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今日の今日で現れるとは侮れない。気配もなく近づいてきて、ナラカは口をふさいだまま、引きずるように理音を茂みに連れて座り込んだ。
「びっくりさせないでよ」
「手招きしても気づかないお前が悪いんだろ」
いつ手招きなんてしていたのか。空をのんびり見ていたので気づかなかった。
「死んだかと思ってたわ。生きてたな」
どこからその情報を得たのか。バカにしたような言い方に、理音はじとりとナラカを見やる。服装は前と同じ兵士の姿だ。その辺にたくさんいる姿なので、いちいち確認もされないだろう。
「元気ですけどー。何ですかー」
「長く行方不明だったろうが。何だ、語尾伸ばすな」
行方不明だったことは当たり前に知っている。
自分が後宮から出発して、それが他の貴族たちにどう伝えられているのか。別の囮が戻っているのだから、長く留守にしていたことはわからないのではないだろうか。
「何で行方不明って知ってんの。後宮には戻ってきてたよ」
「来てないだろ」
きっぱり言い返されて、理音は口を閉じる。情報は筒抜けだ。
「襲われてしばらく行方不明だったろ。皇帝がハク大輔に探させたと聞いてたが、見つからないと大騒ぎだったんだがな」
「随分知ってるね」
ハク大輔がナミヤを使って自分を探したのは、囮が後宮に戻った後だ。それなのに行方不明になったまま戻っていないことを知っているのならば、フォーエンの情報が間違いなくダダ漏れになっている。
「シヴァ少将が怪しいらしいな」
「そうなの?」
それは初耳だ。目を瞬かせると、ナラカは呆れた顔を見せてくる。
「聞いていないのか?さすがに囮だな」
「私に言っても仕方ないしなあ」
むしろ言われていたら、シヴァ少将に会った時にガン見する自信がある。そう考えればフォーエンは自分に教えないだろう。明らかに不審人物に認定される。
「信用されていないな」
鼻で笑われても反論できない。余計なことをするなと、怒られるのが目に見えている。
それにしても、フォーエン周辺の情報は知られすぎだろう。むしろフォーエンの周囲の方が心配だ。
「ジ州のソウ州侯が皇帝に協力したようだな。皇帝の妃を襲った者の協力者がジ州にいたそうだが、実情を知らずに手伝っていたとかで、その貴族を使い犯人を調べた。皇帝の命令だろ」
それってリ・シンカのことだろうか。
リ・シンカは王都への繋ぎを必要として協力し、結局その相手には逃げられてしまった。
フォーエンから聞いたが、リ・シンカは協力者を匿っていたそうだ。そして、レイシュンを陥れるために、皇帝の妃を匿っていると噂をばら撒いた。
それを行なっていたのがウルバスだ。ウルバスが突然死したため、リ・シンカはレイシュンが殺したと誤解をしていたそうだ。いきなり殺されたのだから、そう想定するのも頷ける。
しかし、その後すぐに協力者との連絡が途絶えたため、リ・シンカは焦っただろう。理由もわからず、リ・シンカはセオビと揉めることになってしまった。
「貴族の罪と引き換えだ。それなりの成果はあったわけだ」
「ふうん」
皇帝の妃を拉致したセオビ。それと繋がって何かとしていたリ・シンカ。レイシュンが理音を誘拐された時点で、セオビもリ・シンカも放って置くはずないと思っていたが、罪を嵩にかけて、犯人探しをさせたようだ。
裏切られたリ・シンカも犯人を探したいだろう。レイシュンは上手い手を使う。
そこで出てきたのがシヴァ少将らしい。まだ調べは途中だが、その可能性があるとか。
「その情報どっからもらったの」
「言うかよ」
そりゃそうですけど、ちょこっとヒントもらえないだろうか。ケチ。
「見知らぬ人に協力ってのがよくわかんないんだけど、王都に繋ぎがつけられるのって、そんな魅力的なの?」
正体も正確にわかっていないのに、皇帝の妃とされた者を殺す手伝いをする、その神経がわからない。事実を知らず、ただ匿っていただけなのだろうか。
