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「あなたはついてこなくていいのよ」
「あの場所でじっとしていろと?」
ルヴィアーレは澄まし顔で返してくるが、私の言葉を聞いていてくれただろうか。補償とか補償とか補償が面倒だから、動くな。落ち着いたらラータニアに戻れ。と言っていたはずなのだが。
それについてルヴィアーレは、承諾した覚えはない。としれっと言ってくれた。
「フィルリーネ様、合図です!」
アシュタルが空に飛ぶ黄色の煙幕を指さした。飛んできた方向は騎士寮がある。黄色は制圧した合図だ。それを目視すると、別の場所から赤色の煙幕が上がる。
赤色は窮地を表す色だ。
「中央広間からの信号です!」
「エレディナ!」
エレディナの手を握るとアシュタルがエレディナの逆の手を取った。転移する瞬間、ぐん、とマントが引かれた。
降り立った中央広間近くの柱廊。外向けのテラスに繋がる場所に、もぞもぞと動こうとして唸る男たちや魔獣たちがいた。
「な、何だ。これは?」
深緑のぬかるみにはまったように、男たちと魔獣たちがもがいている。うぞうぞとうごくぬかるみはフィルリーネたちを見付けて触手を伸ばすようにのろのろと動く。
「ヘライーヌの部屋で見たな」
「そうねえ。って、何でついてくるのよ! しかもイアーナとレブロン捨ててきてるじゃない!」
人のマントを引っ張ったルヴィアーレがちゃっかり転移についてきていた。その後ろにサラディカがしっかりいる。レブロンとイアーナはついてこれなかったようだ。イアーナはエレディナに触れている者に触れれば共に転移できると知らないので、レブロンはついてこようとせず二人で残ったのかもしれない。
場所は分かるから後でついてくるだろうと言うルヴィアーレに、そっちこそ部下連れてこなくていいのかと言いそうになる。
「フィルリーネ様、いかがしましょう。仲間もおりますが」
ぬかるみにはまっている者たちの中に反王派がいる。ヘライーヌは王派も反王派も区別が付かないため、どちらとも気にせずこの深緑のぬかるみを当てたようだ。これは前にヘライーヌの部屋に行った時出してきた、付いたら取れなくなる魔具である。ヘライーヌ制作を考えると、本当に取れない物なので、残念だがヘライーヌに後で取ってもらうしかない。
もがけばもがくほどまとわり付くようで、惨憺たる状況だ。顔についたら窒息死するだろう。
後で助けに来るから無駄に動かぬよう伝えその場を後にすると、次に向かった先には異臭が立ち込めていた。
「ヘライーヌ。ですかね」
「他にいると思う?」
ここにも無情な状況が広がっていた。異臭を放つ魔具を飛ばし、気絶させたのだろう。テラスなのにまだ吐き気すら感じる残り香があるのだから、魔具が使われた時はどんな威力だったのか、考えたくない。
男たちは無様に転がり、顔を抑えたまま丸くなって失神している。
「酷い状況だな」
それには頷くしかない。ルヴィアーレはハンカチを手に鼻と口を抑えていた。お上品で何よりである。しかし手の甲だけで抑えるより、布で抑えた方が余程いい。少しでも匂いを嗅ぐと目が潤み、鼻水が出てきそうだった。話などしていたら匂いを身体に取り込んでしまう。
柱廊を過ぎ、中央広間に入る前の外廊下に向かうと、戦う者たちが蛮声を張り上げていた。
広間には警備騎士や貴族、騎士団などがごちゃごちゃに混ざって戦っている。しかし一方的か、既に倒れて動かない者や怪我をしている者たちがいる。残っている者たちは追いやられているか、広間の奥に集まっていた。
広間の奥に廊下へ通じる扉があるが、破壊されて瓦礫だらけになっている。逃げようとしたが逃げ道を封じられたのだろう。
