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調査2
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「婚姻前のせいでしょうか、ルヴィアーレ様は突出して能力を出そうとする意識を感じないのですが」
アレシウスは遠慮げに言うが、言葉ははっきりとしている。
ルヴィアーレは目立った活動をしていない。何度か他の貴族たちと茶会をしているが大人しくしているばかりで、特定の者と懇意にしている姿もなかった。
まだ侮られていた方が動きやすいと思っているはずだ。外から見て大人しさを感じるならば、ルヴィアーレの思い通りだろう。
あの男は思うよりずっと狡猾である。知らぬ間に情報は得ているし、部下たちも能力がある。貴族たちと懇意にしている姿はなくとも、裏での繋がりが増えているのは耳にしていた。
知らないところでもっと繋ぎをつけていることがあるだろう。
ラータニア王の目的はグングナルドの安定だ。話はそれからだと言う姿勢がある。
そこから何を望むのか。
ルヴィアーレも信用し過ぎれない難しさがある。所詮他国の王子。全てを開くわけにはいかない。
「ルヴィアーレ様はとても思慮深い方よ。今を理解していらっしゃる方だわ。ラータニア王が最後の手として送られた方です。侮ると痛い目を見てよ」
「し、失礼を申し上げました」
アレシウスはすぐに頭を下げた。侮るなって言いたかっただけなんだけどね。後ろにイアーナがいるから変なこと話せないだけだよ。
「でも安心なさって。コニアサスを王にすることに変更はありません。邪魔な芽は全て詰み取るつもりよ。それが、どんなものでもあってもね」
「フィルリーネ様のお言葉に疑う心はございません。ダリアエル領はフィルリーネ様の心と共に」
アレシウスは畏まると、深々と頭を下げた。
「脅したみたいに見えましたよ」
アシュタルが溜め息混じりで言った。呆れたような物言いだ。
「脅してないよ、失礼な。侮ったら面倒な相手だって言いたかっただけよ」
「フィルリーネ様はご自分の迫力を考え直された方がいいですからね」
アシュタル、失礼なこと言うね。迫力って何さ。迫力って。
「姫様って普通に言っても脅したみたいに見えますもん」
人の背中で失礼なことを言ってくる。べちりと頭を殴ると、カノイが唸り声を上げて頭を押さえた。
「暴力反対―」
「うるさいわよ」
「だって本当のことじゃないですか。姫様凄みあるから脅してなくても脅してるように見えるんだって、いてっ」
べちりと音がして、カノイはやはり頭を抱えた。隣でアシュタルがくくくと笑いを噛み殺す。
今日は他の警備を置いて前のように休憩所でひそひそ話をしている。最近は自分に騎士団の警備が増えたことと、イアーナを近くに置いているせいで内緒話がしにくくなっているのだ。
部屋から出せば良いのだが、イムレスやガルネーゼに会う場合とはまた違うため、そこにカノイなど役所のない者を呼ぶのも難しい立場になってしまった。
仕方なく、会う方法が前と同じになってしまっている。
あんまり良くないんだけどね。気安い相手と話すのはこちらも気楽で、世間話のように情報を得られるのは利点で捨てきれない。
「アレシウス様はミュライレン様とコニアサス王子のために働いてくれそうで安心しましたね」
アシュタルは笑いを堪えるようにしながら話題を変えた。
アレシウスは元々ミュライレンを大事にしており、その息子であるコニアサスを心から可愛がっている。
二人を守るよう命令すれば喜んで行うわけで、二人に害を為す者を退けるためならしっかり働いてくれるだろう。
完全に信用されているわけではないが。
「前に比べて穏やかになりましたからね。フィルリーネ様への視線が厳しいものだったのが、不思議な気分です」
「厳しいって言うか、呪いかける勢いでこっち見てたわ」
コニアサスをいじめていると知らされていたアレシウスは、王城で会うたび眼力で殺すくらいの勢いで見て来たものである。
