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ロデリアナ4
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激しい衝撃に部屋が揺れた。
アシュタルの防御により反射した魔導が、壁面を削りぱらぱらと崩れ落ちる。
攻撃をされたイアーナはクローゼットにめり込んでいた。攻撃を加えたのはルヴィアーレだ。アシュタルが防御した瞬間、イアーナへ魔導の攻撃を食らわせた。
ロデリアナたちの悲鳴が部屋に響く。イアーナが額から血を流しながらも、ゆらりと立ち上がったからだ。
「お下がりください!」
ハブテルたち騎士団が剣を構えた。カリアを背にしたルヴィアーレの前に、騎士たちがばらばらと散らばる。
「ハブテル、殺さないで。操られているだけだわ」
「しかし、」
「イアーナは怪力だ。手を抜くと逆にやられるぞ」
ルヴィアーレが言った途端、イアーナが獣のような形相で掴み掛かってくる。理性を失っているか、魔導を飛ばしてきた割に剣を手にしようとはせず、突っ込んできた。
レブロンはイアーナに容赦なく魔導を飛ばした。イアーナは魔導で防御することなくその魔導を受ける。衝撃に飛ばされるかと思えば、イアーナはそれを両手で防いで耐えた。
「あの攻撃を腕だけで耐えるのか!?」
王騎士団がざわめく。レブロンは手加減しただろうが、間違えば腕が飛ばされるだろう。
しかしイアーナはふらりと傾いだだけで、両腕をだらりと伸ばしながら焦点も合わぬまま、再びカリアを目掛けて突進してきた。
「下がっていろ。イアーナは魔導に耐性がある。あと馬鹿力だ。掴まれれば簡単に縊り殺されるぞ」
どれだけ特異体質だ。レブロンは鞘に収められたままの剣を盾にするように、突っ込んできたイアーナを抑えた。
イアーナより頭一つ分身長も高くがたいもあるレブロンが、その勢いを抑えきれず足元の絨毯を引き摺ったまま押し負けていく。
そこにサラディカが遠慮なしに魔導を飛ばした。横に吹っ飛ばされたイアーナがテーブルに直撃した。宝石が飛び散りテーブルが大仰な音を立てて真っ二つに折れる。
仲間とは思えない攻撃に騎士団が呆気に取られるほどだ。
それなのに、イアーナは何てことはないと立ち上がる。しかしまだ正気を取り戻さないか、視線が虚のままだった。
「ヨシュア!」
カリアが呼んだ瞬間、赤いマントを羽織ったヨシュアがイアーナの頭上に現れた。全体重を込めて、頭を一掴みにし地面に叩きつける。
頭の骨が折れたのではないか。そんな心配をしたくなるほどイアーナの頭が地面にめり込んだ。
部屋はボロボロになり、崩れた壁がぱらぱらと音を立てて落ちた。ヨシュアの足元で反応しないイアーナを見て、やっと騒ぎが収まったのが分かった。
「フィルリーネ様、お怪我はありませんでしたか」
「大丈夫よ。皆が守ってくれました。状況を教えてくれる?」
ハブテルは静かに頷く。
「ルヴィアーレ王子の騎士の一人ですが、やはり薬物による催眠が掛かっていたようです。屋敷でこぼれた薬に、その催眠を増幅させる作用がありました。また、ルヴィアーレ王子の棟に設置された魔導具もその一環でした」
「それは…、随分と念入りな計画だこと」
「イムレス様によると、催眠の対象はフィルリーネ様だった可能性が高いとのことです」
隣でルヴィアーレがぴくりと眉を動かす。思ったより面倒な事件だったことに怒りを覚えているのだろうか。珍しく重い雰囲気を滲ませる。
自分の部下を使われて腹も立てただろう。この計画が成功していれば、ルヴィアーレどころかラータニアがフィルリーネ暗殺を目論んだとされたはずだ。
犯人は警戒されぬようイアーナに近付き、フィルリーネを狙うよう誘導していたのだ。
それを助長させる薬物をロデリアナが手にしていた。ロデリアナは魔導具をもらった店からそれを得ていたわけだが、それを知らないロデリアナは男を誘惑し自身を防御する香水などと適当な効果を説明され、有事には投げつけろと助言されていた。
「瓶に入っていた薬物と同じ薬物が、イアーナ殿の血液から確認されました。瓶から薬物がこぼれたことにより、多くの薬物を吸い込んでしまったため、効果が増幅されたようです」