「どこまで知っていて協力したかは知らんがな。王都への繋ぎを欲しがるのは田舎貴族ならあるだろう。ジ州は王都から離れた州だ。田舎の貴族が王都へ行ける手はずをもらえると言われれば、飛びつく馬鹿もいる」
そんなものなのだろうか。理解しがたい。
「お前がいない間に、内大臣の娘が入内した。お前の役割もそろそろ終わりになるんじゃないのか?」
ナラカはさらりと気にしていることを言う。悪気はないのが腹立つが、ナラカはフォーエンの相手にウの方の娘が一番確率があると考えているようだ。
「内大臣だから断りにくいってこと?」
「当然だろう。大臣の中で一番位が高い」
「へー」
「お前、本当に無知だな」
悪態をつかれて理音は間延びした声を上げる。確かに位の順番は知らない。そもそもどんな位があるかも知らない。
日本だと太政大臣が一番位が高かったような、ないような。曖昧だ。
「お姫様、全然外出てこないけど、暗殺怖がってるのかな?」
実はコミュ障ではなく、そちらではないかと薄々思っている。顔を出さないようにするのは、自分と同じ理由ではないだろうか。
「何だ、知ってるのか」
「知ってるけど。養女なんでしょ?」
「遠縁の子だそうだ。血は繋がってはいるようだが、どこから現れたのかはわかっていない」
それでも皇帝の相手にしていいわけである。適当だ。
ナラカは理音が女官の手伝いをしていることを言ってこない。こちらの情報は漏れていないのは確かなようだ。
そうなると、やはりフォーエンの情報がダダ漏れ過ぎている。問題にも程があった。
フォーエンの周囲から情報漏洩をなくす方法はあるのだろうか。動く人の規模も多いので、情報を制限することは中々難しい。
しかし、フォーエンがラカンの城に来ていたことは、ナラカは知らないらしい。知っていたら助けに来たことを口にしそうなものだ。そこは漏れていないかもしれない。
ハク大輔を身代わりにしてきたのだから、そこから情報は漏れなかったようだ。
「あ、ねえねえ。抜け道の話知ってる?」
全ては言わずそう口にすると、ナラカは死んだ女官の話か?と言ってきた。後宮内の話でも情報は得ているようだ。兵士たちが関わっているので、耳にできるのかもしれない。
「後宮の抜け道って、外の人が知るにはどうすればいいのかな」
「何でもあるだろ。手紙でも何でも、暗号にするなり何かに隠すなり送る方法はある。手紙は出せる。ただ読まれるけどな。連絡全てが禁じられているわけじゃない」
「そうなのか」
それでは後宮内にナラカの関係者がいれば、簡単に手に入るのだ。
理音が働いていることを知らないのは、ただの女官として入っているからだ。レイセン宮の情報は漏れていない。
「抜け道って、みんな知ってるのかなあ?」
「知るわけないだろ。あの道は俺も初めて知った。後宮じゃ有名なのかもな」
「十年くらい前って、知ってたらどんな人かね」
十年の年月でも後宮に止まる人はいるだろうが、姫ではないと思う。
ウの方の女官たちは、ウの方と一緒に来た者たちだ。元々後宮にいるわけではない。
「ずっと後宮で働き続けるってあるの?入れ替えはしてるって聞いたけど」
ツワのようにベテランぽい女官はいる。外から連れてきたわけでなく、前からいた人たちだ。
「後宮を牛耳る女官や、働き続ける下女はいる。外に出る気がなくて、入れ替えにも応じることなく働き続ける女たちだ。独身でも構わないと言う女はいる。普通ならば入れ替え時に外へ出されるが、能力がある者は残ることを許される」
そこは能力ありきらしい。能力がなければ否応無く入れ替えられるそうだ。
「後宮に長くいる女が知っているか、兵士か、その上司か。疑うなら何でもある」
「そうなっちゃうか」
「お前がレイセン宮からうろうろしているんだ。どこにでも抜け穴なんてあるんだろ」
ごもっともである。それには同意したい。きっと他にもあるんではなかろうか。
「知っていても、自分が出る気なければ他に知らせないだろう。後宮に穴があることは秘密裏にする」
「でも、それを知らせた人がいる」
「何気にしてんだ」