コニアサスが次期王と望んでいる者たちからすると、フィルリーネは目の上の瘤。アレシウスから見れば邪魔者でしかない。その上姉でありながらコニアサスを虐げていたと聞けば。
やるね。私はやる。コニアサスのために隙を見てやる。
アレシウスが短気でなくて良かったよ。もしも前王が次期王をコニアサスと指定していたら、アレシウスがどう動くかは今は想像したくないね。
「キグリアヌンの王子ですけど、予定通りお客さんたちに会ってますよ。姫様の指定されたお部屋で会ってはいますけど、人払いしますから何を話したかは分かってないです」
オルデバルトについては彼につけている警備や侍女たちに監視を続けさせている。そのため誰と会っているかは報告は来ていた。
「取るに足らない者たちばかりが集まっていると聞きました。前王派粛清の影響がなかった者たちですが…」
アシュタルは声音を落とした。取るに足らないと言いながら、口籠もり憂色を示す。
さすがに指定された部屋にのこのこと挨拶をしにくる愚か者はいなかったが、小者を向かわせて手紙を送るなどは容易いことだ。オルデバルトと連絡をつけることは可能だろう。
手紙程度では難しければ、使えを紛らせることもできる。
「今あるだけの似顔絵は持ってきましたよ」
「アシュタルに確認させて。私より知っている顔がいる率は高いでしょう」
「では、先に失礼します」
オルデバルトに客人と対話するための部屋を設けたのは、もう一つ理由があった。
部屋に入る全ての者を調べること。
警備や侍女たちに紛れさせ、驚異的な記憶力を持つ者を連れさせた。後に全員の似顔絵を描かせるためである。
要人の付き添いに何者かが紛れている可能性を考え、それを実行した。
話を盗み聞きできれば良いが、オルデバルトは魔導士を同伴していた。防音の魔導を掛けるような者がいれば侵入する精霊に気付かれることもある。
似顔絵は苦肉の策だ。
アシュタルは王騎士団。要人の顔を見掛ける率はフィルリーネよりも多い。アシュタルの記憶を頼りに確認をしてもらう。
「訪問を避けれられれば良かったけれどね」
「仕方ないですよ。避難しに来た王子を警備上閉じ込めようとしても、反対派が出て来ちゃったんですもん。それにオルデバルト王子も過剰な警備はいらないって、断って来たんですよね?」
「断れる立場じゃないのよ。減らすって言って減らしてないけどね。むしろ増やしてやったけどね」
それでも閉じ込める作戦は不可能だった。警備の為とは言え自国の不安定さをひけらかすわけにもいかないと言われれば、その通りだったからだ。
だったらオルデバルトが暗殺された場合、反対したお前ら全員首切るぞ。的な脅しはしておいたが、彼らはそうならないと信じる理由を持っている。
まあ、こちらの脅しにビビりまくってたけどね。
「フィルリーネ様、この男、見覚えがあります」
ずっと黙って似顔絵を確認していたアシュタルが似顔絵を渡してきた。
描かれていたのは一人の男で、鼻の下に小さなちょび髭と顎髭を蓄えている。髪は茶色で短くも長くもない髪型。顔はあまりこれといって特徴のないものだった。
「魔導院元副長のインスティアが連れていた男に顔が似ています」
「インスティア…、おじいちゃんたちならあり得るわね。魔導士の可能性は?」
「何とも言えませんが、インスティアが連れていたのですから、あるいは…」
アシュタルは唸って見せたが、魔導院元副長であったインスティアは魔導のない者を蔑んでいるきらいがあった。そこに前王が入っていないことに疑問を持つが、内心は蔑んでいたかもしれない。
それはともかく、自分の周囲も魔導に長けた者だけで集め、ガルネーゼなどには当たりが強かったことを思い出す。
「カノイ、イムレス様にも良く確認するように伝えてちょうだい」
「分かりました」
「アシュタルは、ハブテルにインスティアの周囲を調べるように伝えて」
「承知しました」
王騎士団団長には働いてもらってばかりだが、ハブテルはすぐに対応してくれるだろう。
「あと、姫様、僕ちょっと気になったことがあるんですけど」
カノイが珍しく遠慮気味に踏ん切り悪く言った。はっきりした物言いのカノイにはない態度だ。余程言いにくいことなのだろうか。