「ニュアオーマ!」
フィルリーネは大声を張り上げると、魔法陣を描いた。
「何であんたが来るんだ!」
敵の攻撃を防いでいたニュアオーマが叫んだ瞬間、ニュアオーマたちの目前に防御壁が作られる。その瞬間、エレディナが氷柱を地面より突き上げさせた。突然の魔導攻撃に不意をつかれた者たちがその餌食になる。辛うじて避けた者たちは突如現れたフィルリーネに唖然とした顔を向けていた。
「フィルリーネ様?」
「なぜこちらに!?」
そのやりとりはもう飽きた。フィルリーネが答える前にアシュタルが斬りかかる。フィルリーネが次の魔法陣を描こうとした時、後ろから大量の水が流れた。
「うわっ!」
「何だ!?」
背後にいたルヴィアーレから溢れ出した水の攻撃。それはうねり形を作ると、大蛇のようになって男たちに襲いかかる。男たちを押し流しながら、ニュアオーマたちにはその水は全く届くことがない。ニュアオーマたちに対峙していた者たちだけに襲いかかっていた。
高度な魔導の技だ。逃げようとした男に大蛇のような水がぶつかり飛ばすと、別の男にぶつかった。
サラディカも主人に負けじと剣を振り下ろす。その剣から魔導が飛び出し、騎士を同時に数人切りつけた。
味方としてこれほど強力な者はないだろう。ルヴィアーレは剣を片手にすると向かってくる騎士たちをいなし、致命傷を負わせる。サラディカも主人から離れぬように、魔導を使い攻撃の手を強めた。
それはあっという間で、その場所を制圧するには長い時間が掛からなかった。
ルヴィアーレは元々あの実力なのだろうが、精霊の力を借りずに行うのだから頭が下がる。先程フィルリーネが防御しきれなかった攻撃を、いとも簡単にいなしたほどだ。エレディナがこちらの仲間に引き入れた方がいいと言ったわけだ。
ルヴィアーレはあの程度の戦いに息も切らさず、疲れた様子もない。魔導士でも何かを象り攻撃する魔法陣を作るのは技術がいった。これで精霊が手を貸せば、どれだけの攻撃ができるのだろう。
少しばかり寒気を感じて、フィルリーネは座り込んだニュアオーマに視線を変えた。残っている者たちの中で、一番ニュアオーマの力が強いのだろう。魔導を使いすぎたか顔色をひどく悪くさせていた。
「すまなかった。ヘライーヌがこちらを巻き添えにして魔具を使いやがって。予定の戦闘ができなくなっちまったんだ」
まさかの邪魔が入ったとニュアオーマはうんざりとして吐露した。剣を持たない魔導士で、しかも能力の低い魔導院の者たちをオゼが誘導していたようだが、戦闘に巻き込まれてしまったらしい。
「あの馬鹿娘、いきなり魔具使いやがって…」
うんざりした物言いに同情の声しか出せない。一緒にいたヘライーヌは邪魔な戦いを一掃するために、魔具でその場にいた者たちを戦闘不能にさせた。
「ヘライーヌの魔具は、威力が半端ない。お陰で戦う人数が少なくなっちまった」
「少人数で戦うための布陣を組んでいたのに、それで人数を減らされたらね」
それはもうニュアオーマも想定外だろう。それで仕方なく赤の信号を空に打ち上げたそうだ。
動ける者たちは仲間に治療を施し、薬を与えた。予定外の事柄があればそれに伴う犠牲が出る。そうならないよう用意をしてきたが、それでも避けられないことはあった。
傷付き静かに眠る男の両の手を身体の上に重ねて、フィルリーネは一度だけ目を閉じるとすぐに立ち上がった。
「王の航空艇だ!」
声に皆が空を見上げる。その視線の先に白の航空艇が浮遊していた。先の尖った矢尻のような形の航空艇。王のために特別に造られ速さや防御力が他の航空艇より性能がいい。
異変を察知したか予定より戻りが早い。王の航空艇は城の戦いに不安を持ったようで降りてこようとはせず、そのまま進んでいった。
