上 下
79 / 244

79 ー次の場所ー

しおりを挟む
「そんで、どうしたって?何やった?」
「やってない」

 何もしていない。それでもクビになった。
 昨日からの出来事を一から話すと、ナラカは興味なさそうに首元をかいた。

「リン大尉が謀反を企んでいたとして、お前がクビ程度で済むなら、それは違うだろう」
「私もそう思う。でも、変だなってことも多い」
 ハク大輔と大尉が組んで謀反を企て、それにシュンエイの父親が関わっていれば、盗みだと叫ぶ理音は邪魔だろう。叫ばれたら、ついでにユムユナもアスナも邪魔になるかもしれない。騒ぎにならない内に消してしまった方が得策なのだ。

「だが、お前は逃がされた。そのユムユナってのとリン大尉は繋がっていない。それは別件だ」
「それは私もそう思う。でもクビ程度だったから、大尉は別に何もしてないのかなって。部下のユウリンさんはフォーエンびいきだったし」
「リン大尉は白か。それはまあ、納得いく。元々皇帝寄りだ」
「前、言ってたもんね。でもハク大輔と繋がってるのは、おかしいんでしょ?」
 ナラカは何か考えたか、口を閉じて無言を続けた。
「大尉に嫁いだ商家は、いい商売をしているがな」
「いい商売?」
 ナラカが言うと、とても善には聞こえない。それは正解であったが。

「あの商家は、地方の町に武器を売っている。町の警備やらのための武器だ。そう言うのは大体町が決める。どの商家を使ってどの武器を買うかを。だが、売ってる武器の割に羽振りがいい。裾野を広げて王都にも商売を始めたからかもしれないが、王都も貴族ってのは買う店ってのが大抵決まってるんだよ。代々みたいのがあるからな。ならどこに売るかって言うのなら」
「…まっとうなことに、使わないとこ?」
「そう言うこと。この国は安定していない。いきなり謀反てこともある。各家で武器を集めているところも多いだろう。表向きは決まった場所に頼み、裏では保険で強力な武器を取引する。謀反ついでに自分の家を襲われたら困るからな。そう言う家に売っている物は多い。また、謀反で使うための武器の供給も可能だ」
「何か知ってるの?」
 そのための供給を行なっている相手を。
 ナラカは一度間をおいて話し始めた。どうせわからないんだろうな、の横目をよこしながら。

「ハク大輔は一番皇帝に近い。二番目に近いのが、皇帝の従兄弟に当たるシヴァ少将。こいつは病弱だから先に死ぬかもな。その次だ。皇帝の又従兄弟になるヘキ卿がいる。皇帝の祖父の弟の孫だ」
「うーん。うん。うん?うん」
「わかってないだろ」
「や、わか、うん。わかった。従兄弟か又従兄弟。シヴァさんとヘキさん。はいはい。で?」
「ヘキ卿は遊び人で、基本やる気がない。いつも女と遊んでいるような男だが、最近になってとある商家と繋がり始めた」
「それがシュンエイ様のお父さん?」
「そうだ」
「じゃ、武器集めてる?」
「購入をしている。表向きだがな。ただし、裏でも購入している」
「なら、めっちゃ黒じゃん」
「だが、何度も言うが、ヘキ卿のやる気のなさは最悪だ。遊びすぎて、まず王宮に来ない。妻が三人いて子供も何人かいるが、他にも女がいて、一体何人子供がいるかわからない。それでいて遊び続けている。皇帝もさじを投げている状態だ。野心がないため放置されているとも言われているがな」
 それは中々、最悪な男である。フォーエンが嫌いそうなタイプの男だ。真面目に働かないのには容赦ないだろう。

「でも、怪しいんでしょ?」
「皇帝を取れる位置にはいるが、本人が興味ないだろうな。それでも商家が入り込んでいる。演技をしているのであれば相当だ。お前、入り込んでみるか?」
「え、そうなるの?」
「住む場所ないんだろうが。行ってこい。調べてこい。女にだらしないから、手を出されても文句言うなよ?」
「それは言うよね。てか、入り込めんの?」

