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「王を投獄するなど、何と恐ろしい真似をされたのか!」
開口一番、ここ数年姿も見ていなかった古老の言葉に、鼻で笑いそうになってしまった。
横に控えていたガルネーゼが鋭く睨みつけたのだろう。勢いよく発言しておきながら、萎んだ花のように縮こまる。
「ランダンクルス様、あの男が今まで一体何をしてきたのか、ご存知ないようですわね」
「王をあの男呼ばわりとは。フィルリーネ様は一体どう言うおつもりですか!?」
「犯罪者を王と呼ぶ方が恐ろしいことだと、お気付きにならなくて? あの男によってどれだけの死者が出ているか。知らないとは言わせませんわよ」
戦いが終わり城の中がまだ落ち着きを取り戻していない中、老人会のような団体が城へやってきた。
領主を息子に引き継ぎ引退した。家督を息子に引き継ぎ終えた。そんな隠居されたご老公の集まりである。ただ、全盛期では国を切り盛りしていたため、発言には影響力がある、厄介な団体だ。
「国民を無視し、王を排除し、我が物顔で国の内政を変えているとまでの噂が出ているのですよ」
ランダンクルスの隣で老眼鏡を上げながらふんぞり返る男は、お腹が出ていて身体を真っ直ぐに保てない、元領主のサリーネスだ。長い白髪を背中に流し髭を蓄えている。集まった団体はみんなそんな感じなので、どれも似たり寄ったりだと思わずにはいられない。
ただその中で、少々おでこが目立つ元中央政務官のランダンクルスと、カサダリアに次ぐ街があるマグダリア元領主サリーネス、それからもう一人、魔導院副長を担っていた白髪をまとめた細身で知的な顔をしたインスティア。この三人が特に扱いにくい存在だった。
インスティアは口を開かずに、ただこちらを細目で見ているだけだが、これがイムレスの前任者なのだから、甘く見るわけにはいかない。何せあのニーガラッツの下で、文句もなく働いていた者である。
「国民を無視してきた方々に何を言われても、説得力はありませんわね」
「何と、失礼な!」
「言葉が過ぎますぞ、フィルリーネ様!」
「言葉がすぎる? 王女に対しての言葉とも思えませんわね。そのように喚くのならば、あの男がこの国に立っている間になさったらよろしかったでしょうに」
古老たちがフィルリーネに文句を言えば、全て彼らの胸に突き刺さることになる。フィルリーネが高飛車で我が儘王女と思ったまま発言をしてきているため、嫌味の返答の切れ味は余程鋭いらしい。
古老たちはぐっと言葉を詰まらせると、他所を向いたり咳払いをしたりした。
「フィルリーネ様。次代をコニアサス様と命じられたことは評価致しましょう。しかし、コニアサス様は五歳の誕生日を迎えたばかり。まだ幼子であるコニアサス様の後ろ盾となる方は、慎重に選ばねばならぬと存じますが?」
インスティアはフィルリーネの後ろ盾では心許ないと言ってくる。確かに、今まで政務を行なってきたとは言え殆ど邪魔しかしていないフィルリーネでは、コニアサスを導くにしても不安しか持てないだろう。
だが、フィルリーネを排してコニアサスを操りたいだけなら、その話をする気も起きない。
「インスティア、わたくしは補助をするだけですわ。宰相ガルネーゼ、魔導院院長イムレスが後ろ盾では、不安だと仰るのかしら? それとも、これ以上の人選があなた方にあって? あの男を正すこともできない者たちがコニアサスの後ろを立つなど、わたくしが許さなくてよ。役に立たぬ厚顔無恥はコニアサスには不要ですわ」
「フィルリーネ様! 失礼な物言いはそのくらいに、」
「それに、精霊の扱い方を教えられる者が、お知り合いにいらっしゃって?」
「それは、フィルリーネ様も同じでは?」
ランダンクルスの言葉を遮ると、今度はインスティアが口端を上げた。元魔導院の副長であった彼は精霊が見える魔導を持っている。存在に気付いても話ができなければ意味はないのだが、フィルリーネよりは精霊に詳しいと思っているのだろう。
「わたくしには、ルヴィアーレ様と言う方がいらっしゃるわ」
ここでルヴィアーレの名を出すのは癪だが、実際教えてもらうのは間違いではない。それにルヴィアーレの魔導が高いことは有名な話だ。それを疑うならばラータニアを蔑ろにすることになる。
ここでまだラータニアと戦いたいのならば文句は言ってくるだろうが、インスティアは口を閉じると目を眇めて顔を歪めた。
「ルヴィアーレ様には精霊の儀式について教えをいただく予定なのよ。この国は精霊に対して蔑ろにし過ぎていることが多すぎるため、その方向性を変えていく必要があるわ。ルヴィアーレ様にご教授いただければ、コニアサスにとってこれ以上のことはないでしょう。ルヴィアーレ様は間違っても、あの男のように精霊とお話ができない方ではなくてよ?」
その言葉に古老たちが反論できるわけがない。どれもこれも下を向いて言葉を止めた。三人の後ろではぼそぼそと野次る者がいたが、ルヴィアーレを出されれば口答えはできない。
