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プロローグ
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天の中枢たる空城都市マリオンネには、世界を司る女王がいる。
そのマリオンネを中心にし、いくつかの国が地上の島を支配した。
二つの大国、グングナルド、キグリアヌン。
広大な土地をマリオンネの女王から賜り、世界に安寧と平穏を与える使命を任じられた。
「何が使命ですか」
一番の若手騎士イアーナは、まだ変声期も終わっていないような甲高い声で呟いた。
短い黒髪が丸顔にピッタリとくっついて、まるで卵みたいな形になっている。身長もさほど高くなく幼い容貌をしているが、これでも二十一歳だ。身振り手振りで説明するクセもあるので、全体的に子供のように見える。
「声が大きいぞ。イアーナ」
隣にいた高身長の騎士のレブロンが、イアーナをたしなめた。
イアーナの身長に、レブロンの身長を分けて与えてやれば、丁度良い大きさになるのではないかと常々思っているが、イアーナは身長が低いことを気にしているので口にはしない。
イアーナの頭二つ分くらい大きいレブロンは、前を見据え自分の主人から目を離さぬままだったが、イアーナは口を尖らせてレブロンの顔を見上げた。
その顔には不満が溢れるほど表れていたので、その顔を見ていたサラディカは、溜め息をつきそうになった。
「イアーナ。静かにしていろ。そして、顔に出すな。もう、城内に到着する」
サラディカが注意をすると、イアーナはやっと背筋を伸ばし、顔を引き締めた。イアーナの目の前にいる、主人であるルヴィアーレが横目で見たからだろう。子犬のようにきゃんきゃん吠えることの多いイアーナだが、さすがにこの状況でいつまでも吠えてはいられない。
大国グングナルドの隣に位置しているラータニア国は、国土としてはグングナルドの十分の一にも満たない小国だ。ラータニアの首都からグングナルドの首都に入るまで航空艇で移動するが、グングナルドに入ってからグングナルドの首都までの距離が、とても長く感じた。
隣国なため何時も掛かるわけではないが、国境を跨いでから首都に辿り着くまで、ラータニアを端から端まで移動するより時間が掛かる。さすが広大な土地を持つ大国だ。
航空艇が着陸すれば、歓迎を受けて小型の航空艇で運ばれ、今は移動式の魔法陣の上で城までの通路を通るばかり。立ったままのそれも、もう終わる。
空中廊下から見える景色は、ラータニアでは見られないほど賑やかで都会的だった。いくら城の中が広くても移動するのに移動式魔法陣は使わず自分たちで歩くし、警備が小型偵察艇に乗っても、民間の小型艇は街並みで見られるものではない。
魔法陣で移動し続けると、通路から城の姿が目にとれた。大国の首都にある城として各国から羨望の眼差しを受けるほどの建築物と聞いていたが、想像以上の高層で荘厳な様式に息を呑むほどだった。
イアーナは目を見開いたまま喉をごくりと鳴らす。
これからあの城へ入り、ラータニア国ルヴィアーレ王弟と、グングナルド国フィルリーネ王女との婚約が発表される。
美しく聡明で、芸術に秀でた王女フィルリーネ。年は十五で、十六歳の誕生日にルヴィアーレと天の司である空城マリオンネで婚約の儀式を行う。そのための準備として、ルヴィアーレがグングナルド国に滞在することが決まった。
国を跨いで王族同士が婚姻することは、歴史上類見ない。天から与えられた国を護るのが王族の使命だからだ。それなのに、ラータニア国王弟に、グングナルドの王女の相手として白羽の矢が立った。
フィルリーネ王女が噂通り聡明であれば、心配のタネは少なくなる。問題は少ない方がいいに決まっていた。
移動式魔法陣が止まるであろう、先に見える人だかりに気付いて、サラディカは正面を向いた。
噂というものほど当てにならないものはないと分かるのは、そのすぐ後だった。
そのマリオンネを中心にし、いくつかの国が地上の島を支配した。
二つの大国、グングナルド、キグリアヌン。
広大な土地をマリオンネの女王から賜り、世界に安寧と平穏を与える使命を任じられた。
「何が使命ですか」
一番の若手騎士イアーナは、まだ変声期も終わっていないような甲高い声で呟いた。
短い黒髪が丸顔にピッタリとくっついて、まるで卵みたいな形になっている。身長もさほど高くなく幼い容貌をしているが、これでも二十一歳だ。身振り手振りで説明するクセもあるので、全体的に子供のように見える。
「声が大きいぞ。イアーナ」
隣にいた高身長の騎士のレブロンが、イアーナをたしなめた。
イアーナの身長に、レブロンの身長を分けて与えてやれば、丁度良い大きさになるのではないかと常々思っているが、イアーナは身長が低いことを気にしているので口にはしない。
イアーナの頭二つ分くらい大きいレブロンは、前を見据え自分の主人から目を離さぬままだったが、イアーナは口を尖らせてレブロンの顔を見上げた。
その顔には不満が溢れるほど表れていたので、その顔を見ていたサラディカは、溜め息をつきそうになった。
「イアーナ。静かにしていろ。そして、顔に出すな。もう、城内に到着する」
サラディカが注意をすると、イアーナはやっと背筋を伸ばし、顔を引き締めた。イアーナの目の前にいる、主人であるルヴィアーレが横目で見たからだろう。子犬のようにきゃんきゃん吠えることの多いイアーナだが、さすがにこの状況でいつまでも吠えてはいられない。
大国グングナルドの隣に位置しているラータニア国は、国土としてはグングナルドの十分の一にも満たない小国だ。ラータニアの首都からグングナルドの首都に入るまで航空艇で移動するが、グングナルドに入ってからグングナルドの首都までの距離が、とても長く感じた。
隣国なため何時も掛かるわけではないが、国境を跨いでから首都に辿り着くまで、ラータニアを端から端まで移動するより時間が掛かる。さすが広大な土地を持つ大国だ。
航空艇が着陸すれば、歓迎を受けて小型の航空艇で運ばれ、今は移動式の魔法陣の上で城までの通路を通るばかり。立ったままのそれも、もう終わる。
空中廊下から見える景色は、ラータニアでは見られないほど賑やかで都会的だった。いくら城の中が広くても移動するのに移動式魔法陣は使わず自分たちで歩くし、警備が小型偵察艇に乗っても、民間の小型艇は街並みで見られるものではない。
魔法陣で移動し続けると、通路から城の姿が目にとれた。大国の首都にある城として各国から羨望の眼差しを受けるほどの建築物と聞いていたが、想像以上の高層で荘厳な様式に息を呑むほどだった。
イアーナは目を見開いたまま喉をごくりと鳴らす。
これからあの城へ入り、ラータニア国ルヴィアーレ王弟と、グングナルド国フィルリーネ王女との婚約が発表される。
美しく聡明で、芸術に秀でた王女フィルリーネ。年は十五で、十六歳の誕生日にルヴィアーレと天の司である空城マリオンネで婚約の儀式を行う。そのための準備として、ルヴィアーレがグングナルド国に滞在することが決まった。
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フィルリーネ王女が噂通り聡明であれば、心配のタネは少なくなる。問題は少ない方がいいに決まっていた。
移動式魔法陣が止まるであろう、先に見える人だかりに気付いて、サラディカは正面を向いた。
噂というものほど当てにならないものはないと分かるのは、そのすぐ後だった。
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