 それこそ怪しいではないか。
 ナラカがだ。
 一体どう言うコネで入り込むと言うのだろう。

「それくらいできる。明日から入れ。今日は仕方がないから、宿を提供してやる。入り込んで俺に情報を渡せ。下らんことを口にすれば、お前の侵入はばらす。どうだ?」
「脅しといて、どうだって言うの?いいけど。どうやって情報渡せばいいの?」
「それは今後考える。しかし、お前も適当な女だな」
「ナラカに言われたくないよ。でも助かったー。どっちにしても、ナラカに職ないか聞こうと思ってたんだ」
「お前、大概だな」
「だって、こっちの知り合いってナラカしかいないし」
「皇帝がいるだろ」
 フォーエンは知っている人間である。だからと言って、そこらで声をかけられる人間ではないとわかっているだろうに。
 それに、前は囮として使われていたが、今回はそうであるとは限らない。

「皇帝は庶民から遠いよね。今日のお宿も助かったー。あ、でもお金あんまない」
「出世払いな」

 ナラカが何者と聞いても彼は答えないので問うても無駄なのだが、昨日の今日で、まがりなりにも皇族の屋敷にほいほい働きに入れられるその力は、一体どこから出てくるのだろう。
 チンピラ風であるが政治の人間関係に詳しく、皇族の屋敷にバイトを斡旋できる立場とは、一体どう言うものなのか。
 ナラカ自身が高位であるとか、それはなさそうなのだが。



「リオン。では、そこを端から端まで、綺麗に掃除を」
「わかりました」

 今回は、お掃除婦である。
 箒と桶と雑巾を持って、ヘキ卿の屋敷を十二分にも綺麗にしなければならない。

 正妃が潔癖レベルの綺麗好きらしく、そのせいで掃除婦が不足していたそうだ。
 掃除婦であれば、ある程度の場所まで紛れ込めるだろう。とのナラカのお達しだ。
 そして早速、潜入捜査が始まったのである。

 おかしいと思えることがあれば、何でも報告することが義務である。
 おかしいこと。つまり、武器や食品の過剰備蓄。または、その動き。
 動きとは曖昧な表現だが、何かを計画していれば、明らかに動きがおかしいだろう。との見解である。
 それは何となくわかるので、その何となくおかしいと思った物は何でも報告するわけだ。
 これらは、理音にとってはフォーエンのためになるだろうと思って行うわけである。
 また、食い扶持にありつけるならばどこでもいい。と言う面もあるわけだが、ナラカにとって、その結果がどんな意味を持つのかは、よくわからなかった。

 ヘキ卿が黒の場合、ナラカは何をするのだろう。
 それは、一体どこに報告されるのだろう。

 これだけの屋敷に入れる力を持っている人物が、ナラカの上にいるのだと思うのだが。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

竜帝陛下と私の攻防戦

えっちゃん
恋愛
彼氏だと思っていた相手にフラれた最悪な日、傷心の佳穂は考古学者の叔父の部屋で不思議な本を見付けた。 開いた本のページに浮き出てきた文字を口にした瞬間、突然背後に現れた男によって襲われてしまう。 恐怖で震える佳穂へ男は告げる。 「どうやら、お前と俺の心臓が繋がってしまったようだ」とー。 不思議な本の力により、異世界から召喚された冷酷無比な竜帝陛下と心臓が繋がってしまい、不本意ながら共に暮らすことになった佳穂。 運命共同体となった、物騒な思考をする見目麗しい竜帝陛下といたって平凡な女子学生。 相反する二人は、徐々に心を通わせていく。 ✱話によって視点が変わります。 ✱以前、掲載していた作品を改稿加筆しました。違う展開になっています。 ✱表紙絵は洋菓子様作です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

【完結】偽者の辺境伯令嬢は、帝国へと輿入れを切望される。無理があると思うのは私だけなのかしら。

まりぃべる
ファンタジー
目が覚めたら、銀髪で赤い瞳のとても綺麗な外見の女性になっていた。この外見の女性はエルヴィーラという名前で隣国の小国の辺境伯令嬢で、今日、隣のアーネムヘルム帝国へと輿入れ予定だという。 どう考えても無理があるし、どうして私が?とも思ったがそれしか生き残る術はないという。 こうなったら、なるがままよと思いながら輿入れの為に迎えに来た馬に乗る。 しかし、やっぱり同行した軍隊に本当にあの辺境伯令嬢なのかと疑われやしないか、ちゃんと演じているかとびくびくしながら、それでもどうにか帝国へついて、皇帝と結婚するお話。 ☆現実世界にも似たような言葉、表現、地名、人の名前などがありますが、全く関係がないです。そのように読んでいただけると幸いです。 ☆まりぃべるの世界観は、きっと独特です。そのように読んで下さると幸いです。 ☆緩い世界観です。そのように思っていただけると幸いです。 ☆完結しておりますので、順次更新していきます。全27話です。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

処理中です...