「ルヴィアーレ王子なんですけど、ここ最近商人との取引を増やしてるみたいです」
それはとても、不安気な物言いだった。
アレシウスは遠慮げに言うが、言葉ははっきりとしている。
ルヴィアーレは目立った活動をしていない。何度か他の貴族たちと茶会をしているが大人しくしているばかりで、特定の者と懇意にしている姿もなかった。
まだ侮られていた方が動きやすいと思っているはずだ。外から見て大人しさを感じるならば、ルヴィアーレの思い通りだろう。
あの男は思うよりずっと狡猾である。知らぬ間に情報は得ているし、部下たちも能力がある。貴族たちと懇意にしている姿はなくとも、裏での繋がりが増えているのは耳にしていた。
知らないところでもっと繋ぎをつけていることがあるだろう。
ラータニア王の目的はグングナルドの安定だ。話はそれからだと言う姿勢がある。
そこから何を望むのか。
ルヴィアーレも信用し過ぎれない難しさがある。所詮他国の王子。全てを開くわけにはいかない。
「ルヴィアーレ様はとても思慮深い方よ。今を理解していらっしゃる方だわ。ラータニア王が最後の手として送られた方です。侮ると痛い目を見てよ」
「し、失礼を申し上げました」
アレシウスはすぐに頭を下げた。侮るなって言いたかっただけなんだけどね。後ろにイアーナがいるから変なこと話せないだけだよ。
「でも安心なさって。コニアサスを王にすることに変更はありません。邪魔な芽は全て詰み取るつもりよ。それが、どんなものでもあってもね」
「フィルリーネ様のお言葉に疑う心はございません。ダリアエル領はフィルリーネ様の心と共に」
アレシウスは畏まると、深々と頭を下げた。
「脅したみたいに見えましたよ」
アシュタルが溜め息混じりで言った。呆れたような物言いだ。
「脅してないよ、失礼な。侮ったら面倒な相手だって言いたかっただけよ」
「フィルリーネ様はご自分の迫力を考え直された方がいいですからね」
アシュタル、失礼なこと言うね。迫力って何さ。迫力って。
「姫様って普通に言っても脅したみたいに見えますもん」
人の背中で失礼なことを言ってくる。べちりと頭を殴ると、カノイが唸り声を上げて頭を押さえた。
「暴力反対―」
「うるさいわよ」
「だって本当のことじゃないですか。姫様凄みあるから脅してなくても脅してるように見えるんだって、いてっ」
べちりと音がして、カノイはやはり頭を抱えた。隣でアシュタルがくくくと笑いを噛み殺す。
今日は他の警備を置いて前のように休憩所でひそひそ話をしている。最近は自分に騎士団の警備が増えたことと、イアーナを近くに置いているせいで内緒話がしにくくなっているのだ。
部屋から出せば良いのだが、イムレスやガルネーゼに会う場合とはまた違うため、そこにカノイなど役所のない者を呼ぶのも難しい立場になってしまった。
仕方なく、会う方法が前と同じになってしまっている。
あんまり良くないんだけどね。気安い相手と話すのはこちらも気楽で、世間話のように情報を得られるのは利点で捨てきれない。
「アレシウス様はミュライレン様とコニアサス王子のために働いてくれそうで安心しましたね」
アシュタルは笑いを堪えるようにしながら話題を変えた。
アレシウスは元々ミュライレンを大事にしており、その息子であるコニアサスを心から可愛がっている。
二人を守るよう命令すれば喜んで行うわけで、二人に害を為す者を退けるためならしっかり働いてくれるだろう。
完全に信用されているわけではないが。
「前に比べて穏やかになりましたからね。フィルリーネ様への視線が厳しいものだったのが、不思議な気分です」
「厳しいって言うか、呪いかける勢いでこっち見てたわ」
コニアサスをいじめていると知らされていたアレシウスは、王城で会うたび眼力で殺すくらいの勢いで見て来たものである。
コニアサスが次期王と望んでいる者たちからすると、フィルリーネは目の上の瘤。アレシウスから見れば邪魔者でしかない。その上姉でありながらコニアサスを虐げていたと聞けば。
やるね。私はやる。コニアサスのために隙を見てやる。
