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呪い

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「君は外出する度に、おかしなものを見付けるのだな」

 書類に目を通しながら話を聞くつもりだったが、そんなことを急に言われて、持っていた判を持ち上げたままルヴィアーレに視線をやる。

 無表情だし声音も変わらないが、怒っているように聞こえるのは何故だろう。

 偉そうにソファーで腕組んで座っている。姿勢がいいくせに視線はこちらに向いていなかった。だから怒っているように感じるのだろうか。

 どこ見て言ってるのかなあ。

「偶然、たまたま、見付けちゃってねえ」
「偶然? たまたま? わざわざ見付けに行ったのだろう?」
「いやいや、そんなことないよ。そんなことない」

 ぶんぶんとかぶりを振って否定する。隠された遺跡を見付けるのに必然などない。

 お陰でアシュタルが案内に連れて行かれてしまったので、アシュタルは出発する前にフィルリーネが余計な移動をしないよう、口が酸っぱくなるまで注意してきた。
 城の中がまた不穏な雰囲気になってきたのを感じ取っているからだ。

 しかし、呪いねえ。
 ルヴィアーレの棟に呪いの魔導具が仕込まれていた。だからお怒りなのだろうか。確かに見付けるのに時間が掛かっちゃったかもしれないからね。

 ルヴィアーレはこちらを向くと、わざとらしいほど大きな溜め息を吐いた。

「遺跡に関しては慎重になった方がいい。マリオンネが関わると面倒だ。精霊たちには口止めした方がいいだろう。マリオンネの人間を地上に下ろすような危険は避けるべきだ」

 冬の館の洞窟にはマリオンネの調査隊が現れた。それにどんな約束があり行われたかは知らないが、マリオンネにとっても重要な調査だったのだろう。

 どのような結果が出たかもこちらは知り得ない。ただその時に決まったのが、儀式を行い続けることだった。
 冬の館の洞窟のように、儀式を行い魔導を送ることが目的ならば、カサダリアの遺跡も同じかもしれない。
 マリオンネにカサダリアの遺跡に気付かれれば、マリオンネが関わってくる可能性が高くなる。

「アンリカーダは女王になるための儀式を行ったが、確実な許可が得られたかどうか不明だそうだ」
「女王になるための儀式?」

「女王は世襲だが、女王になるには精霊の儀式が必要となる。精霊の王に女王としての許可を得るそうだ。方法は知らぬが、許可を得られなければ女王の力を得られない。前女王の病が噂された頃にアンリカーダの即位が行われなかったのは、アンリカーダの若さもあったが、精霊の王からの許可が得られなかったと言う話がある」

 精霊の王。そんな話聞いたことがない。
 女王と血の繋がった子は必ず女で、その女が跡を継ぐ。今までずっとそうだった。今回もアンリカーダは女性で、次の後継者とされていた。だから精霊の許可を得られるのは当然で、女王の死後すぐに即位すると思っていたが。

「許可を得られないとしても、女王の子供はアンリカーダしかいないんでしょ? 拒否した場合女王不在になるじゃない」
「そこまでは知らぬ」

 精霊の王はマリオンネにいるとされているが、本当にいるのかは定かではない。いると思っているだけだ。
 しかし実際存在し、女王即位の許可を与える。
 だがその許可を与えないなんて、聞いたことがない。女王は脈々と受け継がれているのだから、許可を得られないことなどない。

「表向き即位していても、実際には女王の力がない可能性がある。アンリカーダが地上の王と懇意にした理由としては、分かりやすいだろう」
「精霊の王の許可が得られないから、地上の王と手を組むってこと?」

「アンリカーダが真の女王となれなかった場合、アンリカーダにとって必要なものは多ければ多いほど良い。それがマリオンネのものなのか、地上のものなのか、どちらもなのか。アンリカーダとグングナルド前王の利害が一致したのかもしれない。グングナルド前王が気に入っていた冬の館の洞窟がもう一つあるとすれば、アンリカーダは興味を持つと思うか?」

 そんな問い、まるで持っていると分かっているかのような。
 ルヴィアーレはアンリカーダが女王として実際は即位しておらず、そのため協力者を得ていたと確信しているようだ。

 そうであればマリオンネができる前に造られたかもしれない古い遺跡に、アンリカーダが興味を持つのは当然なのだと言いたいのか。

「グングナルドにある遺跡に心当たりでもあるの?」
「そんなものはない。だが魔導を奪うような遺跡であれば、奉納なのだろう。王を選定する遺跡が他にもあるとすれば、アンリカーダは試したくなるのではないのか?」

 王を選定する。グングナルドの王なのか、この地上の王なのか。マリオンネで女王となれないならば、地上の王を選ぶのか?