ハブテルはイムレスの調べた調査書を出した。
薬物を身体に取り込めば取り込むほど、催眠の強度が上がる。薬物と魔導が部屋に溢れたことにより、イアーナの理性がなくなり、狂人のようにカリアに扮したフィルリーネを狙った。
そして、ルヴィアーレを暗殺するための魔導具は、本来ルヴィアーレを狙うのではなく、イアーナの洗脳を高めるための魔導具だったのだ。
ルヴィアーレの部屋にはイアーナもよく訪れる。ルヴィアーレが魔導具の影響を受けても構わないのだから、一石二鳥だっただろう。
狙われていたのはイアーナの方だとは、誰も気付きはしない。
「真犯人はロデリアナに罪を着せたかったのかしら。それとも、調べにヒステリーを起こすことまで計算に入れていたのかしら」
本来ルヴィアーレがロデリアナに会いにいくことなどなかったのだから、犯人は香水を投げ付ける方を想定していただろうか。
「あの薬物は匂いを感じずともしばらく残るそうです。令嬢を捕らえる際に薬物を投げつけられれば、王騎士団の誰かが薬物を被ったでしょう。そのままルヴィアーレ王子にお会いすることがあれば、影響があったかもしれません。ただ相当量を含む必要があるため、あの場に居合わせたのは運が悪かったのだと」
イアーナを狂わせるにはそれなりの量が必要だったわけだ。ロデリアナを使ったのは保険だったのかもしれない。
もしくは、ルヴィアーレが動くことすら計算に入れていたか。
どちらにしても、フィルリーネを暗殺するために、ラータニアを犯人に仕立てる計画的な犯行だ。
今回の事件は王騎士団を動かしたとは言え、情報を公にしないまま秘密裏に動いていた。
魔導院に隠れた王派が残っているため、信頼できる者たちだけで動いていたのが功を奏したようだ。
イアーナがフィルリーネを攻撃したとは、後々問題になって当然な話になる。例え故意ではなかったとしても、王女に傷が付けば罰は逃れられない。
しかし、犯人の目的がルヴィアーレを陥れるとなると、今までの前王の目的から外れることになる。
「前王の意思は継いでいないようね」
「ラータニアとの確執を作るつもりならば、そうなるだろうな」
「ラータニアと喧嘩して喜ぶ者は誰かしらね」
ラータニアがフィルリーネを狙えば、ラータニアからの後ろ盾はなかったことにされるだろう。本当にそれを狙っていたのならば、犯人は誰になるのか。指示をしたのはどこのどいつなのか。
「キグリアヌン国と言う可能性は?」
嫌なことを言ってくれる。しかし、その可能性は高い。
フィルリーネが死亡、もしくは重症となれば、ラータニアは大きな非難を受ける。フィルリーネが死ねば幼いコニアサスが王に。フィルリーネが怪我をすれば、ルヴィアーレの部下の所業として婚約破棄の話が出るだろう。
ルヴィアーレとの婚約を解消させ、キグリアヌンがフィルリーネの伴侶として手を上げるならば、
「ここでオルデバルトが出てきたら、とても面倒なんだけれど?」
「もしくは、マリオンネ」
その言葉にハブテルが眉を顰めた。ハブテルには天空のマリオンネについての情報は与えていない。マリオンネが特別で神聖視されている中、その情報を与えるには証拠がなさすぎた。
だから、不穏を知っているのはイムレスやガルネーゼ、アシュタルくらいになる。
さすがのハブテルもマリオンネを貶める言葉が出るとは思わないだろう。
「ハブテル。マリオンネについては今後説明する。今はその可能性があることだけを頭に入れておいてちょうだい」
「承知しました」
納得するにはよくよく説明しなければならない。ラータニアはマリオンネの不穏を確信しているようだが、こちらにはその証拠はほとんどない。王族以外の者に納得させるほど情報がないのだ。
ハブテルならば信じてくれるだろうが、今説明するには長くなりすぎる。
ハブテルは忠臣として、今はマリオンネがそうであるものとして納得してくれると頷いてくれた。
「魔導具を手に入れていた店の件は?」
「魔導具を手渡した男は捕らえましたが、製作者については知らぬようです。受け渡しに使われただけの可能性があります。また、あの店にはフィルリーネ様のお考え通り、地下道への抜け道がございました。現在調査中です」
