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調査3
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「主に購入ではあるんですけど、商人によってはラータニアへの輸入に関して相談を受けている者もいるようです」
カノイは調べてきた調査書をフィルリーネに渡した。
「商人への影響力を増やすつもりでしょうか」
アシュタルは不満気な声を出すが、もし自分が他国に嫁いだら同じことをするだろう。
ただ、ルヴィアーレが始めたのは遅すぎるわけだが。
「それはカノイだから分かり得たの? それとも他の者たちにも気付かれる程?」
「ルヴィアーレ王子の名前は出てませんから、調べなきゃ分かんないと思います。僕は姫様に言われてたから分かっただけで」
政務で同じ時間を過ごすことが多く、ルヴィアーレの部下たちとも面識があるカノイに、彼らの周囲は注視するよう前々から命じていた。それは勿論前王が倒れる前だったが継続したままだ。
ラータニア王シエラフィアと会合し、マリオンネに対しても今後の国の関係を考えても、お互い損をしない付き合い方を進めるべきと相槌を打ったわけだが、未だルヴィアーレが何故婚姻相手に選ばれたのか理由を知らない。
だからこそ、簡単に全てを信じることはできていないのだ。
ルヴィアーレを調べ続けるのは当然のこと。本人も気付いているだろうが。
「今更商人に接触するならば、ラータニアへの手土産と考えたいところだけれど」
「そのような甘い話でしょうか」
「王が倒れ自由がきくようになり、商人をラータニアに引き込みたい。その程度であれば良いけれど…」
おおよそ、あり得ぬことだろう。そうであれば王子の名を隠す必要がないからだ。
だとすれば、情報を得るためか。はたまた、情報を広げるためか。
「扱える駒を増やすのは当然だわ。ルヴィアーレの場合、何かと勘ぐりたくなるわね」
「深く調べた方が良いのでは」
「そうね。ルヴィアーレも今まで大人しくしてた方がおかしいんだから。先に私が動いたから動く必要がなかっただけで、本来なら前王の暗殺も考えていたでしょうし」
アレシウスの言う通り、ルヴィアーレは何の動きも表立ってしていない。だが、それはする必要がなかったからだ。ラータニアへ情報を渡すために軽く貴族たちに取り入る真似はしていたが、前王の牙城を崩すほど動いていたわけではない。
途中フィルリーネの不可解な動きに混乱させられたこともあり、曖昧な動きに終わった。
ラータニアが窮地に立たされれば、一体どんな手を使っただろうか。
今更知り得ぬことだが、興味深くもある。
「姫様の正体に気付いた人ですしね」
「あれはフィルリーネ様が仕方なくルヴィアーレ王子を助ける必要があったからだろう。放置されているままならば、全く気付かなかったはずだ」
「そっか。それもそうだよね。姫様、ルヴィアーレ王子に結構助け出してましたもんね」
面倒をされて前王に警戒されぬようしたかっただけだ。
もしもルヴィアーレがもう少し頭の回転が悪く、愚かな真似をして前王に暗殺を気付かれるような男だったならば、最悪こちらが先にルヴィアーレを動けなくしたかもしれない。
そうならなくて何よりだが、今度は別のことで頭を使わねばならないようだ。
「カノイ、悪いけどもう少し深く探ってくれる?」
「分かりました。もう少し深掘りして確認しますね」
「お願いね」
王子の存在を隠して動いているのならば、それなりの理由はあるだろう。警戒するに越したことはない。
カノイによろしくと頷きながら、フィルリーネは数日の自分の予定を思い浮かべていた。
「お願いと言っていて、何故このような場所にいるのでしょうか」
アシュタルはどうしても後ろを歩く癖が抜けないか、斜め後ろを陣取って眉を逆立てた。
最近大人しくしてたのに…。と言う小さな呟きが聞こえる。
人の流れに乗って店の並びを眺めながら、フィリィの格好をしたフィルリーネはぶつぶつ言っているアシュタルの睨みを背にして退けた。
「予定をつめれば外に出れそうだったんだもん」
「もんじゃありませんよ。もんじゃ。イアーナを置いてきたのは構いませんが」
今日は久し振りに街並みを確認するつもりだが、ルヴィアーレの話も気になっているので、イアーナは置いてきた。
さすがにイアーナを連れてラータニアの話は難しい。
アシュタルは不機嫌な物言いをしながらも、少し機嫌が良い。イアーナは目に見えてフィルリーネに対する敵対心を持たなくなったようだが、まだアシュタルは根に持っているようだ。
自分の守るべき主人を傷付けようとした者を隣に、その主人を警備するのには抵抗があっただろうから、当然なのだが。
アシュタルはルヴィアーレのことあんまり好きじゃないみたいなんだよねえ。
『それは仕方ないんじゃないの?』
エレディナが脳内で頷いた。やはり他国の人間が側にいるのは護衛からすると神経を尖らせなければならない対象だからだろう。
『……………はあ』
何故なのか。エレディナは人の脳内で大きな溜め息を吐いてくれる。言いたいことがあるならば言っていただきたい。
ルヴィアーレの動向は分かってないの?