先にルヴィアーレの了承を取っておいて良かったと、内心汗をかく。
「ご老公方、このような場所にわざわざいらっしゃり、今後を憂いていただいて嬉しいわ。けれど、引退されて時の緩やかさを感じていらっしゃるのでしょう。どうか皆様、安心なさって。この国は既に新しい時代に進んでおりますの。次代への希望を摘まぬためにも、新しい時代を生きる者たちを、草葉の陰から、見守っていてくださいませ」
にこりと笑顔で返すフィルリーネに、古老たちはひどい歪め顔を見せたが、言い返すこともできずにすごすごと部屋を出て行った。
「くっそじじども、うるさいのよ」
「口が悪いぞ」
「草葉の陰とは、中々痛快な言葉だったね」
ガルネーゼに叱られて、フィルリーネは口を尖らせた。その横でイムレスが嬉しそうに言ってくる。
「フィルリーネ様、どうぞ」
「ありがとう、ソーニャライ様」
お茶を運んできてくれた魔導院のソーニャライに礼を言うと、ソーニャライは、まあ。と驚いた表情をした。
「わたくしに様付けなどおやめください。わたくしはフィルリーネ様に仕える者ですわ」
「そんなに大袈裟に考えなくていいのよ。私はイムレス様もイムレス様って呼ぶし」
「俺には付けないがな」
「ガルネーゼはいいのよ」
「まったく…」
フィルリーネとの会話に、ソーニャライはくすくすと笑うと顔を綻ばせる。
ソーニャライは魔導院でイムレスについているが、魔導院で話をする時はソーニャライがお茶を淹れてくれた。砕けた話し方をしても外に漏らさないとイムレスが信頼している証である。
ソーニャライが淹れてくれたお茶は香りが高く、とても味が良い。口に含んで喉を潤すと、ほっと息を吐いた。
「それで、その古老どもは、君の排除にかかってくる可能性は高いのか?」
当たり前のように参加しているルヴィアーレは、カップを手にして澄まして問うてくる。今日はそんな話をするために呼んだわけではないが、先に愚痴ってしまったので問われて当然だった。
「可能性は大いにある。老人どもがこの娘の良し悪しを見直すわけがないし、王がいなくなればこの国を牛耳る隙が出来たと喜んでいるところだろう」
「ニーガラッツもいないからねえ」
王がいない、宰相がいない、魔導院の院長もいない、王騎士団の上層部もいない。いないだらけだが、こちらにはガルネーゼとイムレスがいる。そこに新しい者を入れてくるならコニアサスの教育係と言うところだろう。
国の宰相としてガルネーゼを任命したが、コニアサス直属に誰もついていない。ならば自分たちで取り込めると思っているのだ。浅はかすぎる。
「既に君がミュライレン様に接触していると分かっていて、それでも人を送ってくるわけならば、随分と舐められているな」
知っているが、ルヴィアーレに言われるとカチンとくる。なぜだろうか。
「ガルネーゼがミュライレン様の後ろ盾みたいなものなのに、そこに隙があると思えるのが不思議だわ」
元々ガルネーゼはミュライレンと故郷が一緒ということでよく気にしていたわけだが、教育という形でガルネーゼが常に関われるわけではないので、教師という形で入り込みたいのだろう。
だが既にコニアサスには教師を新しく付けている。
「新しい教師はイムレス様の弟子なんだけれどねえ」
「それだけ情報を得れていないと言うことだよ。ミュライレン様の臣下は父親のブライデンが選んでいる。ミュライレン様には王は関わることがなかったからね。妃の警備は父親の意向が強い」
ブライデンは魔鉱石が多く産出される領の元領主である。今は息子が領主を担っているため、ご老公たちと立場は同じだ。しかし、魔鉱石が採掘されると言うことはお金周りの良い領なため、王に娘を献上したがお金に困っているわけではない。
そもそもミュライレンが王に選ばれたのは魔導を多く持つからだった。ブライデンが王に取り入ろうと差し出したわけではない。しかし、金があっても王に逆らえるわけではなかったため、妃となったミュライレンのために周囲固めに力を入れた。
ブライデンは娘と孫が大好きな方である。その男に選ばれた部下たちは、選び抜かれた先鋭と言うわけだ。
「あの男が放置してくれたおかげで、ミュライレン様はコニアサスを可愛がることしかできなかったし、その分守りやすくもあったからね」
「君が馬鹿王女を演じていて、コニアサスに群がる者はいたのではないのか? それも排除しているならばかなり力のある領主だったわけだな」
「残念ながら、それができたのは、あの男がそれを許していたからなのよ。ある意味あの男が後ろ盾になっていたわけ」
ブライデンが自由に警備まで選べていたのは、王が許すと言ったからで、その意向に沿って行えていたに過ぎない。その王がいなければ何かしらにかけて手を出してくる者は増えてくるのだ。
ガルネーゼがミュライレンの同郷として手を貸しているのは知られているが、古老たちは圧力をかければ入り込めると思っているのだろう。
「それを餌にしている腹黒い者がいますから、それはそれでいいのですよ」
イムレスの指す腹黒い者をちらりと目にして、ルヴィアーレは納得の頷きをする。何か文句ありますか?
