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ロデリアナ
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ロデリアナは上機嫌だった。
ルヴィアーレが宝石を持ってご機嫌伺いにやってきたのだ。
毒々しい赤が似合うと言ったら失礼だろうか。輝く濃い赤の宝石が飾られた宝飾品は、繊細な細工が近くで見なくとも高価であると気付かせる。
「何て、美しい宝石でしょうか。嬉しいですわ。ルヴィアーレ様!」
早速近くにいた赤髪を束ねた侍女に自らを飾らせると、鏡を見ることなくルヴィアーレに飛び付かんばかりに感謝の意を述べた。
「事件の後苦労されたでしょう。何かできぬかと考えたところ、あなたの元侍女に話を聞くことができ、今日に至ったわけです」
「まあ、何て心優しいのでしょう」
ルヴィアーレに潤んだ瞳を向けているが、その元侍女の仕事に満足していないのか、部屋の片隅で怯えるように静かにしている侍女にねぎらいの言葉すら与えない。
もっと早く行っていれば良かったのに。そんな言葉さえ口にしてしまいそうなほど、ロデリアナの口角は上がり、狂気を孕んだ悪女の高笑いを我慢しているかのようだった。
「本日はご挨拶だけと思い参りました。事情を教えてくれた侍女は一度お返しします。何かあれば侍女を通しお知らせください。城へ通すよう手筈は整えておきます」
「承知しましたわ。そのように私を気遣ってくださるなんて。こんなに嬉しいことはございません」
立ち上がり帰ろうとしたルヴィアーレにロデリアナが抱き付くと、ルヴィアーレは悲しげに、「また会いに参ります」と屋敷を去っていった。
「こんなに早く来ていただけるとは思わなかったわ。きっといつでもこちらに来られる用意があったのよ」
ロデリアナは力説した。鼻歌でも歌いそうなほど機嫌が良くなり、ネックレスとイヤリングのセットで与えられた宝飾を身に付けたまま、恍惚と鏡を眺めた。
「けれど、すぐに帰られてしまったわ」
「そうですね。けれど、またいらっしゃるお約束をいただけたのですから。まだ魔導具の効きも薄いのかもしれません。いえ、魔導具など、きっかけを与えられたにすぎませんから、すぐにまたいらっしゃられますわ」
ロデリアナの睨みに赤髪の侍女が引き攣りそうになると、すぐにロデリアナが喜ぶように言葉を変える。
話から考えると、魔導具の効果という言葉が許せなかったのだろう。そんなものでルヴィアーレがロデリアナに会いに来たのではないと否定したようだ。
ロデリアナがルヴィアーレに手紙を出せば、いつも、城を離れるわけにはいかないので。と返信されてきたことを歯軋りするように言った。
「最初のお手紙には返事をいただけたのに、パーティのお誘いをしてから梨の礫。きっとあの女が邪魔していたに違いないわ」
あの女が誰とも言わず、赤髪の侍女は大きく頷く。
「そうでございましょう。これから何度も訪れられるはずですわ」
「いい気味ね。お父様があんなことにさえならなければ、もっと簡単に話が済んだはずなのに。お父様もお父様よ。どうしてルヴィアーレ様のことをずっと反対されていたのか。反乱が起こることも予知されていなかったのかしら」
「ガルネーゼ副宰相はカサダリアにいらっしゃいましたから、細かな情報が入らなかったのかもしれません」
「あんな反乱に負けるだなんて、今でも信じられないわ。それをさもあの女が指示していたなどと噂があるのもおかしいでしょ!?」
バシンと叩いたテーブルでがちゃりと紅茶のカップが浮いた。それをぼんやり見ている侍女にロデリアナがキッと睨み付ける。
「いつまでぼうっとしてるの。ルヴィアーレ様に余計なことを言ってないでしょうね!」
「も、ちろんでございます」