『精霊を動かしたりはしてないわよ。あんたに気付かれたくないなら使わないでしょう』
そうだろうか。ルヴィアーレと精霊たちの相性は思いのほか良さそうだ。婚姻の許可を得られた早さを考えても、自分と精霊との相性が良くそれがルヴィアーレに共有しやすかったとしても、ルヴィアーレ自身の影響力は強いに違いない。
念の為、使わない程度に気を付けているだけな気がする。
エレディナこそ、その影響力を身に染みて感じているだろう。
ここのところ、フィルリーネから離れることが増えている。それはルヴィアーレに会いに行っているからだ。
「うわきものぉ」
「誰がですか!?」
つい口に出してしまうと、アシュタルがすかさず反応した。何か心当たりでもあるのか?
「エレディナがルヴィアーレを構ってばかりいるから」
「ああ。よく顔を出しているそうですね。ヨシュアも似たようなこと言ってました」
ヨシュアはたまに部屋にいると姿を現すことがあるのだが、ルヴィアーレ嫌いが功を奏したのか、アシュタルに良く質問をしているのだ。
仲が良いと言うよりは、ちょっとしたことをアシュタルに言うらしく、それに対してアシュタルが懇々と説明したり教えたりするものだから、妙に懐かれているらしい。
アシュタルがヨシュアの面倒を見ている感じはするが、ヨシュアの相手をしてくれると助かる。あの子は図体のでかい幼な子なのだ。
「フィルリーネ様は何でも精霊との相性が良いので、それがルヴィアーレ王子にも共有されてしまうとは聞きましたが、一匹の精霊が良くルヴィアーレ王子の後ろをついて片時も離れないのだとか?」
「ああ、あの子ねえ」
思い当たる精霊は一匹いる。後ろをついている程度ではなく、ルヴィアーレの首にくっついている子だ。
精霊にも雌雄はあるが、雌の精霊で、どこで引っ掛けてきたのか、愛らしいピンク色の花の精霊である。
『あれ、ほとんど一緒にいるわよ。最初ルヴィアーレも戻るように言ってたけど、諦めたんじゃない? 話を聞かなすぎてどうにもならないみたいよ』
「言うこと聞かないなんてあるんだ…」
大抵の精霊は相性が良ければ王族の言うことは聞いてくれる。できないことを命令して行わないとは違い、好かれていてきつく言っても言うことを聞かないと言うのは経験がない。
「たらしこんでしまったのか」
「ルヴィアーレ王子が精霊をですか?」
「変な匂いでも出してるのかねえ。女の子がきゃっきゃ言ってるのが精霊にも当てはまるとは」
「それに引っ掛かっていないフィルリーネ様の方が珍しいのでは?」
「冗談でしょ?」
返答にアシュタルが口を継ぐんだ。確かに最初からルヴィアーレの熱狂は狂い気だったが、全ての女性があの男に興味を持っているわけではないだろう。多分。
「フィルリーネ様はご存知ないかもしれませんが、未だルヴィアーレ王子の棟の近くを用もなくうろつく者はおりますし、外に出れば一目見ようとする女性は少なくないようです」
「それは、それはー」
そう言った輩がまだいるとは思わなかった。婚約が続いてさすがに諦める人が増えていると思っていたのだが、関係ないらしい。
「本命が国で待ってるから、どっちにしろ諦めるしかないと思うけど、想うのは自由よね」
「そうですね…」
アシュタルが遠い目をした。何か言いたいことあるなら、二人ともちゃんと言いなよ。
「あ、そろそろ着くからね。姿変えましょ。アシュタル、名前気を付けてね」
「承知しました」
