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転生者

第48話

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 背中にツインアルテミスボウの2連撃、腹部にサラの強化靴パワーブーツ装備の蹴りをほぼ同時にくらった訳だから俺は冷静に状況を判断できるほどの余裕はない。



 っていうか痛みで何も考えれない。何も考えれないのに痛い。



 痛い。



 痛い。



 痛い。



 痛くて



 痛くて痛くて



 痛くて痛くて痛くて



 痛くて痛くて痛くて痛くて痛い!!





 ふと、喉に液体?乾いた喉に潤うそれをもう無意識で飲みこんでいた。





 喉に潤いを感じると、急に頭の中がクリアになってきた。









 なんで俺こんなに痛い思いしてたんだ?


 シェリーさんに撃たれてサラに蹴られた?



 なんで俺は仲間から攻撃されたんだっけ?


 俺が攻撃したから?



 バカな。俺が仲間を攻撃するわけがないだろ?



 いや、ヤマト君を殴った手応えが俺の手に残っている。



 あの儚い少女のようなヤマト君を俺が殴った?



 人族の、それも吹いたら飛んでいきそうなほど貧弱そうな子供。



 獣人の俺が殴れば無事なはずがない。



 死んだか?いや、違う。俺が殺した?







 ……嘘だ。





 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。



 夢だ。これはきっと夢だ。



 だから、目を覚ましたらきっと宿屋のベッドで。



 そうだろ?



 身体の痛みはいつの間にかなくなっていた。



 でも。





 この痛みはなんだ。



 胸を締め付ける痛み……



 仲間を殺した罪悪感。





 そして頬を撫でる感触。





 撫でる?いや違うなもっと強い。





 頬を叩く感触、いやもっと強い。







 ……痛い痛い











 痛い!!!





「早く起きなさいよっ!!!」



 気付くといつの間にか目の前にはサラの顔が。



 そして俺の顔はサラにビンタされていた





「いたっ! たっ! たっ! 痛い!!」



 俺が上げた声でサラのビンタが止まった。



「よかった、無事だったね」



「顔面が爆死しそうです……」



 サラは俺の顔を見たのにそこから視線を外す。



「立てるかしら?」



「ん? ああ、大丈夫そうだ」



 あれ?俺デカマイ戦で結構満身創痍な感じだったよね。そして悪魔族が現れてそのままサラ達と戦闘して……



「ヤマト君がポーション飲ませてくれたからケガはある程度治っているでしょ?」



 確かに、体中にあった傷は癒えてた。





 ただし、顔以外。





「え? ヤマト君無事なの?」


「ええ、大丈夫よ。それよりも今は」



 サラの視線の先では悪魔族とシェリーさんが戦っていた。すぐ近くにはヤマト君も魔法で戦いを支援していた。



「あまり長くは持たないわ。私達も加勢にいくわよ。今度は誘惑テンプテーションなんかに掛からないでね」



 状態異常攻撃にいつの間にかハマっていたのか。



 舐めやがって!



「オイタをした悪魔にお仕置きしてやるぜっ!」



 そうして俺とサラは戦線へと向かっていった。

「遅いわよ~」



「ああ、悪かった。その分は戦いで取り返させてもらう!」



 戦線に復帰した俺は悪魔族へと近接戦闘を仕掛ける。



 俺の攻撃を器用に往なしながら反撃もしてくる。流石に悪魔族と言われるだけはある。



「まったく、使えないワンコね。一匹も倒せてないじゃない」



 この俺をワンコ扱いだと!?

 もう許さん。



 その綺麗な顔を恐怖に引き攣らせてやんよ!


「俺をバカにしてくれたお礼はしっかりさせてもらうぜ」



 連撃から少しずつ体制を崩し、次の強化腕パワーアーム装備の一撃が直撃する!



 いや、直撃したはずなのに。



 そこには2匹に分裂した無傷の悪魔族がいた。



「くっそ。アメーバみたいに分裂しやがるのか」



 分裂した悪魔族へサラの蹴りが入る!



 いや、入ったはずだ。



 そこには更に2匹に分裂した無傷の悪魔族がいる。



「どういうこと?」



 分裂した悪魔族へシェリーさんの魔法矢マジックアローが直撃する。


 いや、直撃したはずなんだが。



 そこには更に2匹に分裂した無傷の悪魔族がいた。



「「「「さぁこっちの戦力は4倍だよ! お前たちに対応できるかしら!?」」」」



 合計4匹になった悪魔族が口をそろえて同じことを言い放つ。





 再度分裂した奴に殴りかかると、攻撃を往なされ反撃してきたので防御しつつ肉弾戦へと移行していく。



「分身のパターンって普通に考えると」

 肉弾戦をしながら話しかける。



「増えた数だけ戦闘力が分散される?」

 サラも戦いながら返事してくれた。



「テンさんパターンやな!」



「テンさんとか誰よ!」

 悪魔族は知らないだろう。だが前世日本人の俺達には分かり切った事だ。三つ目のあの人だ。





「でも~、こいつの強さは変わらないわ~」

 シェリーさんも戦いながら見解を示す。



「ひっ! ひゃぁあ!」

 ヤマト君は攻撃を避けて躱して防御してで手一杯らしい。じゃあ、さっさと決めてやらなきゃな。



「ということは3匹は偽物で1匹が本物パターンじゃないかしら!」



 サラが皆に叫んだ瞬間、悪魔族の表情がほんの一瞬だったがピクッとしたのが見えたがよく考えたら結局全部倒せば解決するという事に気付いた。



 ――俺天才。



 俺は激しい肉弾戦をしている所だが更にもう一段階ギアを上げる。



「本気獣人の実力を見せてやるぜっ!」

 無意識に戦闘中に行っているスタミナ配分を意識的に無視し、一撃一撃に込める力を上乗せしていく。



 そして少しずつ押し始めたところで渾身の左ストレート!



 ギリギリで躱されたがそのまま魔力を解放するとバシュッという小気味いい音と共に左の強化腕パワーアームに装備されたシザーアンカーが射出される。



「ああああああああああああんんんんんんん」



 俺の一番近くで戦っていたシェリーさんが相手していた悪魔の尻尾にシザーアンカーが噛みついたのだ。



 そのまま力を込めてこっちに引っ張ると、シザーアンカーが悪魔族ごとこちらに飛んでくる。

 俺の相手をしていた悪魔族もその様子に驚いている。当然そんな隙を逃すことは無く、右腕の強化腕パワーアームで剥き出しのお腹にストレートを叩き込む。



 吹っ飛ばした悪魔族とシザーアンカで引っ張られて飛んできた悪魔族がぶつかるとそこへシェリーさんのツインアルテミスボウから魔法矢マジックアローが命中した。



「ぎゃあああああああああああああああああああああ」



 悪魔族の断末魔が響き渡る。





 命中した悪魔族の周りに立ち上がった土煙が収まると、そこには分裂していた個体はなくなり本体だけになっていた。

 どうやら意識を失ったらしい。そのおかげか、サラとヤマト君が相手していた個体も消えていた。





「まさか、悪魔を倒せるなんて……」

 ヤマト君が呟いているがどうやらこの世界の常識だと異常らしい。

 確かに強かったが、手も出せない程でもなかったな。



「みんな無事でよかった」

 俺は心からそう思い、みんなに声を掛けたのだった。
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