やはり地下に道があったか。逃げ道として用意していたか、例え製作者があの店に通っても外から監視していては気付かれない。
カリアとして魔導具を取りに行った計画は案外簡単に進められた。ロデリアナを釣るのは楽だったが、適当な計画に見えて多くの罠を仕込んでいる相手だ。粗が多い割に犯人像が見えない。抜け道くらい用意して当然だろう。
あの店にカリアとして訪れた後、エレディナの協力によってすぐに王騎士団が入り込んだ。エレディナはハブテルに連絡を取り、カリアが店を出た直後王騎士団が掌握した。そして屋敷に戻ったカリアを確認後、ルヴィアーレを連れて突入した。
しかし、主役は影のまま。真犯人は隠れたきり。
これでは反対を押し切って自分がカリアに扮した意味がない。
「店の者の中に、細目をした男がいたけれど、それは捕らえた?」
「店内にいた者は全て捕らえましたので、確認させます」
魔導具を手渡してきた男より、細目の男の方が落ち着いた雰囲気を持っていた。店に入った時カリアに注目しておきながら、他の男たちが一切カリアにちょっかいを出してこなかったのが気になったのだ。
ああいう手合いだ。気になれば声くらい掛けてくると思っていたが、細目の男が動けば周囲の男は動かなかった。
あの店の中では細目の男の方が立場が上に違いない。
「ワックボリヌの屋敷についてですが、離れから屋敷の外に出る通路が発見されました。夫人はそこから部下たちと逃げていたようです」
逃げた時期は分からない。ロデリアナが母親を最後に見たのはワックボリヌが捕まった後数日で、その後ずっと離れに身を置いて姿を現さなかった。
屋敷に調査が入った際はその場にいたが、その後屋敷に監視が付き門を封じた後、親戚などの家に出掛ける姿は見ていたが、それから屋敷を出ることがなかった。
その頃にはもう逃亡していたことになる。
夫の罪が軽くならないと分かっていたとはいえ、夫人の動きはロデリアナを捨てたと同じだった。
「娘を放置して部下たちと逃亡か。それに気付かぬ娘も娘だが」
ルヴィアーレの言葉に同感だが、同情する気も起きなかった。
アシュタルの防御により反射した魔導が、壁面を削りぱらぱらと崩れ落ちる。
攻撃をされたイアーナはクローゼットにめり込んでいた。攻撃を加えたのはルヴィアーレだ。アシュタルが防御した瞬間、イアーナへ魔導の攻撃を食らわせた。
ロデリアナたちの悲鳴が部屋に響く。イアーナが額から血を流しながらも、ゆらりと立ち上がったからだ。
「お下がりください!」
ハブテルたち騎士団が剣を構えた。カリアを背にしたルヴィアーレの前に、騎士たちがばらばらと散らばる。
「ハブテル、殺さないで。操られているだけだわ」
「しかし、」
「イアーナは怪力だ。手を抜くと逆にやられるぞ」
ルヴィアーレが言った途端、イアーナが獣のような形相で掴み掛かってくる。理性を失っているか、魔導を飛ばしてきた割に剣を手にしようとはせず、突っ込んできた。
レブロンはイアーナに容赦なく魔導を飛ばした。イアーナは魔導で防御することなくその魔導を受ける。衝撃に飛ばされるかと思えば、イアーナはそれを両手で防いで耐えた。
「あの攻撃を腕だけで耐えるのか!?」
王騎士団がざわめく。レブロンは手加減しただろうが、間違えば腕が飛ばされるだろう。
しかしイアーナはふらりと傾いだだけで、両腕をだらりと伸ばしながら焦点も合わぬまま、再びカリアを目掛けて突進してきた。
「下がっていろ。イアーナは魔導に耐性がある。あと馬鹿力だ。掴まれれば簡単に縊り殺されるぞ」
どれだけ特異体質だ。レブロンは鞘に収められたままの剣を盾にするように、突っ込んできたイアーナを抑えた。
イアーナより頭一つ分身長も高くがたいもあるレブロンが、その勢いを抑えきれず足元の絨毯を引き摺ったまま押し負けていく。
そこにサラディカが遠慮なしに魔導を飛ばした。横に吹っ飛ばされたイアーナがテーブルに直撃した。宝石が飛び散りテーブルが大仰な音を立てて真っ二つに折れる。
仲間とは思えない攻撃に騎士団が呆気に取られるほどだ。