ルヴィアーレと共に屋敷に戻ってきた侍女は、うなだれるように頷いた。頭を上げぬままじっとしているので、ロデリアナはふんと鼻を鳴らす。
「まあまあ、お嬢様。カリアでも役に立つことがあって良かったですわ。ルヴィアーレ様の部屋近くまで行かねばならぬと言うのですから、最初はどうなることかと思いましたけれど、ルヴィアーレ様をお連れできたことは褒めてやりませんと」
「失敗でもして余計なことでも言っていたら、あんたの弟は切り刻んでやるところだったわよ」
ロデリアナの言葉に城から戻った侍女、カリアはぴくりと肩を揺らす。
「今日は屋敷で休んでいいけれど、明日になったらすぐ城に戻るのよ。ルヴィアーレ様のお側でいつまたこちらにいらっしゃられるのか、聞いてくるのよ!」
「あ、そのことですが」
「何よ!」
まだ何も言っていないのにロデリアナは怒鳴ってくる。いつもこうなのだろうが、短気すぎるだろう。
「もっと、魔導具は増やせないでしょうか」
口にした途端、ロデリアナがドガンとテーブルを叩いた。
「ルヴィアーレ様は最初から私を気に入っていたのよ! 魔導具はたまたま後押ししただけでしょ!」
王女の婚約者なのだから、国を考えれば簡単に拒否はできない。しかし、王が命じた婚約だ。王が捕らえられた今なら気にする必要がない。
そう断言するロデリアナに、カリアはもじもじと身体をくねらせた。
「念の為でもいいと思うのです。やはり婿としてグングナルドに来ているのだし、ろ、お嬢様を想っていても立場的に難しいことがあるかもしれません。なので、もう一押しするために、魔導具をルヴィアーレ様に贈られてはいかがですか? 魔導具が本物であろうとなかろうと、効果があれば良し。なければ贈り物というだけですから。お守りだとでも言えば」
魔導具は一見何の効果があるかは分からない。魔導院のように調査できる専門の魔導士がいれば調べられるが、調べなければただの飾りだと思われることもある。一見では分からないものなのではないかと、カリアは続ける。
「お守りとしてお渡しすれば常に持っていただけるかもしれません。ロデリアナ様の贈り物をいつも身に付けていただけるのは良い案ではないでしょうか?」
ロデリアナは人でも噛み殺しそうな顔をしていたが、赤髪の侍女が補足すると、ロデリアナはやっと納得したか再び鼻を鳴らして頷いた。
「そうね。それならいいわ。だったら明日にでも取り行ってらっしゃい。お前が行くのよカリア。私は二度とあんな汚いところに行かないわ」
「分かりました」
カリアの返事にロデリアナはほくそ笑むと、鏡を手にしながら贈られた宝石を愛おしそうに撫でた。
「良く無事だったわよね。いくら協力者がいるからって、城に乗り込むって聞いた時みんな蒼白だったわ。あんたが選ばれて私たちはほっとしたけど」
赤髪の侍女ヘレンは、呆れるような溜め息を吐いた。正直なところ成功すると思っていなかったと吐露する。
「あのまま帰ってこないと思ってたわ。お嬢様だって半信半疑だったし。でも、旦那様を助けるより先に王子を手にした方がいいって言われたから、それで随分乗り気になったけど」
「そうだね」
「やること多くてやんなっちゃうわ。みんな帰るところがあるからってさっさと辞めちゃうし。お嬢様は他家に推薦なんてしてくれないし。あんたは弟のことあるから辞めらんないでしょ。一人部屋になったのは嬉しいけど」
ヘレンはべらべらと聞いてもいないことを話して、一人でうんざりした顔を見せた。
大きな屋敷なのに人が全くいない。しんとした廊下は埃が残っており、明かりもほとんどついていない。
「あの、奥様は?」
「奥様は体調崩しておやすみよ。ずっとお部屋から出てきてないわよ。お嬢様もお会いしてないし」
「そうなんですか」
