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18④ ー罠ー
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「ねえ、どういうことなの……?」
「あなたは騙されたのよ。家の借金のために多くを望みすぎたわね。最初からジルはファビアンを殺す気で、その計画のためにクロエはあなたに近付いたの。学院が始まる前にはあなたたちは親しい関係ではなかった。デキュジ族を見下しているあなたが、クロエとジルと親しい時点で、私も気付くべきだったわね」
「なに、それ……」
マリエルはクロエを見上げた。クロエは血の気のない顔色をして視線をずらした。ジルを見遣ればヴィオレットに冷眼を向けている。
「————わ、私じゃないわ。ファビアン様を刺したのは。ヴィオレット様に手紙を出して、二人が争ったように見せると言われただけですもの! ヴィオレット様が来たら警備を呼びに行けと言われただけです! そうよ、クロエが二人を閉じ込めたの。ファビアン様は軽い刺し傷だけで、薬で気を失っているだけって言っていました。私が手紙を出して戻ったら、隠れて待つだけだったんです!」
「いい加減にしてもらえませんか。私はファビアン様を害するなど考えたことはありません。その女生徒がヴィオレット様に罪を被せようとしたのでしょう。これ以上侮辱されるなら、私も黙ってはいられません」
マリエルの証言にジルが口を挟む。クロエは顔色を悪くし動揺しているがジルには左程焦りは見えない。マリエルだけがガタガタと震え、自分がファビアン殺害を目論んだわけではないと何度も否定した。
「ファビアンが気付けば全て分かることだわ。それまで彼らを拘束しておくことね」
「私じゃありません!」
叫んでも無駄だ。警備騎士はマリエルたちを拘束し連れて行こうとした。マリエルは抵抗し、クロエは血色を失ったまま静かにしながらジルをちらちら見ている。ジルは何でもないように抵抗することなく警備騎士に従っている。
そして勝ち誇るように、小さな笑みを浮かべた。
「ファビアン王子はすぐに気付かれるだろう。知らなかったか? ファビアン王子は癒しの力を持つ宝石を持っていたんだ」
エディの言葉に、一瞬ジルが鋭い視線を向けた。
「ちゃんと止めを刺したのか? 血だらけでも息絶えていたか? そうでなかったら、もう気付いているだろう。そうなればすぐに話が聞ける。誰が王子を刺したのか」
「……そんなもの、持っているなんて聞いたことがない」
「そうか。王子はそこまでお前を信頼していたわけではなかったのだな。癒しを持つ宝石は特殊で、ホーネリア王国から送られたものだ」
その言葉に、ジルはサッと顔色を変えた。ファビアンはもう死んでいると思っていたのだろう。
ヴィオレットが走り寄った時、ファビアンの傷は深かく血も多く流れていた。息も絶え絶えで、あのままでは息を引き取ったかもしれない。
ヴィオレットは咄嗟にエディから渡されたブレスレットを使ったのだ。癒しの力を持つ宝石がついた、貴重なブレスレットを。
ファビアンの怪我を完全に治療できたかは分からないが、荒い息遣いはなくなり正常に息をしていた。問題ないはずだ。
それでも、握っている拳の中は汗が滲んでいる。あのブレスレットが正常に働いていなければ、ファビアンはもう、この世にいない。
「ホーネリア王国の宝石を持っているなど、なぜあなたが知っているんです? 片田舎の貴族が」
予想外の話に焦りが出たのか、ジルはぴくぴくと頬を引きつらせた。珍しい嘲りの言葉が苛立ちを感じさせる。
ファビアンに使った宝石はヴィオレットがエディからもらった物だが、ジルの神経を逆撫でるには丁度良かった。しかし、ジルは突然吹き出して笑い始める。
「ああ。最近、あなたはヴィオレット様と行動を共にされていましたね。ヴィオレット様から教えられたということですか。ファビアン王子とマリエル令嬢が逢引する中、あなた方も同じように会われていたんですね。ファビアン王子が刺された時、あなたがヴィオレット様と一緒にいたというのも話を合わせているだけで、世話係も皆グルなのでは?」
話を転換して話題を変える気か、ジルのわざとらしい誘導の仕方に、ヴィオレットもムッとする。
「僕がホーネリア王国の宝石について知っているのがおかしいか?」
「残念ですが、ファビアン王子と交流のないあなたが、ホーネリア王国の宝石を持っていたと証言するのは、少々不可解な話だと思います」
それは確かに不可解で不自然だが、ジルの嘲笑にエディはくすりと笑むと、ちらりとヴィオレットを横目にした。
「ファビアン王子と交流がない? どうしてそうなる? 君は心から王子に信用されていなかったようだ。————私の本当の名前は、エティエンヌ。ホーネリア王国の、第二王子だ」
突然の公表に皆が驚愕した。エディは堂々と発言してヴィオレットに小さく笑う。
(エティエンヌ? ホーネリア王国の第二王子!?)