それなのに、イアーナは何てことはないと立ち上がる。しかしまだ正気を取り戻さないか、視線が虚のままだった。
「ヨシュア!」
カリアが呼んだ瞬間、赤いマントを羽織ったヨシュアがイアーナの頭上に現れた。全体重を込めて、頭を一掴みにし地面に叩きつける。
頭の骨が折れたのではないか。そんな心配をしたくなるほどイアーナの頭が地面にめり込んだ。
部屋はボロボロになり、崩れた壁がぱらぱらと音を立てて落ちた。ヨシュアの足元で反応しないイアーナを見て、やっと騒ぎが収まったのが分かった。
「フィルリーネ様、お怪我はありませんでしたか」
「大丈夫よ。皆が守ってくれました。状況を教えてくれる?」
ハブテルは静かに頷く。
「ルヴィアーレ王子の騎士の一人ですが、やはり薬物による催眠が掛かっていたようです。屋敷でこぼれた薬に、その催眠を増幅させる作用がありました。また、ルヴィアーレ王子の棟に設置された魔導具もその一環でした」
「それは…、随分と念入りな計画だこと」
「イムレス様によると、催眠の対象はフィルリーネ様だった可能性が高いとのことです」
隣でルヴィアーレがぴくりと眉を動かす。思ったより面倒な事件だったことに怒りを覚えているのだろうか。珍しく重い雰囲気を滲ませる。
自分の部下を使われて腹も立てただろう。この計画が成功していれば、ルヴィアーレどころかラータニアがフィルリーネ暗殺を目論んだとされたはずだ。
犯人は警戒されぬようイアーナに近付き、フィルリーネを狙うよう誘導していたのだ。
それを助長させる薬物をロデリアナが手にしていた。ロデリアナは魔導具をもらった店からそれを得ていたわけだが、それを知らないロデリアナは男を誘惑し自身を防御する香水などと適当な効果を説明され、有事には投げつけろと助言されていた。
「瓶に入っていた薬物と同じ薬物が、イアーナ殿の血液から確認されました。瓶から薬物がこぼれたことにより、多くの薬物を吸い込んでしまったため、効果が増幅されたようです」
ハブテルはイムレスの調べた調査書を出した。
薬物を身体に取り込めば取り込むほど、催眠の強度が上がる。薬物と魔導が部屋に溢れたことにより、イアーナの理性がなくなり、狂人のようにカリアに扮したフィルリーネを狙った。
そして、ルヴィアーレを暗殺するための魔導具は、本来ルヴィアーレを狙うのではなく、イアーナの洗脳を高めるための魔導具だったのだ。
ルヴィアーレの部屋にはイアーナもよく訪れる。ルヴィアーレが魔導具の影響を受けても構わないのだから、一石二鳥だっただろう。
狙われていたのはイアーナの方だとは、誰も気付きはしない。
「真犯人はロデリアナに罪を着せたかったのかしら。それとも、調べにヒステリーを起こすことまで計算に入れていたのかしら」
本来ルヴィアーレがロデリアナに会いにいくことなどなかったのだから、犯人は香水を投げ付ける方を想定していただろうか。
「あの薬物は匂いを感じずともしばらく残るそうです。令嬢を捕らえる際に薬物を投げつけられれば、王騎士団の誰かが薬物を被ったでしょう。そのままルヴィアーレ王子にお会いすることがあれば、影響があったかもしれません。ただ相当量を含む必要があるため、あの場に居合わせたのは運が悪かったのだと」
イアーナを狂わせるにはそれなりの量が必要だったわけだ。ロデリアナを使ったのは保険だったのかもしれない。
もしくは、ルヴィアーレが動くことすら計算に入れていたか。
どちらにしても、フィルリーネを暗殺するために、ラータニアを犯人に仕立てる計画的な犯行だ。
今回の事件は王騎士団を動かしたとは言え、情報を公にしないまま秘密裏に動いていた。
魔導院に隠れた王派が残っているため、信頼できる者たちだけで動いていたのが功を奏したようだ。
イアーナがフィルリーネを攻撃したとは、後々問題になって当然な話になる。例え故意ではなかったとしても、王女に傷が付けば罰は逃れられない。
しかし、犯人の目的がルヴィアーレを陥れるとなると、今までの前王の目的から外れることになる。
「前王の意思は継いでいないようね」
「ラータニアとの確執を作るつもりならば、そうなるだろうな」
「ラータニアと喧嘩して喜ぶ者は誰かしらね」
