上 下
31 / 72
転生者

第27話

しおりを挟む
「僕ここに住んでいたわけじゃないよ?」

 俺達全員が驚いたが、とりあえず話を聞こうか。


「じゃあ、どこに住んでいたのかな?」

「えとねー、ここから少しいったところにある島!」

「島~??」

「じゃあこの洞窟は?」

「んとねー、みんなでたまに来ていた場所なの」



 さて、島に送り届けるとなると船がいる。だが俺達に馬車はあっても船は無い。



「どうしたものか」

「大丈夫だよ、ここからなら1人でも帰れるー」



「そうは言ってもね~」

 子供1人で行かせていいものか。と俺達は同じ考えだっただろう。



「あ!お姉ちゃんだー!」

 突然そんな事を言い出した人魚くんの言葉に、慌てて回りを見る。

 が、洞窟の中に変化はない。



「お姉ちゃんが近くまで来てる!お姉ちゃんー」

 言うが早いか動くのが早いか、人魚くんは洞窟の外へと走り出していく。俺達も追いかけるがそのまま海に飛び込んで人魚形態になるとそのまま沖へと泳いで行ってしまった。





 慌てて俺達も続こうとしたが、泳ぐ早さに付いて行けないのが一目で分かり結局洞窟入り口で立ち止まった。



「そういえば人魚って念話みたいなのでコミュニケーションを取るって話だったわね」

 なるほど、そういう事であれば突然に見えた人魚くんの行動にも理解が出来る。



「ちゃんと送り届ける事が出来た、と考えていいよな?」

「ちょっと歯切れの悪い最後だった気もするけど、いいと思うわ」

「じゃあとりあえず戻りましょうか~」



 サラとシェリーさんの案内で崖を登る道を通り、無事崖上まで登りきることが出来た。



「ヤレヤレ。サラ、はっきり言おう。これは道ではないと!」


 案内された道という崖は、結局のところただの崖だった。


 ただ、ところどころに足場になりそうな段差があったのでそれを頼りに通れたに過ぎない。
 それも俺やシェリーさんのような種族特有の筋力やサラのブーツように魔力筋によって強化されていて初めて通ることが許されるレベルのものだ。



「ゲンスイくん~、人が通るから道ができるのよ~。そしてここはもう私達が通ったのだから、道なのよ~」


 分かるような分からないような。それは屁理屈というのだ。少なくとも俺は二度とこんな道を通らない。



 崖上まで出て突端に行くと、確かに遠くに離れ小島が確認できた。

「あそこが人魚の里なのかな?」

「きっとそうね。あの子がちゃんと帰れていると願うわ」



「お兄ちゃ~ん、お姉ちゃ~ん」

 遠く離れ小島を眺めていた俺達の不意を突くように足元、崖直下から声がした。見ると俺達に手を振る人魚くんと、別の人魚が。



 可愛い……



ドッボーーーーン!!!!



「こんにちは!僕ゲンスイといいます15歳です!いい潮ですね!こんな日はちょっとそこの洞窟で親睦を深めませんか?きっと種族間の親睦を深め僕と貴女で新しい世界へ旅立ちましょう心配しなくても合意の上でのスキンシップは何も問題ありませんので安心してこれから……」



「いやーーーー!!」

「グフゥッ」

 人魚姉さんの一撃が見事に俺の顔面を捉えた。しかもコークスクリューパンチって。






 一瞬遠くまで続く川を見たような気がするが正気を取り戻すと海の中だった。

 くっそ重たいライトウェポンに魔力を込めつつ必死で掻き海面に浮上する。




「ゲンスイさん?何をしているのかしら?」

 崖上からサラの声が聞こえて見上げると、遠目なのになぜか顔面に浮かび上がる血管まで見えた気がした。



「いや、ちゃうんや~。だってしゃ~ないんや~」

 サラがなんか怖いので精一杯の言い訳を考える。



「す、すみません。大丈夫ですか?」

 目の前には心配して人魚お姉さんが手を貸してくれた。



「とりあえずこちらから上がれますので来てください」



 そうして必死で立ち泳ぎすることもなく手を引っ張ってもらい陸に上がる。そして崖の影になっているところから崖上まで行ける道(今度はちゃんと普通に通れる)に案内され、サラの所へ合流できた。





