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市街地4
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フィルリーネとデリは若干広くなった道にある店の入り口で立ち止まった。十歳にも満たないような子供たちが地面に座り込んで、何かをしている。
「おー、集まってるね」
「ああ、デリさん。フィリィさんも一緒か。もう子供たちは集まってますよ」
「こんにちは、ルタンダさん」
開け放してあった開き戸の前に少々太めの男が椅子に座っていたが、二人を見て立ち上がると、部屋の奥に向かって名を呼ぶ。
「シャーレク。シャーレク。いらっしゃったぞ」
「今、行きます」
呼ばれた男は黒い髪の癖毛の男だ。前掛けをしていたが絵の具のような物で汚れている。若そうな男でフィルリーネを見ると丸い目を細めて目尻を垂らした。
「やあ、フィリィさんも一緒でしたか。えっと、そちらは」
「通りすがりの他人さんだって」
デリがすかさず口にする。フィルリーネも同じように口にして頷くので、シャーレクは首を傾げた。
「はあ。他人さんですか。シャーレクと言います」
シャーレクが律儀にその名を呼んで、こちらに頭を掻きながら挨拶をしてくると、フィルリーネは他人だから気にしないでいいよ。とシャーレクに持っていた荷物を渡した。
木の板は子供たちに配るようで、シャーレクがそれを受け取ると、地面で何かをしていた子供たちが反応する。
「並んで。並んで。一人一枚だよ」
子供たちは一斉に群がって木札を手にした。小さな木札だが子供たちが手にすると本のように大きく見える。それからペン型の木炭を一本ずつ渡す。それらを嬉しそうに抱きしめながら女の子が地面に座り込んだ。
地面は石畳だが汚いだろうに。しかし全く気にする素振りはなく、他の子供たちも木札を手に入れると各々広がって座り込んだ。
シャーレクともう一人の男が絵を持って来る。二人で引きずるように持ってきた白黒の絵は大きな物で、魔獣が描いてある。四つ足のリンガーだ。今にも駆け出しそうな前足は迫力があった。
イーゼルに立てられたそれを前に、子供たちは真剣な眼差しを向けた。
「さ、今日はこれを描く練習だよ。みんなやってみよう」
デリが言うと、子供たちは一斉に描き始めた。
「絵師になりたい子たちが集まってるの。旧市街の子たちはこれで職がもえらえるかもしれないから、真剣なのよ」
フィルリーネがそっと耳打ちしてくる。成る程、子供の中には擦り切れた服を着ていたり裸足であったりする者がいる。髪や肌も汚れていて、見るからに不潔そうな子供もいた。
この場所から更に下れば旧市街になるのだろう。下に見える家の屋根は穴が空いていたり草木が生えていたりしている。家と家の隙間には洗濯物が見えるが、どう見ても裕福な者が着る服には見えない。
フィルリーネは人に持たせていた荷物を引くと、建物の中に入るように促した。
建物の中は独特の匂いがする工房だ。木の匂いと絵の具の匂いが混じっている。中には木を削る者や組み立てる者、色を塗っている者もいて、外から見るより意外に広い。奥に広がる縦長の部屋のようだ。更に奥にも部屋があるのだろう、扉が見える。階段もあるので横幅は狭い部屋だが上の階も使っていた。思ったよりも広い工房だ。
「デリさん、ついでに見て見て。新作」
フィルリーネは持ってきた荷物からごろごろと物を取り出した。出てきたのは木片だ。色はついているがそれをいくつも出してくる。部屋で色を塗っていたものだが、見たものより量が多い。
「これ、何?」
デリが木片を手にしながらそれらを見比べる。外にいたシャーレクもやってきて何があるのか見始めた。
「種類があるし穴もあるね。この感じはパズルだけど」
「子供向けです」
「これは学びの玩具じゃないんですね」
「ううん。学び用だよ」
「ええ。ちょっと待ってよ。何がどうなってるんだ?」
デリとシャーレクが木片を見比べていると他の者たちも集まってくる。これは何だ、どこに繋がるんだと言い始めるのを、フィルリーネはにこにこ顔で見ていた。