ラータニアがフィルリーネを狙えば、ラータニアからの後ろ盾はなかったことにされるだろう。本当にそれを狙っていたのならば、犯人は誰になるのか。指示をしたのはどこのどいつなのか。
「キグリアヌン国と言う可能性は?」
嫌なことを言ってくれる。しかし、その可能性は高い。
フィルリーネが死亡、もしくは重症となれば、ラータニアは大きな非難を受ける。フィルリーネが死ねば幼いコニアサスが王に。フィルリーネが怪我をすれば、ルヴィアーレの部下の所業として婚約破棄の話が出るだろう。
ルヴィアーレとの婚約を解消させ、キグリアヌンがフィルリーネの伴侶として手を上げるならば、
「ここでオルデバルトが出てきたら、とても面倒なんだけれど?」
「もしくは、マリオンネ」
その言葉にハブテルが眉を顰めた。ハブテルには天空のマリオンネについての情報は与えていない。マリオンネが特別で神聖視されている中、その情報を与えるには証拠がなさすぎた。
だから、不穏を知っているのはイムレスやガルネーゼ、アシュタルくらいになる。
さすがのハブテルもマリオンネを貶める言葉が出るとは思わないだろう。
「ハブテル。マリオンネについては今後説明する。今はその可能性があることだけを頭に入れておいてちょうだい」
「承知しました」
納得するにはよくよく説明しなければならない。ラータニアはマリオンネの不穏を確信しているようだが、こちらにはその証拠はほとんどない。王族以外の者に納得させるほど情報がないのだ。
ハブテルならば信じてくれるだろうが、今説明するには長くなりすぎる。
ハブテルは忠臣として、今はマリオンネがそうであるものとして納得してくれると頷いてくれた。
「魔導具を手に入れていた店の件は?」
「魔導具を手渡した男は捕らえましたが、製作者については知らぬようです。受け渡しに使われただけの可能性があります。また、あの店にはフィルリーネ様のお考え通り、地下道への抜け道がございました。現在調査中です」
やはり地下に道があったか。逃げ道として用意していたか、例え製作者があの店に通っても外から監視していては気付かれない。
カリアとして魔導具を取りに行った計画は案外簡単に進められた。ロデリアナを釣るのは楽だったが、適当な計画に見えて多くの罠を仕込んでいる相手だ。粗が多い割に犯人像が見えない。抜け道くらい用意して当然だろう。
あの店にカリアとして訪れた後、エレディナの協力によってすぐに王騎士団が入り込んだ。エレディナはハブテルに連絡を取り、カリアが店を出た直後王騎士団が掌握した。そして屋敷に戻ったカリアを確認後、ルヴィアーレを連れて突入した。
しかし、主役は影のまま。真犯人は隠れたきり。
これでは反対を押し切って自分がカリアに扮した意味がない。
「店の者の中に、細目をした男がいたけれど、それは捕らえた?」
「店内にいた者は全て捕らえましたので、確認させます」
魔導具を手渡してきた男より、細目の男の方が落ち着いた雰囲気を持っていた。店に入った時カリアに注目しておきながら、他の男たちが一切カリアにちょっかいを出してこなかったのが気になったのだ。
ああいう手合いだ。気になれば声くらい掛けてくると思っていたが、細目の男が動けば周囲の男は動かなかった。
あの店の中では細目の男の方が立場が上に違いない。
「ワックボリヌの屋敷についてですが、離れから屋敷の外に出る通路が発見されました。夫人はそこから部下たちと逃げていたようです」
逃げた時期は分からない。ロデリアナが母親を最後に見たのはワックボリヌが捕まった後数日で、その後ずっと離れに身を置いて姿を現さなかった。
屋敷に調査が入った際はその場にいたが、その後屋敷に監視が付き門を封じた後、親戚などの家に出掛ける姿は見ていたが、それから屋敷を出ることがなかった。
その頃にはもう逃亡していたことになる。
夫の罪が軽くならないと分かっていたとはいえ、夫人の動きはロデリアナを捨てたと同じだった。
「娘を放置して部下たちと逃亡か。それに気付かぬ娘も娘だが」
ルヴィアーレの言葉に同感だが、同情する気も起きなかった。
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