通りから眺められる店の中に知った顔が見え、フィリィは顔を変えると、扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ。やだ、フィリィさんじゃない! 久し振り!!」
店に入るなり飛びついてきたのは、フィルリーネの衣装を作ることになったシニーユだ。
いらっしゃいと招くと、ずるずると部屋の奥へ引っ張る。
「もう、また来てくれるって言って、いっつも来るの遅いんだから。新しい服も沢山あるのよ。試着して行って。すぐ!」
有無を言わさないのが相変わらずである。一式を一瞬で集めてぐいぐい試着室へ勧めてくる。こちらの言い分は聞く気がない。
「今日はあまりお金を持っていなくて」
「いいのよ、試着してくれれば! フィルリーネ様への衣装もあるから、着せて見せてよ!」
着せ替え人形再びである。前にフィルリーネ戦闘用の衣装を手掛けてもらったが、それ以降新しい衣装は依頼していない。そのせいか、シニーユはフィルリーネの新しい衣装を考える時間が多かったようだ。
城に来るよう声を掛けないので、フィルリーネに見せることもできていないのだ。
試着する衣装をごっそりと持ってこられて、さすがに引き気味になる。
「今日は連れがいて」
「やだ、彼氏!? お兄さんじゃないわよね。こちらお座りになって。あなたもこの衣装を着たフィリィが見たいでしょ。見たいわよね!」
押しすぎのシニーユにアシュタルが勢いに押されている。目配せでこちらを見てくるが、彼女を止めるのは私も苦労するのだ。
カノイは調べてきた調査書をフィルリーネに渡した。
「商人への影響力を増やすつもりでしょうか」
アシュタルは不満気な声を出すが、もし自分が他国に嫁いだら同じことをするだろう。
ただ、ルヴィアーレが始めたのは遅すぎるわけだが。
「それはカノイだから分かり得たの? それとも他の者たちにも気付かれる程?」
「ルヴィアーレ王子の名前は出てませんから、調べなきゃ分かんないと思います。僕は姫様に言われてたから分かっただけで」
政務で同じ時間を過ごすことが多く、ルヴィアーレの部下たちとも面識があるカノイに、彼らの周囲は注視するよう前々から命じていた。それは勿論前王が倒れる前だったが継続したままだ。
ラータニア王シエラフィアと会合し、マリオンネに対しても今後の国の関係を考えても、お互い損をしない付き合い方を進めるべきと相槌を打ったわけだが、未だルヴィアーレが何故婚姻相手に選ばれたのか理由を知らない。
だからこそ、簡単に全てを信じることはできていないのだ。
ルヴィアーレを調べ続けるのは当然のこと。本人も気付いているだろうが。
「今更商人に接触するならば、ラータニアへの手土産と考えたいところだけれど」
「そのような甘い話でしょうか」
「王が倒れ自由がきくようになり、商人をラータニアに引き込みたい。その程度であれば良いけれど…」
おおよそ、あり得ぬことだろう。そうであれば王子の名を隠す必要がないからだ。
だとすれば、情報を得るためか。はたまた、情報を広げるためか。
「扱える駒を増やすのは当然だわ。ルヴィアーレの場合、何かと勘ぐりたくなるわね」
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アレシウスの言う通り、ルヴィアーレは何の動きも表立ってしていない。だが、それはする必要がなかったからだ。ラータニアへ情報を渡すために軽く貴族たちに取り入る真似はしていたが、前王の牙城を崩すほど動いていたわけではない。
途中フィルリーネの不可解な動きに混乱させられたこともあり、曖昧な動きに終わった。