「とは言え、君を排除しようとする輩は増えるだろう。それをさらに排除しようとする君にも困ったものだけれど、あまり煽り過ぎて足をすくわれないようにしてほしいね」
「はあい。分かってます」
「分かっていないだろう!? エレディナが隠れていたとしても、まだベルロッヒの使っていた魔具の出どころが分かっていないんだ。あれにはエレディナも反応できなかったのだろうが?」
確かにベルロッヒの魔具は気を付けなければならない。それには頷いて、そろそろ目的の話をしようと興奮するガルネーゼを置いておいて、イムレスを促す。鼻息荒く興奮する男は放置である。
「女王の死去により、地方の困窮は目に見えて分かるようになってきたようだよ。オゼの研究で植物を魔導なしで成長させることに成功したけれど、数を増やすには時間が掛かりそうだね」
作物が豊作になるには、流石に一朝一夕にはいかない。しかし、ここでオゼの研究は役立ってもらわなければならない。
「人数を増やして薬を量産する必要がありますか?」
「そうだね。その予算がほしい。人選は行っておくよ」
「分かりました」
開口一番、ここ数年姿も見ていなかった古老の言葉に、鼻で笑いそうになってしまった。
横に控えていたガルネーゼが鋭く睨みつけたのだろう。勢いよく発言しておきながら、萎んだ花のように縮こまる。
「ランダンクルス様、あの男が今まで一体何をしてきたのか、ご存知ないようですわね」
「王をあの男呼ばわりとは。フィルリーネ様は一体どう言うおつもりですか!?」
「犯罪者を王と呼ぶ方が恐ろしいことだと、お気付きにならなくて? あの男によってどれだけの死者が出ているか。知らないとは言わせませんわよ」
戦いが終わり城の中がまだ落ち着きを取り戻していない中、老人会のような団体が城へやってきた。
領主を息子に引き継ぎ引退した。家督を息子に引き継ぎ終えた。そんな隠居されたご老公の集まりである。ただ、全盛期では国を切り盛りしていたため、発言には影響力がある、厄介な団体だ。
「国民を無視し、王を排除し、我が物顔で国の内政を変えているとまでの噂が出ているのですよ」
ランダンクルスの隣で老眼鏡を上げながらふんぞり返る男は、お腹が出ていて身体を真っ直ぐに保てない、元領主のサリーネスだ。長い白髪を背中に流し髭を蓄えている。集まった団体はみんなそんな感じなので、どれも似たり寄ったりだと思わずにはいられない。
ただその中で、少々おでこが目立つ元中央政務官のランダンクルスと、カサダリアに次ぐ街があるマグダリア元領主サリーネス、それからもう一人、魔導院副長を担っていた白髪をまとめた細身で知的な顔をしたインスティア。この三人が特に扱いにくい存在だった。
インスティアは口を開かずに、ただこちらを細目で見ているだけだが、これがイムレスの前任者なのだから、甘く見るわけにはいかない。何せあのニーガラッツの下で、文句もなく働いていた者である。
「国民を無視してきた方々に何を言われても、説得力はありませんわね」
「何と、失礼な!」
「言葉が過ぎますぞ、フィルリーネ様!」
「言葉がすぎる? 王女に対しての言葉とも思えませんわね。そのように喚くのならば、あの男がこの国に立っている間になさったらよろしかったでしょうに」
古老たちがフィルリーネに文句を言えば、全て彼らの胸に突き刺さることになる。フィルリーネが高飛車で我が儘王女と思ったまま発言をしてきているため、嫌味の返答の切れ味は余程鋭いらしい。
古老たちはぐっと言葉を詰まらせると、他所を向いたり咳払いをしたりした。
「フィルリーネ様。次代をコニアサス様と命じられたことは評価致しましょう。しかし、コニアサス様は五歳の誕生日を迎えたばかり。まだ幼子であるコニアサス様の後ろ盾となる方は、慎重に選ばねばならぬと存じますが?」
インスティアはフィルリーネの後ろ盾では心許ないと言ってくる。確かに、今まで政務を行なってきたとは言え殆ど邪魔しかしていないフィルリーネでは、コニアサスを導くにしても不安しか持てないだろう。