「奥様は寝たきりだし、お嬢様はいつもイライラ私たちにあたるし、さっさとルヴィアーレ様に援助もらわなきゃやってらんないわよ。お嬢様は前よりずっとうるさくて暴力的で、こっちが死にそう」
先程までロデリアナに媚びた話し方をしていたが、持ち上げないと物を投げられたりするらしい。
ルヴィアーレの援助があればこの状況も大きく変わるのだから、魔導具を使ってでも何とかして欲しいというのが本音のようだ。
「明日になったらすぐあの店に行くのよ? お嬢様また乗り気になったみたいだから。ちゃんと効いてもらわないと困るわ。ルヴィアーレ様がお嬢様に興味なんてほんとはないんでしょ? 魔導具ってすごいわよね。私もほしいわー」
「私が行って、その魔導具を渡してもらえるかな」
「もらわなきゃ、あんたが殴られるだけよ」
ヘレンは、言い出しっぺができないなんて言えるわけ? と嘲笑う。
店までは馬車で連れていってくれるが、その後魔導具を与えてくれた男に会えるか分からないと言う。
「ヘレンは行ったことあるの?」
「前お嬢様と一緒に行ったもの。手助けしてくれるって手紙を信じて良かったわよね。そうでなきゃ、今頃私たちだってお嬢様のイライラの吐口にされてるわ。ただでさえうるさいのに」
「でも、あんな手紙を信じるなんて」
「旦那様の知り合いだって言っても、あんなごろつきばかり集まってそうな店に来いなんて、信用できるなんてものではなかったわ。けど、もうどうしようもなかったんじゃない? 奥様は塞いじゃって頼りにならないし、お嬢様のお友だちもたかが知れてるし、誰も助けてくれないんだもの。お嬢様も藁にもすがる思いだったんでしょ。ご親戚たちもお嬢様の言葉は聞かないしね。お嬢様じゃ無理なのよ。奥様ならまだしも、お嬢様じゃヒステリックに喚いてばっかりなんだから」
ロデリアナの悪口なら溢れるほど出てくるようだ。ヘレンは言うだけ言ってすっきりした顔をすると、明日は一人であの店まで行きなさいよ。と一緒には絶対に行かないこと宣言し、自分の部屋に戻っていった。
ルヴィアーレが宝石を持ってご機嫌伺いにやってきたのだ。
毒々しい赤が似合うと言ったら失礼だろうか。輝く濃い赤の宝石が飾られた宝飾品は、繊細な細工が近くで見なくとも高価であると気付かせる。
「何て、美しい宝石でしょうか。嬉しいですわ。ルヴィアーレ様!」
早速近くにいた赤髪を束ねた侍女に自らを飾らせると、鏡を見ることなくルヴィアーレに飛び付かんばかりに感謝の意を述べた。
「事件の後苦労されたでしょう。何かできぬかと考えたところ、あなたの元侍女に話を聞くことができ、今日に至ったわけです」
「まあ、何て心優しいのでしょう」
ルヴィアーレに潤んだ瞳を向けているが、その元侍女の仕事に満足していないのか、部屋の片隅で怯えるように静かにしている侍女にねぎらいの言葉すら与えない。
もっと早く行っていれば良かったのに。そんな言葉さえ口にしてしまいそうなほど、ロデリアナの口角は上がり、狂気を孕んだ悪女の高笑いを我慢しているかのようだった。
「本日はご挨拶だけと思い参りました。事情を教えてくれた侍女は一度お返しします。何かあれば侍女を通しお知らせください。城へ通すよう手筈は整えておきます」
「承知しましたわ。そのように私を気遣ってくださるなんて。こんなに嬉しいことはございません」
立ち上がり帰ろうとしたルヴィアーレにロデリアナが抱き付くと、ルヴィアーレは悲しげに、「また会いに参ります」と屋敷を去っていった。
「こんなに早く来ていただけるとは思わなかったわ。きっといつでもこちらに来られる用意があったのよ」
ロデリアナは力説した。鼻歌でも歌いそうなほど機嫌が良くなり、ネックレスとイヤリングのセットで与えられた宝飾を身に付けたまま、恍惚と鏡を眺めた。
「けれど、すぐに帰られてしまったわ」
