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転生者

第42話

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「助けて頂いてモギュモギュありがとうモギュモギュ、ゴックン、ございます」



 取り合えず安全地帯である階段フロアで休憩というか、助けた少女に食べ物を振舞う状態になった。その食欲はすさまじいものがあったので、かなりの期間飢えと戦っていたのだろう。



「とりあえず~、話は食べ終わってからにしましょ~」



 飢餓と戦っていた者相手にお行儀なんて関係ない。

 まずは食べて落ち着いてもらおう。









「ふぃ~、もう食べられないでござる」



「「「ござる??」」」



「あっ、いやなんでもないです。ボクはユジャスカ帝国を、拠点に活動している冒険者のヤマト、です。助けて、頂いてありがとう、ございました」



 チラッとこちらを見て視線が合うと照れたように下を向いた。

 なんだ?



「捜索対象の子だわ!」

「そういえば~事前情報で男の子らしくない見た目ってあったわよね~」



 改めて見てみても、女顔だし体つきはほっそりしてるし色白だし。

 まぁ、このくらいの年齢の子供は男女区別がつきにくいことはあるが、それでも極まっている。

 さらに鎧にはフリルとかついてるし、リボンとかついてるし。



「ボク男ですぅ!」



 なんだ?女っぽくみられるのが嫌なのか?でも格好は……どっちだ!?



「俺達は研究者だけど今は冒険者をやっている。英国の鈴ロンドンベルのパーティーリーダー、ゲンスイだ。こっちのエルフがサラ、竜人族がシェリーさんだ」




「亜人が、研究者、なんです、か?」



「鉱物や鉄類と魔物の組織を融合するような研究をしていてな、この先にいるアダマンタイマイ討伐を目的にここまで来たんだが……」



 亜人差別教育を受けているだろうが、気にせず説明した。



「ここに来る途中に~、フォンちゃんに会って~、あなたの捜索も頼まれたのよ~」



「え? フォンちゃんが?」



「同行していたパーティーは遺品が確認されている。地下3階のジャックラ草が目的なのにこんな奥深くにいる事と言い、何があった?」



「そう、なんですか……分かりました。説明、します」

 そういうと、悲しそうな表情を浮かべ少しずつ話してくれた。





 要約すると、

 ジャックラ草エリアでブレードビートルという魔物に襲われた。

 ちなみに、通常のブレードビートルは体長30センチ程で甲殻部分が刃物のように鋭くなっている。そこそこ素早いがEランク以上の冒険者ならば対応可能というレベル。


 襲われた魔物は体長2メートル弱はある、完全に突然変異種だった。

 パーティーで応戦しながら撤退したが、通常では考えられない程の強さだった。

 逃げているとヤマトは逸れてしまいいつの間にかダンジョンの奥へと進んでいた。

 途中落とし穴のトラップにハマり、かなり地下へと落ちた。

 なんとか脱出をしようと探索するも、敵が強そうで逃げ回る日々。

 一本橋のようなエリアで悪魔族に会敵し逃げることもままならず、ペイッと落とされた。

 運よく浮遊ブロックに落ち死なずに済んだがそこから動けなくなった。

 たまたま通りかかった冒険者に助けられた。←イマココ



 という事らしい。



 なんとまぁ。不運なことで。

「ヤマト君の説明で聞き逃せないポイントがあるわね」

「ああ、ジャッカル草は結局取r……」

「悪魔族よね~」



 あっ、違ったらしい。だって気になるだろ?目的の採取物をゲットできたかどうかだぜ??



 まぁ俺は大人だからな。声を被せてきたシェリーさんを非難したりはせず、話を聞く。



「崖から一本橋みたいになっている、フロアがありまして、そこで、遭遇したので逃げれません、でした……」



「どんなヤツだったの?」



「見た目は普通の、いぇ、普通じゃなかったですね。肌の露出部分がなんといいますか、とても大きい、整った顔立ちの女性でした。ただ、大きなツノや尖った耳、それに蝙蝠のような羽と細長い尻尾がありました」



「聞く限り確かに悪魔族みたいね~」



「しかし、こういう言い方するとあれだが、悪魔と正面から対峙して、よく落とされるだけですんだな」



 悪魔族は他の種族と交わらず独自の種族感と価値観を持ち、その世界がすべてと言われている。
 もちろん、例外はあり他種族と契約をしている悪魔もいるにはいるが、基本的には全種族の敵である。


 そして単独での戦力も他種族を圧倒できるほどで会敵即逃亡が基本であるというのが俺が知っている限りの悪魔族の情報だ。



「幸運だったの、かな? 道端の石ころを蹴る程度しか、意識されなかったんご」



 んご??



「結果的にこうやって無事なんだからよかったじゃない」



「そうね~。さて~、これからどうする~?」



 それが一つの問題だ。

 捜索対象を見つけたのだから一度戻るべきか?

 だが俺達の目的はまだ先だ。



「一度戻るべきかな」



 人命優先で普通に考えたらそうなるだろ。



「これだけ規模の大きいダンジョンだから入り口へと戻る転移石がある可能性も高いと思うの。どうかしら?」



 もしこのすぐ先に転移石があったら、引き返すよりも安全に戻れることになる。

 が、あるかないかは賭けだ。



「ギルドで手に入れた情報だと~、次の階層まであることは分かっているけど~、そこまでよ~。その先はギルドでは把握できいないわね~」



「ということは、そこでアダマンタイマイの目撃情報が出ているのか?」



「そうね~」



 もし転移石があるとしたらその先ということか。



「討伐対象を相手にこの子を守りながら戦うのはキツイものがあるか……」



「ヤマト君は戦えるのかしら?」



「ボクは、その、簡単には死なないと、思いますけど、あんまり戦力にはならない、と思います」



 まぁ、そうだろう。筋肉とか見当たらないし、というかもう普通の少女だから。すぐ死にそうだぞ?俺のように逞しい筋肉があれば話は違うが、戻るほうがよさそうに思う。



「それで、ヤマト君はどうしたいかしら?」



 先へ進むか戻るか、どっちがいいか誰も分からない現状本人の意見を聞くのもまあ、ありか。



「ボクは、足手まといになりたくないです。あっ、でも置いて行かないでほしいです」



 ……どっちだよ!?



「それはつまり~、先に進む私達に付いて来たいって事かしら~?」



「はい、お願いします」



 戦力としては期待できそうにないが、敵と距離を取って逃げ回るくらいは自力でしてもらうのが前提ならまぁそれでもいいか?



「決まりね!じゃあしばらくの間一緒に行きましょう。よろしくね、ヤマト君」



 サラが話をまとめた。

 なんかいつものサラらしくなく、結論を急いでまとめたな。



 ……!!



 そうか!

 さては浮遊ブロックエリアや崖一本橋エリアに戻りたくないな!!

 そっとしておくか。



 だが出発する前に確認しておくことがある。



「ヤマト君、ちょっと聞きたいんだが……」



「はい、なんでしょう?」

 やめろ!上目遣いで見上げてくるな!なんか親戚の子にお菓子でも強請られている気分になるじゃないか。



「ぬるぽ」



「ガッ」











「違っ!違うンゴ!!!」



「クックック……、ネラーかと思ったらJ民でした!!」



「拙者はネラーでもJ民でもないンゴ~~~~!!」



 儚げな少女というイメージだったヤマト君が実はネラーだったという事実!なぜかそういう時だけはっきり話す面白い生き物を発見した瞬間だった。
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