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街並み3
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「儀式を同じ場所や日時で行うのは、精霊が常に集まる時を記憶するからだ。君のように行き当たりばったりで行うには、精霊の呼び込みも少なく、その上魔導の消耗が大きい。非効率である」
だってさ。エレディナさん。
しかしルヴィアーレの言い分は分かった。いつも同じ場所と日時が同じであれば、その時期になると精霊がちゃんとその場に集まってきてくれるのだ。多く集まってくれれば伝達能力を持つ精霊たちは周囲の精霊にそれを伝えてくれる。祈りはその精霊の多さに比例して国中に伝わるのかもしれない。
ルヴィアーレはため息をついた。グングナルドの王族の水準を良くご理解いただけたようである。これはルヴィアーレがラータニアに帰る前に、色々聞いておかなければいけないんじゃない?
もぐもぐし終えると、ルヴィアーレも食べ終わっていた。意外と口に合ったようだ。残った棒をお店のゴミ箱に捨てて、工場地帯へと進むことにする。さてどこを案内しようかな。
そう思ったのだが。
「目立ちすぎ」
「何がだ?」
唐突に何を言われたのかと、ルヴィアーレは訝しげにこちらを見遣った。
この男、目立ちすぎである。この前は人混みだったのであまり気付かれなかったのか、振り向いても数人の女性だったのだが、歩いている間男女問わず色々な者から視線が届くのは気のせいではないようだ。
道行く人は男ばかりなのに、なぜこちらを見られるのと思っていたが、工場で働く男は大抵身体が大きく筋肉質な体型をしている。身長はともかく体重のある者たちが多かった。それなのに、女性のように美しい顔をしている男がうろついている。身長があるので美女とは思われないだろうが、工場にいることのない美男が怪しげにフードを被って辺りを見回しながら歩いているので、目立たないわけがなかった。
どこのお貴族様が工場地帯の見学に来たのだろうと、道を歩く者たちが物珍しげにちらちら見ていくのである。近寄ってこないのは近寄って何かあっては困るからだ。お貴族様に何かをして罰を受けるのは道行く者たちである。
これは駄目だ。
「さくさく行こう。さくさく」
フィルリーネは周囲を見回しながら注意深く街並みを目に入れるルヴィアーレの腕を取り、目的地へと移動した。いきなり引っ張られたルヴィアーレは一瞬不機嫌そうに顔を顰めたが、近くに兵士がいるのを見て取って無言でついてくる。
機械器具などの店が多い通りは余計な物を集める輩がいる。それを見回る兵士も多かった。その様子を周囲から窺い、ルヴィアーレにどんな物が店に売られているのか軽く説明する。ルヴィアーレはダリュンベリの街並みを歩むことができていない。カサダリアを見回るだけでも十分この国の雰囲気を感じられるだろう。そこで侵入経路などは考えないで欲しいものだが。
見回りの兵士に見られないように小道に折れたり進むと、開けた場所に出た。
「民間の航空艇発着所か」
眼下に広がるのはあまり高額ではない小型の航空艇が並ぶ広場だ。商人などはここに小型艇を置いて商品の荷出しをする。妙な輩がうろついていないか見下ろせるように、広場は下の方に造られた。工場地帯でも地面の低い場所である。そして、川岸の街の端に位置した。
「街を囲む結界の中で、あの場所だけ結界が別なの。カサダリアは外からの攻撃に弱い。だから民間の航空艇発着所は兵士たちが確認しやすい場所で、なおかつ街の結界とは別にされ街の中へ侵入できないようになっている」
ルヴィアーレは航空艇発着所をぐるりを囲む高台を見回した。今いる場所は小道で柵があるだけの行き止まりになっているが、一部開けた場所には兵士が監視する櫓が造られている。何箇所かある櫓には兵士が常駐し目を光らせていた。
その先は川岸なるため、崖しか見えない。低い場所とは言え旧市街ほどの低さではないが、その高い壁を越えて街を出る必要があった。その壁に柱が二本立っている。近くに櫓も設置されておりそこだけ城壁のような物も建てられていた。
ルヴィアーレはそこに視線を止めた。
「あれが小型艇の入り口か? 結界が強力なのか?」
やはり気になるか。ルヴィアーレには張られた結界の魔導を感じるのだろう。2本の柱には特別な力がかけられており、航空艇はその柱を通過しなければならない。柱から真っ直ぐ発着所に飛べば広場に着陸できた。
それ以外の場所に入り込むことは不可能だ。上空であれば撃ち落とされるし、柱から別の方向に飛ぼうとしても目に見えない結界が邪魔して航空艇に傷がつく。さらに無理に飛べば結界にぶつかり航空艇が破壊されるだろう。