「人が死んじゃう抜け道を、何で教えたのかな。って。恋人がいて離れ離れになって、可哀想だから?でもそれで死んじゃったら意味ないよね」
それでも抜け道があるとわかれば、運に賭けたのだろうか?死んだ妃に呪われようと、すすり泣きが聞こえようと、抜けた後、死ぬことがあるかもしれなかろうと。
「後宮は魔物が住むそうだ。どうにかして出たがるやつなんて、ごまんといる」
「そっか…」
好きで後宮に入ったわけではない。そんな女性は多い。それを減らそうとしているフォーエンは歯がゆいだろう。
「後宮の人数、もっと減らしたいんだろうな」
「皇帝は何かとやり始めているからな」
「そうなんだ?」
昨夜も本を片手にしていた。先に眠ってしまったのでいつまで読んでいたのか知らないが、朝目覚めたらフォーエンはいなかった。
「忙しいんだろうな…」
「改革を急いでいるだろうが…」
ナラカは途中で言葉を止める。止めて理音を胡散臭そうな顔をして、横目で見てくる。その目は何だ。
「まさかな」
大きなため息をしたが、物凄く鼻で笑われた気がする。気のせいだろうか。
「あ、そうだそうだ。もう一つ」
「何だよ」
「エンシって昔のお医者さん、知ってる?」
ナラカは神出鬼没なので、聞きたいことは全部聞いておきたい。
理音が脈絡なく問うと、ナラカはうんざりするような嫌そうな顔をしてきた。
「探させているのはお前か」
「何を?」
「資料をだ。医療水準を上げるためだかで、医官に残った物はないか調べさせている」
木札のことがあるので、フォーエンは調べると言っていた。医官たちにも必要なのだし、いいことだと思うのだが、ナラカは別の問題を指摘した。
「エンシの技術は確かだったらしいが、結局助けられなかった者もいる。恨まれているみたいだな。どこまで協力者が現れるかだ」
「え?腕があるんじゃないの?」
それでは話が違う。どんな者でも助けられるくらいの外科医のような言われ方だったのに。
「皇帝の命令で手を出せなかったそうだ。腕があるのに、その腕をひけらかしただけと」
「エンシさんのせいじゃないのに」
「皇帝の文句を言うわけにはいかない」
エンシを恨む人がいた…。だから殺されたのだろうか。
「びっくりさせないでよ」
「手招きしても気づかないお前が悪いんだろ」
いつ手招きなんてしていたのか。空をのんびり見ていたので気づかなかった。
「死んだかと思ってたわ。生きてたな」
どこからその情報を得たのか。バカにしたような言い方に、理音はじとりとナラカを見やる。服装は前と同じ兵士の姿だ。その辺にたくさんいる姿なので、いちいち確認もされないだろう。
「元気ですけどー。何ですかー」
「長く行方不明だったろうが。何だ、語尾伸ばすな」
行方不明だったことは当たり前に知っている。
自分が後宮から出発して、それが他の貴族たちにどう伝えられているのか。別の囮が戻っているのだから、長く留守にしていたことはわからないのではないだろうか。
「何で行方不明って知ってんの。後宮には戻ってきてたよ」
「来てないだろ」
きっぱり言い返されて、理音は口を閉じる。情報は筒抜けだ。
「襲われてしばらく行方不明だったろ。皇帝がハク大輔に探させたと聞いてたが、見つからないと大騒ぎだったんだがな」
「随分知ってるね」
ハク大輔がナミヤを使って自分を探したのは、囮が後宮に戻った後だ。それなのに行方不明になったまま戻っていないことを知っているのならば、フォーエンの情報が間違いなくダダ漏れになっている。
「シヴァ少将が怪しいらしいな」
「そうなの?」
それは初耳だ。目を瞬かせると、ナラカは呆れた顔を見せてくる。
「聞いていないのか?さすがに囮だな」
「私に言っても仕方ないしなあ」
むしろ言われていたら、シヴァ少将に会った時にガン見する自信がある。そう考えればフォーエンは自分に教えないだろう。明らかに不審人物に認定される。
「信用されていないな」
鼻で笑われても反論できない。余計なことをするなと、怒られるのが目に見えている。
それにしても、フォーエン周辺の情報は知られすぎだろう。むしろフォーエンの周囲の方が心配だ。
