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15 捜査

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「あら、また会ったわね」
「アデラ殿下。ご挨拶申し上げます」

 ディーンがすぐに挨拶をする。それにならい、オレリアも挨拶した。後ろにいる侍女の中に、カロリーナはいない。足を怪我したので、動けないのかもしれない。一緒に植物園に行った侍女二人は連れていた。澄ました顔をして、オレリアをバカにするように、斜に構えた顔を向けてくる。アデラもオレリアを品定めするように、じっと見つめてきた。

「クビにならずに働けているようね」
「若輩ながら、お手伝いを続けさせていただいております」
「殿下、お話をされる必要などありませんわ。この方は、カロリーナ様を毒で殺そうとしたのですよ?」
「はあ!?」

 問い返したのはディーンだ。間髪入れず返答したので、オレリアの方がびっくりする。
 反応してくれたのは嬉しいが、アデラ王女の前でその態度をすれば、指摘する隙ができたと、侍女たちがほくそ笑むだろう。その通り、侍女の一人が嘲笑ってきた。

「まあ、なんという態度なのかしら。さすがは平民ですわ。殿下の前で、なんと失礼な物言いでしょう」
 ディーンは言葉を呑み込んだ。平民だとは知らなかったが、侍女たちはよく知っていると、ディーンの態度をわざとらしくさえずり、怖いと言いながら体を竦ませる。

「おやめなさい。薬学研究所は、秀逸な成績を残した方々が入られる、由緒正しき場所よ。身分などは関係ありません」
 アデラ王女はぴしゃりと侍女を叱る。その言葉にいすくむが、アデラ王女はディーンにも注意をした。

「あなたもよ。ディーン。言葉遣いに気をつけなさい。研究所の質を落としたいのかしら?」
「申し訳ありません」
「妙な噂が流れていることは知っているわ。研究所では騒ぎになったとか」
「この方は、カロリーナ様を傷付けたのです!」
「誤解です。どうして私が、そんな真似をしなければならないのですか?」
「嫉妬したからでしょうに。幼馴染を取られたと嫉妬して、彼女を殺そうとしたんだわ」
「違います。失礼なことを言わないでください。大声を出すのは、私を貶めるためですか?」
「なんですって!?」

 オレリアがきっぱりと口にすれば、侍女の一人が眉を上げた。黙っていても、噂は大きくなるだけだ。廊下を通る者たちが、ちろちろと見ながら通り過ぎていく。アデラ王女に頭を下げるが、通り過ぎれば噂を口にしているのが耳に届く。
 ここで言い合っていれば、さらに噂は広がるだろう。だが、否定の声も聞こえるはずだ。

「おやめなさい。引き留めて悪かったわね。お仕事に集中なさって」
「ありがとうございます」
 アデラは嫌な感じはないが、周囲の侍女たちは、ぎろりとこちらを睨んでいた。







「あのお、また失礼します」
「また来たのか!?」
 研究所に、またも医療魔法士がやってきた。途端、再び騎士が部屋に入ってくる。前と同じ騎士だ。短い金髪の、切れ長で目の鋭い男で、その騎士の睨みに、オレリアはつい緊張して、体が強張った。

「今度は、なんだ? 部屋に入るなと言っているだろう!」
「学生寮の部屋に毒があったため、同行を!」
「私の部屋ですか!?」

 いつそんな調査をしたのか。オレリアがいない間、勝手に部屋に入り、調べたというのか。
 セドリックも同じことを考えたと、誰の許可を得て、オレリアの部屋を調べたのか問うた。
 医療魔法士はしどろもどろだが、金髪の騎士が、ずずいと前に出てくる。

「毒の入手経路がわからないため、残った毒がないか、調べることになったからだ」
「それで、まだ疑わしいというだけの、令嬢の部屋に勝手に侵入し、調べたというのか?」
 セドリックは、令嬢を強調した。騎士はわかっていないのか、だからどうしたと開き直る。

「その女の部屋に、毒が残っていた。犯人で間違いないのだから、そこをどけ!」
「あの学生寮は、簡単に入れるぞ。お前らが毒を置いたんじゃないのか?」
「なんだと!?」
「あの学生寮は、学生なら誰でも入れるし、鍵は誰でも開けられるくらい、ちゃちなものなんだよ。オレリアさんはほとんど研究所にいて、寮にいるのは夜から朝にかけてだけ。毒を仕込むなんて、楽勝だろ」
 ディーンが口を挟んで、騎士が目を釣り上げた。そこにベンヤミンが参戦する。

「そもそも、どうしてそこまで、オレリアさんを犯人に仕立てようとするんでしょうか。オレリアさんが植物園に行ったのは、侍女の方々から頼まれて仕方なくでしたし、案内を頼みながら、勝手に行動した侍女たちの不注意で起きたことです。まさか、侍女だからといって、優遇しているわけではないですよね?」
「何を言う! 疑わしき者を調べているだけだ! 調査の邪魔をするのか!?」
「侍女たちが、オレリアが犯人だと言いふらしているだけだろう。まともな調べもせずに、学院の生徒だからと、お前たちは侮るのか? 大体、毒殺だのなんだの、騒いでいる侍女たちはなんのつもりだ? あの毒は毒でも、強いものではなく、触れればかぶれる程度の、軽いものだ。傷口から入っても、しばらく痺れて傷口が膿むぐらい。医療魔法士ならば、簡単に治せるだろう」

 セドリックが医療魔法士を睨みつける。医療魔法士はびくりと肩を上げつつも、うんうん頷いた。医療魔法士も、その程度でどうしてここまで騒ぐのだと言わんばかりだ。もう部屋を出たいと、壁にくっついて、騒ぎに巻き込まれないようにしている。

「あのカロリーナという侍女が、オレリアに嫉妬して、こんな騒ぎにしたのではないのか?」
「どういう意味だ! 彼女を陥れる気か!」
「オレリアを陥れようとしているのは、そちらだろう。毒は部屋に保管されているが、量は減っていない。そうであれば、オレリアが犯人に仕立てられるいわれもない。だから、さっさと、出ていけ!!」

 セドリックの急な怒鳴り声に、医療魔法士が一瞬で部屋の外に出る。金髪の騎士も、セドリックの迫力にたじろいだ。
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