「空からの攻撃に弱いから、あの一箇所でしか出入りできないようになっているのよ。ダリュンベリも似たような門はあるけれど。街の上であれば飛行は許されている。カサダリアで許されないのは、街に攻撃すれば地盤が崩れる可能性があるからね」
「つまり、街の人間のことを考えているわけではないと」
フィルリーネは肩をすくめた。カサダリアは城と街の大きさは然程ではない。街で空から攻撃があれば結界があっても城からでは動きにくい。そのため民間の航空艇にも気を遣う必要があるのだ。
ダリュンベリは城の規模がカサダリアのそれとは比べ物にならないほど大きい。街に航空艇が入り込み戦いになっても、城の上空があれば編隊が簡単に行える広さがあった。しかし、カサダリアではそうはいかない。
「街も城も狭いから、航空艇を街の中に入れないようにするのは当然なのよ。この街で爆撃でもあれば雪崩のように城が崩れる可能性がある」
「そうだろうな」
ルヴィアーレはこのカサダリアをどう攻略するのか考えているのか、顎に手をやって横目に眇めた。まったく、不穏な考えを持たないでほしい。
しかし、この城は上空以外に入られる場所がない。橋を落とせば籠城できる造りで、立てこもられたらダリュンベリより陥落させるのは難しい。
「一機二機でどうにかなる城でもないけれどね」
フィルリーネの言葉にルヴィアーレは渋面をつくった。今後行われるであろう、ラータニア襲撃には一体どれほどの機体が使われるのか、想像したくもないだろう。
「どれほどの攻撃になるのか、想定はしているのでしょう?」
何がとは言わない。フィルリーネの問いにルヴィアーレは口を閉じたままだ。婚約の話が持ち上がった時点でこちらの軍事能力は調べているはずだ。しかし、それを行使されぬまに穏便に済ませたいところだ。
「女王の崩御を狙うならば、婚姻式も近いな」
その言葉にぐっと胸を押さえる。
女王が死去し、アンリカーダがマリオンネの次の女王として立つまで、精霊に認められるまで、どれくらいかかるだろうか。
「王は精霊に関わらず婚姻式が行えると思っている。孫娘のアンリカーダを女王に立て、すぐに女王の任務を成せると考えているのならば、マリオンネで強い影響力を持つ者と懇意なのだろう」
フィルリーネは頷いた。マリオンネで力を持つ者、ムスタファ・ブレイン。その中の誰と王が懇意にしているのか、システィアから聞いたことがある。
「君が王を弑逆した場合、マリオンネがどう出るかも考えなければならない」
「アンリカーダ様を納得させて婚姻式を行わせる者、ね。マリオンネがこちらに攻撃してくるとは思わないけれど、今後どう影響するかは分からないわ」
アンリカーダを操る者がいれば、グングナルド王が倒れた時、どんな動きをするのか注視しなければならないのだ。
婚姻式までもう時間はない。婚姻式前に全てを終えるのは難しくなってきた。部分的に捉えても王のラータニア襲撃は想定でしかない。未然に防ぐことができるのか、そればかりが頭にちらついた。
明日もまた貴族たちと会う予定がある。建国記念日前に前もってルヴィアーレに会いたがる者たちが多いのだ。建国記念日までそれが続く予定にうんざりする。それはルヴィアーレもだが。
出掛けられるのは今日だけだろう。建国記念日を終えればタウリュネの婚姻式に呼ばれていた。女王の死去が噂されているため、式は前倒ししたようだ。
式の案内をタウリュネから直接いただいたのだが、相手の方が中立の立場に安堵した。そんなことを考えても仕方がないのだが。
「あれは…」
ルヴィアーレの呟きにフィルリーネはその視線の先を見やった。見上げた青天井に精霊が飛んでいるのが見える。一匹二匹ではない。数匹が集まって同じ方向へ進んでいた。
一方方向へと飛ぶ精霊が増えてくる。エレディナの身震いを感じて、フィルリーネは同じように肌が泡立つのを感じた。
カサダリアにいる数少ない精霊たちが地上を離れていく。女王へ別れを告げるために。
そして彼らは女王の側に留まるだろう。もし女王が亡くなればしばらく地上へ戻ることはない。
『もう、時間がないわ…』
エレディナが言わずとも、そこにいる二人にはよく分かっていることだった。
だってさ。エレディナさん。
しかしルヴィアーレの言い分は分かった。いつも同じ場所と日時が同じであれば、その時期になると精霊がちゃんとその場に集まってきてくれるのだ。多く集まってくれれば伝達能力を持つ精霊たちは周囲の精霊にそれを伝えてくれる。祈りはその精霊の多さに比例して国中に伝わるのかもしれない。
ルヴィアーレはため息をついた。グングナルドの王族の水準を良くご理解いただけたようである。これはルヴィアーレがラータニアに帰る前に、色々聞いておかなければいけないんじゃない?