だが、フィルリーネを排してコニアサスを操りたいだけなら、その話をする気も起きない。
「インスティア、わたくしは補助をするだけですわ。宰相ガルネーゼ、魔導院院長イムレスが後ろ盾では、不安だと仰るのかしら? それとも、これ以上の人選があなた方にあって? あの男を正すこともできない者たちがコニアサスの後ろを立つなど、わたくしが許さなくてよ。役に立たぬ厚顔無恥はコニアサスには不要ですわ」
「フィルリーネ様! 失礼な物言いはそのくらいに、」
「それに、精霊の扱い方を教えられる者が、お知り合いにいらっしゃって?」
「それは、フィルリーネ様も同じでは?」
ランダンクルスの言葉を遮ると、今度はインスティアが口端を上げた。元魔導院の副長であった彼は精霊が見える魔導を持っている。存在に気付いても話ができなければ意味はないのだが、フィルリーネよりは精霊に詳しいと思っているのだろう。
「わたくしには、ルヴィアーレ様と言う方がいらっしゃるわ」
ここでルヴィアーレの名を出すのは癪だが、実際教えてもらうのは間違いではない。それにルヴィアーレの魔導が高いことは有名な話だ。それを疑うならばラータニアを蔑ろにすることになる。
ここでまだラータニアと戦いたいのならば文句は言ってくるだろうが、インスティアは口を閉じると目を眇めて顔を歪めた。
「ルヴィアーレ様には精霊の儀式について教えをいただく予定なのよ。この国は精霊に対して蔑ろにし過ぎていることが多すぎるため、その方向性を変えていく必要があるわ。ルヴィアーレ様にご教授いただければ、コニアサスにとってこれ以上のことはないでしょう。ルヴィアーレ様は間違っても、あの男のように精霊とお話ができない方ではなくてよ?」
その言葉に古老たちが反論できるわけがない。どれもこれも下を向いて言葉を止めた。三人の後ろではぼそぼそと野次る者がいたが、ルヴィアーレを出されれば口答えはできない。
先にルヴィアーレの了承を取っておいて良かったと、内心汗をかく。
「ご老公方、このような場所にわざわざいらっしゃり、今後を憂いていただいて嬉しいわ。けれど、引退されて時の緩やかさを感じていらっしゃるのでしょう。どうか皆様、安心なさって。この国は既に新しい時代に進んでおりますの。次代への希望を摘まぬためにも、新しい時代を生きる者たちを、草葉の陰から、見守っていてくださいませ」
にこりと笑顔で返すフィルリーネに、古老たちはひどい歪め顔を見せたが、言い返すこともできずにすごすごと部屋を出て行った。
「くっそじじども、うるさいのよ」
「口が悪いぞ」
「草葉の陰とは、中々痛快な言葉だったね」
ガルネーゼに叱られて、フィルリーネは口を尖らせた。その横でイムレスが嬉しそうに言ってくる。
「フィルリーネ様、どうぞ」
「ありがとう、ソーニャライ様」
お茶を運んできてくれた魔導院のソーニャライに礼を言うと、ソーニャライは、まあ。と驚いた表情をした。
「わたくしに様付けなどおやめください。わたくしはフィルリーネ様に仕える者ですわ」
「そんなに大袈裟に考えなくていいのよ。私はイムレス様もイムレス様って呼ぶし」
「俺には付けないがな」
「ガルネーゼはいいのよ」
「まったく…」
フィルリーネとの会話に、ソーニャライはくすくすと笑うと顔を綻ばせる。
ソーニャライは魔導院でイムレスについているが、魔導院で話をする時はソーニャライがお茶を淹れてくれた。砕けた話し方をしても外に漏らさないとイムレスが信頼している証である。
ソーニャライが淹れてくれたお茶は香りが高く、とても味が良い。口に含んで喉を潤すと、ほっと息を吐いた。
「それで、その古老どもは、君の排除にかかってくる可能性は高いのか?」
当たり前のように参加しているルヴィアーレは、カップを手にして澄まして問うてくる。今日はそんな話をするために呼んだわけではないが、先に愚痴ってしまったので問われて当然だった。
「可能性は大いにある。老人どもがこの娘の良し悪しを見直すわけがないし、王がいなくなればこの国を牛耳る隙が出来たと喜んでいるところだろう」
「ニーガラッツもいないからねえ」