ラータニアが窮地に立たされれば、一体どんな手を使っただろうか。
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「姫様の正体に気付いた人ですしね」
「あれはフィルリーネ様が仕方なくルヴィアーレ王子を助ける必要があったからだろう。放置されているままならば、全く気付かなかったはずだ」
「そっか。それもそうだよね。姫様、ルヴィアーレ王子に結構助け出してましたもんね」
面倒をされて前王に警戒されぬようしたかっただけだ。
もしもルヴィアーレがもう少し頭の回転が悪く、愚かな真似をして前王に暗殺を気付かれるような男だったならば、最悪こちらが先にルヴィアーレを動けなくしたかもしれない。
そうならなくて何よりだが、今度は別のことで頭を使わねばならないようだ。
「カノイ、悪いけどもう少し深く探ってくれる?」
「分かりました。もう少し深掘りして確認しますね」
「お願いね」
王子の存在を隠して動いているのならば、それなりの理由はあるだろう。警戒するに越したことはない。
カノイによろしくと頷きながら、フィルリーネは数日の自分の予定を思い浮かべていた。
「お願いと言っていて、何故このような場所にいるのでしょうか」
アシュタルはどうしても後ろを歩く癖が抜けないか、斜め後ろを陣取って眉を逆立てた。
最近大人しくしてたのに…。と言う小さな呟きが聞こえる。
人の流れに乗って店の並びを眺めながら、フィリィの格好をしたフィルリーネはぶつぶつ言っているアシュタルの睨みを背にして退けた。
「予定をつめれば外に出れそうだったんだもん」
「もんじゃありませんよ。もんじゃ。イアーナを置いてきたのは構いませんが」
今日は久し振りに街並みを確認するつもりだが、ルヴィアーレの話も気になっているので、イアーナは置いてきた。
さすがにイアーナを連れてラータニアの話は難しい。
アシュタルは不機嫌な物言いをしながらも、少し機嫌が良い。イアーナは目に見えてフィルリーネに対する敵対心を持たなくなったようだが、まだアシュタルは根に持っているようだ。
自分の守るべき主人を傷付けようとした者を隣に、その主人を警備するのには抵抗があっただろうから、当然なのだが。
アシュタルはルヴィアーレのことあんまり好きじゃないみたいなんだよねえ。
『それは仕方ないんじゃないの?』
エレディナが脳内で頷いた。やはり他国の人間が側にいるのは護衛からすると神経を尖らせなければならない対象だからだろう。
『……………はあ』
何故なのか。エレディナは人の脳内で大きな溜め息を吐いてくれる。言いたいことがあるならば言っていただきたい。
ルヴィアーレの動向は分かってないの?
『精霊を動かしたりはしてないわよ。あんたに気付かれたくないなら使わないでしょう』
そうだろうか。ルヴィアーレと精霊たちの相性は思いのほか良さそうだ。婚姻の許可を得られた早さを考えても、自分と精霊との相性が良くそれがルヴィアーレに共有しやすかったとしても、ルヴィアーレ自身の影響力は強いに違いない。
念の為、使わない程度に気を付けているだけな気がする。
エレディナこそ、その影響力を身に染みて感じているだろう。
ここのところ、フィルリーネから離れることが増えている。それはルヴィアーレに会いに行っているからだ。
「うわきものぉ」
「誰がですか!?」
つい口に出してしまうと、アシュタルがすかさず反応した。何か心当たりでもあるのか?