もぐもぐし終えると、ルヴィアーレも食べ終わっていた。意外と口に合ったようだ。残った棒をお店のゴミ箱に捨てて、工場地帯へと進むことにする。さてどこを案内しようかな。
そう思ったのだが。
「目立ちすぎ」
「何がだ?」
唐突に何を言われたのかと、ルヴィアーレは訝しげにこちらを見遣った。
この男、目立ちすぎである。この前は人混みだったのであまり気付かれなかったのか、振り向いても数人の女性だったのだが、歩いている間男女問わず色々な者から視線が届くのは気のせいではないようだ。
道行く人は男ばかりなのに、なぜこちらを見られるのと思っていたが、工場で働く男は大抵身体が大きく筋肉質な体型をしている。身長はともかく体重のある者たちが多かった。それなのに、女性のように美しい顔をしている男がうろついている。身長があるので美女とは思われないだろうが、工場にいることのない美男が怪しげにフードを被って辺りを見回しながら歩いているので、目立たないわけがなかった。
どこのお貴族様が工場地帯の見学に来たのだろうと、道を歩く者たちが物珍しげにちらちら見ていくのである。近寄ってこないのは近寄って何かあっては困るからだ。お貴族様に何かをして罰を受けるのは道行く者たちである。
これは駄目だ。
「さくさく行こう。さくさく」
フィルリーネは周囲を見回しながら注意深く街並みを目に入れるルヴィアーレの腕を取り、目的地へと移動した。いきなり引っ張られたルヴィアーレは一瞬不機嫌そうに顔を顰めたが、近くに兵士がいるのを見て取って無言でついてくる。
機械器具などの店が多い通りは余計な物を集める輩がいる。それを見回る兵士も多かった。その様子を周囲から窺い、ルヴィアーレにどんな物が店に売られているのか軽く説明する。ルヴィアーレはダリュンベリの街並みを歩むことができていない。カサダリアを見回るだけでも十分この国の雰囲気を感じられるだろう。そこで侵入経路などは考えないで欲しいものだが。
見回りの兵士に見られないように小道に折れたり進むと、開けた場所に出た。
「民間の航空艇発着所か」
眼下に広がるのはあまり高額ではない小型の航空艇が並ぶ広場だ。商人などはここに小型艇を置いて商品の荷出しをする。妙な輩がうろついていないか見下ろせるように、広場は下の方に造られた。工場地帯でも地面の低い場所である。そして、川岸の街の端に位置した。
「街を囲む結界の中で、あの場所だけ結界が別なの。カサダリアは外からの攻撃に弱い。だから民間の航空艇発着所は兵士たちが確認しやすい場所で、なおかつ街の結界とは別にされ街の中へ侵入できないようになっている」
ルヴィアーレは航空艇発着所をぐるりを囲む高台を見回した。今いる場所は小道で柵があるだけの行き止まりになっているが、一部開けた場所には兵士が監視する櫓が造られている。何箇所かある櫓には兵士が常駐し目を光らせていた。
その先は川岸なるため、崖しか見えない。低い場所とは言え旧市街ほどの低さではないが、その高い壁を越えて街を出る必要があった。その壁に柱が二本立っている。近くに櫓も設置されておりそこだけ城壁のような物も建てられていた。
ルヴィアーレはそこに視線を止めた。
「あれが小型艇の入り口か? 結界が強力なのか?」
やはり気になるか。ルヴィアーレには張られた結界の魔導を感じるのだろう。2本の柱には特別な力がかけられており、航空艇はその柱を通過しなければならない。柱から真っ直ぐ発着所に飛べば広場に着陸できた。
それ以外の場所に入り込むことは不可能だ。上空であれば撃ち落とされるし、柱から別の方向に飛ぼうとしても目に見えない結界が邪魔して航空艇に傷がつく。さらに無理に飛べば結界にぶつかり航空艇が破壊されるだろう。
「空からの攻撃に弱いから、あの一箇所でしか出入りできないようになっているのよ。ダリュンベリも似たような門はあるけれど。街の上であれば飛行は許されている。カサダリアで許されないのは、街に攻撃すれば地盤が崩れる可能性があるからね」