「そうですね。けれど、またいらっしゃるお約束をいただけたのですから。まだ魔導具の効きも薄いのかもしれません。いえ、魔導具など、きっかけを与えられたにすぎませんから、すぐにまたいらっしゃられますわ」
ロデリアナの睨みに赤髪の侍女が引き攣りそうになると、すぐにロデリアナが喜ぶように言葉を変える。
話から考えると、魔導具の効果という言葉が許せなかったのだろう。そんなものでルヴィアーレがロデリアナに会いに来たのではないと否定したようだ。
ロデリアナがルヴィアーレに手紙を出せば、いつも、城を離れるわけにはいかないので。と返信されてきたことを歯軋りするように言った。
「最初のお手紙には返事をいただけたのに、パーティのお誘いをしてから梨の礫。きっとあの女が邪魔していたに違いないわ」
あの女が誰とも言わず、赤髪の侍女は大きく頷く。
「そうでございましょう。これから何度も訪れられるはずですわ」
「いい気味ね。お父様があんなことにさえならなければ、もっと簡単に話が済んだはずなのに。お父様もお父様よ。どうしてルヴィアーレ様のことをずっと反対されていたのか。反乱が起こることも予知されていなかったのかしら」
「ガルネーゼ副宰相はカサダリアにいらっしゃいましたから、細かな情報が入らなかったのかもしれません」
「あんな反乱に負けるだなんて、今でも信じられないわ。それをさもあの女が指示していたなどと噂があるのもおかしいでしょ!?」
バシンと叩いたテーブルでがちゃりと紅茶のカップが浮いた。それをぼんやり見ている侍女にロデリアナがキッと睨み付ける。
「いつまでぼうっとしてるの。ルヴィアーレ様に余計なことを言ってないでしょうね!」
「も、ちろんでございます」
ルヴィアーレと共に屋敷に戻ってきた侍女は、うなだれるように頷いた。頭を上げぬままじっとしているので、ロデリアナはふんと鼻を鳴らす。
「まあまあ、お嬢様。カリアでも役に立つことがあって良かったですわ。ルヴィアーレ様の部屋近くまで行かねばならぬと言うのですから、最初はどうなることかと思いましたけれど、ルヴィアーレ様をお連れできたことは褒めてやりませんと」
「失敗でもして余計なことでも言っていたら、あんたの弟は切り刻んでやるところだったわよ」
ロデリアナの言葉に城から戻った侍女、カリアはぴくりと肩を揺らす。
「今日は屋敷で休んでいいけれど、明日になったらすぐ城に戻るのよ。ルヴィアーレ様のお側でいつまたこちらにいらっしゃられるのか、聞いてくるのよ!」
「あ、そのことですが」
「何よ!」
まだ何も言っていないのにロデリアナは怒鳴ってくる。いつもこうなのだろうが、短気すぎるだろう。
「もっと、魔導具は増やせないでしょうか」
口にした途端、ロデリアナがドガンとテーブルを叩いた。
「ルヴィアーレ様は最初から私を気に入っていたのよ! 魔導具はたまたま後押ししただけでしょ!」
王女の婚約者なのだから、国を考えれば簡単に拒否はできない。しかし、王が命じた婚約だ。王が捕らえられた今なら気にする必要がない。
そう断言するロデリアナに、カリアはもじもじと身体をくねらせた。
「念の為でもいいと思うのです。やはり婿としてグングナルドに来ているのだし、ろ、お嬢様を想っていても立場的に難しいことがあるかもしれません。なので、もう一押しするために、魔導具をルヴィアーレ様に贈られてはいかがですか? 魔導具が本物であろうとなかろうと、効果があれば良し。なければ贈り物というだけですから。お守りだとでも言えば」
魔導具は一見何の効果があるかは分からない。魔導院のように調査できる専門の魔導士がいれば調べられるが、調べなければただの飾りだと思われることもある。一見では分からないものなのではないかと、カリアは続ける。
「お守りとしてお渡しすれば常に持っていただけるかもしれません。ロデリアナ様の贈り物をいつも身に付けていただけるのは良い案ではないでしょうか?」