王がいない、宰相がいない、魔導院の院長もいない、王騎士団の上層部もいない。いないだらけだが、こちらにはガルネーゼとイムレスがいる。そこに新しい者を入れてくるならコニアサスの教育係と言うところだろう。
国の宰相としてガルネーゼを任命したが、コニアサス直属に誰もついていない。ならば自分たちで取り込めると思っているのだ。浅はかすぎる。
「既に君がミュライレン様に接触していると分かっていて、それでも人を送ってくるわけならば、随分と舐められているな」
知っているが、ルヴィアーレに言われるとカチンとくる。なぜだろうか。
「ガルネーゼがミュライレン様の後ろ盾みたいなものなのに、そこに隙があると思えるのが不思議だわ」
元々ガルネーゼはミュライレンと故郷が一緒ということでよく気にしていたわけだが、教育という形でガルネーゼが常に関われるわけではないので、教師という形で入り込みたいのだろう。
だが既にコニアサスには教師を新しく付けている。
「新しい教師はイムレス様の弟子なんだけれどねえ」
「それだけ情報を得れていないと言うことだよ。ミュライレン様の臣下は父親のブライデンが選んでいる。ミュライレン様には王は関わることがなかったからね。妃の警備は父親の意向が強い」
ブライデンは魔鉱石が多く産出される領の元領主である。今は息子が領主を担っているため、ご老公たちと立場は同じだ。しかし、魔鉱石が採掘されると言うことはお金周りの良い領なため、王に娘を献上したがお金に困っているわけではない。
そもそもミュライレンが王に選ばれたのは魔導を多く持つからだった。ブライデンが王に取り入ろうと差し出したわけではない。しかし、金があっても王に逆らえるわけではなかったため、妃となったミュライレンのために周囲固めに力を入れた。
ブライデンは娘と孫が大好きな方である。その男に選ばれた部下たちは、選び抜かれた先鋭と言うわけだ。
「あの男が放置してくれたおかげで、ミュライレン様はコニアサスを可愛がることしかできなかったし、その分守りやすくもあったからね」
「君が馬鹿王女を演じていて、コニアサスに群がる者はいたのではないのか? それも排除しているならばかなり力のある領主だったわけだな」
「残念ながら、それができたのは、あの男がそれを許していたからなのよ。ある意味あの男が後ろ盾になっていたわけ」
ブライデンが自由に警備まで選べていたのは、王が許すと言ったからで、その意向に沿って行えていたに過ぎない。その王がいなければ何かしらにかけて手を出してくる者は増えてくるのだ。
ガルネーゼがミュライレンの同郷として手を貸しているのは知られているが、古老たちは圧力をかければ入り込めると思っているのだろう。
「それを餌にしている腹黒い者がいますから、それはそれでいいのですよ」
イムレスの指す腹黒い者をちらりと目にして、ルヴィアーレは納得の頷きをする。何か文句ありますか?
「とは言え、君を排除しようとする輩は増えるだろう。それをさらに排除しようとする君にも困ったものだけれど、あまり煽り過ぎて足をすくわれないようにしてほしいね」
「はあい。分かってます」
「分かっていないだろう!? エレディナが隠れていたとしても、まだベルロッヒの使っていた魔具の出どころが分かっていないんだ。あれにはエレディナも反応できなかったのだろうが?」
確かにベルロッヒの魔具は気を付けなければならない。それには頷いて、そろそろ目的の話をしようと興奮するガルネーゼを置いておいて、イムレスを促す。鼻息荒く興奮する男は放置である。
「女王の死去により、地方の困窮は目に見えて分かるようになってきたようだよ。オゼの研究で植物を魔導なしで成長させることに成功したけれど、数を増やすには時間が掛かりそうだね」
作物が豊作になるには、流石に一朝一夕にはいかない。しかし、ここでオゼの研究は役立ってもらわなければならない。
「人数を増やして薬を量産する必要がありますか?」
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