「砦に行く気か」
城より砦の方が安全と踏んだのだろう。ニュアオーマの言葉にフィルリーネが頷く。
今更現状に気付いてももう遅い。ラータニアではシエラフィアが指揮を取り、グングナルドの攻撃を防いでいる。谷の獣はヨシュアが受け持ち、ラータニアでの戦いを手伝っているのだ。
城の中をある程度鎮圧し、王を回収しなければならない。
航空艇の跡を精霊たちが追って行く。どこで停まるかは後で分かるだろう。
ニュアオーマは黄色の信号を打ち上げた。他の場所からもその信号が上がる。
鎮圧は進んでいるがまだワックボリヌやニーガラッツの姿を見ていない。戦いに倒れたのか、それとも逃げているのか、確認が必要だった。
「フィルリーネ様!」
アシュタルの視線のその先に騎士たちが集団で走ってくるのが見えた。階段を駆け上がりこちらに向かってくる。広間にいる騎士たちが剣に手を伸ばし、警戒した。
「フィルリーネ様、ご無事ですか!」
先頭を走ってきた男の顔に見覚えがある。中央政務官だったイカラジャだ。日に焼けた顔に口周りが黒い髭で覆われ、どこの泥棒かと勘違いしそうになるが、はっきりとした太い眉と熱く燃えたぎるような視線が相変わらずだ。
イカラジャは膝を付くと、すぐにフィルリーネの前で頭を下げた。
「ご無事で何よりです。フィルリーネ様」
「イカラジャ、来てくれたのね。元気そうでなによりだわ」
「フィルリーネ様に助けていただいた命。ここで戦わねば何のために生き延びたのか分かりませぬ。フィルリーネ様より命を守っていただいた者を集め、馳せ参じました」
イカラジャに習うように跪いた男たちの中に、見覚えのある者がちらほらいる。すぐ後ろに控えていた者はイカラジャと共に左遷した、元警備騎士団第二隊長のウガエッダだ。三十代ほどで、短い橙色の髪と日焼けした顔に見覚えがある。二人とも体格が良かったが、少し痩せたように見えた。
「あの場所でじっとしていろと?」
ルヴィアーレは澄まし顔で返してくるが、私の言葉を聞いていてくれただろうか。補償とか補償とか補償が面倒だから、動くな。落ち着いたらラータニアに戻れ。と言っていたはずなのだが。
それについてルヴィアーレは、承諾した覚えはない。としれっと言ってくれた。
「フィルリーネ様、合図です!」
アシュタルが空に飛ぶ黄色の煙幕を指さした。飛んできた方向は騎士寮がある。黄色は制圧した合図だ。それを目視すると、別の場所から赤色の煙幕が上がる。
赤色は窮地を表す色だ。
「中央広間からの信号です!」
「エレディナ!」
エレディナの手を握るとアシュタルがエレディナの逆の手を取った。転移する瞬間、ぐん、とマントが引かれた。
降り立った中央広間近くの柱廊。外向けのテラスに繋がる場所に、もぞもぞと動こうとして唸る男たちや魔獣たちがいた。
「な、何だ。これは?」
深緑のぬかるみにはまったように、男たちと魔獣たちがもがいている。うぞうぞとうごくぬかるみはフィルリーネたちを見付けて触手を伸ばすようにのろのろと動く。
「ヘライーヌの部屋で見たな」
「そうねえ。って、何でついてくるのよ! しかもイアーナとレブロン捨ててきてるじゃない!」
人のマントを引っ張ったルヴィアーレがちゃっかり転移についてきていた。その後ろにサラディカがしっかりいる。レブロンとイアーナはついてこれなかったようだ。イアーナはエレディナに触れている者に触れれば共に転移できると知らないので、レブロンはついてこようとせず二人で残ったのかもしれない。
場所は分かるから後でついてくるだろうと言うルヴィアーレに、そっちこそ部下連れてこなくていいのかと言いそうになる。
「フィルリーネ様、いかがしましょう。仲間もおりますが」