 答えのない問いなのに、ルヴィアーレは何か知っているかのようだ。いや、冬の館の洞窟では驚いていたのだから、洞窟自体は知らなかっただろう。

 だとしたら、浮島も同じようなことが起きるのではないだろうか。
 想像なら何でもできる。だが、今気にしなければならないのは、アンリカーダだ。

「分かった。精霊たちには口止めをしておく」
「私もそうしよう。マリオンネには届けぬよう徹底させる」

 精霊たちはルヴィアーレの命令を無視したりしない。魔導があるだけでなく、ルヴィアーレは間違いなく精霊に好かれていた。
 精霊を使い情報を得ているかもしれないな。得たとしても、精霊がこちらに伝えるだろうが、ルヴィアーレだけに従う精霊も今後出てくる。

 まったく、強力な協力者だが、凶悪な異国人でもある。まいったね。
 グングナルドを欲しがってるとは思わないが、もし自分が死んだらルヴィアーレはこの国の王になるだろう。
 それは阻止したい。

「それにしても、アシュタルは不運だな」
「アシュタル? なんで?」
 フィルリーネを危険に晒したとハブテルに怒られたらしいが。そのことだろうか。

「君の護衛を確実に行えると考えた矢先、案内に連れられただろう」
 不機嫌に呆れたように言われたが、それで不運なのかが良く分からなかった。どうせすぐに戻ってくるはずだ。

「そんなことより、呪いの方が気にならないの。狙われてるのあなたの方よ」
 言うと、ルヴィアーレは何故か驚いたように目をぱちくりさせた。何その子供みたいな顔。

「犯人は想定できているのだろう?」
 ルヴィアーレはクスリと笑った。先程まで無表情で不機嫌な雰囲気を醸し出していたのに、機嫌は良くなったらしい。何でだ?

「いやまあ、そうだけどね?」
 今回見付かった呪いの魔導具は、ルヴィアーレの住まう棟に仕込まれていた。
 とは言えそれが驚くほど素人の仕業だったので、ハブテルは逆に頭を悩ませていた。

「あなたの棟の警備は増やすし、気になるならばこっちに来なくてもいいのよ。しばらく自分の棟に籠もったら?」
「何故そうなる?」
「何故って」

 やはり不機嫌だと、こちらを睨みつけてきた。ころころ変わるな。どうしたの?
 それは言わず、うーん、と考えるふりをする。

「そっちの棟にいる方が危険か。別の棟用意する?」
「必要ない」

 きっぱりはっきり、断りの言葉をいただきました。
 だったら他にどうして欲しいのかね。

「アシュタルとは随分親しいのだな」
「そりゃ昔から知ってるからね。ずっとこき使ってるから、こき使われるの慣れちゃったのかも」

 またアシュタルの話? 最近多いよね。ルヴィアーレはアシュタルを気に入っているのだろうか。睨まれても気にしてるしさ。

「一番初めに、君の正体を知ったのか?」
「イムレス様とか抜かしたらってこと? それならロジェーニだけど」

 ロジェーニは幼い頃からの知り合いで、叔父の知り合いの子供だった。彼女には偽りが偽りだとずっと知られていたのだ。試す必要などない、信頼できる人である。

「そうか」
 ルヴィアーレはそのまま口を閉じた。こちらは呪いの話をしたいのだが、ルヴィアーレはアシュタルの心配ばかりしているようだ。いつの間にそんな心許しているのだろうか。

 もしかしてうちの人材引き抜く気? そんなの許しませんよ!?
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