「つまり、街の人間のことを考えているわけではないと」
フィルリーネは肩をすくめた。カサダリアは城と街の大きさは然程ではない。街で空から攻撃があれば結界があっても城からでは動きにくい。そのため民間の航空艇にも気を遣う必要があるのだ。
ダリュンベリは城の規模がカサダリアのそれとは比べ物にならないほど大きい。街に航空艇が入り込み戦いになっても、城の上空があれば編隊が簡単に行える広さがあった。しかし、カサダリアではそうはいかない。
「街も城も狭いから、航空艇を街の中に入れないようにするのは当然なのよ。この街で爆撃でもあれば雪崩のように城が崩れる可能性がある」
「そうだろうな」
ルヴィアーレはこのカサダリアをどう攻略するのか考えているのか、顎に手をやって横目に眇めた。まったく、不穏な考えを持たないでほしい。
しかし、この城は上空以外に入られる場所がない。橋を落とせば籠城できる造りで、立てこもられたらダリュンベリより陥落させるのは難しい。
「一機二機でどうにかなる城でもないけれどね」
フィルリーネの言葉にルヴィアーレは渋面をつくった。今後行われるであろう、ラータニア襲撃には一体どれほどの機体が使われるのか、想像したくもないだろう。
「どれほどの攻撃になるのか、想定はしているのでしょう?」
何がとは言わない。フィルリーネの問いにルヴィアーレは口を閉じたままだ。婚約の話が持ち上がった時点でこちらの軍事能力は調べているはずだ。しかし、それを行使されぬまに穏便に済ませたいところだ。
「女王の崩御を狙うならば、婚姻式も近いな」
その言葉にぐっと胸を押さえる。
女王が死去し、アンリカーダがマリオンネの次の女王として立つまで、精霊に認められるまで、どれくらいかかるだろうか。
「王は精霊に関わらず婚姻式が行えると思っている。孫娘のアンリカーダを女王に立て、すぐに女王の任務を成せると考えているのならば、マリオンネで強い影響力を持つ者と懇意なのだろう」
フィルリーネは頷いた。マリオンネで力を持つ者、ムスタファ・ブレイン。その中の誰と王が懇意にしているのか、システィアから聞いたことがある。
「君が王を弑逆した場合、マリオンネがどう出るかも考えなければならない」
「アンリカーダ様を納得させて婚姻式を行わせる者、ね。マリオンネがこちらに攻撃してくるとは思わないけれど、今後どう影響するかは分からないわ」
アンリカーダを操る者がいれば、グングナルド王が倒れた時、どんな動きをするのか注視しなければならないのだ。
婚姻式までもう時間はない。婚姻式前に全てを終えるのは難しくなってきた。部分的に捉えても王のラータニア襲撃は想定でしかない。未然に防ぐことができるのか、そればかりが頭にちらついた。
明日もまた貴族たちと会う予定がある。建国記念日前に前もってルヴィアーレに会いたがる者たちが多いのだ。建国記念日までそれが続く予定にうんざりする。それはルヴィアーレもだが。
出掛けられるのは今日だけだろう。建国記念日を終えればタウリュネの婚姻式に呼ばれていた。女王の死去が噂されているため、式は前倒ししたようだ。
式の案内をタウリュネから直接いただいたのだが、相手の方が中立の立場に安堵した。そんなことを考えても仕方がないのだが。
「あれは…」
ルヴィアーレの呟きにフィルリーネはその視線の先を見やった。見上げた青天井に精霊が飛んでいるのが見える。一匹二匹ではない。数匹が集まって同じ方向へ進んでいた。
一方方向へと飛ぶ精霊が増えてくる。エレディナの身震いを感じて、フィルリーネは同じように肌が泡立つのを感じた。
カサダリアにいる数少ない精霊たちが地上を離れていく。女王へ別れを告げるために。
そして彼らは女王の側に留まるだろう。もし女王が亡くなればしばらく地上へ戻ることはない。
『もう、時間がないわ…』
エレディナが言わずとも、そこにいる二人にはよく分かっていることだった。
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