12 / 244
12 ー写真ー
しおりを挟む
織姫は何をもって自分をここに留め置くのか。
気まぐれで自分をここに置いているわけではないだろう。
初めから優遇された扱いだ。手荒にされたわけでもない。
皆は怯えて自分に触れるのすら恐れているため、いきなり攻撃などはできなかったのかもしれないが。
その怯えこそが、ここにいなければならない理由なのか、それはわからない。
その場はそのまま宴会らしく、音楽や太鼓の音が流れた。
踊り子たちが踊り出す。その人数も中々なものなのだが、それも普通のことなのだろう。ようように盃を交わし、食事を口にする。
織姫の側にも女性がつき、酒を注いだ。
未成年とかあるのかな。と疑問を持つ。
別の女性が理音の盃に無色透明な液体を注いだが、飲もうとして匂いを嗅いでやめた。日本酒のような香りがしたのだ。
父親が好んで飲む酒と同じだった。
目の前にある豪華な食事は、気にせず口にした。冷めていたがそれなりに美味しい。
刺身のような生物、練り物が絵のように皿に盛られているが、これを全て食べるには何人も人がいなければ食べきれないだろう。
織姫と理音の前にあるテーブルぎっしりに皿が置かれているのだから。
正直、遠くにある食事には手が届かない。手を伸ばせば袖についてしまう。
そして、そうしてまで取ろうとしても、それがかなり下品に見えるのは想像ができた。だから、手元の物だけ食べた。
今日はきっと何かのイベントなのだろう。豪勢なイベントだ。踊り子たちや楽器隊のパフォーマンスはいつまでも続く。
それがいつまで続くのかわからないと思うと、また鬱屈な思いを感じた。
星だったら時間を気にせず楽しめるのに。
それ以外では、どうにも飽きっぽいと自負している。
そういうわけで、大月小月を見るという飽きない方法を見出した。
今日は少し薄いのが残念だ。小月に至っては、殆ど見えない。
微妙に遠くなっているのは、衛星の軌道が違うからだ。そのうち離れていくのだろうが、どういう風に離れていくのか興味が尽きない。
その距離を写真におさめたくなった。
そう思うと、もう我慢できない。
カメラを起動して、空を撮る。
何枚か撮って、もう写真を撮ってしまったし、と食事や風景まで撮り始めた。
音楽のせいでシャッター音はそこまで聞こえないだろうが、織姫の耳には入るだろう。
ちらりと一瞥。
またちらり。
何をしているのか気になるのか、ちらちら視線を感じる。
視線を合わせると、織姫はそれをずらしてスマフォに移動させた。
はいはい、気になるのはスマフォね。スマフォ。
おもちゃが我慢できない子供のようだ。
羨望の眼差しである。
だから、またもするりと手が伸びてきた。
もう勝手にしてくれ。
織姫がパスワードを連打しないように見張っていると、彼はなぜかこちらを見つめ直した。
スマフォで遊びたいのではないのか、少し触れてからこちらに戻してくれる。
遊び飽きたのだろうか。
呪文。
そうしてスマフォを指差し。
いや、内容は理解できない。
首を傾げると、またもスマフォを取り上げてくるくる回し、再びこちらに戻してくる。
意味がわからない。
そこで、ドンと大仰な太鼓の音がこだました。
演目が変わるようだ。
シャッターチャンスでも来るかと、カメラを構える。
すると、織姫はそれを覗き込んできた。
そして当然スマフォを奪う。
画面は白いままだ。
なぜなら彼は、スマフォのカバーをカメラレンズにあててしまっている。
訝しげな顔をして、掲げては下ろした。
「ああ、わかった」
理音が蓋となっているカバーを下ろすように動かしてやると、案の定、織姫の表情が変わった。
不可思議なことが彼の中で起きている。
ある景色が、スマフォの中にもある。
それを縦にして横にして、それでも同じ景色がスマフォにある。
スマフォの裏面を見ては表面に戻し、けれどその景色が同じであるとわかると、大きく顔をしかめた。
スマフォをかざして画面の景色を見て、スマフォを使わず景色を見て、やはり同じ景色だと確認しているのだ。
その表情を見て、理音はもう我慢ができなかった。
弾けるように吹き出すと、笑ってはいけないと思いつつ、お腹を抱えて爆笑した。
織姫の不機嫌さが、おかしくてたまらないのだ。
スマフォに景色が映るという不可思議な現象が、織姫に理解できない。
彼はきっと、よほどプライドが高いのだ。
理解できない出来事に機嫌を悪くするのだから。
自分が理解できない現象が許せないのだろう。
もちろん、理音が笑ったことにも腹を立てたらしい。
ムッとした表情が更に笑えた。失礼だが笑ってしまった。
それでも、スマフォを覗いて景色を確認する。
そういうものだという理解の仕方はしないのだ。
「面白いなー」
なので、タブレットで見せてやることにした。こちらの方が見やすいだろう。
「ねえ、ほら、こっちの方が画面大きいから、こっちでやりなよ」
手渡すと、むすっとしたまま。けれど、素直に受け取る。
腹立たしさよりも、彼は興味の方が強いのだ。
気まぐれで自分をここに置いているわけではないだろう。
初めから優遇された扱いだ。手荒にされたわけでもない。
皆は怯えて自分に触れるのすら恐れているため、いきなり攻撃などはできなかったのかもしれないが。
その怯えこそが、ここにいなければならない理由なのか、それはわからない。
その場はそのまま宴会らしく、音楽や太鼓の音が流れた。
踊り子たちが踊り出す。その人数も中々なものなのだが、それも普通のことなのだろう。ようように盃を交わし、食事を口にする。
織姫の側にも女性がつき、酒を注いだ。
未成年とかあるのかな。と疑問を持つ。
別の女性が理音の盃に無色透明な液体を注いだが、飲もうとして匂いを嗅いでやめた。日本酒のような香りがしたのだ。
父親が好んで飲む酒と同じだった。
目の前にある豪華な食事は、気にせず口にした。冷めていたがそれなりに美味しい。
刺身のような生物、練り物が絵のように皿に盛られているが、これを全て食べるには何人も人がいなければ食べきれないだろう。
織姫と理音の前にあるテーブルぎっしりに皿が置かれているのだから。
正直、遠くにある食事には手が届かない。手を伸ばせば袖についてしまう。
そして、そうしてまで取ろうとしても、それがかなり下品に見えるのは想像ができた。だから、手元の物だけ食べた。
