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7 謁見
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「王に、研究を見せに行くなんて、思っていなかったです」
「この国の産業の一つだからな。王直々に確認される」
セドリックと一緒に、オレリアは王への謁見のため、王に説明するための資料や、見本品などの入った箱を持って、二人で待合室にいた。危険な物が入っていないかの確認を受け終えると、すぐに案内されて部屋に入る。
「待っていたぞ。セドリック。そちらが学院に通っている令嬢か。ナヴァールの娘だそうだな」
「オレリア・ナヴァールと申します」
学院ではナヴァールを名乗っていても、教授たち以外に、オレリアが大臣の娘だと知っている者は少ない。しかし、王は王宮の薬学研究所で働くのだから身元は確認していると、当然のように、オレリアをナヴァールの娘と言った。
コネで入ったと思われたくないのだが、王の前では仕方がない。大臣の娘らしく膝を軽く曲げて礼をする。ドレスではないので、格好だけだが、失礼ではないだろうか。
王は、セドリックのように黒髪を後ろに流した、若々しい人だった。年齢はオレリアの父親とあまり変わりないので、四十代に入ったばかりだ。
隣にいるのは宰相だが、会話に入ってくる気はないと、側に控えているだけである。
「相変わらず、むさ苦しい顔だな。令嬢の前で、その顔を晒しているのか?」
「放っておいてください。問題ありません」
「問題あるんだがなあ。もういい年なのだから、嫁の一人でも連れてきてほしいものだよ」
「余計なお世話ですよ。今日は研究成果を見せに来たんですから、さっさと確認してください」
「つれない甥だ」
仲の良さが良くわかる会話に、オレリアは唖然としてしまう。
セドリックは王位継承権を持っているため、優遇されているとは知っていたが、ここまで王と気安いとは思わなかった。だから、王の前でも、このボサボサ頭と髭面が許されているのか。
セドリックは問答無用で書類を渡し、説明を始める。オレリアは資料を宰相に渡し、呼ばれたら手伝いをする。王は何度か宰相と確認し、セドリックに質問した。いくつかの説明を終えるのに、そこまで時間はかからない。しかし、セドリックが最後に、予定にないものを王に見せた。
「これを見てください。水分が少なくても、花を咲かせることができます。これは令嬢が研究したものです」
どうしてそれを王に見せるのか。それはオレリアが前々から研究していた物で、煮詰まっていたため何か助言がもらえないかと、皆に見せた物である。忙しい中、あれこれと意見を出してくれて、あっという間に出来上がった物だった。
「ほう。オレリアと言ったか。説明をしてくれ」
「は、はい。こちらは、砂漠地帯の風土病に効く薬草になります。水分量が少なくとも強く育つ品種にするため、朝と夜の気温の差で出る水滴を、体内に溜められる虫の性質を利用し、根に水を溜める袋ができるようにしました。熱に強くなるように、魔法で熱の耐性も付与しています」
「ふむ。これはすぐにでも使用可能なのか?」
「可能です。魔力を多く使うので、行う者を確保する必要がありますが、量産は可能です。ただ、植物自体が小さいので、量産できても、そこまで多くの薬を作ることはできないのですが」
「それに関しては、今後の課題となります。ですが、この薬草は画期的なものになるでしょう。今までは水分が少なくともできる種類で補ってきましたが、この方法であれば、暑さに弱い品種でも、砂漠で育てられるかもしれません」
セドリックが力説する。王は大きく頷いて、速やかに砂漠地帯で確認するように命令した。
「よかったな。令嬢の手柄だ」
「私よりも、皆さんが手伝ってくれたからで」
「何を言う。君の発想が良かったからだ。これで論文を書くといい。研究員としての経歴に記せるぞ」
そんな簡単に経歴にしていいのだろうか。しかし、セドリックはしっかり自分のものとして発表しろと、口が酸っぱくなるほど言ってきた。研究は盗まれやすいものであるため、ちゃんとオレリアの手柄になるように勧めてくれているのだ。
教授たちはいい人たちばかりだが、そういった悪巧みを考える人もいる。王に発表したことで、盗まれても自分のものだと言えるようだが、それでも自ら名前を出して、表に出すべきだと言ってくれる。
良心的すぎる。オレリアの研究でも、研究員の皆が手伝ってくれたからできたことなのに。
「ありがとうございます」
なんだか、研究員として認められたような気がして、すごく嬉しい。セドリックがそこまで考えてくれるとは思わなくて、なおさら感激してしまった。嬉しさに目が潤んできた時、ふと声が届いた。
「あら、局長。……珍しく、女性とご一緒なのね」
「これは、殿下」
前から歩いてきたのは、セドリックのいとこでもある、王女アデラだ。緩やかに編みこんだ長い黒髪と、少々鋭い青色の瞳を持った、美しい少女だ。年は十五歳で、オレリアを一瞥した。
「学院所属の、助手です」
「初めまして。オレリア・ナヴァールと申します」
「ナヴァール?」
アデラは大臣の名前くらい知っていると、苗字を復唱した。大臣の娘とは言われたくない。ちらりとそんなことを考えると、なぜかアデラの後ろにいた侍女が、声を上げた。
「カロリーナ。どうかなさって?」
「知り合いの騎士の、幼馴染の方ではないかと思いまして。ねえ、オレリアさんじゃないかしら?」
その言葉に、どきりとした。
カロリーナ・オールダム。柔らかな金髪と、花のようなオレンジ色の瞳。長いまつ毛に愛らしい唇。
(エヴァンが、好きな人)