「ジ州のソウ州侯が皇帝に協力したようだな。皇帝の妃を襲った者の協力者がジ州にいたそうだが、実情を知らずに手伝っていたとかで、その貴族を使い犯人を調べた。皇帝の命令だろ」
それってリ・シンカのことだろうか。
リ・シンカは王都への繋ぎを必要として協力し、結局その相手には逃げられてしまった。
フォーエンから聞いたが、リ・シンカは協力者を匿っていたそうだ。そして、レイシュンを陥れるために、皇帝の妃を匿っていると噂をばら撒いた。
それを行なっていたのがウルバスだ。ウルバスが突然死したため、リ・シンカはレイシュンが殺したと誤解をしていたそうだ。いきなり殺されたのだから、そう想定するのも頷ける。
しかし、その後すぐに協力者との連絡が途絶えたため、リ・シンカは焦っただろう。理由もわからず、リ・シンカはセオビと揉めることになってしまった。
「貴族の罪と引き換えだ。それなりの成果はあったわけだ」
「ふうん」
皇帝の妃を拉致したセオビ。それと繋がって何かとしていたリ・シンカ。レイシュンが理音を誘拐された時点で、セオビもリ・シンカも放って置くはずないと思っていたが、罪を嵩にかけて、犯人探しをさせたようだ。
裏切られたリ・シンカも犯人を探したいだろう。レイシュンは上手い手を使う。
そこで出てきたのがシヴァ少将らしい。まだ調べは途中だが、その可能性があるとか。
「その情報どっからもらったの」
「言うかよ」
そりゃそうですけど、ちょこっとヒントもらえないだろうか。ケチ。
「見知らぬ人に協力ってのがよくわかんないんだけど、王都に繋ぎがつけられるのって、そんな魅力的なの?」
正体も正確にわかっていないのに、皇帝の妃とされた者を殺す手伝いをする、その神経がわからない。事実を知らず、ただ匿っていただけなのだろうか。
「どこまで知っていて協力したかは知らんがな。王都への繋ぎを欲しがるのは田舎貴族ならあるだろう。ジ州は王都から離れた州だ。田舎の貴族が王都へ行ける手はずをもらえると言われれば、飛びつく馬鹿もいる」
そんなものなのだろうか。理解しがたい。
「お前がいない間に、内大臣の娘が入内した。お前の役割もそろそろ終わりになるんじゃないのか?」
ナラカはさらりと気にしていることを言う。悪気はないのが腹立つが、ナラカはフォーエンの相手にウの方の娘が一番確率があると考えているようだ。
「内大臣だから断りにくいってこと?」
「当然だろう。大臣の中で一番位が高い」
「へー」
「お前、本当に無知だな」
悪態をつかれて理音は間延びした声を上げる。確かに位の順番は知らない。そもそもどんな位があるかも知らない。
日本だと太政大臣が一番位が高かったような、ないような。曖昧だ。
「お姫様、全然外出てこないけど、暗殺怖がってるのかな?」
実はコミュ障ではなく、そちらではないかと薄々思っている。顔を出さないようにするのは、自分と同じ理由ではないだろうか。
「何だ、知ってるのか」
「知ってるけど。養女なんでしょ?」
「遠縁の子だそうだ。血は繋がってはいるようだが、どこから現れたのかはわかっていない」
それでも皇帝の相手にしていいわけである。適当だ。
ナラカは理音が女官の手伝いをしていることを言ってこない。こちらの情報は漏れていないのは確かなようだ。
そうなると、やはりフォーエンの情報がダダ漏れ過ぎている。問題にも程があった。
フォーエンの周囲から情報漏洩をなくす方法はあるのだろうか。動く人の規模も多いので、情報を制限することは中々難しい。
しかし、フォーエンがラカンの城に来ていたことは、ナラカは知らないらしい。知っていたら助けに来たことを口にしそうなものだ。そこは漏れていないかもしれない。
ハク大輔を身代わりにしてきたのだから、そこから情報は漏れなかったようだ。
「あ、ねえねえ。抜け道の話知ってる?」
全ては言わずそう口にすると、ナラカは死んだ女官の話か?と言ってきた。後宮内の話でも情報は得ているようだ。兵士たちが関わっているので、耳にできるのかもしれない。