王妃の手だと思っていたが、まさかの第二王子だと?
「ダレルノ王妃に頼み、秘密裏に学院に入れてもらうことを了承していただいた。その私がファビアン王子とヴィオレット令嬢と知り合いであることを疑問に思う必要があるか?お二人とも身分を隠していた僕を見知らぬ者として接してくれていただけだ」
嘘も方便すぎる。皆は呆気に取られつつも信じたようだが、ジルだけがギッとエディ、————エティエンヌを睨みつけた。
「ファビアン王子はお前のことをホーネリア王国の王子などと思っていなかった。嘘も休み休み言ったらどうだ!」
それが事実だが、ここはもうエティエンヌに便乗するしかない。本当なのかと皆がヴィオレットに集中する中、大きく頷いた。
「エティエンヌ王子の希望で身分を明かさぬよう対応していたのよ。ジル、あなたは知らないでしょうけれど、エティエンヌ王子は時折王宮に通っていらっしゃるの。王妃様に会うためにね。エティエンヌ王子は王妃様の甥。秘密を保持するのは当然だわ」
毅然として言いのけたが、内心ヒヤヒヤだ。
だがジルはとうとう観念したのか脱力したようにふらついた。さすがに他国の第二王子が出てきては反論できない。宝石は本当のことだし、ファビアンはきっと目を覚ましているだろう。
「そんな、馬鹿なこと……」
ジルはブルブルと震え出すと、警備騎士に捕まれていた腕を振り払った。
瞬間、腕から青白い陽炎のようなものが立ち上り、それをヴィオレット目掛けて振り抜いた。
あっと思うのも束の間、炎のようにゆらめく青白い陽炎がヴィオレットに襲いかかった。
「ヴィオレット!!」
「きゃあっ!!」
ジルの魔法がヴィオレットに襲いかかる瞬間、エティエンヌがヴィオレットの前に立ちはだかった。
「エディ!!」
エティエンヌの腕がジルの腕のように青白く燃え上がっている。しかし、その腕に弾かれるように炎が跳ねると、爆発するように弾けジルに向かった。ジルはその勢いに反応できない。炎がぶつかると大仰な音を立てて爆ぜ、その勢いで地面に滑るように伏した。
「大丈夫ですか!? ヴィオレット嬢」
「だ、大丈夫です……」
エティエンヌはヴィオレットに傷がないか慌てて振り向いたが、ヴィオレットには何も当たっていない。エティエンヌはホッと安堵の表情を見せたが、エティエンヌの反撃の速さは尋常ではなかった。
魔力が多くてブレスレットをして押さえていながら、あの反撃力。ジルは魔導士になれるほどだというのに、その攻撃を即座に返した。そのエティエンヌの強さに呆然としてしまった。
「さっさと連れて行け。そこの、その警備騎士も仲間だ。拘束しろ!」
逃げようとした警備騎士を逃すまいと命令され、警備騎士たちはエティエンヌの強さに呆気に取られながら、すぐに逃げようとした同僚を捕らえた。
そうして、マリエルとクロエ、倒れたままのジルは警備騎士たちに囲まれて連行されていったのだ。
「あなたは騙されたのよ。家の借金のために多くを望みすぎたわね。最初からジルはファビアンを殺す気で、その計画のためにクロエはあなたに近付いたの。学院が始まる前にはあなたたちは親しい関係ではなかった。デキュジ族を見下しているあなたが、クロエとジルと親しい時点で、私も気付くべきだったわね」
「なに、それ……」
マリエルはクロエを見上げた。クロエは血の気のない顔色をして視線をずらした。ジルを見遣ればヴィオレットに冷眼を向けている。
「————わ、私じゃないわ。ファビアン様を刺したのは。ヴィオレット様に手紙を出して、二人が争ったように見せると言われただけですもの! ヴィオレット様が来たら警備を呼びに行けと言われただけです! そうよ、クロエが二人を閉じ込めたの。ファビアン様は軽い刺し傷だけで、薬で気を失っているだけって言っていました。私が手紙を出して戻ったら、隠れて待つだけだったんです!」