「エレディナがルヴィアーレを構ってばかりいるから」
「ああ。よく顔を出しているそうですね。ヨシュアも似たようなこと言ってました」
ヨシュアはたまに部屋にいると姿を現すことがあるのだが、ルヴィアーレ嫌いが功を奏したのか、アシュタルに良く質問をしているのだ。
仲が良いと言うよりは、ちょっとしたことをアシュタルに言うらしく、それに対してアシュタルが懇々と説明したり教えたりするものだから、妙に懐かれているらしい。
アシュタルがヨシュアの面倒を見ている感じはするが、ヨシュアの相手をしてくれると助かる。あの子は図体のでかい幼な子なのだ。
「フィルリーネ様は何でも精霊との相性が良いので、それがルヴィアーレ王子にも共有されてしまうとは聞きましたが、一匹の精霊が良くルヴィアーレ王子の後ろをついて片時も離れないのだとか?」
「ああ、あの子ねえ」
思い当たる精霊は一匹いる。後ろをついている程度ではなく、ルヴィアーレの首にくっついている子だ。
精霊にも雌雄はあるが、雌の精霊で、どこで引っ掛けてきたのか、愛らしいピンク色の花の精霊である。
『あれ、ほとんど一緒にいるわよ。最初ルヴィアーレも戻るように言ってたけど、諦めたんじゃない? 話を聞かなすぎてどうにもならないみたいよ』
「言うこと聞かないなんてあるんだ…」
大抵の精霊は相性が良ければ王族の言うことは聞いてくれる。できないことを命令して行わないとは違い、好かれていてきつく言っても言うことを聞かないと言うのは経験がない。
「たらしこんでしまったのか」
「ルヴィアーレ王子が精霊をですか?」
「変な匂いでも出してるのかねえ。女の子がきゃっきゃ言ってるのが精霊にも当てはまるとは」
「それに引っ掛かっていないフィルリーネ様の方が珍しいのでは?」
「冗談でしょ?」
返答にアシュタルが口を継ぐんだ。確かに最初からルヴィアーレの熱狂は狂い気だったが、全ての女性があの男に興味を持っているわけではないだろう。多分。
「フィルリーネ様はご存知ないかもしれませんが、未だルヴィアーレ王子の棟の近くを用もなくうろつく者はおりますし、外に出れば一目見ようとする女性は少なくないようです」
「それは、それはー」
そう言った輩がまだいるとは思わなかった。婚約が続いてさすがに諦める人が増えていると思っていたのだが、関係ないらしい。
「本命が国で待ってるから、どっちにしろ諦めるしかないと思うけど、想うのは自由よね」
「そうですね…」
アシュタルが遠い目をした。何か言いたいことあるなら、二人ともちゃんと言いなよ。
「あ、そろそろ着くからね。姿変えましょ。アシュタル、名前気を付けてね」
「承知しました」
通りから眺められる店の中に知った顔が見え、フィリィは顔を変えると、扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ。やだ、フィリィさんじゃない! 久し振り!!」
店に入るなり飛びついてきたのは、フィルリーネの衣装を作ることになったシニーユだ。
いらっしゃいと招くと、ずるずると部屋の奥へ引っ張る。
「もう、また来てくれるって言って、いっつも来るの遅いんだから。新しい服も沢山あるのよ。試着して行って。すぐ!」
有無を言わさないのが相変わらずである。一式を一瞬で集めてぐいぐい試着室へ勧めてくる。こちらの言い分は聞く気がない。
「今日はあまりお金を持っていなくて」
「いいのよ、試着してくれれば! フィルリーネ様への衣装もあるから、着せて見せてよ!」
着せ替え人形再びである。前にフィルリーネ戦闘用の衣装を手掛けてもらったが、それ以降新しい衣装は依頼していない。そのせいか、シニーユはフィルリーネの新しい衣装を考える時間が多かったようだ。
城に来るよう声を掛けないので、フィルリーネに見せることもできていないのだ。
試着する衣装をごっそりと持ってこられて、さすがに引き気味になる。
「今日は連れがいて」
「やだ、彼氏!? お兄さんじゃないわよね。こちらお座りになって。あなたもこの衣装を着たフィリィが見たいでしょ。見たいわよね!」
押しすぎのシニーユにアシュタルが勢いに押されている。目配せでこちらを見てくるが、彼女を止めるのは私も苦労するのだ。
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