しても、精霊の協力は得られなかった? やっぱり、アンリカーダのせいで?」
まとっていたグングナルドの精霊たちの魔導はすぐに消えただろうから、逆に丸裸になってしまっただろうか。
「丸裸になっちゃった!?」
主語も言わず口にすると、ルヴィアーレがビクリと肩を揺らした。
え、なんですか。ちょっと怖いんですけど。
思ったのも束の間。ルヴィアーレが人の頬をぐにーっと掴んで伸ばした。
「ふえええっ!?」
しかも、両方の頬をつねって、ぐにぐに引っ張り、あまつ、勢いよく離してくれた。
「いだいっ!!」
「エレディナ! 王宮に戻るぞ。ラータニアのな!」
ルヴィアーレはそう怒鳴るようにエレディナを呼んだ。そうしてそのまま、パッと転移してしまったのである。
いや、エレディナさん、あなたグングナルドの王族じゃなくなったルヴィアーレの命令、なんで聞くのよ。
問う間もなく、フィルリーネはポツンとその場に残されたのだ。
ひどいよね。ひどいよ。ぷんすかだよ。
エレディナも、転移前に何か言いたそうな、呆れ顔をしていた。あーあ、と言わんばかりか、バカねえ、と言わんばかりの顔をしていた。
なんかまずいこと言いましたか?
私としては、ルヴィアーレに良かれと思って婚約破棄を行なったというのに。
解せん。
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