アレシウスが短気でなくて良かったよ。もしも前王が次期王をコニアサスと指定していたら、アレシウスがどう動くかは今は想像したくないね。
「キグリアヌンの王子ですけど、予定通りお客さんたちに会ってますよ。姫様の指定されたお部屋で会ってはいますけど、人払いしますから何を話したかは分かってないです」
オルデバルトについては彼につけている警備や侍女たちに監視を続けさせている。そのため誰と会っているかは報告は来ていた。
「取るに足らない者たちばかりが集まっていると聞きました。前王派粛清の影響がなかった者たちですが…」
アシュタルは声音を落とした。取るに足らないと言いながら、口籠もり憂色を示す。
さすがに指定された部屋にのこのこと挨拶をしにくる愚か者はいなかったが、小者を向かわせて手紙を送るなどは容易いことだ。オルデバルトと連絡をつけることは可能だろう。
手紙程度では難しければ、使えを紛らせることもできる。
「今あるだけの似顔絵は持ってきましたよ」
「アシュタルに確認させて。私より知っている顔がいる率は高いでしょう」
「では、先に失礼します」
オルデバルトに客人と対話するための部屋を設けたのは、もう一つ理由があった。
部屋に入る全ての者を調べること。
警備や侍女たちに紛れさせ、驚異的な記憶力を持つ者を連れさせた。後に全員の似顔絵を描かせるためである。
要人の付き添いに何者かが紛れている可能性を考え、それを実行した。
話を盗み聞きできれば良いが、オルデバルトは魔導士を同伴していた。防音の魔導を掛けるような者がいれば侵入する精霊に気付かれることもある。
似顔絵は苦肉の策だ。
アシュタルは王騎士団。要人の顔を見掛ける率はフィルリーネよりも多い。アシュタルの記憶を頼りに確認をしてもらう。
「訪問を避けれられれば良かったけれどね」
「仕方ないですよ。避難しに来た王子を警備上閉じ込めようとしても、反対派が出て来ちゃったんですもん。それにオルデバルト王子も過剰な警備はいらないって、断って来たんですよね?」
「断れる立場じゃないのよ。減らすって言って減らしてないけどね。むしろ増やしてやったけどね」
それでも閉じ込める作戦は不可能だった。警備の為とは言え自国の不安定さをひけらかすわけにもいかないと言われれば、その通りだったからだ。
だったらオルデバルトが暗殺された場合、反対したお前ら全員首切るぞ。的な脅しはしておいたが、彼らはそうならないと信じる理由を持っている。
まあ、こちらの脅しにビビりまくってたけどね。
「フィルリーネ様、この男、見覚えがあります」
ずっと黙って似顔絵を確認していたアシュタルが似顔絵を渡してきた。
描かれていたのは一人の男で、鼻の下に小さなちょび髭と顎髭を蓄えている。髪は茶色で短くも長くもない髪型。顔はあまりこれといって特徴のないものだった。
「魔導院元副長のインスティアが連れていた男に顔が似ています」
「インスティア…、おじいちゃんたちならあり得るわね。魔導士の可能性は?」
「何とも言えませんが、インスティアが連れていたのですから、あるいは…」
アシュタルは唸って見せたが、魔導院元副長であったインスティアは魔導のない者を蔑んでいるきらいがあった。そこに前王が入っていないことに疑問を持つが、内心は蔑んでいたかもしれない。
それはともかく、自分の周囲も魔導に長けた者だけで集め、ガルネーゼなどには当たりが強かったことを思い出す。
「カノイ、イムレス様にも良く確認するように伝えてちょうだい」
「分かりました」
「アシュタルは、ハブテルにインスティアの周囲を調べるように伝えて」
「承知しました」
王騎士団団長には働いてもらってばかりだが、ハブテルはすぐに対応してくれるだろう。
「あと、姫様、僕ちょっと気になったことがあるんですけど」
カノイが珍しく遠慮気味に踏ん切り悪く言った。はっきりした物言いのカノイにはない態度だ。余程言いにくいことなのだろうか。
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