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24② ー目覚めー
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フィオナは歴史書も探していた。ブルイエ家は古い時代はしっかりとした家だったと聞いている。古い時代の王から賜った土地を代々守ってきたのだから、そんな記述の載った書などがあれば位置が特定できるのではと思ったのだ。
今朝の夢のことを考えると、フィオナの体がどうなっているのかあまり考えたくないが、それを言っている場合ではない。
フィオナがヴァルラムの代わりにセレスティーヌの体を奪ったとしても、どうしてそうなるに至ったのかも分からない。
今は何も分からないのだから、分かることがあればなんでもいい。
それでわざわざクラウディオが呼んでくれるとも思わなかったが、クラウディオは束ねられた書物を用意してくれていた。少しだけ恥ずかしそうにして、字が汚いですか、と言ってくる。
「すべて旦那様が書かれたんですか??」
「自分で書き写したものなんです。古いので状態は良くないですが」
幼い頃に王宮にある特別な書庫にある本を書き写させてもらったらしく、表紙にインクをこぼした跡もあった。ぼうっとしていた時に垂らしてしまったと、照れながら頬をかく。
幼い頃というが、文字がとても綺麗で丁寧に書かれ読みやすい、フィオナよりずっと綺麗な字で、見本のようだと思った。文字を書くことまで優秀だとは。
しかも、量が多い。何日かけて書き写したのか。頭が下がる思いだ。
「これは禁書ではないのですが、数が少ない本なので一般に出ていないんです。もしこちらで良ければ」
「ありがとうございます。拝見します」
フィオナは慎重にその書物を手にする。本と違って装丁されておらず、紐で束ねてあるだけのものだったが結構厚みがある。
古い時代の国の本は新しい国になる際に処分されたものも多いようだ。王宮の特別な書庫に所蔵されており、ほとんどが一般に出ていないらしい。
(何百年前の書を書き写したのかしら……)
「この国ができる前の大国について知りたいと言っていましたが、なにか特別知りたいことでもあるんですか?」
「……国の成り立ちを、アロイスに教えられたらと思いまして」
アロイスをダシにして、フィオナは軽くごまかす。自分のいた土地を探しているだなんて、言えるわけがない。
また嘘が増える。居心地の悪さを感じつつもちらりとクラウディオを見遣ると、感心したように瞳を瞬かせて見せた。
いや、信じていないのかもしれない。フィオナは軽く笑っておく。
「大国の歴史はとても短いですが、土地が広大でしたので大きな都市が分散されています。その都市を中心とした国がいくつもできていますから、地図を見ながら確認した方がいいかもしれません」
「地図もあるんですか!?」
つい大声を出してしまい、クラウディオが再びターコイズブルーの瞳を瞬かせた。
立ち上がりそうになったのを抑えて、フィオナは椅子に座り直し、小さく咳払いをする。
ヒステリックに思われただろうか。そっと確認すると、クラウディオは笑いを堪えていた。
「子供のようですね。そんなに見たかったのですか?」
フィオナは顔が赤くなるのを感じた。クラウディオがそれこそ子供を見るような視線を向けて笑うからだ。フィオナがアロイスを見てほのぼのとするあれである。
(そんなに子供っぽい顔をしたかしら。ちょっと嬉しかったから、大声を出してしまったし)
なんだか恥ずかしい。そもそもフィオナはセレスティーヌに比べて子供っぽいのかもしれない。実年齢はフィオナの方が年下だ。
セレスティーヌに比べたらフィオナの家は名ばかり貴族だ。フィオナの家が古い時代名家だったとしても、没落寸前だったのは間違いない。所作が高位貴族のそれではないのかもしれない。
「すみません、大声を出しました」
フィオナは澄まして見せたが、クラウディオは謝ることはないと言いつつ、くすくす笑う。
今朝の夢のことを考えると、フィオナの体がどうなっているのかあまり考えたくないが、それを言っている場合ではない。
フィオナがヴァルラムの代わりにセレスティーヌの体を奪ったとしても、どうしてそうなるに至ったのかも分からない。
今は何も分からないのだから、分かることがあればなんでもいい。
それでわざわざクラウディオが呼んでくれるとも思わなかったが、クラウディオは束ねられた書物を用意してくれていた。少しだけ恥ずかしそうにして、字が汚いですか、と言ってくる。
「すべて旦那様が書かれたんですか??」
「自分で書き写したものなんです。古いので状態は良くないですが」
幼い頃に王宮にある特別な書庫にある本を書き写させてもらったらしく、表紙にインクをこぼした跡もあった。ぼうっとしていた時に垂らしてしまったと、照れながら頬をかく。
幼い頃というが、文字がとても綺麗で丁寧に書かれ読みやすい、フィオナよりずっと綺麗な字で、見本のようだと思った。文字を書くことまで優秀だとは。
しかも、量が多い。何日かけて書き写したのか。頭が下がる思いだ。
「これは禁書ではないのですが、数が少ない本なので一般に出ていないんです。もしこちらで良ければ」
「ありがとうございます。拝見します」
フィオナは慎重にその書物を手にする。本と違って装丁されておらず、紐で束ねてあるだけのものだったが結構厚みがある。
古い時代の国の本は新しい国になる際に処分されたものも多いようだ。王宮の特別な書庫に所蔵されており、ほとんどが一般に出ていないらしい。
(何百年前の書を書き写したのかしら……)
「この国ができる前の大国について知りたいと言っていましたが、なにか特別知りたいことでもあるんですか?」
「……国の成り立ちを、アロイスに教えられたらと思いまして」
アロイスをダシにして、フィオナは軽くごまかす。自分のいた土地を探しているだなんて、言えるわけがない。
また嘘が増える。居心地の悪さを感じつつもちらりとクラウディオを見遣ると、感心したように瞳を瞬かせて見せた。
いや、信じていないのかもしれない。フィオナは軽く笑っておく。
「大国の歴史はとても短いですが、土地が広大でしたので大きな都市が分散されています。その都市を中心とした国がいくつもできていますから、地図を見ながら確認した方がいいかもしれません」
「地図もあるんですか!?」
つい大声を出してしまい、クラウディオが再びターコイズブルーの瞳を瞬かせた。
立ち上がりそうになったのを抑えて、フィオナは椅子に座り直し、小さく咳払いをする。
ヒステリックに思われただろうか。そっと確認すると、クラウディオは笑いを堪えていた。
「子供のようですね。そんなに見たかったのですか?」
フィオナは顔が赤くなるのを感じた。クラウディオがそれこそ子供を見るような視線を向けて笑うからだ。フィオナがアロイスを見てほのぼのとするあれである。
(そんなに子供っぽい顔をしたかしら。ちょっと嬉しかったから、大声を出してしまったし)
なんだか恥ずかしい。そもそもフィオナはセレスティーヌに比べて子供っぽいのかもしれない。実年齢はフィオナの方が年下だ。
セレスティーヌに比べたらフィオナの家は名ばかり貴族だ。フィオナの家が古い時代名家だったとしても、没落寸前だったのは間違いない。所作が高位貴族のそれではないのかもしれない。
「すみません、大声を出しました」
フィオナは澄まして見せたが、クラウディオは謝ることはないと言いつつ、くすくす笑う。
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