部屋でそれを作っている時に同じ質問をした。フィルリーネは木片をにやすりをかけ続けていたわけだが、不気味に笑うだけで答えを言わない。しかし作りながら組み立てていたので、それが何かは後で分かった。
「これ、もしかして打楽器ですか?」
「当たり!」
「打楽器!?」
フィルリーネは円筒や長方形の板を組み合わせて色が繋がるように並べると、球体のついた棒で端から叩き始めた。すると一段ずつ音が変わる楽器になる。
「良く作りますね。これ組み立てると動物みたいだ。可愛いな」
シャーレクが模様に気付いてそこに部品をはめる。目玉がついて耳の立った尻尾のある動物になった。貴族などが良くペットで飼う大人しい魔獣だ。
「組み立てたままでも売れるやつじゃないの。ちょっとフィリィ、これはパズルじゃなくてもいける!」
「パズルにしたのは、繋げてくと音階増やせるかなって思って」
フィルリーネは形の部品を出してくる。それを繋げると高低音が増えた。
「金額によって音の幅が変わるのか。これはいいですね。高額出せない人は小さな物でも満足できるような作りなんだ」
「どんどん増やせるから、全部集めたくなるかもね」
デリは言いながら、何度も木辺を眺める。シャーレクも同じだ。ただの木片なのに隅々まで見遣る。
「もう少し角を丸くした方がいいかもね」
「色だとお金が掛かりますから、ニスだけでいいかもしれません」
「だったら色のある物とない物で購買層を変えよう。組み立てられた物もあった方がいいね。貴族相手だったら模様も考えたいな」
「模様は子供向けじゃなくって、もう少し大人向けの感じにしたり…」
フィルリーネたちはお互い意見を言い合うと、それをすぐ実行したくなるのか、デリは絵の具を出させ、フィルリーネはやすりを取り出し、シャーレクは筆を手にした。
「ここ、もっとさ」
「あ、でもそこまでやっちゃうと組み立てる時に」
「これ裏まで塗らなくても、」
とにかく話し合いが尽きないせいで、ルタンダがいい加減声を掛けた。子供たちがそろそろ絵を進めているから、そちらが先だと言って。
「シャーレク、絵を見てやって」
「分かりました」
「私も見る見るー」
シャーレクもフィルリーネも外にいる子供たちに指導するため外へ出て行った。フィルリーネは教え慣れているのか、子供の絵を後ろから眺めながら褒めると、褒めた後に直す箇所を優しく伝えている。
「通りすがりの他人さん。そこ立ってないで座りなよ。長くなるから」
デリが玩具をまだ眺めながら椅子を指差した。工房には広い机に椅子がいくつか置いてある。ルタンダがその椅子を出入り口近くまで持ってくると、そこに座るよう促した。
「いつも、あのようなことを?」
「フィリィは来た時に丁度やってたらだから、たまにかな。普段は工房でシャーレクと製品の相談が多いよ。フィリィが作る玩具を量産する時、色を塗るのはシャーレクだからね」
シャーレクとフィルリーネは当たり前に分担して子供たちを教えている。
子供たちの後ろに立っては描いている絵を眺めて、フィルリーネはシャーレクと何かを話した。子供たちの絵を見ながら相談しているようだ。フィルリーネは玩具を作っている時のように笑顔が絶えない。シャーレクは穏やかに笑いながら語っている。随分と仲が良いように見えた。
「あの二人は芸術肌だからいつもその話ばかりだよ。二人とも子供好きだしね」
二人を見ていたらデリが説明をしてきた。特に気になったわけではないが、気にしたように思われたのだろう。
フィルリーネは子供に学びを与えようとする者だが、弟のコニアサスへの発言はおかしいことが多い。コニアサス向けの玩具を作りながら親バカ以上の感想を口にしていたが、元々子供が好きなようだ。
満面の笑みで子供たちを暖かく見守っていた。
「フィリィは職人や教師に向いているんだけれどさ。お家的にはどうなんだろうね。他人さんから見て可能なの?」
デリは言い方は軽めだが、視線が真面目だ。フィルリーネが働きたい場所はここなのだろうかと想像する。
「家のことから考えれば、無理でしょう」
はっきりと言う言葉にデリは鼻から息を長めに出した。やっぱりねえ。と言う言葉は想定していたようだ。
「できればうちに欲しいんだけれどな」
本人はその気でも、周囲がどう思うか。王を討てるほどであればフィルリーネが王族を離れることに反対する者は多いだろう。