ぬかるみにはまっている者たちの中に反王派がいる。ヘライーヌは王派も反王派も区別が付かないため、どちらとも気にせずこの深緑のぬかるみを当てたようだ。これは前にヘライーヌの部屋に行った時出してきた、付いたら取れなくなる魔具である。ヘライーヌ制作を考えると、本当に取れない物なので、残念だがヘライーヌに後で取ってもらうしかない。
もがけばもがくほどまとわり付くようで、惨憺たる状況だ。顔についたら窒息死するだろう。
後で助けに来るから無駄に動かぬよう伝えその場を後にすると、次に向かった先には異臭が立ち込めていた。
「ヘライーヌ。ですかね」
「他にいると思う?」
ここにも無情な状況が広がっていた。異臭を放つ魔具を飛ばし、気絶させたのだろう。テラスなのにまだ吐き気すら感じる残り香があるのだから、魔具が使われた時はどんな威力だったのか、考えたくない。
男たちは無様に転がり、顔を抑えたまま丸くなって失神している。
「酷い状況だな」
それには頷くしかない。ルヴィアーレはハンカチを手に鼻と口を抑えていた。お上品で何よりである。しかし手の甲だけで抑えるより、布で抑えた方が余程いい。少しでも匂いを嗅ぐと目が潤み、鼻水が出てきそうだった。話などしていたら匂いを身体に取り込んでしまう。
柱廊を過ぎ、中央広間に入る前の外廊下に向かうと、戦う者たちが蛮声を張り上げていた。
広間には警備騎士や貴族、騎士団などがごちゃごちゃに混ざって戦っている。しかし一方的か、既に倒れて動かない者や怪我をしている者たちがいる。残っている者たちは追いやられているか、広間の奥に集まっていた。
広間の奥に廊下へ通じる扉があるが、破壊されて瓦礫だらけになっている。逃げようとしたが逃げ道を封じられたのだろう。
「ニュアオーマ!」
フィルリーネは大声を張り上げると、魔法陣を描いた。
「何であんたが来るんだ!」
敵の攻撃を防いでいたニュアオーマが叫んだ瞬間、ニュアオーマたちの目前に防御壁が作られる。その瞬間、エレディナが氷柱を地面より突き上げさせた。突然の魔導攻撃に不意をつかれた者たちがその餌食になる。辛うじて避けた者たちは突如現れたフィルリーネに唖然とした顔を向けていた。
「フィルリーネ様?」
「なぜこちらに!?」
そのやりとりはもう飽きた。フィルリーネが答える前にアシュタルが斬りかかる。フィルリーネが次の魔法陣を描こうとした時、後ろから大量の水が流れた。
「うわっ!」
「何だ!?」
背後にいたルヴィアーレから溢れ出した水の攻撃。それはうねり形を作ると、大蛇のようになって男たちに襲いかかる。男たちを押し流しながら、ニュアオーマたちにはその水は全く届くことがない。ニュアオーマたちに対峙していた者たちだけに襲いかかっていた。
高度な魔導の技だ。逃げようとした男に大蛇のような水がぶつかり飛ばすと、別の男にぶつかった。
サラディカも主人に負けじと剣を振り下ろす。その剣から魔導が飛び出し、騎士を同時に数人切りつけた。
味方としてこれほど強力な者はないだろう。ルヴィアーレは剣を片手にすると向かってくる騎士たちをいなし、致命傷を負わせる。サラディカも主人から離れぬように、魔導を使い攻撃の手を強めた。
それはあっという間で、その場所を制圧するには長い時間が掛からなかった。
ルヴィアーレは元々あの実力なのだろうが、精霊の力を借りずに行うのだから頭が下がる。先程フィルリーネが防御しきれなかった攻撃を、いとも簡単にいなしたほどだ。エレディナがこちらの仲間に引き入れた方がいいと言ったわけだ。
ルヴィアーレはあの程度の戦いに息も切らさず、疲れた様子もない。魔導士でも何かを象り攻撃する魔法陣を作るのは技術がいった。これで精霊が手を貸せば、どれだけの攻撃ができるのだろう。