「いい加減にしてもらえませんか。私はファビアン様を害するなど考えたことはありません。その女生徒がヴィオレット様に罪を被せようとしたのでしょう。これ以上侮辱されるなら、私も黙ってはいられません」
マリエルの証言にジルが口を挟む。クロエは顔色を悪くし動揺しているがジルには左程焦りは見えない。マリエルだけがガタガタと震え、自分がファビアン殺害を目論んだわけではないと何度も否定した。
「ファビアンが気付けば全て分かることだわ。それまで彼らを拘束しておくことね」
「私じゃありません!」
叫んでも無駄だ。警備騎士はマリエルたちを拘束し連れて行こうとした。マリエルは抵抗し、クロエは血色を失ったまま静かにしながらジルをちらちら見ている。ジルは何でもないように抵抗することなく警備騎士に従っている。
そして勝ち誇るように、小さな笑みを浮かべた。
「ファビアン王子はすぐに気付かれるだろう。知らなかったか? ファビアン王子は癒しの力を持つ宝石を持っていたんだ」
エディの言葉に、一瞬ジルが鋭い視線を向けた。
「ちゃんと止めを刺したのか? 血だらけでも息絶えていたか? そうでなかったら、もう気付いているだろう。そうなればすぐに話が聞ける。誰が王子を刺したのか」
「……そんなもの、持っているなんて聞いたことがない」
「そうか。王子はそこまでお前を信頼していたわけではなかったのだな。癒しを持つ宝石は特殊で、ホーネリア王国から送られたものだ」
その言葉に、ジルはサッと顔色を変えた。ファビアンはもう死んでいると思っていたのだろう。
ヴィオレットが走り寄った時、ファビアンの傷は深かく血も多く流れていた。息も絶え絶えで、あのままでは息を引き取ったかもしれない。
ヴィオレットは咄嗟にエディから渡されたブレスレットを使ったのだ。癒しの力を持つ宝石がついた、貴重なブレスレットを。
ファビアンの怪我を完全に治療できたかは分からないが、荒い息遣いはなくなり正常に息をしていた。問題ないはずだ。
それでも、握っている拳の中は汗が滲んでいる。あのブレスレットが正常に働いていなければ、ファビアンはもう、この世にいない。
「ホーネリア王国の宝石を持っているなど、なぜあなたが知っているんです? 片田舎の貴族が」
予想外の話に焦りが出たのか、ジルはぴくぴくと頬を引きつらせた。珍しい嘲りの言葉が苛立ちを感じさせる。
ファビアンに使った宝石はヴィオレットがエディからもらった物だが、ジルの神経を逆撫でるには丁度良かった。しかし、ジルは突然吹き出して笑い始める。
「ああ。最近、あなたはヴィオレット様と行動を共にされていましたね。ヴィオレット様から教えられたということですか。ファビアン王子とマリエル令嬢が逢引する中、あなた方も同じように会われていたんですね。ファビアン王子が刺された時、あなたがヴィオレット様と一緒にいたというのも話を合わせているだけで、世話係も皆グルなのでは?」
話を転換して話題を変える気か、ジルのわざとらしい誘導の仕方に、ヴィオレットもムッとする。
「僕がホーネリア王国の宝石について知っているのがおかしいか?」
「残念ですが、ファビアン王子と交流のないあなたが、ホーネリア王国の宝石を持っていたと証言するのは、少々不可解な話だと思います」
それは確かに不可解で不自然だが、ジルの嘲笑にエディはくすりと笑むと、ちらりとヴィオレットを横目にした。
「ファビアン王子と交流がない? どうしてそうなる? 君は心から王子に信用されていなかったようだ。————私の本当の名前は、エティエンヌ。ホーネリア王国の、第二王子だ」
突然の公表に皆が驚愕した。エディは堂々と発言してヴィオレットに小さく笑う。
(エティエンヌ? ホーネリア王国の第二王子!?)