デリにどんな説明をしているか知らないが、それでもデリは職人にする方法はないかとぶつぶつ言っている。余程フィルリーネをかっているようだ。
「おー、集まってるね」
「ああ、デリさん。フィリィさんも一緒か。もう子供たちは集まってますよ」
「こんにちは、ルタンダさん」
開け放してあった開き戸の前に少々太めの男が椅子に座っていたが、二人を見て立ち上がると、部屋の奥に向かって名を呼ぶ。
「シャーレク。シャーレク。いらっしゃったぞ」
「今、行きます」
呼ばれた男は黒い髪の癖毛の男だ。前掛けをしていたが絵の具のような物で汚れている。若そうな男でフィルリーネを見ると丸い目を細めて目尻を垂らした。
「やあ、フィリィさんも一緒でしたか。えっと、そちらは」
「通りすがりの他人さんだって」
デリがすかさず口にする。フィルリーネも同じように口にして頷くので、シャーレクは首を傾げた。
「はあ。他人さんですか。シャーレクと言います」
シャーレクが律儀にその名を呼んで、こちらに頭を掻きながら挨拶をしてくると、フィルリーネは他人だから気にしないでいいよ。とシャーレクに持っていた荷物を渡した。
木の板は子供たちに配るようで、シャーレクがそれを受け取ると、地面で何かをしていた子供たちが反応する。
「並んで。並んで。一人一枚だよ」
子供たちは一斉に群がって木札を手にした。小さな木札だが子供たちが手にすると本のように大きく見える。それからペン型の木炭を一本ずつ渡す。それらを嬉しそうに抱きしめながら女の子が地面に座り込んだ。
地面は石畳だが汚いだろうに。しかし全く気にする素振りはなく、他の子供たちも木札を手に入れると各々広がって座り込んだ。
シャーレクともう一人の男が絵を持って来る。二人で引きずるように持ってきた白黒の絵は大きな物で、魔獣が描いてある。四つ足のリンガーだ。今にも駆け出しそうな前足は迫力があった。
イーゼルに立てられたそれを前に、子供たちは真剣な眼差しを向けた。
「さ、今日はこれを描く練習だよ。みんなやってみよう」
デリが言うと、子供たちは一斉に描き始めた。
「絵師になりたい子たちが集まってるの。旧市街の子たちはこれで職がもえらえるかもしれないから、真剣なのよ」
フィルリーネがそっと耳打ちしてくる。成る程、子供の中には擦り切れた服を着ていたり裸足であったりする者がいる。髪や肌も汚れていて、見るからに不潔そうな子供もいた。
この場所から更に下れば旧市街になるのだろう。下に見える家の屋根は穴が空いていたり草木が生えていたりしている。家と家の隙間には洗濯物が見えるが、どう見ても裕福な者が着る服には見えない。
フィルリーネは人に持たせていた荷物を引くと、建物の中に入るように促した。
建物の中は独特の匂いがする工房だ。木の匂いと絵の具の匂いが混じっている。中には木を削る者や組み立てる者、色を塗っている者もいて、外から見るより意外に広い。奥に広がる縦長の部屋のようだ。更に奥にも部屋があるのだろう、扉が見える。階段もあるので横幅は狭い部屋だが上の階も使っていた。思ったよりも広い工房だ。
「デリさん、ついでに見て見て。新作」
フィルリーネは持ってきた荷物からごろごろと物を取り出した。出てきたのは木片だ。色はついているがそれをいくつも出してくる。部屋で色を塗っていたものだが、見たものより量が多い。
「これ、何?」
デリが木片を手にしながらそれらを見比べる。外にいたシャーレクもやってきて何があるのか見始めた。
「種類があるし穴もあるね。この感じはパズルだけど」
「子供向けです」
「これは学びの玩具じゃないんですね」
「ううん。学び用だよ」
「ええ。ちょっと待ってよ。何がどうなってるんだ?」
デリとシャーレクが木片を見比べていると他の者たちも集まってくる。これは何だ、どこに繋がるんだと言い始めるのを、フィルリーネはにこにこ顔で見ていた。
部屋でそれを作っている時に同じ質問をした。フィルリーネは木片をにやすりをかけ続けていたわけだが、不気味に笑うだけで答えを言わない。しかし作りながら組み立てていたので、それが何かは後で分かった。
「これ、もしかして打楽器ですか?」
「当たり!」
「打楽器!?」
