上 下
46 / 69
第5章 絵師の祈り色

5-6 病院

しおりを挟む
  ぽめPは都内にあるリハビリ病院の救急外来に搬送された。
  わたしが住む街から電車で15分くらい。
  日が暮れる前にはなんとかたどり着いた。

「美咲!」
  エントランスを通ると、ロビーで待っていたひなのがソファから立ち上がった。
  わたしに飛びついて、胸にぎゅうっと顔をうずめてくる。
「怖かった、怖かったよぉ」
「うん、よく連絡できたね。お疲れ様」
  ぽやぽや跳ねた髪を優しく撫でてやった。

「今に、さぼじろーも来るよ」
「さぼじろーさんも?」

  名前を復唱したその瞬間、エントランスの自動ドアが開いた。
  長身の美しいシルエットが、高齢者しかいないロビーで際立った。
  さぼじろーさんはちらりとわたしたちを見たけれど、真っすぐに受付に向かった。

「先ほど救急に搬送された南条駿の友人です。一堂いちどう恭平きょうへいと申します」

  夕方で閑散とした病院に、通話画面越しに聞いた声が響いた。

  南条駿、一堂恭平。
  初めて知った、2人の本名。

  受付にはあらかじめ連絡が入っていたようだった。
  さぼじろーさんは職員の指示に頷いてから、わたしたちのところに近づいてきた。

「ぴよはこのままエントランスに。美咲は俺と一緒に来い」
「え?」
「ひなのに、お願いがあるんだ」

  さぼじろーさんは手帳の端を破って、さらさらとイラストを描いた。

「ここに駿の家族が来てくれることになっている。到着したら、あっちの廊下に行くよう伝えてほしい。……できそうか?」

  ひなのの理解度を確認しながら、丁寧に指示を伝える。

  段取りが苦手なひなのでも、絵があれば理解しやすいって知ってるんだ。
  さぼじろーさんの配慮の形に、絵を描くことの可能性の大きさを感じた。

「お隣さんなら顔を見れば分かるよな。俺たちは看護師さんに会ってくるから、ここは任せたぜ」
「らじゃ」

  ひなのは役割を与えられてうれしそうだった。

  わたしはさぼじろーさんに続いて救急科の廊下に向かった。
  またドキドキしていた。

「おい」
  唐突に声が降ってくる。
「院内では俺のことは名前で呼べ。身バレしたくないからな」
「はい……えっと、恭平さん」

  女性の看護師さんが駆け寄ってきた。
「看護師の西野にしのと申します。南条さんのご友人の方ですね」
「はい、一堂といいます」

  さぼじろーさんと西野さんが名刺を交換して、一礼した。

「家族ではないので書類のサインはできませんが、かかりつけ医や薬などの情報は本人から預かっています」

  それから、とさぼじろーさんは予想外のことを言った。
「あの、この子も同席させていいですか。看護師志望の高校生なんです」

  え、と思わず声が出る。
「ちょっと、恭平さん?」
「あら、そうなんですか。参考になるのでしたら、どうぞ」
  西野さんはわたしに朗らかに笑い掛けてくれた。

  さぼじろーさんがにやりと笑った。
「よかったな。個人情報はメモすんなよ」
「しませんよ!」

  どうしよう、緊張する。
  ひなのの付き添いのつもりが、まさかの職場見学になるなんて!

  ちゃんとした服装で来ればよかった。
  小さいメモ帳じゃなくて、ノートを持ってくればよかった。
  動揺して、ボールペンのグリップが手汗でにじんだ。

  ああ、そうか。
  自分次第――さっき言われた言葉を思い出す。

  きっと、大丈夫。これはチャンスなんだ。
  そう思うと、緊張が解けていくのを感じた。

  ちらりと隣を見ると、さぼじろーさんの優しい瞳と目が合った。

  ぽめP、ひなの、ごめんね。
  今のわたし、ちょっとワクワクしてる。

  改めて、わたしはよろしくお願いしますと西野さんに頭を下げた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

〜女子バレー部は異端児〜 改編

古波蔵くう
青春
異端の男子部員蓮太が加わった女子バレー部は、代表決定戦で奮闘。蓮太は戦勝の瞬間、部長三浦に告白。優勝し、全国大会へ進出。異例のメンバーが団結し、全国での激戦に挑む。男女混成の絆が、郭公高校バレー部を異端児として輝かせる。

サンスポット【完結】

中畑 道
青春
校内一静で暗い場所に部室を構える竹ヶ鼻商店街歴史文化研究部。入学以来詳しい理由を聞かされることなく下校時刻まで部室で過ごすことを義務付けられた唯一の部員入間川息吹は、日課の筋トレ後ただ静かに時間が過ぎるのを待つ生活を一年以上続けていた。 そんな誰も寄り付かない部室を訪れた女生徒北条志摩子。彼女との出会いが切っ掛けで入間川は気付かされる。   この部の意義、自分が居る理由、そして、何をすべきかを。    ※この物語は、全四章で構成されています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

全力でおせっかいさせていただきます。―私はツンで美形な先輩の食事係―

入海月子
青春
佐伯優は高校1年生。カメラが趣味。ある日、高校の屋上で出会った超美形の先輩、久住遥斗にモデルになってもらうかわりに、彼の昼食を用意する約束をした。 遥斗はなぜか学校に住みついていて、衣食は女生徒からもらったものでまかなっていた。その報酬とは遥斗に抱いてもらえるというもの。 本当なの?遥斗が気になって仕方ない優は――。 優が薄幸の遥斗を笑顔にしようと頑張る話です。

機械娘の機ぐるみを着せないで!

ジャン・幸田
青春
 二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!  そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。

colorful〜rainbow stories〜

宮来らいと
恋愛
とある事情で6つの高校が合併した「六郭星学園」に入学した真瀬姉弟。 そんな姉弟たちと出会うクラスメイトたちに立ちはだかる壁を乗り越えていくゲーム風に読む、オムニバス物語です。

処理中です...