王妃の手だと思っていたが、まさかの第二王子だと?
「ダレルノ王妃に頼み、秘密裏に学院に入れてもらうことを了承していただいた。その私がファビアン王子とヴィオレット令嬢と知り合いであることを疑問に思う必要があるか?お二人とも身分を隠していた僕を見知らぬ者として接してくれていただけだ」
嘘も方便すぎる。皆は呆気に取られつつも信じたようだが、ジルだけがギッとエディ、————エティエンヌを睨みつけた。
「ファビアン王子はお前のことをホーネリア王国の王子などと思っていなかった。嘘も休み休み言ったらどうだ!」
それが事実だが、ここはもうエティエンヌに便乗するしかない。本当なのかと皆がヴィオレットに集中する中、大きく頷いた。
「エティエンヌ王子の希望で身分を明かさぬよう対応していたのよ。ジル、あなたは知らないでしょうけれど、エティエンヌ王子は時折王宮に通っていらっしゃるの。王妃様に会うためにね。エティエンヌ王子は王妃様の甥。秘密を保持するのは当然だわ」
毅然として言いのけたが、内心ヒヤヒヤだ。
だがジルはとうとう観念したのか脱力したようにふらついた。さすがに他国の第二王子が出てきては反論できない。宝石は本当のことだし、ファビアンはきっと目を覚ましているだろう。
「そんな、馬鹿なこと……」
ジルはブルブルと震え出すと、警備騎士に捕まれていた腕を振り払った。
瞬間、腕から青白い陽炎のようなものが立ち上り、それをヴィオレット目掛けて振り抜いた。
あっと思うのも束の間、炎のようにゆらめく青白い陽炎がヴィオレットに襲いかかった。
「ヴィオレット!!」
「きゃあっ!!」
ジルの魔法がヴィオレットに襲いかかる瞬間、エティエンヌがヴィオレットの前に立ちはだかった。
「エディ!!」
エティエンヌの腕がジルの腕のように青白く燃え上がっている。しかし、その腕に弾かれるように炎が跳ねると、爆発するように弾けジルに向かった。ジルはその勢いに反応できない。炎がぶつかると大仰な音を立てて爆ぜ、その勢いで地面に滑るように伏した。
「大丈夫ですか!? ヴィオレット嬢」
「だ、大丈夫です……」
エティエンヌはヴィオレットに傷がないか慌てて振り向いたが、ヴィオレットには何も当たっていない。エティエンヌはホッと安堵の表情を見せたが、エティエンヌの反撃の速さは尋常ではなかった。
魔力が多くてブレスレットをして押さえていながら、あの反撃力。ジルは魔導士になれるほどだというのに、その攻撃を即座に返した。そのエティエンヌの強さに呆然としてしまった。
「さっさと連れて行け。そこの、その警備騎士も仲間だ。拘束しろ!」
逃げようとした警備騎士を逃すまいと命令され、警備騎士たちはエティエンヌの強さに呆気に取られながら、すぐに逃げようとした同僚を捕らえた。
そうして、マリエルとクロエ、倒れたままのジルは警備騎士たちに囲まれて連行されていったのだ。
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