フィルリーネは円筒や長方形の板を組み合わせて色が繋がるように並べると、球体のついた棒で端から叩き始めた。すると一段ずつ音が変わる楽器になる。
「良く作りますね。これ組み立てると動物みたいだ。可愛いな」
シャーレクが模様に気付いてそこに部品をはめる。目玉がついて耳の立った尻尾のある動物になった。貴族などが良くペットで飼う大人しい魔獣だ。
「組み立てたままでも売れるやつじゃないの。ちょっとフィリィ、これはパズルじゃなくてもいける!」
「パズルにしたのは、繋げてくと音階増やせるかなって思って」
フィルリーネは形の部品を出してくる。それを繋げると高低音が増えた。
「金額によって音の幅が変わるのか。これはいいですね。高額出せない人は小さな物でも満足できるような作りなんだ」
「どんどん増やせるから、全部集めたくなるかもね」
デリは言いながら、何度も木辺を眺める。シャーレクも同じだ。ただの木片なのに隅々まで見遣る。
「もう少し角を丸くした方がいいかもね」
「色だとお金が掛かりますから、ニスだけでいいかもしれません」
「だったら色のある物とない物で購買層を変えよう。組み立てられた物もあった方がいいね。貴族相手だったら模様も考えたいな」
「模様は子供向けじゃなくって、もう少し大人向けの感じにしたり…」
フィルリーネたちはお互い意見を言い合うと、それをすぐ実行したくなるのか、デリは絵の具を出させ、フィルリーネはやすりを取り出し、シャーレクは筆を手にした。
「ここ、もっとさ」
「あ、でもそこまでやっちゃうと組み立てる時に」
「これ裏まで塗らなくても、」
とにかく話し合いが尽きないせいで、ルタンダがいい加減声を掛けた。子供たちがそろそろ絵を進めているから、そちらが先だと言って。
「シャーレク、絵を見てやって」
「分かりました」
「私も見る見るー」
シャーレクもフィルリーネも外にいる子供たちに指導するため外へ出て行った。フィルリーネは教え慣れているのか、子供の絵を後ろから眺めながら褒めると、褒めた後に直す箇所を優しく伝えている。
「通りすがりの他人さん。そこ立ってないで座りなよ。長くなるから」
デリが玩具をまだ眺めながら椅子を指差した。工房には広い机に椅子がいくつか置いてある。ルタンダがその椅子を出入り口近くまで持ってくると、そこに座るよう促した。
「いつも、あのようなことを?」
「フィリィは来た時に丁度やってたらだから、たまにかな。普段は工房でシャーレクと製品の相談が多いよ。フィリィが作る玩具を量産する時、色を塗るのはシャーレクだからね」
シャーレクとフィルリーネは当たり前に分担して子供たちを教えている。
子供たちの後ろに立っては描いている絵を眺めて、フィルリーネはシャーレクと何かを話した。子供たちの絵を見ながら相談しているようだ。フィルリーネは玩具を作っている時のように笑顔が絶えない。シャーレクは穏やかに笑いながら語っている。随分と仲が良いように見えた。
「あの二人は芸術肌だからいつもその話ばかりだよ。二人とも子供好きだしね」
二人を見ていたらデリが説明をしてきた。特に気になったわけではないが、気にしたように思われたのだろう。
フィルリーネは子供に学びを与えようとする者だが、弟のコニアサスへの発言はおかしいことが多い。コニアサス向けの玩具を作りながら親バカ以上の感想を口にしていたが、元々子供が好きなようだ。
満面の笑みで子供たちを暖かく見守っていた。
「フィリィは職人や教師に向いているんだけれどさ。お家的にはどうなんだろうね。他人さんから見て可能なの?」
デリは言い方は軽めだが、視線が真面目だ。フィルリーネが働きたい場所はここなのだろうかと想像する。
「家のことから考えれば、無理でしょう」
はっきりと言う言葉にデリは鼻から息を長めに出した。やっぱりねえ。と言う言葉は想定していたようだ。
「できればうちに欲しいんだけれどな」
本人はその気でも、周囲がどう思うか。王を討てるほどであればフィルリーネが王族を離れることに反対する者は多いだろう。
デリにどんな説明をしているか知らないが、それでもデリは職人にする方法はないかとぶつぶつ言っている。余程フィルリーネをかっているようだ。
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