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第2章 スプーン・ダンス
2-4 SNS
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翌朝、悪いことを思いついてしまった。
学校の女子トイレに駆け込んで、スマホでSNSに書き込む。
「『サウンド・ドラッグ』に新加入した『ぴよ』を応援できません」
「リア友に事前の説明もなく突然の加入。順番が違うだろって話。友達軽視? 活動なめてる? 一人だと何もできないくせに」
「『見えない障害』だと公表してるけど、それが何? 『隠せない障害』だって大変じゃん? 気持ちの整理が付かないな」
ツリーに心の叫びを書き込んで、投稿ボタンをぽち、と押す。
胸がドキドキした。これでいい。これでいいんだ。
コメント欄はあっという間にざわついた。
「マジか」
「そりゃ複雑だわ」
よし、これでいい。SNSを使ったイメージダウン作戦。
わたしはリポストで通知の止まらない画面を見ながら何度も頷いた。
ひなのの泣いた顔が見たかった。
またみんなのところに来て、「ごめんね」と言ってさえくれれば――きっと心が満たされるのに。
「朝の投稿。あれ、桃花のアカウント?」
休み時間、机の前に来た美咲に睨まれた。
穏和な美咲らしくない気迫に押されて、わたしの喉がひゅっと縮む。
「だとしたら、何?」
「SNSに書かないでよ。ちゃんと言わないと、ただの陰口じゃん」
ああ、怒っているのだと分かった。
ひなのを悪く言う投稿をしたから。
自分を守ろうと、匿名性を利用したから。
何も言い返せない。許してほしいなんて思ってない。
美咲は冷ややかにわたしを一瞥して、それからひなのの机に向かった。
ひなのはわたしと目を合わせず、美咲とノートを見ながら何か話している。
先生に見つからないよう、バッグに隠しながらスマホを覗く。また通知が届いていた。
「……バズっちゃったな」
反応が止まらない。いいね1133件、リポスト2543件。
昼休み、美咲はひなのと食べると言って教室に残った。
わたしはいつもの場所で拓海とやぎすけとパンを食べた。
2人から言われたのはやっぱりSNSの話だった。
「あれ、ちょっとまずいよ」
「……え」
「桃花でしょ。『ぴよ』のこと書いたの」
拓海が隣に座るわたしと反対側にフルーツカップを置いた。
埃っぽい空気が動いて、生クリームの乗ったパンを取り巻く。
「面白くない気持ちは分かる。だけどちゃんとひなの本人と話さないと、俺らが陰口叩いたって言われちゃう」
拓海はわたしから目を逸らした。
「ごめん、俺が変なこと言ったから」
やぎすけもフォローしてくれたけど、目の前がさっと暗くなる。
「だってわたしたち、友達だったじゃん」
階段がしんとした。わたしの湿っぽい声が響いた。
「わたしたちがすごく傷付いてるって、伝えたいじゃん――」
学校の女子トイレに駆け込んで、スマホでSNSに書き込む。
「『サウンド・ドラッグ』に新加入した『ぴよ』を応援できません」
「リア友に事前の説明もなく突然の加入。順番が違うだろって話。友達軽視? 活動なめてる? 一人だと何もできないくせに」
「『見えない障害』だと公表してるけど、それが何? 『隠せない障害』だって大変じゃん? 気持ちの整理が付かないな」
ツリーに心の叫びを書き込んで、投稿ボタンをぽち、と押す。
胸がドキドキした。これでいい。これでいいんだ。
コメント欄はあっという間にざわついた。
「マジか」
「そりゃ複雑だわ」
よし、これでいい。SNSを使ったイメージダウン作戦。
わたしはリポストで通知の止まらない画面を見ながら何度も頷いた。
ひなのの泣いた顔が見たかった。
またみんなのところに来て、「ごめんね」と言ってさえくれれば――きっと心が満たされるのに。
「朝の投稿。あれ、桃花のアカウント?」
休み時間、机の前に来た美咲に睨まれた。
穏和な美咲らしくない気迫に押されて、わたしの喉がひゅっと縮む。
「だとしたら、何?」
「SNSに書かないでよ。ちゃんと言わないと、ただの陰口じゃん」
ああ、怒っているのだと分かった。
ひなのを悪く言う投稿をしたから。
自分を守ろうと、匿名性を利用したから。
何も言い返せない。許してほしいなんて思ってない。
美咲は冷ややかにわたしを一瞥して、それからひなのの机に向かった。
ひなのはわたしと目を合わせず、美咲とノートを見ながら何か話している。
先生に見つからないよう、バッグに隠しながらスマホを覗く。また通知が届いていた。
「……バズっちゃったな」
反応が止まらない。いいね1133件、リポスト2543件。
昼休み、美咲はひなのと食べると言って教室に残った。
わたしはいつもの場所で拓海とやぎすけとパンを食べた。
2人から言われたのはやっぱりSNSの話だった。
「あれ、ちょっとまずいよ」
「……え」
「桃花でしょ。『ぴよ』のこと書いたの」
拓海が隣に座るわたしと反対側にフルーツカップを置いた。
埃っぽい空気が動いて、生クリームの乗ったパンを取り巻く。
「面白くない気持ちは分かる。だけどちゃんとひなの本人と話さないと、俺らが陰口叩いたって言われちゃう」
拓海はわたしから目を逸らした。
「ごめん、俺が変なこと言ったから」
やぎすけもフォローしてくれたけど、目の前がさっと暗くなる。
「だってわたしたち、友達だったじゃん」
階段がしんとした。わたしの湿っぽい声が響いた。
「わたしたちがすごく傷付いてるって、伝えたいじゃん――」
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