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31 ー会いたい人ー
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茫然と、あまりの美しさに見とれ、ロンは光の渦に心を引き込まれてそうになった。
「…びっくりした」
言葉にならない美しさだ。
銀の剣は光を消すと、星が落ちたように地面に吸い込まれ消えていった。
残った銀の煌めきは風に舞って見えなくなり、静寂だけが残った。
「ティオの奴、段取りがうますぎだ」
ロンを引き寄せてシェインはロンの鞄を担ぐと、珍しく毒づいて舌打ちした。
「初めからあの家は敵に気付かれてたわけだ。俺とロンをわざとあの家に呼んで、待ち構えていた敵を倒させたんだ。これで俺とアリアの娘である薬師が一緒にいると、完全に気付かれた」
囮作戦は始動したわけだ。何とまあ手際のいい。ロンは呆れて物が言えない。
「ティオさんって本当に信じて平気なの?」
いい加減あやしさに拍車がかかりすぎて、ロンは問いかけた。嘘くさい、うさん臭い、怪しい、その上味方にわざと敵をよこす。
「ティオは信頼できる」
シェインは間をあけず断言した。
「だがやり方がいちいち腹立つだけだ」
シェインは相当ティオに何かとされているのか、心から嫌そうな顔をした。数々の暴挙を受けながら、割に信頼しているだから不思議でならない。
「家に戻ろう。さすがに目立ちすぎた」
城の側だけあって人が集まり、向こうから兵士達が駆けてくる。大聖騎士団ではないが捕まるのは面倒だ。シェインはパンドラを盗んだ者として追われている身なのだから。
ロンとシェインはまた走り彼等をまくと、やっとのことで家に辿り着いた。
ティオの囮大作戦は見事成功だ。
マルディンが放ったであろう、あの怪異が戻らなければ、マルディンは再び怪異を放ち、町中にあの化け物達が躍起になってロンとシェインを捜すのかもしれない。
「今日は大人しく部屋にいるしかないな。さすがにあれと戦うのはめんどくさい」
「私も、もうちょっと調合したい。今持ってる薬じゃ、対抗できそうにないから」
あの力はさすがに閉口する。見たことのない化け物とその性質。何を調合すればあんな物ができるのか。例え作れても、従順に命令をきかせるには何をしたらいいのか。
そう思って、ロンはリングの顔を思い出した。
彼なら、やはり、作れるのだろうか。あの怪異を。
証拠はないが確信があるかもしれない。
ティオの言う通り、もし彼の力ならば敵となる時、とんでもない強敵となる。怪我人も続出するだろう。怪我で済めばいい方かもしれない。
リングには葉を譲ってもらった恩がある。その礼をしたいし、彼がもし関わっているのなら何故マルディンに加担するのか問いただしたい。
母親に指示していたのなら、尚更。
けれど彼に会うことを、シェインは許さないだろう。
だから出るとしたら黙って行かなければならないのだ。
その日を境に、外に出ては度々怪異に襲われた。
アメーバ状のものから獣のようなものまで、見たことのない怪異に、ロンもシェインも大立ち回りを繰り広げた。
買い物に行く度どこからか現れた怪異にはち合わせるものだから、完全に敵は的を絞ってきたのだ。
まったく、外でのんびり散歩もできない。
ティオの思う通り敵はロンとシェインを追ってくる。分かりやすい囮にマルディンがしっかり引っかかった証拠になるのかどうか。
全ての怪異がリングの手の物だとすれば、彼は本当に恐ろしい力を持つ薬師となる。敵を認識し、追い詰める、その目的だけは確実に持った怪異だ。
リングがそれを行うのは本当にマルディンの為なのだろうか。
それとも別の理由があるのか。
彼が本当に怪異を作っているのか、それならば何の為に行うのか。
どうしても知りたくなった。
夕刻を知らせる鐘が響いて、ロンは窓から鐘を探した。
確か鐘は砦に全て取り付けてあり、八つの砦は一斉に音が鳴り響く。城にも鐘があったはずだが、城の方角から響く鐘の音が城のものかは分からなかった。
幾つか調合し終えた薬を瓶に入れて鞄につめると、ロンはそれを肩にかけて靴の紐をしっかりと結んだ。手にした薬を飲み込んで、ロンは窓を開ける。
こっそり出たのに気付けばきっとシェインはひどく怒るだろう。けれど行かなければならない。
シェインには手紙を残した。正直にリングの元へ行ってくると書いたものだ。
同じ薬師として知りたいのだ。リングが本当に怪異達を放っているのか、何故そのような調合をしているのか。
どうしても確かめたかったのだ。
シェインが風呂に入ったのを見計らって、ロンは三階の窓から地面に粉を落とすと、窓に足をかけてそのまま飛び下りた。風をきって髪の毛が逆立った。重力のかかる身体を支えるものはない。急降下した身体は地面に落ちた。
けれど、ベッドのごとく地面が沈んで、ロンは空へ跳ね返った。
高い所から飛び下りた衝撃はない。反動で前のめりに転んだが、数度弾んで落ち着くと、ロンは弾力のある地面から抜け出して走り出した。
運が良ければリングはまたあの庭園にいるかもしれない。もしいなかったら昔の記憶を辿って城の庭園に忍び込んでもいい。
山間に日が沈みはじめて、丁度前にリングに出会った時間になってきていた。夕日が沈んで街灯がついた時間にも彼は庭園にいた。だから今日もいればいいのだが。
幾つかの水路を渡り城を右手にロンは走った。
物陰から自分の姿を伺う影はない。追われてはいないだろう。
男の姿で出てきたので気付かれないかもしれない。まあ、既にリングには女だと気付かれているので、どちらの性別でも関係ないか。
そう思って、ロンはその足を早めた。
「…びっくりした」
言葉にならない美しさだ。
銀の剣は光を消すと、星が落ちたように地面に吸い込まれ消えていった。
残った銀の煌めきは風に舞って見えなくなり、静寂だけが残った。
「ティオの奴、段取りがうますぎだ」
ロンを引き寄せてシェインはロンの鞄を担ぐと、珍しく毒づいて舌打ちした。
「初めからあの家は敵に気付かれてたわけだ。俺とロンをわざとあの家に呼んで、待ち構えていた敵を倒させたんだ。これで俺とアリアの娘である薬師が一緒にいると、完全に気付かれた」
囮作戦は始動したわけだ。何とまあ手際のいい。ロンは呆れて物が言えない。
「ティオさんって本当に信じて平気なの?」
いい加減あやしさに拍車がかかりすぎて、ロンは問いかけた。嘘くさい、うさん臭い、怪しい、その上味方にわざと敵をよこす。
「ティオは信頼できる」
シェインは間をあけず断言した。
「だがやり方がいちいち腹立つだけだ」
シェインは相当ティオに何かとされているのか、心から嫌そうな顔をした。数々の暴挙を受けながら、割に信頼しているだから不思議でならない。
「家に戻ろう。さすがに目立ちすぎた」
城の側だけあって人が集まり、向こうから兵士達が駆けてくる。大聖騎士団ではないが捕まるのは面倒だ。シェインはパンドラを盗んだ者として追われている身なのだから。
ロンとシェインはまた走り彼等をまくと、やっとのことで家に辿り着いた。
ティオの囮大作戦は見事成功だ。
マルディンが放ったであろう、あの怪異が戻らなければ、マルディンは再び怪異を放ち、町中にあの化け物達が躍起になってロンとシェインを捜すのかもしれない。
「今日は大人しく部屋にいるしかないな。さすがにあれと戦うのはめんどくさい」
「私も、もうちょっと調合したい。今持ってる薬じゃ、対抗できそうにないから」
あの力はさすがに閉口する。見たことのない化け物とその性質。何を調合すればあんな物ができるのか。例え作れても、従順に命令をきかせるには何をしたらいいのか。
そう思って、ロンはリングの顔を思い出した。
彼なら、やはり、作れるのだろうか。あの怪異を。
証拠はないが確信があるかもしれない。
ティオの言う通り、もし彼の力ならば敵となる時、とんでもない強敵となる。怪我人も続出するだろう。怪我で済めばいい方かもしれない。
リングには葉を譲ってもらった恩がある。その礼をしたいし、彼がもし関わっているのなら何故マルディンに加担するのか問いただしたい。
母親に指示していたのなら、尚更。
けれど彼に会うことを、シェインは許さないだろう。
だから出るとしたら黙って行かなければならないのだ。
その日を境に、外に出ては度々怪異に襲われた。
アメーバ状のものから獣のようなものまで、見たことのない怪異に、ロンもシェインも大立ち回りを繰り広げた。
買い物に行く度どこからか現れた怪異にはち合わせるものだから、完全に敵は的を絞ってきたのだ。
まったく、外でのんびり散歩もできない。
ティオの思う通り敵はロンとシェインを追ってくる。分かりやすい囮にマルディンがしっかり引っかかった証拠になるのかどうか。
全ての怪異がリングの手の物だとすれば、彼は本当に恐ろしい力を持つ薬師となる。敵を認識し、追い詰める、その目的だけは確実に持った怪異だ。
リングがそれを行うのは本当にマルディンの為なのだろうか。
それとも別の理由があるのか。
彼が本当に怪異を作っているのか、それならば何の為に行うのか。
どうしても知りたくなった。
夕刻を知らせる鐘が響いて、ロンは窓から鐘を探した。
確か鐘は砦に全て取り付けてあり、八つの砦は一斉に音が鳴り響く。城にも鐘があったはずだが、城の方角から響く鐘の音が城のものかは分からなかった。
幾つか調合し終えた薬を瓶に入れて鞄につめると、ロンはそれを肩にかけて靴の紐をしっかりと結んだ。手にした薬を飲み込んで、ロンは窓を開ける。
こっそり出たのに気付けばきっとシェインはひどく怒るだろう。けれど行かなければならない。
シェインには手紙を残した。正直にリングの元へ行ってくると書いたものだ。
同じ薬師として知りたいのだ。リングが本当に怪異達を放っているのか、何故そのような調合をしているのか。
どうしても確かめたかったのだ。
シェインが風呂に入ったのを見計らって、ロンは三階の窓から地面に粉を落とすと、窓に足をかけてそのまま飛び下りた。風をきって髪の毛が逆立った。重力のかかる身体を支えるものはない。急降下した身体は地面に落ちた。
けれど、ベッドのごとく地面が沈んで、ロンは空へ跳ね返った。
高い所から飛び下りた衝撃はない。反動で前のめりに転んだが、数度弾んで落ち着くと、ロンは弾力のある地面から抜け出して走り出した。
運が良ければリングはまたあの庭園にいるかもしれない。もしいなかったら昔の記憶を辿って城の庭園に忍び込んでもいい。
山間に日が沈みはじめて、丁度前にリングに出会った時間になってきていた。夕日が沈んで街灯がついた時間にも彼は庭園にいた。だから今日もいればいいのだが。
幾つかの水路を渡り城を右手にロンは走った。
物陰から自分の姿を伺う影はない。追われてはいないだろう。
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