急激に胸が痛くなってくる。カロリーナは子供の頃よりずっと美しくなっており、侍女の誰よりも目立つ風貌だった。
「この国の産業の一つだからな。王直々に確認される」
セドリックと一緒に、オレリアは王への謁見のため、王に説明するための資料や、見本品などの入った箱を持って、二人で待合室にいた。危険な物が入っていないかの確認を受け終えると、すぐに案内されて部屋に入る。
「待っていたぞ。セドリック。そちらが学院に通っている令嬢か。ナヴァールの娘だそうだな」
「オレリア・ナヴァールと申します」
学院ではナヴァールを名乗っていても、教授たち以外に、オレリアが大臣の娘だと知っている者は少ない。しかし、王は王宮の薬学研究所で働くのだから身元は確認していると、当然のように、オレリアをナヴァールの娘と言った。
コネで入ったと思われたくないのだが、王の前では仕方がない。大臣の娘らしく膝を軽く曲げて礼をする。ドレスではないので、格好だけだが、失礼ではないだろうか。
王は、セドリックのように黒髪を後ろに流した、若々しい人だった。年齢はオレリアの父親とあまり変わりないので、四十代に入ったばかりだ。
隣にいるのは宰相だが、会話に入ってくる気はないと、側に控えているだけである。
「相変わらず、むさ苦しい顔だな。令嬢の前で、その顔を晒しているのか?」
「放っておいてください。問題ありません」
「問題あるんだがなあ。もういい年なのだから、嫁の一人でも連れてきてほしいものだよ」
「余計なお世話ですよ。今日は研究成果を見せに来たんですから、さっさと確認してください」
「つれない甥だ」
仲の良さが良くわかる会話に、オレリアは唖然としてしまう。
セドリックは王位継承権を持っているため、優遇されているとは知っていたが、ここまで王と気安いとは思わなかった。だから、王の前でも、このボサボサ頭と髭面が許されているのか。
セドリックは問答無用で書類を渡し、説明を始める。オレリアは資料を宰相に渡し、呼ばれたら手伝いをする。王は何度か宰相と確認し、セドリックに質問した。いくつかの説明を終えるのに、そこまで時間はかからない。しかし、セドリックが最後に、予定にないものを王に見せた。
「これを見てください。水分が少なくても、花を咲かせることができます。これは令嬢が研究したものです」
どうしてそれを王に見せるのか。それはオレリアが前々から研究していた物で、煮詰まっていたため何か助言がもらえないかと、皆に見せた物である。忙しい中、あれこれと意見を出してくれて、あっという間に出来上がった物だった。
「ほう。オレリアと言ったか。説明をしてくれ」
「は、はい。こちらは、砂漠地帯の風土病に効く薬草になります。水分量が少なくとも強く育つ品種にするため、朝と夜の気温の差で出る水滴を、体内に溜められる虫の性質を利用し、根に水を溜める袋ができるようにしました。熱に強くなるように、魔法で熱の耐性も付与しています」
「ふむ。これはすぐにでも使用可能なのか?」
「可能です。魔力を多く使うので、行う者を確保する必要がありますが、量産は可能です。ただ、植物自体が小さいので、量産できても、そこまで多くの薬を作ることはできないのですが」
「それに関しては、今後の課題となります。ですが、この薬草は画期的なものになるでしょう。今までは水分が少なくともできる種類で補ってきましたが、この方法であれば、暑さに弱い品種でも、砂漠で育てられるかもしれません」
セドリックが力説する。王は大きく頷いて、速やかに砂漠地帯で確認するように命令した。
「よかったな。令嬢の手柄だ」
「私よりも、皆さんが手伝ってくれたからで」
「何を言う。君の発想が良かったからだ。これで論文を書くといい。研究員としての経歴に記せるぞ」
そんな簡単に経歴にしていいのだろうか。しかし、セドリックはしっかり自分のものとして発表しろと、口が酸っぱくなるほど言ってきた。研究は盗まれやすいものであるため、ちゃんとオレリアの手柄になるように勧めてくれているのだ。
教授たちはいい人たちばかりだが、そういった悪巧みを考える人もいる。王に発表したことで、盗まれても自分のものだと言えるようだが、それでも自ら名前を出して、表に出すべきだと言ってくれる。
良心的すぎる。オレリアの研究でも、研究員の皆が手伝ってくれたからできたことなのに。
「ありがとうございます」
なんだか、研究員として認められたような気がして、すごく嬉しい。セドリックがそこまで考えてくれるとは思わなくて、なおさら感激してしまった。嬉しさに目が潤んできた時、ふと声が届いた。
「あら、局長。……珍しく、女性とご一緒なのね」
「これは、殿下」
前から歩いてきたのは、セドリックのいとこでもある、王女アデラだ。緩やかに編みこんだ長い黒髪と、少々鋭い青色の瞳を持った、美しい少女だ。年は十五歳で、オレリアを一瞥した。
「学院所属の、助手です」
「初めまして。オレリア・ナヴァールと申します」
「ナヴァール?」
アデラは大臣の名前くらい知っていると、苗字を復唱した。大臣の娘とは言われたくない。ちらりとそんなことを考えると、なぜかアデラの後ろにいた侍女が、声を上げた。
「カロリーナ。どうかなさって?」
「知り合いの騎士の、幼馴染の方ではないかと思いまして。ねえ、オレリアさんじゃないかしら?」
その言葉に、どきりとした。
カロリーナ・オールダム。柔らかな金髪と、花のようなオレンジ色の瞳。長いまつ毛に愛らしい唇。
(エヴァンが、好きな人)
急激に胸が痛くなってくる。カロリーナは子供の頃よりずっと美しくなっており、侍女の誰よりも目立つ風貌だった。
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