少しばかり寒気を感じて、フィルリーネは座り込んだニュアオーマに視線を変えた。残っている者たちの中で、一番ニュアオーマの力が強いのだろう。魔導を使いすぎたか顔色をひどく悪くさせていた。
「すまなかった。ヘライーヌがこちらを巻き添えにして魔具を使いやがって。予定の戦闘ができなくなっちまったんだ」
まさかの邪魔が入ったとニュアオーマはうんざりとして吐露した。剣を持たない魔導士で、しかも能力の低い魔導院の者たちをオゼが誘導していたようだが、戦闘に巻き込まれてしまったらしい。
「あの馬鹿娘、いきなり魔具使いやがって…」
うんざりした物言いに同情の声しか出せない。一緒にいたヘライーヌは邪魔な戦いを一掃するために、魔具でその場にいた者たちを戦闘不能にさせた。
「ヘライーヌの魔具は、威力が半端ない。お陰で戦う人数が少なくなっちまった」
「少人数で戦うための布陣を組んでいたのに、それで人数を減らされたらね」
それはもうニュアオーマも想定外だろう。それで仕方なく赤の信号を空に打ち上げたそうだ。
動ける者たちは仲間に治療を施し、薬を与えた。予定外の事柄があればそれに伴う犠牲が出る。そうならないよう用意をしてきたが、それでも避けられないことはあった。
傷付き静かに眠る男の両の手を身体の上に重ねて、フィルリーネは一度だけ目を閉じるとすぐに立ち上がった。
「王の航空艇だ!」
声に皆が空を見上げる。その視線の先に白の航空艇が浮遊していた。先の尖った矢尻のような形の航空艇。王のために特別に造られ速さや防御力が他の航空艇より性能がいい。
異変を察知したか予定より戻りが早い。王の航空艇は城の戦いに不安を持ったようで降りてこようとはせず、そのまま進んでいった。
「砦に行く気か」
城より砦の方が安全と踏んだのだろう。ニュアオーマの言葉にフィルリーネが頷く。
今更現状に気付いてももう遅い。ラータニアではシエラフィアが指揮を取り、グングナルドの攻撃を防いでいる。谷の獣はヨシュアが受け持ち、ラータニアでの戦いを手伝っているのだ。
城の中をある程度鎮圧し、王を回収しなければならない。
航空艇の跡を精霊たちが追って行く。どこで停まるかは後で分かるだろう。
ニュアオーマは黄色の信号を打ち上げた。他の場所からもその信号が上がる。
鎮圧は進んでいるがまだワックボリヌやニーガラッツの姿を見ていない。戦いに倒れたのか、それとも逃げているのか、確認が必要だった。
「フィルリーネ様!」
アシュタルの視線のその先に騎士たちが集団で走ってくるのが見えた。階段を駆け上がりこちらに向かってくる。広間にいる騎士たちが剣に手を伸ばし、警戒した。
「フィルリーネ様、ご無事ですか!」
先頭を走ってきた男の顔に見覚えがある。中央政務官だったイカラジャだ。日に焼けた顔に口周りが黒い髭で覆われ、どこの泥棒かと勘違いしそうになるが、はっきりとした太い眉と熱く燃えたぎるような視線が相変わらずだ。
イカラジャは膝を付くと、すぐにフィルリーネの前で頭を下げた。
「ご無事で何よりです。フィルリーネ様」
「イカラジャ、来てくれたのね。元気そうでなによりだわ」
「フィルリーネ様に助けていただいた命。ここで戦わねば何のために生き延びたのか分かりませぬ。フィルリーネ様より命を守っていただいた者を集め、馳せ参じました」
イカラジャに習うように跪いた男たちの中に、見覚えのある者がちらほらいる。すぐ後ろに控えていた者はイカラジャと共に左遷した、元警備騎士団第二隊長のウガエッダだ。三十代ほどで、短い橙色の髪と日焼けした顔に見覚えがある。二人とも体格が良かったが、少し痩せたように見えた。
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