今日はきっと何かのイベントなのだろう。豪勢なイベントだ。踊り子たちや楽器隊のパフォーマンスはいつまでも続く。
それがいつまで続くのかわからないと思うと、また鬱屈な思いを感じた。
星だったら時間を気にせず楽しめるのに。
それ以外では、どうにも飽きっぽいと自負している。
そういうわけで、大月小月を見るという飽きない方法を見出した。
今日は少し薄いのが残念だ。小月に至っては、殆ど見えない。
微妙に遠くなっているのは、衛星の軌道が違うからだ。そのうち離れていくのだろうが、どういう風に離れていくのか興味が尽きない。
その距離を写真におさめたくなった。
そう思うと、もう我慢できない。
カメラを起動して、空を撮る。
何枚か撮って、もう写真を撮ってしまったし、と食事や風景まで撮り始めた。
音楽のせいでシャッター音はそこまで聞こえないだろうが、織姫の耳には入るだろう。
ちらりと一瞥。
またちらり。
何をしているのか気になるのか、ちらちら視線を感じる。
視線を合わせると、織姫はそれをずらしてスマフォに移動させた。
はいはい、気になるのはスマフォね。スマフォ。
おもちゃが我慢できない子供のようだ。
羨望の眼差しである。
だから、またもするりと手が伸びてきた。
もう勝手にしてくれ。
織姫がパスワードを連打しないように見張っていると、彼はなぜかこちらを見つめ直した。
スマフォで遊びたいのではないのか、少し触れてからこちらに戻してくれる。
遊び飽きたのだろうか。
呪文。
そうしてスマフォを指差し。
いや、内容は理解できない。
首を傾げると、またもスマフォを取り上げてくるくる回し、再びこちらに戻してくる。
意味がわからない。
そこで、ドンと大仰な太鼓の音がこだました。
演目が変わるようだ。
シャッターチャンスでも来るかと、カメラを構える。
すると、織姫はそれを覗き込んできた。
そして当然スマフォを奪う。
画面は白いままだ。
なぜなら彼は、スマフォのカバーをカメラレンズにあててしまっている。
訝しげな顔をして、掲げては下ろした。
「ああ、わかった」
理音が蓋となっているカバーを下ろすように動かしてやると、案の定、織姫の表情が変わった。
不可思議なことが彼の中で起きている。
ある景色が、スマフォの中にもある。
それを縦にして横にして、それでも同じ景色がスマフォにある。
スマフォの裏面を見ては表面に戻し、けれどその景色が同じであるとわかると、大きく顔をしかめた。
スマフォをかざして画面の景色を見て、スマフォを使わず景色を見て、やはり同じ景色だと確認しているのだ。
その表情を見て、理音はもう我慢ができなかった。
弾けるように吹き出すと、笑ってはいけないと思いつつ、お腹を抱えて爆笑した。
織姫の不機嫌さが、おかしくてたまらないのだ。
スマフォに景色が映るという不可思議な現象が、織姫に理解できない。
彼はきっと、よほどプライドが高いのだ。
理解できない出来事に機嫌を悪くするのだから。
自分が理解できない現象が許せないのだろう。
もちろん、理音が笑ったことにも腹を立てたらしい。
ムッとした表情が更に笑えた。失礼だが笑ってしまった。
それでも、スマフォを覗いて景色を確認する。
そういうものだという理解の仕方はしないのだ。
「面白いなー」
なので、タブレットで見せてやることにした。こちらの方が見やすいだろう。
「ねえ、ほら、こっちの方が画面大きいから、こっちでやりなよ」
手渡すと、むすっとしたまま。けれど、素直に受け取る。
腹立たしさよりも、彼は興味の方が強いのだ。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?
氷雨そら
恋愛
結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。
そしておそらく旦那様は理解した。
私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。
――――でも、それだって理由はある。
前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。
しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。
「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。
そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。
お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!
かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。
小説家になろうにも掲載しています。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
竜帝陛下と私の攻防戦
えっちゃん
恋愛
彼氏だと思っていた相手にフラれた最悪な日、傷心の佳穂は考古学者の叔父の部屋で不思議な本を見付けた。
開いた本のページに浮き出てきた文字を口にした瞬間、突然背後に現れた男によって襲われてしまう。
恐怖で震える佳穂へ男は告げる。
「どうやら、お前と俺の心臓が繋がってしまったようだ」とー。
不思議な本の力により、異世界から召喚された冷酷無比な竜帝陛下と心臓が繋がってしまい、不本意ながら共に暮らすことになった佳穂。
運命共同体となった、物騒な思考をする見目麗しい竜帝陛下といたって平凡な女子学生。
相反する二人は、徐々に心を通わせていく。
✱話によって視点が変わります。
✱以前、掲載していた作品を改稿加筆しました。違う展開になっています。
✱表紙絵は洋菓子様作です。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します
もぐすけ
ファンタジー
私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。
子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。
私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる