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「邪魔をする気か!!」
「謂れなきことでここに入るならば、局長として対処するだけだ」
「局長!」
「オレリアは下がっていろ。皆は部屋から出るなよ!」
 セドリックが廊下に足を踏み出す。

 騎士たちは、セドリックを前に、とうとう剣に手を伸ばした。
 一人が奇声を上げて剣を振り上げる。それをさっと避けると、腹へ膝蹴りをして首へ手刀を落とす。騎士が悶えると、もう一人が同じように剣を振るってきた。セドリックの隙をついたと思っただろう。左手から発せられた炎にまかれると、悲鳴を上げてのけぞった。その瞬間、セドリックの長い足が顎に入り、一回転しそうなほど吹っ飛ばされる。起き上がった騎士が諦めず剣を振るうが、セドリックの相手にならない。かざした手から風が吹けば、鋭利な刃物で切られたように、騎士の肌を削いで血液が舞った。
 呆然とそれを見ている騎士もいる。セドリックの強さに驚きを隠せないようだ。

「手加減されてんなあ」
「あれで、手加減、しているんですか?」
 そうであれば、強すぎではなかろうか。騎士たちがまったく相手になっていない。相手は剣を構えているのに。

「局長は魔法部門で優勝してんだぞ。ついでに剣の腕は、そんじょそこらの騎士じゃ相手にならないほど。ふっつうに本気出されてみろ。首が物理的に飛ぶわ」
「首が飛んだら、廊下が汚れるわね」
 リビーが冗談に聞こえない発言をした。腹に据えかねているのか、もっとやっちゃえばいいのに、とリビーらしからぬ言葉も出てきた。

「こんな、こんなことをして、どうなるかわかって、」
「わかっているさ。わかっていないのは、お前たちだろう」
 口元を拭いながら騎士が負け惜しみを言うが、セドリックは何も気にしないと、鼻で笑った。
 威嚇するように手のひらに光を集めると、騎士たちがいかにも負け犬の遠吠えをして、傷んでいるであろう、足や腕を押さえながら、逃げるように去っていった。

「オレリア、大丈夫か。騎士相手に、よく防御魔法なんて使ったな。騎士が弾け飛んだから、笑いそうになったぞ」
「局長こそ、騎士相手にして、あんな簡単に倒してしまうなんて」
「さほどの奴らではなかったからな」
 それでも強すぎだろう。強すぎて、呆気に取られてしまう。セドリックは軽く手をはたいて、汚れを落とすだけだ。

「隊長を呼ぶまでもなかったですね」
「しかし、いい加減になんとかしないとな。一体、どうしてやつらは、オレリアを犯人に仕立てたいんだ?」

 皆がオレリアに注目する。オレリアも聞きたい。いくらカロリーナの話があっても、そこまで恨まれる理由がわからない。なにがあって、オレリアをあそこまで恨むような態度をするのだろう。心当たりがまったくない。騎士で関わりがあるのはエヴァンだけだ。エヴァンが妙な話を騎士たちにしているとは思えない。

「この間のあの金髪の騎士は、謹慎後、騎士をクビになったそうよ。牢屋の門番兵に命じられたとか。先ほどの騎士たちは、その逆恨みで犯人を決めつけているのかしら」
「ざまあみろじゃないですか。でも、あの金髪騎士がしつこくオレリアさんを悪く言ったのを、他の騎士たちが信じてるのなら、よっぽどあちこちに言いふらしたんだろうな」
「それで、私がいつでも犯人なのは、お断りしたいです」

 騎士たちはオレリアを直接知らないため、同じ騎士の話を鵜呑みにしたのだろうか。噂が噂を呼び、騎士たちの認識を深めてしまったのかもしれない。しかし、実際に人が亡くなっているのに、ずいぶんお粗末な話だ。オレリアを悪く言う風潮だけで決めつけるには、人が死んで、小さな話ではなくなっているのに。

「それにしても、毒で暗殺とは、物騒ですね。先に毒について調べる必要がありますね」
 ベンヤミンの言う通り、騎士たちと争っている場合ではない。毒を盛った者がいるのだ。
 患者のいる部屋に入り込み、薬湯の中に毒を入れた。薬湯ならば必ず患者は口にする。そこに毒が入るなどと、誰が思うだろうか。

「医療魔法士はオレリアを犯人だとは思っていないのだから、毒の種類などは聞けば教えてくれるだろう。何が起こっているかは、こちらも把握しないと。あいつらが何かの隙をついて、証拠を捏造してきそうだ。ディーン、毒の調査を手伝ってきてくれ」
「わかりました!」

 ディーンが走り去るのを見送って、セドリックは心配することはないと慰めてくれたが、さすがに今回は黙っていられない。殺人犯に仕立てられるほど、オレリアが何を恨まれると言うのだろうか。








 毒を盗んだ配送員。オレリアの部屋に毒を置いた金髪の騎士。そして、今回の、薬湯に毒を入れた者。
 オレリアを犯人に仕立てたい者がいるとしか思えない。しかしそこに共通点はなく、オレリアには関わりもない者たちだ。亡くなった騎士は、顔すら知らなかった。いや、看病の時に知っただけだ。

 騎士二人が亡くなったことは、すぐに噂された。誰が犯人かの噂はなかったが、毒が使われて亡くなったという話は、オレリアも耳にした。騎士が毒殺されるなど、かつてないことで、王宮内全体が、暗い雰囲気に覆われているようだった。

「医療魔法士も、あの部屋は誰でも入れるって、証言してたからな。気にすることはないって言いたいけど、騎士にアホが多すぎだろ」
 ディーンはぼやきながら、現状調査してわかったことを教えてくれる。

 金髪の騎士の影響か、オレリアが学生で、大した能力もなく薬草を調合していると、騎士たちの中で噂になっていたらしい。今回、オレリアが体調不良の騎士たちの薬湯を作ったため、オレリアが犯人と決めつけたようだ。
 毒の混入について、オレリアが行った証拠はもちろんなく、ただわかっているのは、薬湯に毒が入っていただけ。

 オレリアが薬湯を置いたテーブルは、二人のベッドの間にあった。犯人がそこに毒を入れたのは、一度に二人のポットに入れやすかったからだろうとの見解だ。毒はそのポットにしか入っておらず、他の患者の飲むポットには、毒は入っていなかった。

 毒は、研究所にある毒ではなく、どこからか手に入れられたようで、オレリアが研究所から盗んだということは否定された。入手経路はわからないため、騎士たちがその経路を調べている。その調査は別部隊が行なっているため、研究所にやってきた騎士は入っていない。

「そんなことで、オレリアさんを疑うってのもね。騎士クビになったあいつが、かなりしつこく言ってたらしいけど、根拠なくても、そこまで信じるかねえ。だいたい、あいつはオレリアさんを陥れようとしたわけじゃん。嘘ついてたのがバレてるのに、まだ信じてるのかっていう」
「騎士をクビにされたので、直接関わりがなくても、私のせいだと敵対視して、そんな噂を信じているんでしょうか。それにしても、メイドたちが噂するくらいの勢いで、噂がまわりすぎな気がします」
「意図的な感じはあるよな。毒もそうだけど、食中毒についても、原因がわかってないからなあ。直近で食べた物が同じでも、症状が出なかった奴もいたし、どこで同じものを口にしたのかっつう」

 団体戦に参加するため、行動は共にしていた者たちだが、全員が食中毒になったわけではない。他の所属の騎士も食中毒になっており、その騎士たちは、食事を同じにしていなかった。

「ここまでいくと、食中毒になったのも、誰かの仕業だったんだろうなあ」
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