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会合2

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 ガルネーゼの家はカサダリアの城から少し離れたところに位置していた。
 大きな屋敷だが住んでいる者はガルネーゼと身の回りの世話をする数人の側使いや警備、掃除夫や料理人くらいで、家族はいない。

 イムレスといい、ガルネーゼといい、いい年のおっさんは独身だ。それは婚姻できないのではなくしないと言うことらしいが、何でも一人で出来てこだわり深いので、婚姻したくてもできないのだと理解している。
 そのガルネーゼの家に上がり込むのはいつものこと。側使いの持って来てくれた紅茶を口にして、フィルリーネはもう一度丸机に伸びるように貼り付いた。

「今日は奥様方が強烈だったよ。何なの。ルヴィアーレのことなら本人に聞きなよ。私知らないよ。どうでもいいよ」
「仲睦まじいんだろう。夫となる者の情報くらい仕入れておけ」
「いやだ。めんどくさい! どうでもいい!」

 フィルリーネが叫ぶと、ガルネーゼは馬鹿な子を見るように目を眇めた。グラスをあおるとまた酒を注ぐ。もう瓶で直接飲んだ方が早いんじゃない?

 時間は深夜近く。寝所へ早めに入りレミアたちを部屋から追い出してここに来た。夕食会はお話が弾んだお陰で思ったよりも長くお開きになるのが遅くなったため、早く寝所に入ったとは言え予定よりこちらに来るのが遅くなってしまった。

「ベルロッヒはうろうろしてるし。何なの。暇なの?」
「暇ならありがたいがな。お前とルヴィアーレ様の監視は部下に任せ、城の中を歩き回っている。隠し扉も使っているようだから、こちらにいる王派と繋ぎをとっているのは間違いない」

 ガルネーゼは王派たちを監視している中、妙な動きがあると言った。彼らは何度か会合を開き集まることを増やしていたらしい。そしてここにきてベルロッヒがやってきたのだ。間違いなく繋ぎをつけるのだろう。

「それから、ダリュンベリから航空艇を移動させていると、イムレスより連絡があったんだがな。こちらに飛んできたまま居場所が分からない。この付近で何かをやっている可能性がある」

 移動したはずの航空艇の数が合わない。その話は反王派の者たちから前々より情報を得ていた。古くなった航空艇を地方に移動させると言う理由でダリュンベリから飛んだが、その地方がどこかはっきりしない物があるのだ。
 その内の何機かがカサダリア方面に運ばれたようだ。しかし、カサダリアではそれを確認できていない。

 秘密裏に動かされた航空艇。地方への配備を確認しておかねば、ラータニア襲撃がどこから行われるのか追えなくなってしまう。

「数ははっきりさせたいわ。資料が改竄されているから正確な数の確認と、追えていない機は探させている。ただ、ビスブレッドの砦に移動したと言う話も入っていて、攻撃用の航空艇を増やすのは間違いないわね」

 ビスブレッドの砦はそこまで多くの航空艇は配備されていない。しかし、やはり王は数を増やしてきたのだ。魔鉱石も買い占めている今、国境の結界を攻撃し混乱させる手筈がいよいよ整ってくるだろう。
 ガルネーゼも聞いていると渋い顔をしたまま頷いた。カサダリアでも王派がこの城を掌握する用意をしている可能性があるらしい。

「ダリュンベリとカサダリアを掌握すれば、他の地方は従うしかなくなるだろう。殺す者たちのリストはできているだろうな」
 そのリストの一番上に名前が載っているであろう、ガルネーゼは周囲にいる兵士たちの不穏な動きを感じ取りながら、常に仲間たちに警戒させているようだ。前にイムレスが呼ばれ魔獣退治をしたように、城内で魔獣が暴れる可能性も考えていた。

「必ず一人で行動しないようには仲間たちに徹底している。考えられる攻撃への対処もだ。ただもう少し情報は欲しいな」
 魔導に対する防御のための魔鉱石や回復薬などは個々に配られており、もしもの用意はなされている。しかしそれがいつ起こるのか。ガルネーゼも時期を想定しかねていた。

「婚姻後、そして女王の死後は間違いないけれどね」
「そうだな。今はいつ起こされても問題ないように対処する準備をするしかない」
 カサダリアにも魔導院はあり、そこにも王派はいる。一部の地方にも王を支持する者はいた。突然動き出しても対処できるようにしておく必要がある。ラータニアへの襲撃と同じく、国内でも大きな戦いが起きることを想定していなければならなかった。

 王派は実験された魔獣を使ってくるだろう。そのためにも対抗する薬は必要だ。
「もしも城内で魔獣が放たれた場合に、魔獣用の毒薬と銃は量産できているんでしょう?」
「イムレスの作った劇薬は外で製造を進めている。危険な物だから生半可な騎士には持たせん。悪用されても困るからな」

 魔獣相手に即死させるほどの劇薬をイムレスは開発したらしい。それを奪われて仲間に使われては困ると、使用する者は厳選するようだ。こんなことがなければそんなもの作らせたくないのだが、今は非常時である。使わないことを祈りたいが、そうもいかないだろう。
 こちらも着々と攻撃への対処を進めてきていた。王が自国の民に牙を剥くのならば、反撃を覚悟で行えばいい。その時に滅びるのはこちらではない。

「それで、ルヴィアーレ様を連れてくるのか?」
「あの男うるさいんだもん。外出る方法考えてって。ガルネーゼ、何かに誘って二人きりになりなよ」
「何で俺がお前の婚約者と二人きりになるんだ」

 ガルネーゼは呆れたように言って酒瓶を持ったまま机についた。小さな丸机なので、ガルネーゼが腕を置くと物凄く狭く感じる。長い足を誇示するかのように組んだ。

「私、デリさんのところ行きたいんだけど、一人の方がいいのよね。やっぱり無理無理。捨てていこう」
「お前は引き籠もりで問題ないだろうが、ルヴィアーレ様にはベルロッヒの部下が常についている。外に出すのは難しいんじゃないか。それに、街に出ても何もないぞ」
「それ、言ってやって」

 ラグアルガの谷に連れて行かれないなら、代わりに街に出たいと言う。カサダリアでラータニアの者と繋ぎをつけるわけではないので、外に出ても情報を交換する相手はいない。
 他の場所に行きたいのはグングナルドの街にどれほど精霊がいないのか確認したいのかもしれない。ルヴィアーレは城から出る機会がないので、この機会に街並みも見たいのだろう。あと暇なのだと思う。

「優秀さは聞いた。イムレスから仲間にするには十分だとも。お前はどう思ってる?」
「めんどくさいから、引き入れたくない。ルヴィアーレはラータニアから使命を帯びてるでしょ。何かあって全面戦争に発展されても面倒だから、動かないでほしい。あと補償したくないから、無傷で返したい」
「それは同感だ」
 ガルネーゼも引き入れるには難しさを感じていると呟いた。

「イムレスは腹黒く、ラータニアに貸し借りなしで終わらせる計画を考えているようだな。だが、あいつの計画は本当に腹黒いから、期待をしたくない」

 やはりイムレスは何かを考えてルヴィアーレを引き入れたようだ。しかしガルネーゼの言う通り間違いなく何かしらの損をこちらが抱えそうなので、イムレスの案には乗らないようにしたい。

 海千山千、イムレスは良くてもこちらが良くない可能性がある。
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