ロデリアナは人でも噛み殺しそうな顔をしていたが、赤髪の侍女が補足すると、ロデリアナはやっと納得したか再び鼻を鳴らして頷いた。
「そうね。それならいいわ。だったら明日にでも取り行ってらっしゃい。お前が行くのよカリア。私は二度とあんな汚いところに行かないわ」
「分かりました」
カリアの返事にロデリアナはほくそ笑むと、鏡を手にしながら贈られた宝石を愛おしそうに撫でた。
「良く無事だったわよね。いくら協力者がいるからって、城に乗り込むって聞いた時みんな蒼白だったわ。あんたが選ばれて私たちはほっとしたけど」
赤髪の侍女ヘレンは、呆れるような溜め息を吐いた。正直なところ成功すると思っていなかったと吐露する。
「あのまま帰ってこないと思ってたわ。お嬢様だって半信半疑だったし。でも、旦那様を助けるより先に王子を手にした方がいいって言われたから、それで随分乗り気になったけど」
「そうだね」
「やること多くてやんなっちゃうわ。みんな帰るところがあるからってさっさと辞めちゃうし。お嬢様は他家に推薦なんてしてくれないし。あんたは弟のことあるから辞めらんないでしょ。一人部屋になったのは嬉しいけど」
ヘレンはべらべらと聞いてもいないことを話して、一人でうんざりした顔を見せた。
大きな屋敷なのに人が全くいない。しんとした廊下は埃が残っており、明かりもほとんどついていない。
「あの、奥様は?」
「奥様は体調崩しておやすみよ。ずっとお部屋から出てきてないわよ。お嬢様もお会いしてないし」
「そうなんですか」
「奥様は寝たきりだし、お嬢様はいつもイライラ私たちにあたるし、さっさとルヴィアーレ様に援助もらわなきゃやってらんないわよ。お嬢様は前よりずっとうるさくて暴力的で、こっちが死にそう」
先程までロデリアナに媚びた話し方をしていたが、持ち上げないと物を投げられたりするらしい。
ルヴィアーレの援助があればこの状況も大きく変わるのだから、魔導具を使ってでも何とかして欲しいというのが本音のようだ。
「明日になったらすぐあの店に行くのよ? お嬢様また乗り気になったみたいだから。ちゃんと効いてもらわないと困るわ。ルヴィアーレ様がお嬢様に興味なんてほんとはないんでしょ? 魔導具ってすごいわよね。私もほしいわー」
「私が行って、その魔導具を渡してもらえるかな」
「もらわなきゃ、あんたが殴られるだけよ」
ヘレンは、言い出しっぺができないなんて言えるわけ? と嘲笑う。
店までは馬車で連れていってくれるが、その後魔導具を与えてくれた男に会えるか分からないと言う。
「ヘレンは行ったことあるの?」
「前お嬢様と一緒に行ったもの。手助けしてくれるって手紙を信じて良かったわよね。そうでなきゃ、今頃私たちだってお嬢様のイライラの吐口にされてるわ。ただでさえうるさいのに」
「でも、あんな手紙を信じるなんて」
「旦那様の知り合いだって言っても、あんなごろつきばかり集まってそうな店に来いなんて、信用できるなんてものではなかったわ。けど、もうどうしようもなかったんじゃない? 奥様は塞いじゃって頼りにならないし、お嬢様のお友だちもたかが知れてるし、誰も助けてくれないんだもの。お嬢様も藁にもすがる思いだったんでしょ。ご親戚たちもお嬢様の言葉は聞かないしね。お嬢様じゃ無理なのよ。奥様ならまだしも、お嬢様じゃヒステリックに喚いてばっかりなんだから」
ロデリアナの悪口なら溢れるほど出てくるようだ。ヘレンは言うだけ言ってすっきりした顔をすると、明日は一人であの店まで行きなさいよ。と一緒には絶対に行かないこと宣言し、自分の部屋に戻っていった。
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