「改めてまして、弟を連れてきてくれてありがとうございます」

 丁寧な言葉遣いでお礼を言ってくれたのは人魚くんのお姉さんだそうだ。




 ちなみに崖を上がる時に人魚姉さんは人間形態になっていたのだが、大事なところを貝殻で隠すだけの姿に俺は鼻血を我慢することが出来ず、軽く貧血に陥っている。


 今は人魚形態になって下半身は魚なのに器用に横座りしている。上半身は相変わらず丸出しでお子様には見せられない。
 一応貝殻で隠れているけど、もう隠れてないよりもアレだ。



「ゲンスイさんの処罰は後にするとして、何があったか聞いてもいいですか?」



 ……サラさん?処罰ってなんでせう?



「実は先日魔物の襲撃があったんです。もちろん、普段から多少はそういう事もあるのですが、この前のは明らかに規模の違う組織された大群がここに押し寄せたのです。大きなタコのような魔物を筆頭でした」



「そいつなら俺が倒したよ。襲撃の時、悪魔族はいたのかい?」


「あの化け物を倒した!?凄い!でも悪魔族?いえ、いなかったと……思いますが、私も全部見たわけではないので……。普段であれば私達も戦うのですが多勢に無勢、何人もの仲間がタコの魔物に捕獲され、命を落としました。劣勢を悟った長老様が規模の大きな転移石と魔法陣を使い皆を安全圏まで逃がしてくれたというわけなんです」


「なるほどなぁ。しかし、その転移石の力はすごいな。ここからフィアール領までかなり距離があるぞ?」


「フィアール領?そんな遠くに??長老様は皆を逃がした後自分だけは残っていましたので今はきっともう……。どのような術式だったのかどんな転移石を使ったのか誰も知ることはできません」

 俯き悲し気な表情を浮かべる人魚さん。

「お姉ちゃん、泣かないで?」

「うん、ありがとう」

 悲しい出来事だっただろうに、姉弟で励ましている姿は見る者を優しい気持ちにさせた。


「弟の事だけじゃなく、あの化け物を倒してくれて本当にありがとうございました。これで怯えながら暮らさなくても済みます」


「それで~、あなた達はこれからどうするのかしら~」



「私達の村で未帰還者を待つつもりです。皆さまにも何かお礼をしたいのですが……何分襲撃からまだあまり復興もできていないもので……」


「だったらその身体で払ろうてもらおかぁ?ねーちゃん」

 ビクッとしてるよう自分の身体を両手で抱きしめる仕草、クッコロさんのような表情、たまりまへんなぁ~。

 ハッ!殺気!?

「なんて悪い事を言うつもりはないよ。そうだな……じゃあしん、痛い!!」

 サラの殺気に気を取られていたらシェリーさんに後頭部を殴られていた。

「まだ言ってないのに!」

「あら~?何を言うつもりだったのかしら~?」

「新鮮な魚介類を獲って来てもらえないかって言おうとしたんだ!二人はどうだ?」

「もちろん、それで構わないわよ」

 どうやら殺気を含む重圧も解除されたしよさそうだ。



「そんな事でいいんですか?ありがとうございます!ではさっそく獲ってきますね!」

 人魚姉さんは人魚くんを連れて早速海へと飛び込んでいった。



「ゲンスイ君は良い人なのか悪い人なのか分かりにくい性格なのね~」

「自由すぎるのが玉に瑕よね」

 などと不当な評価を受けた。



 その後近くの海岸で野営し、海鮮焼きパーティーは大変美味しゅうございました。



 こうして俺達の人魚くんを送り届ける旅は終わり、帰路に着くことになったのである。

 俺としてはまた一人美女でお知り合いになれたという功績もできた度だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...