「後宮の抜け道って、外の人が知るにはどうすればいいのかな」
「何でもあるだろ。手紙でも何でも、暗号にするなり何かに隠すなり送る方法はある。手紙は出せる。ただ読まれるけどな。連絡全てが禁じられているわけじゃない」
「そうなのか」
それでは後宮内にナラカの関係者がいれば、簡単に手に入るのだ。
理音が働いていることを知らないのは、ただの女官として入っているからだ。レイセン宮の情報は漏れていない。
「抜け道って、みんな知ってるのかなあ?」
「知るわけないだろ。あの道は俺も初めて知った。後宮じゃ有名なのかもな」
「十年くらい前って、知ってたらどんな人かね」
十年の年月でも後宮に止まる人はいるだろうが、姫ではないと思う。
ウの方の女官たちは、ウの方と一緒に来た者たちだ。元々後宮にいるわけではない。
「ずっと後宮で働き続けるってあるの?入れ替えはしてるって聞いたけど」
ツワのようにベテランぽい女官はいる。外から連れてきたわけでなく、前からいた人たちだ。
「後宮を牛耳る女官や、働き続ける下女はいる。外に出る気がなくて、入れ替えにも応じることなく働き続ける女たちだ。独身でも構わないと言う女はいる。普通ならば入れ替え時に外へ出されるが、能力がある者は残ることを許される」
そこは能力ありきらしい。能力がなければ否応無く入れ替えられるそうだ。
「後宮に長くいる女が知っているか、兵士か、その上司か。疑うなら何でもある」
「そうなっちゃうか」
「お前がレイセン宮からうろうろしているんだ。どこにでも抜け穴なんてあるんだろ」
ごもっともである。それには同意したい。きっと他にもあるんではなかろうか。
「知っていても、自分が出る気なければ他に知らせないだろう。後宮に穴があることは秘密裏にする」
「でも、それを知らせた人がいる」
「何気にしてんだ」
「人が死んじゃう抜け道を、何で教えたのかな。って。恋人がいて離れ離れになって、可哀想だから?でもそれで死んじゃったら意味ないよね」
それでも抜け道があるとわかれば、運に賭けたのだろうか?死んだ妃に呪われようと、すすり泣きが聞こえようと、抜けた後、死ぬことがあるかもしれなかろうと。
「後宮は魔物が住むそうだ。どうにかして出たがるやつなんて、ごまんといる」
「そっか…」
好きで後宮に入ったわけではない。そんな女性は多い。それを減らそうとしているフォーエンは歯がゆいだろう。
「後宮の人数、もっと減らしたいんだろうな」
「皇帝は何かとやり始めているからな」
「そうなんだ?」
昨夜も本を片手にしていた。先に眠ってしまったのでいつまで読んでいたのか知らないが、朝目覚めたらフォーエンはいなかった。
「忙しいんだろうな…」
「改革を急いでいるだろうが…」
ナラカは途中で言葉を止める。止めて理音を胡散臭そうな顔をして、横目で見てくる。その目は何だ。
「まさかな」
大きなため息をしたが、物凄く鼻で笑われた気がする。気のせいだろうか。
「あ、そうだそうだ。もう一つ」
「何だよ」
「エンシって昔のお医者さん、知ってる?」
ナラカは神出鬼没なので、聞きたいことは全部聞いておきたい。
理音が脈絡なく問うと、ナラカはうんざりするような嫌そうな顔をしてきた。
「探させているのはお前か」
「何を?」
「資料をだ。医療水準を上げるためだかで、医官に残った物はないか調べさせている」
木札のことがあるので、フォーエンは調べると言っていた。医官たちにも必要なのだし、いいことだと思うのだが、ナラカは別の問題を指摘した。
「エンシの技術は確かだったらしいが、結局助けられなかった者もいる。恨まれているみたいだな。どこまで協力者が現れるかだ」
「え?腕があるんじゃないの?」
それでは話が違う。どんな者でも助けられるくらいの外科医のような言われ方だったのに。
「皇帝の命令で手を出せなかったそうだ。腕があるのに、その腕をひけらかしただけと」
「エンシさんのせいじゃないのに」
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